Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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第2話 共鳴する魂

 天馬と共にセンターサークル付近に着く。足りない人数は以前のようにフェイがデュプリで補ってくれる。以前と違って最初から優一、それに神童と西園がいるから負担は少しくらい減っているだろうが、それでも決して小さいものでは無いだろう。俺達でフェイのフォローをしっかりするしかないだろう。

 

 

 対するプロトコル・オメガは、見たところ顔ぶれは変わっていない。ということは手の内はある程度透けている。以前もこちらの優勢で終わっているし、この試合は俺達の有利だ。

 

 

「よし、行くぞ!」

 

「はい!」

 

 

 ホイッスルが鳴ると同時に天馬にボールを渡し、2人で駆け上がる。やはり早いな。俺もスピードの面にはかなりの自信があるが、天馬も全く引けを取らないくらいだ。

 

 

 すると、俺と天馬の間に割って入るように相手の9番がボールを奪いに掛かる。やはり相手も相当な手練。以前戦った時と遜色ない動きだ。気付いた時には天馬に肉薄していた。だが、俺の知っている天馬ならこの程度なんてことはないだろうな。

 

 

 それならば、俺がやることは1つ。

 

 

『おーっと!加賀美がレイザに抑えられた松風を尻目に前進!!どういう意図だ!?』

 

 

 止まることなくゴールに向かって加速する。天馬ならばコイツを突破し、俺にボールを繋いでくれると信じて。

 

 

アグレッシブビートッ!!

 

 

 背後から一陣の風が俺を押す。爽やかな風だ。それだけで天馬が勝ったのだと容易に想像できる。

 

 

「加賀美さん!」

 

 

 ほら、振り返ればちょうどそのタイミングで天馬からのパスが脚元に吸い込まれてくる。ボールを受け取ったその瞬間、すぐさま加速する。速く、さらに速く。DF達とぶつかる頃には俺の身体は雷を纏い、最高速へと達する。雷光の軌跡を描きながら相手を翻弄し、その先へと到達する。

 

 

雷光翔破!

 

 

 そうして俺は相手のキーパーと1対1。アイツは以前轟一閃で打ち破っている。だが、念には念をだ。よりゴールを割れる可能性が高い、火力重視で攻め立てる。

 

 

 ボールを踏み抜き咆哮。回転と共に浮き始めたボールは、凄まじい出力で放電を始める。ボールの内側から溢れ出した雷はその周りを包むようにエネルギー体を作り出す。空間に迸る稲妻が肌を灼く。その圧倒的威力を俺の全力で従える。両脚をその中心のボールへと叩き付ける。

 

 

ライトニングブラスター……貫けェッ!!」

 

 

 視界を埋め尽くすほどの眩い極光。そして凄まじい轟音がフィールド中に轟く。ゴールな向かって真っ直ぐ放たれた雷砲はゴールを喰らわんばかりに暴れ狂う。

 

 

 が、そのシュートに最初に触れたのはキーパーではなかった。

 

 

天空の支配者 鳳凰

 

 

 アルファがシュートの前に飛び出し、背中から溢れ出した青黒い炎で赤の異形を作り出す。化身だ。

 

 

 そのまま真正面からライトニングブラスターに対して蹴り込むと数秒の後に無力化してしまった。まだ試合序盤でそこまで消耗も出来ないからと抑え目にしたが、それでも轟一閃よりは威力のあるシュートだ。それをあそこまで軽々と止められるとは流石に予想外。あれが化身の力……いや、それもあるだろうがアルファという一選手のレベルの高さも評価すべきだ。淡々と任務をこなすようなプレイしかしていないが、一挙手一投足が他とは一線を画している。

 

 

「加賀美 柊弥……お前はサッカーに大きな影響を及ぼし、大きな驚異を生み出す。私がここで排除する」

 

 

 アルファが化身を従え、俺の元へ真っ直ぐ突き進んでくる。凄まじい重圧。このまま突進されようものなら為す術なく吹き飛ばされるだろう。このまま何もしないなら、な。

 

 

「ォォオオオオオオオ!!!」

 

 

 拳を握り、この場全体を揺らすほどに咆哮する。ただヤケになっただけじゃない。俺には確信がある。時空を超え、本来共に戦うことの無いヤツらと並び立つ。その上、強大な相手を前にしている……となれば、起こるだろう。時空の共鳴現象とやらが。

 

 

 俺の中の力が影となり、炎のように全身から立ち上る。それが段々と何かの形を作る。人のような形になったと思うと、炎を斬り裂いて中からその姿を現す。

 

 

紫電の将 鳴神!

