残り時間は5分を切ったくらいか。
耳を澄ませば、前から、横から、後ろから、はたまた自分から、ありとあらゆる方向から呼吸の音が切れ切れに聞こえてくる。
目を閉じれば、身体の中を流れる血が熱く脈打っているのが分かる。
全身のあちこちが重い、限界なんてとうに超えているのかもしれない。
それでも、胸の中で燃えるこの熱い炎だけは、決して揺らぎはしない。
最終決戦だ、帝国学園。
『試合再開のホイッスルが響く!! 満身創痍な両者、どちらが試合を決めるのか!? それとも延長戦までもつれ込むのか!? 一瞬たりとも見逃せません!!』
キックオフはこちらから。
豪炎寺にボールを渡し、すぐさま俺達は駆け上がる。
左サイドから上がっていく俺の前には、帝国の絶対的リーダーが立ちはだかる。
「お前は行かせんぞ、加賀美!!」
「止めてみろよ、鬼道!!」
鬼道の文字通り"鬼"のような張り付きが俺から離れてくれない。
右に行こうとすれば右を塞ぎ、左に行こうとすれば左を塞がれる。俺がやりうる全ての行動に対して解答を持って動かれているような感覚だ。
ここは、力技で振りほどく。
「何ッ」
鬼道の反応速度を大きく上回って左から前へと向かう。
が、先程までボールをキープしていた豪炎寺は転倒しており、そこにいたはずの成神、辺見がいなくなっていることから、ボールは奪われたことが分かる。
すぐさま急ブレーキ、後ろに向かう。
半田とマックスが全力でブロックしにいく。成神と辺見は身動きを封じられ、そのままボールを奪われるのみかと思われたが後ろから走り込んできた寺門が仲間からボールを奪うように受け取る。
佐久間と洞面、鬼道が後を追いかけて前線へ。またあの技を撃つつもりか。
「行かせないっス!!」
「くっ、佐久間!!」
「もらい!!」
壁山がその体躯で寺門の行く手を阻む。
単独での突破は不可能とみた寺門は、右サイドから上がってきていた佐久間へボールを蹴るが、それより早く風丸が割り込む。
そのまま風丸がボールを運んでいく。
「させるか!! サイクロン!! 」
万丈が脚を振り切って起こした暴風により、風丸は宙に大きくかち上げられる。
風に巻き上げられたボールは、誰からの支配も受けぬまま落下を始める。
それを何としても手中に収めようと、染岡と咲山が同じタイミングで跳び、ボールを挟んで頭と頭でぶつかり合う。
力と力に挟まれたボールは明後日の方向へと飛んでいく。
そしてそのボールを手に入れたのは、鬼道だった。
再びゴールへと迫る鬼道、そこに立ち向かって行ったのは、土門だった。
「キラースライド!! 」
乱れるような蹴りを放ちながら迫るスライディングで、器用にボールだけを奪い取る土門。
鬼道は体勢を崩すもすぐさま立て直し、奪われたボールはまた奪い返すべく走り出す。
土門からボールを受け取ったのは少林。
鬼道よりも早くボールに追いついてきた洞面と1対1になる。
「竜巻旋風!! 」
ボールを脚に挟んだまま大きく跳ね、高い位置からボールに回転をかけて落とす。
すると、回転を得たボールは周りの空気を巻き込んで、1つの竜巻と化す。
それに触れようとした洞面は、為す術なく吹き飛ばされた。
少林が繋いだパスを受け取ったのは、俺。
託された想いを勝利へ変えるべく、速く、誰よりも速く走り抜ける。
五条をステップで躱し、大野が反応しきるよりも速く抜き去る。
豪炎寺の方を見るが、万丈に身動きを封じられ動けそうにない。
染岡もまだ後ろの方で、こちらには追いつけていない。
俺1人で決めるしかない。
「轟一閃、"改"ッッ!! 」
雷鳴が轟き、一太刀の元に敵を斬り伏せるために閃く。
目指すは守護神が護るゴール、全ては勝利へ繋ぐため。
「これ以上……許してなるものか!! フルパワーシールド、"V2"ッッ!! 」
ゴールキーパーの王がその意地を見せた。
この最終局面で、己の要塞をより強大に、強固に練り上げてきた。
そこにあるのは何者であろうと通さないという絶対的な意思。
全てを貫かんとする雷と、全てを護らんとする壁がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
それに勝利したのは、王が創りし壁だった。
「流石だな、源田」
「フッ……俺の役目はここまでだ、鬼道ッッ!!」
源田が豪快なスローでボールを前へと送る。
そのボールが着地したのは、何とセンターラインを少し越えたくらいの場所である。
そしてそれを受け取ったのは、全ての信頼を一身に背負ったのは、鬼道だった。
鬼道は間髪入れずに駆け上がる。
俺はそれを追いかけ、フィールドの端にあたる場所から折り返して走り出す。
誰もがその行く手を阻むべく手を伸ばすが、あと一歩というところで届かない。
そしてとうとう、再び死神を呼び出すのに必要な準備が全て揃ってしまった。
「これで最後だッ!!」
鬼道はこれまで響かせたどれよりも力強い指笛を鳴らし、全力でボールを蹴り上げる。
それを追って、佐久間、寺門、洞面の3人が紫を帯びた死のオーラを身に宿して空へ。
ボールを死の三角形の中心に据えるように囲み、独楽のように回転を続ける。
次第にボールにはその膨大なエネルギーが集中し、更に増幅し始める。
持てる全てを注ぎ終えた3人は、一斉にそのボールを送り出す。
そして送り出されたそのボールに、何処からか呼び出されたペンギンが喰らい付く。
