得点板には0-1の文字。
試合開始早々、鬼道の必殺シュートによって俺達は先制点を許してしまった。
鬼道は全身全霊でこの試合に臨んでいる。それは鬼道だけじゃなく、帝国も雷門の皆も同じだろう。
当然、俺も。
「1点取られても関係ねえ、俺達で取り返すぞ! 豪炎寺、加賀美!」
「もちろんだ」
「……ああ」
染岡が反撃の意を示す。それに対して俺は力無い返事を返すことしか出来なかった。
分かってる、本気でやらなきゃこの試合には勝てないなんて当然のことは。
だが、それでも。
『雷門のキックオフで試合再開だ!! さあ雷門は帝国のリードを覆せるか!?』
「よし、上がれ!!」
ボールを受け取った豪炎寺が一気に加速し、その後に俺達も続く。
まず佐久間や寺門の前陣とぶつかるが、豪炎寺は力強いアタックでそれを突破する。
そして左サイドに出されたパスを俺が滑り込むようにして受け取る。
どう攻め上がろうか。
前方を見渡すと、すぐ目の前に鬼道が迫っていた。俺からボールを奪うつもりだ。
鬼道は鋭くボールに脚を伸ばす。それに反応してすぐさまヒールで蹴り、少し後退。
「加賀美!」
すぐ後ろに来ていた染岡の声を確認し、バックパスでボールを繋ぐ。
染岡は右サイドから上がっていき、鬼道の注意が逸れたその隙に俺は逆サイドからゴールへと向かう。
染岡を大野、五条が囲む。
が、包囲が完成する直前の僅かな穴を狙って染岡は鋭いパスを出す。その先に走り込んでいたのは豪炎寺だ。
当然、帝国はそのままゴールを撃たせる気はなく、すぐさま豪炎寺へ警戒が向く。
それが狙いだった。
右サイドでボールを持った染岡と豪炎寺に相手の気が向けられているところで、俺が左サイドから単独でゴールへと迫る。
豪炎寺はすぐさま俺にボールを渡す。
目の前には不敵に微笑む源田の姿。
「来い、加賀美!」
「轟一閃"改"!! 」
ボールに雷を注ぎ込み、最大威力を引き出せるベストタイミングで脚を振り抜く。
一瞬にしてゴールには轟雷が迫る。
これが前よりも強くなった俺のシュートだ、源田。
落雷のような音が全体に響き渡った。
「パワーシールド!! 」
先程ドラゴントルネードを無力化した力の壁が雷の行く手を塞ぐ。
2つがぶつかり合ったと思ったら、何と少しも競り合うことなく威力は殺されてしまった。
確かに、進化しているとはいえ轟一閃ではドラゴントルネードには及ばないだろう。
それにしても、ここまで簡単に止められるものなのか。
「……期待外れだな」
「何……!?」
源田はがっかりした顔でそう告げると、そのままロングパス。
期待外れ? 上等だ、絶対に後悔させてやる。
長く出されたパスを受け取ったのは6番辺見。
ボールを奪い返すべく皆が向かっていくのを見て、俺もすぐさま切り返していく。
半田とマックスが2人がかりでボールを奪いにかかるが、辺見はそれをしっかり捌き切り、鬼道へとパス。
佐久間とのワンツーで華麗に包囲網を潜り抜け、再び守と向かい合う。
「佐久間!!」
「おう!!」
「「ツインブーストォ!! 」」
鬼道が蹴り上げたボールを、背後から飛び込んで来ていた佐久間がヘディングで叩き落とす。
落下してくるボールにダイレクトで鬼道がキックを叩き込む。
勢いが倍増したそのシュートは、真っ直ぐに守へと突き進んでいく。
「ゴッドハンド!! 」
先程とは違い、十分に備える時間のあった守はしっかりと力を溜めきれていた。
神々しい光と共に神の手は外敵を抑え込むべく突き出される。
光が収まる頃には、ボールもその手の中にあった。