 

 

 濃紫の甲冑に身を包んだ武士が刀を振り払う。やはり出てきてくれたか、俺の化身。今この瞬間のみの力だろうが、使えるものは何でも使う。そしてチームの一員として戦っている以上、このチームを勝ちに導く!

 

 

「らアッ!!」

 

 

 アルファと()()()()()()()()()()()()と、化身同士が火花を散らす。炎を纏った拳と、雷を従えた刀が何度もぶつかり合う。その度に衝撃波のようなものが全身を叩く。

 

 

 分かってはいたが、とてつもない消耗だ。ただ発現させただけでもかなり体力が持っていかれるし、その力を行使するとなれば尚更だ。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

 ふとした拍子にアルファに押し負けてしまう。あっちは化身を使い慣れている上、こっちはこれでまだ二度目。勝手も分かっていない状態じゃ手練には到底及ばない。そして大きくアルファに吹き飛ばされると同時に、背中の化身が霧散する。少しでも集中が乱されようものなら維持すら出来ないか。だからといってこのまま蹲ってはいられない。すぐさま立ち上がりアルファの後を追い掛ける。

 

 

 アルファは化身を解除し、更に加速する。そしてペナルティエリアからやや離れた位置に差し掛かったところで、回転しながら大きく飛び上がる。

 

 

シュートコマンド01

 

 

 その回転で渦を巻いた風がボールに纏わりつき、ボール自体を高速で回転させ始める。それに対してアルファが利き足で蹴り込むと、周囲の空気を巻き込みながらシュートが猛スピードでゴールへと降っていく。

 

 

エクセレントブレストォ!

 

 

 こちらのキーパー、マッチョスが身体が大きくなるくらい息を吸い、鋼鉄のように胸を張る。そのまま分厚い壁と化した胸でアルファのシュートを受け止める。が、アルファのシュートはかなりの威力のようで、易々とマッチョスをゴールへと押し込んでしまう。

 

 

『ゴール!先制点はプロトコル・オメガだ!アルファの圧倒的個人プレーが雷門のゴールをこじ開けた!!』

 

 

 個人プレー。その言葉の通りだ。俺のライトニングブラスターを止め、そのまま俺との化身同士のぶつかり合いを制し、流れのままに点を奪った。

 

 

 どうしたものか。俺の見立てが間違っていなければ、アルファは以前よりも更に強くなっている。もしかすると、プロトコル・オメガ全体がレベルアップしている可能性すらある。

 

 

 確かさっきのシュートをこの前止めたのは化身を出した俺。ということは、最低でもあの必殺技を止めるためだけに1人化身を使わなければいけないということ。こちらで化身を持っているのは確定で俺、天馬、優一。フェイに神童、西園はハッキリと聞いていないから分からない。その上、アルファはまだ化身でのシュート、さらにあの化身を纏う技術を残している。それは天馬と優一もか。

 

 

 化身の頭数ではこちらの方が有利だが、恐らくこちらの誰もアルファの練度に太刀打ちできない。突破できるとしたら、1度に複数の化身で攻めたてるしかない。だがそうするとこちらの消耗が馬鹿にならない。デュプリを出している以上フェイの消費も大きい。

 

 

 せめて後1人、化身を纏えれば変わるか?

 

 

「──試してみるか」

 

 

 天馬を呼び、俺の作戦……というか、狙いを伝える。

 

 

「……可能性はあると思います。けど、慣れないうちに化身を出すだけでもかなり体力を使いますし、アームドするとなると厳しいところがあると思います」

 

「まあ、そうだよな」

 

「でも、今はそれに掛けてみるのが良いかもしれません!俺でも出来たなら加賀美さんでもきっとできるはずです!」

 

 

 買い被りすぎだ。天馬の知る俺がどれだけ凄いヤツなのかは知らないが、今この場にいる俺はそんな大したことはないんだ。

 

 

 だが、期待された以上は答えるのが責務。

 

 

「らァァァァッッ!!紫電の将 鳴神ッ!!

 

 

 ホイッスル直後、天馬にボールを預けられてすぐに再び紫の武士が俺の背中に宿る。

 

 

アームドッ!

