また徐々に書いていくのでよろしくお願いいたします!
「サイドがら空きだぞ!! 上がれ上がれ!!」
「こっちにパスだ!!」
千羽山中との試合に勝った俺達は、次の準決勝に向けてますます練習に熱が入っていた。
鬼道の加入のおかげで、練習の質も更に向上したし、全国制覇ももはや夢ではない段階まで来ていると思う。
「土門さ……んはいないんだった」
「友達に会いに行ったんだっけ? 木野さんも一緒に」
少林がパスを出しかけたところで、土門の不在を思い出した。
何やら、土門と秋は古くからの友人と会うために空港まで行っているらしい。海外在住ということだろうか。
「練習に集中だぞー」
「ああ、悪い悪い」
外のことに気を取られ、集中力が欠けかけているところに軽く喝を入れる。
そんなことにはお構い無しにボールを追い掛けていた染岡が、脚を大きく振り上げてシュートを叩き込む。ドラゴンクラッシュだ。
そのドラゴンに対し、守は正面から熱血パンチを叩き込む。
次第にドラゴンの姿は霧散し、パンチに勢いを上書きされたボールはベンチの方向へと転がっていく。
ボールを目で追いかけると、その視線の先には見覚えのない美少年がいた。うちの学校ではないよな。
「おーい、ボール!!」
守が手を振りながらボールを求めると、何故かドリブルしながらこちらへとボールを運んできた。素人じゃない。
咄嗟に半田と栗松が行く手を塞いだが、なんとあの2人を軽々と抜き去ってしまった。
そのままゴールの目の前まで到達し、守に向かって笑いかける。それに触発された守は、シュートを促した。
それを見て、地に手をつけて凄まじい速さで回転を始めた。やがて周りの空気を巻き込み、小さな竜巻のようになってその勢いを強める。
そして風に巻き上げられたボールが足元へ吸い込まれていき、その凄まじい回転を思い切り叩き込んだ。
「スピニングシュート!! 」
必殺技も持っているとは。本当に何者なのだろうか、経験者で入部希望とかだろうか?
威力も相当なもので、守はゴッドハンドでそれを迎え撃ち、少し押し込まれつつも、しっかりと抑えきって見せた。
「君の勝ちだ」
「ペナルティエリアから撃たれてたら俺が負けてたよ」
「ありがとう。素晴らしい必殺技だね、アメリカの仲間にも見せてやりたいよ」
曰く、アメリカでサッカーをやっており、この前ジュニアリーグの代表に選ばれたとか。
聞いたことがあるな。将来アメリカで代表入りが確実と見られている日本人選手がいるという話だ。
鬼道も同じ話を耳にしていたようだし、間違いないだろう。
「お前、名前は?」
「
「俺は加賀美柊弥。よろしく」
軽い自己紹介を交わし、一之瀬の話を聞くことにした。
わざわざアメリカから友人に会いに来て、その友人は雷門にいるらしい。予定より早く着いて驚かせてやろうと1人で雷門まで来て、そこで俺達の練習を目にしたと言う。
ん? アメリカから友人に会いに来た……ってもしかして。
「あ、秋と土門」
校門からこちらに歩いてくる2人の姿が見え、そう呟いた瞬間。一之瀬は俺達の輪を掻き分けて2人の元へと飛んで行った。そしてなんと秋に向かって抱き着いたのである。
ということは、やはり……
「おい! お前急に……って、もしかして」
「一之瀬……君?」
「久しぶり、秋! 土門!」
こういうことらしい。
互いに再会を喜び合い、大盛り上がりの3人。俺達は練習に戻るとするか。
「3人はあっちのベンチで話してたらどうだ? 俺達は練習してるから」
「おう、悪いな」
聞く話だと、随分長い間会っていなかったようだし、積もる話もあるだろう。
空いているベンチを指差すと、3人はそこに座って談笑に花を咲かせ始めた。
さて、練習再開だ。
「修也、鬼道。あのシュートの練習をしないか?」
「ああ、構わん」
「そうだな」
あのシュートと言うのは、千羽山の無限の壁を撃ち破った必殺技のこと。題して、"イナズマブレイク"だ。言わずもがな、目金命名である。
あれは恐らく、現雷門の最強シュート。余程のキーパーでなければ止めることは叶わないだろう。
勿論他の連携シュート、個人シュートも磨くが、最も強力だと思われる武器を磨かない手はないだろう。
「いくぞ!」
鬼道が空高く紫色のエネルギーを纏ったボールを蹴り上げる。
頂点に達したところで雷が迸り始め、落雷のようにこちらへ真下へと落ちてくる。
そこに俺、修也、鬼道の3人が蹴り込めば──
「「「イナズマブレイク!! 」」」
立ち塞がるものを粉砕する稲妻は、神の手をも打ち砕く。守のゴッドハントを真正面から打ち破り、ゴールネットを揺らした。
ちなみにだが、鬼道が軸となれば残りの2人の枠は守でも問題ない。フィジカルは雷門きってのものだからな。