既に限界量まで達したエネルギーを、更に高める。
やがて内包しきれずに溢れ出した死のエネルギーは、纒わり付くペンギンを包み込み、侵食する。
再び姿を現したペンギンは、禍々しく恐ろしい姿へと変貌する。それはさながら"死神"のよう。
そして死神が囲むそのボールを、鬼道が送り出す。
「皇帝ペンギン
死神が躍る。
空を縦横無尽に駆け回り、先導するように送り出されたボールの後を、獲物の魂を刈り取るべく追いかける。
その獲物とは、俺達のゴール。
ゴールの前に立つ守は冷や汗を流しながらも、迫る脅威を真っ直ぐ見据え、笑ってみせる。
そうだ、それでこそ守だ。
皇帝ペンギン死神の発動は避けられないと判断した瞬間、既に俺は走り出していた。
シュートがゴールに達するよりも早く辿り着き、守の背後に回り、背中を両手で支える。
「柊弥!?」
「俺も支える、絶対止めるぞ!!」
あのシュートの唯一の弱点、それは発動から放たれるまで必要な動きが多いこと。
2つの技を加えるような形な上に、片方は元から発動までが長い連携技であるデスゾーンだからな。
だから守の元まで引き返してくる時間は十二分にあったわけだ。
目の前にはあの強大で圧倒的なシュートが数多の死神と共に迫ってきている。
物凄い圧力だ、守はいつもこんなプレッシャーに耐えながら、1人ゴールを護ってくれていたのか。
だが、今このシュートを止めるのは守1人じゃない、俺もだ。
「へへっ、頼もしいぜ!」
「おう!!」
守は手に力を込め、今まで幾度となくゴールを守ってきた神の手を形成する。
そして使っていない左手を右手に重ね、更に大きく、強く、神々しくその手を練り直す。
相手が死神ならば、こちらは守護神だ。
やがて、双方は激突する。
死神が守護神の手に触れた瞬間、途轍もない衝撃と痛みが俺達を襲う。油断すれば今にも呑み込まれてしまいそうだ。
伝わってくるのはそのシュートの脅威だけじゃない。
鬼道の、帝国の勝ちたいという気持ちがこれでもかというほどボールを介して俺と守に流れ込んでくる。
だんだんと俺と守は、踏ん張っている脚ごと後ろに押し込まれ始める。
このままじゃゴールを許してしまう、2点取り返して逆転するのはかなり厳しいところ。
だったら、どうする? 諦めるか?
「「絶対に、諦めるかァァァ!!」」
答えはNoだ。
このシュートは止めるし、その後に1点必ず奪って俺達が勝つ。
こんなところで負けを認めてなるものか。
背中を支える両手に更に力を込めた、その時だった。
守に触れている部分から唐突にイナズマが迸り、俺と守の全身を包み込む。
荒れ狂うイナズマは、俺と守に更なる力を与えてくれる。
勝利の女神が力を貸してくれたってところか?
それはいい、ならとことんやってやる。
守に俺の持てるエネルギーをありったけ注ぎ込む。
すると、ゴッドハンドは更に巨大に成長し、雷を発し始めた。
押し込まれるばかりだった俺達の身体はその場で止まり、真っ向からシュートに対抗出来るようになる。
これなら、このシュートを止められる、勝てる!
「「いッ、けェェェェエエエエエエ!!」」
ゴッドハンドが一際強く輝き、放電する。
周りを飛び交う死神は次々と雷に貫かれ、その姿を消す。
黄金の巨大な手と、紫の強大な一撃は互いに拮抗し続ける。
だが、徐々にその力の天秤は傾き始める。
皇帝ペンギン死神の火力が弱まり始めたのだ。
それに対して、こちら側の勢いが衰えることは無い。このままいけば、打ち勝てるぞ。
「押し込めェェェェェェエエエエエ!!」
前方から、俺でも守でもない咆哮が響いてくる。
それは鬼道の声だった。
今までに聞いたことがないような、喉が張り裂けてしまうのではないかと思えるほどけたたましい雄叫びだった。
鬼道のその想いに応えてか、落ち着きかけたシュートは更に暴れ出す。
俺達にのしかかる力も更に強くなったのが分かる。
視界は黄金と紫が入り乱れ、もはや何も見えない。
「「「らァァァァァァアアアアアア!!! 」」」
鬼道と俺達の咆哮が重なる。
その直後、ボールを中心とした大爆発が俺達を襲った。
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会場全体を、爆発による轟音と衝撃波、光が襲う。
ある者はしゃがみ、ある者は手で目を覆った。
それが収まったかというところで、皆一斉にこの攻防の成り行きに目を落とす。
争いがあった雷門ゴールは、煙に覆われてその全貌を確かめることは出来ない。
暫しの静寂が辺りを支配した。
そして、とうとう煙が晴れ始める。
その中にあったのは───
『と、止めましたァァァァァァ!! 帝国のあの凄まじいシュート、皇帝ペンギン死神を、雷門中の円堂、そして加賀美が、ボロボロになりながらも受け止めています!!』
ボールをしっかりと止めた円堂と、その背中を支える柊弥の姿だった。
拍手喝采が会場全体を包み込む。
だが、これで試合は終わりではない。
試合終了のホイッスルは、まだ鳴っていないのだ。
「行け、柊弥ァ!!」
円堂から直でボールを受け取った柊弥が駆け出す。
先程のシュートで全てを使い果たした鬼道もすかさず立ち上がり、その行く手を塞ぐ。
だが、あまりの速さに歯が立たず、一瞬にして突破を許してしまった。
(これは、あの時と同じ!)