守は得点を許さない。
「へへっ、どうだ!」
「ふっ……まだまだこれからだ!」
目まぐるしく主導権は移り変わる。
時には雷門が、時には帝国が互いに攻めるも、中々ゴールへは辿り着けない。
ボールを奪い、奪われまた奪い。
「加賀美!!」
マックスがボールを奪われる寸前、体勢を崩しながらも何とか送り出したパス。
しかしそれは、名前を呼ばれた俺がいる方向から少し逸れたコースへと飛んでいく。
マックスの頑張りを無駄にする訳にはいかない、俺が駆け出したその頃には、真正面から鬼道がそのボールに向かってきていた。
「加賀美ィィィィィィ!!」
「鬼道ォォォォォォ!!」
ボールが地に着くよりも早く、浮いたままのボールに俺と鬼道は同時に蹴りを叩き込んだ。
紫のエネルギーと、雷がボールを中心に周囲に展開される。
ボール越しに伝わってくるのは鬼道の凄まじいパワーだ。負けられないという必死な想いが伝わってくる。
今にも押し負けてしまいそうだ。
けれど、俺だって負ける訳にはいかない。
「「ォォォオオオオオ!!!!」」
必死だった。
獣みたいな咆哮を挙げながら込める力を更に強くする。
徐々に俺の力の方が鬼道を上回り始め、鬼道を後ろに押し込み始める。
負けじと鬼道も踏ん張る。
更にボールの輝きは増し、溢れる力が身体を打つ。
そしてとうとう、ボールに込められた俺達の力が暴発し、軽い爆発と共に上へ跳ねた。
俺と鬼道は互いに弾き飛ばされる。
身体をすぐさま起こし、ボールの行き先を確かめる。
ボールを受け取ったのは洞面、すぐさま奪い返さなければ。
と思ったその瞬間、何故かボールを外に出て試合を止める。
一体何故? その疑問の答えは、洞面が走っていったその先にあった。
そこにいたのは、脚を抑えて座り込んだままの鬼道の姿。
今の駆け引きで脚を痛めたのか。
すぐさま俺は鬼道に駆け寄り、肩を貸して外へと連れて行く。
「……すまない」
「気にするな、全力でぶつかった結果だ」
ここで良いという鬼道をその場に下ろし、俺はピッチに戻っていく。
原則として選手が治療中の間も試合は続行されるからだ。
11人制のサッカーは1度交代した選手はもう出てこれないため、鬼道の治療が終わるまでは帝国は10人で戦うことになるが。
半田のスローインで試合が再開する直前、外で治療している鬼道の元へ歩み寄る春奈の姿が見えた。
それを見て、影山の言葉が再び脳内にフラッシュバックする。
「加賀美! いくぞ!」
「あ、ああ!!」
豪炎寺に声を掛けられ、意識が引き戻される。
今は試合中だ、集中しなければ。
鬼道の指示が欠けたことで、帝国の守備に若干の穴が出来ているような気がする。
俺が作ったような不利状況に付け込むようで申し訳ないが、今のうちに1点返させてもらう。
「こっちだ!!」
先程よりもすんなりとゴール前まで辿り着いた。
豪炎寺にボールを要求して、再び源田と対面する。
一度深く深呼吸、俺の中から焦りを追い出す。
──よし、さっきの発言、取り消してもらうぞ。
ボールを踏み潰すように脚を落とし、回転を加えたボールに俺の持てる全てを注ぎ込むつもりで力を集中させる。
やがて膨大なエネルギーは雷へと変わり、辺りを打ちつける。
さっきは簡単に守られたが、今度はそうはいかない。
数歩後ろに下がり、雷に包まれたボールへと飛びかかる。
「ライトニング──」
『君達の行動次第では、鬼道達兄妹は破滅する』
「───ッ!!」
両脚で蹴り込んだその瞬間、自分で自分のエネルギーを制御しきれずにそれを爆発四散させてしまった。