 

 

 イメージしろ。確かに背後に感じる強大な気配を分解し、鎧のようにして全身に纏う。願掛けのように腕を振り払うと、化身は先程のように青と黒の影となってバラバラになる。そしてそれが俺の身体に纏わりつき──

 

 

「やったか!?」

 

 

 ──鎧となることはなく、霧となって消えてしまう。

 

 

 律儀に待ってたアルファがすぐさまタックルをしかけてくる。化身発動直後の脱力感に見舞われるが、すぐさま目の前の標的に意識を切りかえて応戦する。思い切りぶつかってくるアルファに対し、負けじとこちらもぶつかる。上手い具合に押し返したが、衝突時の膂力が半端じゃない。

 

 

 正面からのぶつかり合いは俺が不利、わざわざそんな状況でやり合うほど俺も馬鹿じゃない。アルファを正面突破するのは諦め、すぐ近くにいた優一にボールを回して2人がかりでアルファを抜き去る。

 

 

 が、優一の進行方向に待ち構えるようにしていた11番がボールを奪う。すぐさま取り返そうとデュプリ達が飛びかかるが、パス回しに翻弄され、ボールに触れることが叶わない。当然俺や天馬もボールの奪取を狙うが、綺麗に躱される。

 

 

 何度もボールが宙を舞ったその時だった。アルファにボールが回る。

 

 

天空の支配者 鳳凰! アームド!

 

 

 その瞬間、化身アームドを平然とやってのけ、猛スピードでゴールへと駆け出す。何だ?俺とアイツとでは何が違う?

 

 

「加賀美さん!走りながら聞いてください!」

 

「どうした!」

 

「ある人が言ってました!化身っていうのは、自分の外側に着くものじゃなくて、内側から飛び出すものだって!じゃあアームドは、外に纏うんじゃなくて内に押し戻し、自分の中で力を爆発させるイメージなんじゃないでしょうか!」

 

 

 外に纏うんじゃなくて、内で爆発させる……なるほど。アームドという単語からいかにも外付けのようなイメージが定着していたが、化身というのは自分の中から溢れ出した、言わば力の権化。なら、それをもう一度自分の中に戻し、最適な形で使うようにイメージすれば……!

 

 

「ありがとう!やってみる!」

 

 

 天馬にそう返して加速する。アルファは今デュプリ達の連携技、フラクタルハウスや西園の小柄を活かした素早いディフェンス、神童とフェイの息のあったプレスで足止めを食らっている。そして俺にアドバイスを残した天馬もそれに続きに行った。

 

 

「来い、魔神ペガサスアーク!! アームドッ!!

 

 

 化身アームドの猛威を振るうアルファに対し、天馬も同じ土俵に登る。神童とフェイが突破され、化身アームド同士のぶつかり合いが始まる。

 

 

 チャンスは1度きり。

 

 

「ふぅ……出てこい!紫電の将 鳴神ィ!!

 

 

 一呼吸置き、三度化身を顕現させる。ここからだ。

 

 

「……俺に力を貸してくれ、この試合を、仲間を勝利に導くために!!アームドッッ!!

 

 

 鳴神が僅かに頷いたような気がした、その時だった。先程のように青と黒ではなく、鳴神は黄と黒の炎へと姿を変える。そしてそれが拡散し、俺の全身に均等に燃え広がる。そして一際勢いよく燃えたと思ったら、その炎の中から鳴神のような紫色の甲冑が姿を現す。

 

 

 凄まじいパワー、これが化身アームドか。

 

 

「加賀美さん!」

 

「馬鹿な……!?」

 

 

 天馬は喜びを、アルファは驚きを口にする。直後、天馬は俺と入れ替わるように離脱し、俺がアルファと正面からぶつかり合う。

 

 

 同じタイミングでボールに対して蹴り込む。アルファからも凄まじい力を感じるが、今の俺は負ける気がしない。さらに力を込めると力が爆発し、アルファはボールをキープしたまま距離を開ける。

 

 

「加賀美 柊弥……やはりお前は危険な存在。未来の為にもここで潰す」

 

「未来がどうとか知ったことか。俺は今この瞬間を生きてるんだ」

 

 

 俺を消すことがどう未来に繋がるのか分からないが、良い迷惑だ。気付いたら違う時代に飛ばされて、そのままあなたは危ないから潰しますだなんて納得いくか。

 