鬼道はその動きに、過去に柊弥と戦った際のことを思い出していた。
追い詰められた果てに引き出される、何処からか湧いてくるのかも分からない柊弥のあの底力を。
すぐさま鬼道は柊弥からボールを奪うように指示を出す。
鬼道だけでなく彼らもとうに限界を超えているが、それでも獲るべき勝利の為に立ち上がる。
(ああ、体がやけに軽い)
迫り来る障害を跳ね除けながら、柊弥はそんなことを考えていた。
今の柊弥は、適度なプレッシャーを過度な闘争心で上回ることで辿り着く一種の
いつもよりも力強く、速く、器用な動きが可能となっている。
(鬼道と帝国、最高の戦いをありがとう。雷門の皆、俺と一緒に戦ってくれてありがとう。そして何より──)
柊弥の視線の先には、1人の男。
(俺の目を覚ましてくれて、ありがとう)
炎のエースストライカー、豪炎寺 修也が柊弥の横に並んでいた。
2人は視線で会話をする。
やるぞ、この1点をもぎ取って勝つぞと。
「行くぞ、修也ァァ!! 」
「ああ、柊弥ッッ!! 」
柊弥は高くボールを蹴り上げる。
それを追い、柊弥と豪炎寺は同時に回転しながら飛ぶ。
2人の脚には、全てを焼き尽くす猛炎が宿っていた。
それを同時にボールに叩き付け、その技の名前を口にする。
「「ファイアトルネード
互いが全く同じ力、同じタイミング、同じ動きでファイアトルネードを撃つことで完成するのがこのシュート。
その威力は、ファイアトルネードの何十倍にも及ぶ。
2人が完璧に合わせられなければ完成することないシュートだが、この2人は互いの信頼の元にこれを最後の最後で完成させた。
「フルパワーシールド、V2ゥゥゥ!! 」
負けじと源田は己の持てる全てを解き放つ。
が、燃え盛る双炎の前ではその障壁は些細なものだった。
「がはッッ!?」
壁を突き破り、源田ごとボールはゴールへと叩き込まれる。
得点のホイッスルが鳴ったその直後にもう一度ホイッスルが鳴り響いた。
得点板には、雷門 4-3 帝国の文字が浮かんでいる。
これが意味することは1つ。
「────ッ、よっしゃァァァァァァ!!」
柊弥が両拳を握りしめ、力の限り叫び、それに続いて円堂が、雷門イレブンが声を上げる。
それを聞いてようやく何が起こったか理解した観衆は、この試合を讃える声と拍手をフィールド上の戦士達へと送った。
その事実を前に、帝国は晴れ晴れとした表情をしていた。
フットボールフロンティア地区大会優勝を手にしたのは、雷門中だ。
というわけで、雷門対帝国はこれにて決着です。
最後に、いくつも出したオリ技について軽く解説を。
【雷龍一閃・焔】
染岡のドラゴンクラッシュと豪炎寺のファイアトルネードが合わさったドラゴントルネードに、更に柊弥が轟一閃を加えて完成する雷門のトリプルストライカーの連携シュート。
3つの技が加算的に力を高めているのに対し、ファイアトルネードDDは2つが乗算的に力を高めているので威力はファイアトルネードDDの方が上。
【皇帝ペンギン死神】
鬼道が皇帝ペンギン2号すら止められたことを想定して考案した帝国の最終兵器。
デスゾーンのエネルギーを、オーバーヘッドペンギンによって使役するペンギンの力で更に増幅して放つ。
死のエネルギーに影響されたペンギンは、全身を異形の姿へと変える。
【ゴッドハンド(with 柊弥)】
正式な名称はまだない。
円堂と柊弥のパワー、内に秘めるイナズマ魂が互いに共鳴し合い、1人では決して出せない力を引き出すことが出来る。
ダブルゴッドハンドよりも大きく(オメガ・ザ・ハンドよりは小さい)手の周りには雷が迸っている。
ゴッドハンドの正式名称はまた後ほど・・・
では、今回はここまで。
良ければ感想や評価のほどよろしくお願いいたします。