俺は後方に大きく吹き飛ばされて数回転がり、その度に強く身体は地面に叩き付けられ、肺から空気が吐き出される。
そしてボールは先程の轟一閃よりも弱々しくゴールへと飛んでいき、必殺技を使われることなくキャッチされた。
「クソ───ッ!!」
全力で歯を食いしばり、拳を地面に叩き付ける。
俺は全力でやろうとしているのに、どうしても影山が俺の邪魔をする。
勝つために動くその瞬間に、俺の身体は呪われたように縛られてしまう。
俺はこんなことをしたいわけではないのに。
──ボールを、奪わなければ。
「辺見!!」
再び帝国に渡ったボールを追いかける。
ボールを奪わなければ勝てない、シュートを決めなければ勝てない。
俺が、俺がしっかりしなきゃ駄目なんだ。
脚に力を込めて、走る。
とにかくボールを奪って、流れを取り返さなければ。
目の前にはボールを持った辺見。俺はそれに対してスライディングを仕掛ける。
「うわッ!?」
『おっと!! なんとここで加賀美がスライディングを仕掛けた結果、ファールを取られてしまった! 必死なあまり焦ってしまったか!?』
スライディングの際に脚が引っかかってしまい、辺見を転倒させてしまう。
すぐさま手を貸し、謝罪すると快く許してくれたが、俺の心にはどんどん余裕が無くなっていた。
今の俺は間違いなく焦っている。
決めるべき場面でシュートミスするし、今まで取られたことの無いファールも取られてしまった。
こんなんじゃ、俺は副キャプテン失格だ。
「加賀美、落ち着けよ。らしくねえ」
「ああ、本当に悪い……」
染岡にはそう声を掛けられ、豪炎寺には無言のまま肩に手を置かれた。
切り替えろ、そう言いたいんだろ?
そんなこと自分でも分かってる。けど、どうしてもあの声が、言葉が脳裏にこびりついて離れない。
試合が再開する直前、鬼道が戻ってきた。
春奈のサポートもあり、早めに動けるようになったようだ。
きっと春奈は鬼道との確執を乗り越えた、1歩進んだのだと思う。
そんな2人を、永遠に引き剥がすようなことがあっていいのか?
本当に、俺はどうすれば良いんだ? 誰か教えてくれ。
「鬼道!!」
帝国のフリーキック。ボールは早速鬼道へと渡った。
が、復帰してまもなくでやや動きが鈍っているところにすぐさま風丸が切り込み、ボールを奪う。
そのまま風のように駆け上がった風丸から少林へ、少林から俺へとボールが渡る。
やってきた反撃のチャンス、ここでしっかり決めなければならない。
帝国が反応するよりも早く、俺はボールを前へと運ぶ。
そして俺を待っていた染岡にボールをまかせる。
「ドラゴンクラッシュ!! 」
染岡は脚を振り上げ、力強くボールを蹴り込む。
蒼龍が唸りながらゴールへと向かう。
「パワーシールド!! 」
源田の守りの前では暴れる龍すらも追い返されてしまう。ボールは高く弾かれた。
が、そのボールの先には豪炎寺が既に炎と共に待ち構えていた。
「ファイアトルネード!! 」
間髪入れずに豪炎寺がファイアトルネードを放つ。
染岡のシュートを止めるために源田は技を使った直後、これなら反応が間に合わず、ゴールを割れるかもしれない。
頼む、決まってくれ。
ゴールへと降り注ぐ炎の竜巻。
俺達の希望を乗せて突き進んで行ったが、無慈悲にもその行く手は阻まれる。
「フッ……パワーシールドォ!! 」
予想に反し、源田は豪炎寺の速攻に対してしっかりとパワーシールドで応戦してきた。
あの技は連続で出せるようだ。