「いいシュートだ! このまま何本も持ってこい!!」
そこから30分程シュート練習に打ち込んだところで、守が一之瀬と土門に声を掛けた。せっかくなら一緒にやろうということらしい。俺も一之瀬と対面してみたい。
その提案に快く応じ、2人はこちらへとやってきた。
「行くよ!!」
まずは一之瀬と鬼道の対決だ。
睨み合いの状態から突如としてヒールでボールを打ち上げた一之瀬。鬼道はそれを読んでいたようで、高く飛び上がってボールを正面に捉える。
しかし、そのボールには強烈なスピンがかかっていたようで、鬼道が胸でトラップするよりも早く斜めの方向へと逸れた。
鬼道と互角以上とは……やはりかなり出来るな。
「よし、次は俺とPK対決だ!!」
そして今度は、守と一之瀬のPKが始まった。
1本目は触れることすら叶わなかったが、2本目からは指先が掠り始め、3本目でついに止めた。
対する一之瀬もどんどんシュートの威力を上げ、それを守が取り損ね、今度は取っての繰り返しだ。
シーソーゲームに突入したPKを2人は切り上げるつもりはないらしく、周りのことはお構い無しにボールを蹴り、受け止めている。
俺も一之瀬と勝負したいが……まあ、ああなったら止められないだろうな。守は言わずもがな、一之瀬もかなりの負けず嫌いのようだし。
俺らは俺らで何かやってるか。
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流石に疲れたようで、1時間ほど経ったところで休憩になった。
いや、1時間も延々とPKって結構とんでもないことしてるよな。しかも外から声を掛けられてようやくと言った感じだった。
もうメニューも終わっているし、ここからどうしようかというところで、一之瀬が守にある提案を持ちかけた。
「この出会いの記念に、やりたいことがあるんだ」
そのやりたいことというのが、"トライペガサス"という必殺技の再現。
元々は一之瀬と土門、もう1人の3人で放つ必殺シュートらしい。
守も乗り気なようで、すぐさま実行を決意した。
「よし、いくぞ!!」
が、現実は無情と言うべきか。やろうと言って簡単に出来るものではないようだ。
それもそうだ。連携シュートというのは、長い時間をかけて互いを理解し、緻密な動作が重なって成立するもの。
イナズマブレイクのように、咄嗟に出来ることの方が少ないのが事実だろう。
その後も3人は何度も挑戦し続けるが、形にならない。
少し手伝うとするか。
「俺が正面から見て分かったことを伝えるよ。技の仕組みは大体理解出来たし」
「ああ、頼む!」
というわけで、3人の様子を観察することにする。
トライペガサスは、トップスピードで駆ける3人が交差し、その一点に力が注ぎ込まれることでパワーが集中する必殺技だ。
つまり、3人が全く同じスピード、タイミングで一点で交わる必要がある。
2人ならまだしも、3人でとなるとかなりの難易度だろう。
準備完了の合図を送ると、3人は一斉に走り出す。段々と加速し、スピードが高まったところで交差する。
すると、蒼いエネルギーが軌道に沿って噴き出し、ペガサスの形を作る。
まさか成功か? と思いきや、すぐさま形が崩れ、行き場を失ったエネルギーの奔流が3人に襲いかかる。
「守だな。微妙に交差するポイントがズレているせいでエネルギーの形成が安定していないんだ」
「やっぱりか……すまない! もう一度!」
「勿論さ、俺も諦めは悪い方なんだ!」
前からトライペガサスを知っている2人は問題ないが、これが初めての守はそうはいかない。
守がズレることで力が各部に均等に行き渡らない為、ペガサスを形作ったところですぐ崩れてしまうようだ。
もう100回はやっているが……こいつらと来たら諦めるつもりは毛頭ないらしい。まあ知っていたが。
ここまできたら、とことん付き合うしかないな。
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「それじゃ、また後で」
そう言って守と別れる。
守は一之瀬を家に招き、アメリカでの話を聞いたりするらしいので、俺もそれに混ぜてもらう約束をした。
1回家に帰ろうかとも思ったが、トライペガサスの練習を見て身体が疼いてしまったので1人で河川敷に行こうと思う。
「お、空いてるな」
夕焼けに照らされた河川敷のグラウンドには誰もいなかった。いたとしても散歩中のご老人くらいだ。
これなら1人で黙々と打ち込めるな。
ベンチに荷物を置き、軽く身体を解す。
やるからには課題を持ちたいな……基礎は部活の中で散々やったし、必殺技に関するところか。
そうだな……新たに必殺技を作るのもありだが、ここは改良に専念してみよう。
