Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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物語は再び始まる


第1話 ここから始まる

 鏡の前に映る自分はどこか変ではないだろうか、と身嗜みを整える。玄関の扉を開くと春を感じさせる陽射しと風が飛び込んできた。心地よい朝だ。新しい門出にはこれ以上ない日だろう。

 そう、今日は待ちに待った雷門中入学式の日だ。

 

 

「いってらっしゃい、後から行くからね」

 

「うん。いってきます、母さん」

 

 

 そう言って家を出ると、母さんは手を振りながら送り出してくれた。

 ちなみに父さんは今家にいない。大手メディアに記者として勤めており、2年程前に海外に飛び立ってしまった。

 とは言っても、定期的に連絡はしてくれる。実際昨日も全国大会優勝と中学入学の祝いのメールが来た。申し訳なさそうにしているのが文面から受け取れたが、仕事なら仕方ないと俺も母さんも思っているので気にしないで欲しいものだ。

 

 

「眩し……」

 

 

 鋭く射し込む日光を思わず手で遮る。

 家の門から一歩踏み出すと、周りには俺と同じ制服に身を包んだ少年少女が何人か確認できた。

 まあここら一帯は雷門中の学区だし、当然といえば当然か。

 

 

「加賀美、おはよう」

 

「ん? ……おお、風丸か。おはよう」

 

 

 風丸 一郎太(かぜまる いちろうた)。守が俺と出会う前から仲良くしていたそうで、良くサッカーに付き合わされていたらしい。

 俺と守が知り合ってからは3人でボールを追いかけることも多かった。

 

 

「とうとう中学生だな。加賀美はサッカー部に入るんだろ?」

 

「勿論。守と一緒に全国とってやるよ……風丸は陸上部に行くんだよな」

 

「ああ。お前達とやっていたサッカーも楽しかったけど、やっぱり俺は走るのが好きだからな」

 

「だよなあ……風丸の脚ならサッカーでも十二分に通用するんだけどなあ……?」

 

 

 チラチラと目線を向けるが、「よしてくれ」と微笑しながら流されてしまった。無念。

 10分ほど風丸と談笑しながら歩いていると、ようやく校門が見えてきた。それと同時に、見覚えのある姿も見えた。

 

 

「遂に……遂に来たぜ────ッ!!」

 

「……何をやっとるかあいつは」

 

「はは……円堂らしいじゃないか」

 

 

 円堂 守、その人である。

 校門のど真ん中に立ち、100メートル先まで聞こえそうな大声で叫んでいた。周りの新入生は何事かと目線を集中させている。そりゃあ入学式当日にあんなヤツがいたら誰だってそうなる。

 

 

「はーい教室行きますよおバカさん」

 

「いだだだ!! 何すんだよ柊弥!」

 

「黙らっしゃい。周りに初対面の人ばかりの中であんな大声叫ぶか? 普通」

 

「だって、待ちに待った雷門中だぜ!? テンション上がらないはずないだろ!」

 

「やはり円堂は円堂だな……」

 

 

 首根っこを掴んで守を引き摺っていく。

 まあ確かに守の気持ちが分からないわけでもない……が、さすがにあんなことはしない。だって恥ずかしいし。

 乗降口近くまで来て守を解放し、クラス分けを確認する。

 

 

「えーっと、どこだ……」

 

「あった! 柊弥、風丸! 俺達同じクラスだぞ!」

 

 

 本当だ。見事に俺達3人揃っているな。

 他には……お、秋もいるみたいだ。顔見知り勢が全員揃ってるのはなかなかに嬉しい。

 

 

「さて、俺と守は先に職員室行くか」

 

「そうだな!」

 

「ん? 何か用事か?」

 

「ああ……これを出してくる」

 

 

 と言ってカバンの中を漁り、1つの封筒を取り出す。

 その表紙には"入部届"の文字。サッカー部への入部を希望する書類が同封されている。

 

 

「もう出しに行くのか……せっかちだな」

 

「善は急げ、って言うだろ?」

 

「確かに言うが……善かどうかはわからないな。まあいい、先に教室行ってるぞ」

 

 

 と言って風丸は階段を昇っていく。

 俺と守はそのまま歩いていき、すれ違った先生に挨拶をし、サッカー部の顧問はどなたかを訊ねる。

 どうやら、サッカー部の現顧問は冬海(ふゆかい)先生と言うらしい。

 入口前に貼り付けられている座席表を確認し、職員室へと足を踏み入れる。

 

 

「1年円堂 守と言います! サッカー部入部希望です!」

 

「同じく加賀美 柊弥と申します。自分もサッカー部入部希望です」

 

「は、はあ……」

 

 

 叩きつけた入部届をまじまじと見つめ、大きなため息をついてそれを机の上に載せたあと、冬海先生は口を開いた。

 

 

「申し訳ないんだけど……この学校にサッカー部はないんだよ」

 

「「え?」」

 

 