現状、あの技の正面突破も難しい……かなり苦しい状況だ。
再び弾かれたボールは7番咲山の元へ。
受け取ってすぐ、咲山はすぐ近くにいた鬼道へとパスした。
鬼道は寺門、佐久間と共に攻め上がる。
俺達はそれを阻むべく必死に追いかけるが、帝国の流れるような連携に歯が立たない。
そして、3人は守の元へと辿り着いた。
「行くぞ円堂! これがゴッドハンドを破るために編み出した必殺技だ!!」
鬼道が指笛を鳴らす。
試合開始直後のあのシュートかと思ったが、違う。
あのシュートは1人技。対して今のシュートは、佐久間と寺門がいる。
その2人は指笛が響いた瞬間に前方へ駆け出す。
それと同じくらいのタイミングて、地中からペンギンが顔を出し、鬼道が前に送ったボールを追いかけて飛んでいく。
そして鬼道から届けられたボールに対し、佐久間と寺門が同時に蹴り込む。
「皇帝ペンギン──」
「「2号!! 」」
凄まじい力が加えられたボールの後をペンギンが追う。
この試合で見たどのシュートよりも明らかに強力なものだと一目で分かる。何せ俺のところまでシュートの圧が伝わってくるのだから。
「ゴッドハンド!! 」
守はゴッドハンドを繰り出して対抗する。
掌の中心にシュートがぶつかった瞬間、守は少し押される。
そして、畳み掛けるようにペンギンが襲いかかると更に押し込まれ、さらに勢いが強まったその瞬間、黄金の手は砕け散る。
「うわッ!?」
『ゴール!! なんと帝国、また新たな必殺シュートで円堂のゴッドハンドを打ち破った!! 2点のリードだ!!』
帝国は沸き立ち、それとは対照的に俺達は唖然と破られたゴールを眺めていた。
俺達のシュートは尽く防がれ、今まだゴールを許したことは無かった守のゴッドハンドは破られた。
これが意味するのは一つ。攻めも守りも俺達は帝国に劣っているということ。
頭の中には"敗北"の2文字が。
何とかこの状況を打開しなければ。
ここで負ける訳にはいかない、俺達は勝つんだ。
──勝ったら、どうなる?
途端にその問いが頭の中を埋め尽くし、全身から力を奪う。
ああ、駄目だ。
「何としても1点返すぞ!!」
ホイッスルが鳴り響く。
少し焦ったような表情の染岡が駆け上がり、豪炎寺もそれに続く。
当然俺もそれを追いかけるが、やけに2人が遠く感じる。
俺はこんなに遅かったか?
「くっ!」
「加賀美、止めてくれ!!」
豪炎寺からボールを奪った成神。
染岡の必死な頼みに応えるべく、全身でぶつかりにいくが簡単に押し負けてしまった。
俺はこんなに弱かったか?
気付いた時には俺はその場に立ち尽くしていた。
皆がボールを追いかけている中でも、何もすることなく、ただ動かずに。
次に身体を動かしたのは、数分後に前半終了のホイッスルが響いた時だった。
ベンチに戻ると、皆はこれまで以上に焦っていた。
攻めも守りも通じず、一方的に得点を許すだけ。
中にはあの練習試合の時を思い出しているヤツもいるだろう。
皆がどうするか必死に考えている中も、守や風丸、染岡が心配して声を掛けてくれても、俺は1人で黙り込んでいた。
今の俺にはフィールドに立つ資格なんてない。
いても迷惑になるだけだ。
そうだ、響木監督に誰かと交代してもらおう。
そっちの方が皆の為にもなる。
そう思い、歩き出した直後だった。
熱い炎を纏った何かが、俺を貫いた。
鬼道と音無の関係について悩むのが円堂ではなく柊弥なら、当然豪炎寺先生の治療を受けるのは柊弥になったようです。
次回、16:00に投稿です