真っ先に思い浮かんだのはライトニングブラスターだ。
単体で撃てるシュートなら、間違いなく雷門で1番の威力だが、燃費が悪すぎる。
力を注げば注ぐほど威力は上がるが、その分体力がごっそり持っていかれるからな。
小さな力で大きなシュートになるように仕上げていきたい。
とは言っても、どうするのが正解だろうか。
単純に注ぐ力を小さくしたら勿論威力が高まる筈はないし……
……まあ、何回も撃って技の理解を深めるところから始めるか。
とりあえず、3割。
「ライトニング、ブラスタァァ!! 」
雷が辺りに迸り、雷撃がゴールへ突き刺さる。
3割の時点で、轟一閃を遥かに上回る威力だ。恐らくドラゴントルネードに少し及ばないくらいだろうか。
連携技の強みと言えば、少ない消耗で単体の何倍もの威力を引き出せることだ。
俺が1人でドラゴントルネード並のシュートを撃てても、大きすぎる消耗で動けなくなっては意味が無い。
だが弱点は、連携する相手が封じられたら何も出来なくなるということ。だからこそライトニングブラスターをもっと仕上げたいのだ。
イナズマブレイクやファイアトルネードDDでしか点を取れなさそうなキーパー相手にも、単体で強く出れる手段が欲しい。
幸いにして、回復は早い方なので少し仲間に頼らせてもらえば体力が戻るまでの時間も取れる。出し切りさえしなければ動き続けることは可能な筈だ。
こうして振り返っている間にも体力が戻りつつある。
とにかく、数を重ねて見えてくるものがあるはずだ。
「やるか」
再びボールを蹴り始め、河川敷には何度も雷が落ちた。
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「柊弥、昨日はどうしたんだ?」
「ああ、ちょっとな……」
あの後、気が付いたら時計の針は21時を指していた。
撃っては休んでまた撃ってを繰り返していたら、守の家に行くことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
気が付いた時点で向かおうかとも思ったが、流石に時間が時間だったからそのまま帰ることにした。連絡の1つでもするべきだったかもしれないが。
聞けば、随分一之瀬を交えて盛り上がったそうだ。俺も色々聞きたかったんだが……まあ自業自得だろう。
また聞ける機会は他にもあるはず……ではないか。
今日の飛行機で一之瀬はまたアメリカに帰るんだからな。だから今ここでトライペガサスを完成させようって話だ。
「始めよう!」
「おう! 柊弥、また頼むぜ!」
「ああ」
守、一之瀬、土門の3人は少し距離をとる。
昨日の様子を見た限り、やはりエネルギーによるペガサスの形成が不安定なせいで、蹴り込む前にエネルギーが霧散しているのだと思う。
安定させるには、完璧なタイミングでの交差が必要だ。
かなり惜しいところまでいっているのを見ると、後数ミリレベルの調整のはずだ。だからこそ難しいと言える。
「よし……GO!!」
一之瀬の合図で3人が一斉に駆け出す。
交差した一点から蒼のエネルギーが噴き出し、そこから姿を現したペガサスが天へと翔ける。
そのペガサスに道を示すべく飛び上がった3人だったが、それより早くペガサスは姿を消し、行き場を失ったエネルギーに叩き落とされる。
やはり、まだタイミングが合っていないんだ。
「クソ、あともう少しなのに……」
「時間はまだある! どんどん行こう!」
しかし、気まぐれなペガサスは従えられることを良しとしてくれない。
何十、何百回と撃ち込もうとしても、その直前でどこかへと消えてしまうのだ。
既に1時間以上が経過し、一之瀬が乗らなければならない飛行機の時間は刻一刻と迫っていた。
それでも諦めずに3人は走り続ける。だがその思いは届かず、やはり一向に成功しない。
打つ手無しか……? そう思ったその時だった。
秋が突然前に出てきたのだ。
「私が交差するポイントに立つわ」
「ええ!? そんなことしたら危ないっスよ!?」
壁山の言う通りだ。
万が一に失敗でもしたら、エネルギーが生み出される中心となる場所に立っている秋は無事では済まないだろう。
そんな危ない役回りはさせられない。
「それなら俺が……」
「どうしても、私がやりたいの! お願い!」
秋がここまで譲らないのは見たことがないな。
……秋は本来のトライペガサスの姿も知っているはず。この口ぶりからすれば、何か思い出したことがあったりするのかもしれない。
だがそれでも危ないこと変わりはない。どうしたものか……
「私も皆の役に立ちたいの!」
秋は若干目を潤ませながらも、真剣な眼差しでそう言った。
普段から決して秋が役に立っていない訳では無い。だが、ここまでの熱意を見せられては本人の意見を尊重したくもなる。