 

 深く腰を落とし、脚に力を込める。呼吸によって筋肉に1番力が籠る瞬間を狙い、重い踏み込みで一気に加速。雷のような加速を得てアルファのすぐ近くへと迫り、一瞬にしてボールを奪う。

 

 

「速い!あれが加賀美さんの化身アームド!」

 

 

 そのままの勢いで走り出す。この流れで1点返してもらうぞ。

 

 

 と、更に身体に力を込めたところで意図せぬ音が鳴り響く。前半終了を告げるホイッスルだ。

 

 

『ここで前半終了!!プロトコル・オメガの1点リードのまま後半へ持ち越し!化身アームドを成し遂げた加賀美、そのまま得点ならずだぁ!』

 

 

 そのホイッスルと共に加速は止まり、気が抜けてしまったこともあってか化身アームドは解除される。その瞬間、通常の化身以上の脱力感に襲われてその場に膝を着いてしまう。優一に立たせてもらい、何とかベンチへと戻る。

 

 

「1点リードされている、か」

 

「僕や神童先輩も化身アームドに挑戦した方が良いのかな?」

 

「いや、俺が出来たのが奇跡みたいなものだ。それで守備が疎かになるのは少しまずい」

 

 

 これは事実だ。下手に化身アームドを試みて消耗、そこから守備が崩れるくらいなら使えるのであろう通常の化身で立ち回った方が良いだろう。

 

 

 問題は攻めだ。フェイの分析曰く、相手は何らかの形で俺達のデータをインプットし、動きにほぼ完璧に対応しているらしい。道理でやたらと攻めにくい訳だ。

 

 

 相手のキーパーは特別守備力がある訳では無い。だが問題はアルファだ。あいつが化身、或いはアームドでゴール前に立たれたら、まず1対1でゴールを奪うのは厳しい。化身アームドした2人ならば可能性はあるが、残りの相手が化身アームド出来る人を自由にさせてくれるとは到底思えない。しかも俺達はここから2点取らなければならない。化身アームドに頼っていたらあっという間にガス欠だろう。

 

 

「そういえばワンダバは?」

 

「ここにいるぞ!!」

 

 

 一応監督であるワンダバがいないことに気付きフェイに聞いてみると、建物の外から走ってやってきた。背中には見慣れない機械を背負っている。

 

 

「ワンダバ、それはもしかして?」

 

「うむ!こちらの動きは読まれている中で不利な状況というのはかなり芳しくない。そこでこれだ!」

 

 

 ワンダバが背中に背負った機械をこちらに見せてくる。

 

 

「優一君、そして加賀美君!君達にはミキシマックスをしてもらう!」

 

「ミキシマックス……?それは一体?」

 

「簡単に言ってしまえば、このミキシマックスガンによって自分とは違う誰かのオーラを借り、化身とはまた違うパワーアップが可能になるのだ!」

 

 

 オーラを借りてパワーアップとは、これまた凄いのが出てきたな。化身にアームド、それにミキシマックスか……未来のサッカーは今と比べてとんでもないくらいに進歩しているようだ。

 

 

「優一君は剣城 京介。加賀美君は……いや、本番までのお楽しみにしよう。どちらも君達とは相性抜群のはず、きっと力を貸してくれる!」

 

「京介……」

 

 

 京介、というのは優一の弟らしい。この世界では色々あってサッカーから離れているが、本来は天馬や神童も認めるほどの実力を持った雷門のエースストライカーだそうだ。

 

 

 雷門のエースストライカー、か。俺の知る雷門のエースは、修也ただ1人。時が進めば俺の中で常識のようになっているその事実も変わっていくのだと思うと、少し感慨深くもなるな。

 

 

「何で俺のはお楽しみなんだ?」

 

「ふふん、意外性があった方が面白いだろう?」

 

 

 いや、予め知っておいた方が色々とスムーズに行くんじゃ……というツッコミは置いておこう。ミキシマックスはワンダバが指示したタイミングで行うようだ。それによってアイツらのデータを超える力で一気に2点かっさらう。それが俺達の勝ちへのビジョン。

 

 

 ミキシマックスだろうがなんだろうが上等だ、乗りこなして勝ってやるよ。




そういえば60000UA行った上に評価バーがまた長くなってました。ありがとうございます!

次回で番外編終了です。多分。

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