 俺と守の間の空気が凍りついた。

 互いに見つめ合い、数回瞬きした上で互いの頬をつねる。

 痛い、つまりこれは現実だ。

 

 

「えええええええええええええええええええええええ!?」

 

「マジか……」

 

 

 守の怒号が職員室内に響き渡った。

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

「おーい守、生きてるかー?」

 

「サッカー部がないなんて……そんな……」

 

「……重症だな」

 

「でも本当に……サッカー部がないなんてね」

 

 

 入学式を終え、教室に戻ってきて俺、守、風丸、秋の4人で机を囲む。

 守は入学式の最中ずっと上の空で、呼名をされても返事を忘れていた。あの時の守の顔は傑作だった。

 

 

「まあ、ないなら作ればいいだろ? 冬海先生も言ってたんだしさ。ほら、とりあえず部室行ってみようぜ?」

 

「……」

 

「守……?」

 

 

 守は机に突っ伏したまま何の反応もない。と思いきや、段々と小刻みに震えだして……

 

 

「そうだよ! 部活がないなら作ればいい!! よーし、部員集めるぞー!!」

 

「俺さっきからそう言ってたんたけどな」

 

「これが円堂君なのよ……」

 

「違いない」

 

 

 入学式始まる前からずっとそう声をかけていたのに上の空すぎて一切反応してなかったくせに、急にこのテンションの上がりようである。

 そして気がついたら守は教室を飛び出し、部室へと向かっていた。

 

 

「……俺らも行くか」

 

「そ、そうだね」

 

「俺は陸上部に顔出し行くよ」

 

 

 といって風丸とは別れた。

 昇降口から少し歩くと、古い物置小屋のような風貌の部室の前に守と冬海先生が立っていた。

 

 

「遅いぞ2人共!! 冬海先生、早く部室開けてください!!」

 

「はいはい……」

 

 

 そう言って気だるそうに冬海先生は鍵を開けてくれた。

 意を決して守がその扉を開くと……その衝撃で中のガラクタが崩れ落ちた。

 それと同時にホコリが舞い上がり、外の俺達に襲いかかる。

 

 

「うわ……これは酷い」

 

「すっごいホコリ……何年掃除してないんだろう」

 

「さあ……私がこの学校に来る前から使われていないはずですよ」

 

 

 そんなホコリの巣窟に守はズンズンと入り込んでいき、何かを手に取って俺達に差し出してきた。

 

 

「掃除、しようぜ!!」

 

 

 ……新生雷門サッカー部最初の活動は、部室掃除のようだ。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

「あー疲れた、何回ホコリ吸ったかな」

 

「でもほら、すっげー綺麗になったぜ?」

 

「そうだねえ、だいぶ見違えたよ」

 

 

 と言われて部室に目線をやると、確かに先程より目に見えて綺麗になっている。

 黒ずんでいた外壁は僅かな輝きを取り戻し、鎧のように纏っていた蜘蛛の巣は今や見る影もなし。これぞ匠のビフォーアフターってやつだ。

 ……ようやくか。

 

 

「さて、もう今日は帰ろうぜ! この後サッカーするだろ?」

 

「もう、1日くらい休んだら?」

 

「そうはいかないさ! 今日から俺達は雷門サッカー部なんだ、サッカーしないとダメだろ!?」

 

「そういうものかなあ……」

 

「そういうもんさ! ……柊弥? どうした?」

 

 

 2人のやり取りをそっちのけで感傷にふけっていたが、守の声で意識が現実に引き戻された。

 

 

「ああ悪い……先行っててくれないか?」

 

「へ? ……まあいいや、遅れるなよ!」

 

「それじゃ先行ってるね!」

 

 

 といって守と秋は校舎へと戻って行った。

 片付けのためにジャージになっていたから、制服に着替えに行ったのだろう。

 2人の背中を見送って、今一度視線を向ける。

 視線の先にあるのは、先程発掘して部室に立てかけた"サッカー部"の看板。

 そっと歩み寄り、それに手を添える。

 その瞬間、頭の中には色んな光景が浮かんできた。

 必死に練習している光景、大会で優勝している光景、何より、みんなでボールを囲んで大笑いしている光景。

 

 

「ここから始まるんだな……俺達のサッカーが」

 

「ノー、お前達のサッカーは始まらない」

 

 

 突如として投げかけられた返事に身体が硬直する。

 独り言聞かれてたかな、恥ずかしい。完全に変なやつって思われた……

 待てよ、今なんて言われた? 

 

 

「……は?」

 

「もう一度言う。お前達のサッカーが始まることはない」

 

 

 声の方向に振り返り、その声の主の姿を捉える。

 変な服装だな……スパイが着るスーツみたいだ。歳は俺と同じくらいか……? 

 

 

「お前、誰だよ」

 

「……知る必要は無い」

 

『ムービングモード』

 

 

 その男が足蹴にしていたボールのような何かから機械音が鳴ると、俺の視界は青白い光に包まれた。




最後に出てきた男、一体何ファなんだ・・・
次回はとうとう試合描写かと思われます。
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