ここは俺らが折れるとしよう。
「……分かった。そこまで言うなら秋に任せよう。良いな?」
「ああ! 頼むぞ、木野!」
「加賀美さん! キャプテン! もし失敗したらマネージャーが……」
心配して声を上げる1年達を、秋本人が鎮める。
「信じる心には、行動で応える……だね!」
「おう! 絶対成功させてみせるぜ!」
「しゃーねえ、やるか!」
秋が交差するポイントに立ち、3人は最初の定位置に着く。
失敗しようものなら、本当に秋は怪我をしてもおかしくない。だがそれでも、本人は3人の成功を信じた。
男見せろよ、お前ら。
「よし……GO!!」
一之瀬の合図で一斉に駆け出す。
そして3人は同じタイミングで秋の横で交差する。
すると、3人が描いた軌道に沿って蒼炎が噴き出し、雄々しきペガサスを創り出す。
ペガサスは上空へ翔けると、乗り手を待つかのようにその場で動きを止めた。
……これなら、いけるかもしれない。
「「「いっけええええええ!!!」」」
ここで初めて、3人はボールを蹴り込むことが出来た。
力に導かれたペガサスは、示されたその道に沿って真っ直ぐに翔け落ちていく。
間もなくして、ゴールはペガサスに蹂躙された。
成功だ。
「やっ、たァァァァァァ!!!」
4人が互いに手を取り合って喜びあっている。
それにしても、成功させたとはいえ秋が全くの無傷で済んだのは偶然だろうか?
と思っていたら、どうやら交点と秋の間に1年達が咄嗟に割り込み、僅かながらも漏れ出るエネルギーから秋を守っていたらしい。
それだけじゃない。横で見守っていた皆が、万が一に備えて担架や救急箱を用意していたのだ。
「このチームは最高だね、秋」
「本当にね」
一之瀬が口を開く。
全員が常に仲間のことを考えられる。それが俺達雷門の何よりの良いところなんだろう。
こんなに良いチームは他に無いと断言出来る。
「加賀美もありがとう! 完成まで近付けたのは君の助言のお陰さ」
「そんなことないさ。お前達の熱い魂があってこそだ」
こちらに駆け寄ってきた一之瀬と握手を交わす。
それから少しして、一之瀬は急いで雷門を発った。
もう少しあいつとサッカーしたかったが、仕方あるまい。きっとそのうち会えるだろう。そんな気がする。
またな、一之瀬。
「さ、感傷に浸ってないで練習するぞ!」
「「「おう!!」」」
---
「あ、飛行機」
練習が終わり、後片付けをすると誰かがそう呟く。
その呟きにつられて空を見ると、ちょうど飛行機が高度を上げているところだった。
あれに一之瀬が乗っているのだろうか。
「また、一之瀬とサッカーやれたらいいな」
「ああ! ……一之瀬ーーッ! 、またサッカーやろうなーーッ!!」
守が飛行機に向かって手を振りながらそう叫んだ。
全く、聞こえるはずないってのに人の隣で……
「うん、やろう!!」
「はい?」
後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。
幻聴だろうか。アイツは今あの飛行機に乗っているはずだしな。まあ一応後ろ振り向いてみるか。
「……何でいるんだよ?」
「いやー、あんなに熱くなったのは初めてでね……これじゃ、帰れるに帰れない!」
そう言って、またどこかで会えるだろうかと思っていた男、一之瀬は何かの紙……飛行機のチケットを破り捨てた。
いや、本当に何やってるんだ? あっちで家族やチームメイトが待っているんじゃないのか?
「てことは、雷門に来てくれるのか!?」
「ああ! よろしく!」
そう言って守と一之瀬は握手を交わす。
いや……まあツッコミどころはあるが、本人が良いならそれで良いか。
「歓迎するぜ、一之瀬」
「ああ!」
こうして、また新たな仲間が加わった。
明日からまた楽しくなりそうだ。
「皆さん!! 次の対戦相手が決まりましたー!」
部室の方から春奈が走ってきた。
「準決勝か! それで、どこが相手なんだ?」
「次の対戦校は……木戸川清修です!」
春奈がそう告げると、視線が一点に集まる。
そして、注目を集めた本人も流石に驚きを隠せないようだ。
「修也」
そう、修也だ。
修也は雷門に来る前、木戸川清修のエースストライカーだった。
去年の決勝では、妹さんの事故があって試合会場に行くことすら出来なかったんだったな。そして色々負い目を感じ、サッカーを辞めることにしてそのまま木戸川清修を去った。
少なからず、修也にとって思うところのある相手だろう。
「……大丈夫だ。敵として戦う以上、勝つまでだ」
「ははっ、それでこそ修也だ」
まあ、修也に限って心配する必要ないか。
本人もやる気だし、絶対に勝って決勝進出を決めてやるとしよう。