GO2番外編最終話です。
ハーフタイムを終えて再びフィールドの中に戻る。スコアは0-1でこちらの劣勢。しかも現状ではヤツらの牙城を崩す術はない。今はまだ、だ。先程ワンダバが言っていた"ミキシマックス"。それを使えばこの状況を打破することが出来るだろうという見通しだ。後半開始前に使ってしまった方が良いのではないかと提案してみたが、ギリギリの状況でその手札を切ることで相手の対応を許さずに攻め立てる作戦だそうだ。
ならば、そのタイミングが訪れるまで何としてでも失点を防ぐ。だからといって後手に回るわけではない。常に牽制の手を休めず、相手が攻めてくる状況をまず作らせないように立ち回るんだ。不利な盤面で萎縮している方が危険だからな。
ホイッスルが鳴り響く。その瞬間、相手はボールを後ろに下げる。成程、あっちは有利な今時間を稼げば良いって魂胆か。攻めてこないならある意味好都合かもしれないが、何かの拍子で得点を狙ってこないとは限らない。ならばやはりこちらから攻め、隙あらば現状での得点を狙うとしよう。
「逃がさねえよ」
「鬱陶しい!」
更にボールが下げられるというところで6番に張り付く。あらゆる方向から常に圧を掛け続けることで、パスという選択肢を徹底的に潰す。とはいえ相手も隙がない。ここからどうボールを奪おうか……
「何ッ!?」
互いに動きかねていると、突如俺達の間を風が吹き抜けた。すると相手の脚元にあったはずのボールは無くなっている。その行方を目で追うと、アルファがボールをキープして佇んでいた。あの一瞬で2人の隙間を縫うように入り込み、流れるようにボールを奪っていったっていうのか。スピードはもちろん、かなりの身のこなしが必要な動きのはずだ。
「ここで決めさせてもらう」
アルファが凄まじい勢いで空中へ飛び上がる。パス回しで時間を潰そうとしていたのは真っ赤なブラフ。最初からアルファの力押しで2点目を狙うつもりだったのか。
「天空の支配者 鳳凰!」
アルファの背中に鳳凰を模した化身が宿る。そして地面へと落ちていく中、腕を振り上げて叫ぶ。
「アームド!」
鳳凰は姿を影に包み分裂、アルファの全身に纏わりつき、深紅の鎧としてその身に宿った。そしてアルファは着地直後に地を砕く勢いで加速。クソッ、今から追いつこうとしても到底間に合わない。後ろに控えているDF達に任せるしかない。
アルファはゴールまで結構な距離がある地点でシュートを放つ。必殺技ではないが、それでも十分すぎる威力を有していることが伝わってくる。
「させない!!」
デュプリの2人がツインキックをシュートに叩き込む。が、あまりの威力でその身体を宙に浮かされ、思い切り後ろに弾かれる。僅かに威力は削がれたが、これではまだ止められるかは怪しい。
「僕が止める!!ぶっとびジャンプ!」
その声の主は西園。思い切り脚に力を溜めて大きく飛ぶ。空中で何回転かしつつシュートとの距離を詰め、最後にシュートに対して真正面から両脚で力を注ぎ込んだ。しかしシュートの威力があまりに高く、先程の2人同様西園は空中へと投げ出されてしまう。だが、威力は大分削がれたはずだ。
「エクセレントブレストォ!」
キーパーのマッチョスが大きく息を吸い、ガチガチに固めた胸でシュートに対峙する。双方が触れた瞬間鈍い音が響くが、2回のシュートブロックの甲斐もあってマッチョスは余裕を持ってシュートを止めてくれた。
「行くぞ優一くん!!ミキシマックスだ!!」
攻防の顛末を見届け終えると、ワンダバがベンチから優一に声を掛ける。それを聞いて優一が駆け出すと同時に、ワンダバは装置から伸びる銃の片方を撃ち出す。
黄金のオーラが着弾点に溢れ、その中から半透明の男が姿を現す。あれが優一の弟である剣城 京介なのだろう。優一とは真逆の鋭い目付きをしているが、雰囲気がそっくりだ。
「お、ォオオオオオ!!」
そしてもう片方を優一に向けて放つ。するとその黄金のオーラが満遍なく優一に注ぎ込まれていく。優一側に掛かる負荷はそれなりのものなのか、必死の表情で雄叫びを上げている。段々と優一から感じるパワー、圧力が大きくなっていくのを感じる。まさに2人分の力。いや、2人の力が乗算式に跳ね上がっているかのようだ。
「はァァァ!!」
「ミキシマックス、コンプリーーーート!!」
一際迫力に満ちた咆哮をすると、優一を包み込んでいた黄金のオーラが爆散する。その中から顔を覗かせた優一の姿は、先程とは大きく異なっていた。一瞬見えた京介のような面影が宿っている。そして何より、途轍もない力に満ちていた。
「京介……行くぞ!」
優一が加速する。目で追うのがやっとなくらいの速さだ。これがミキシマックスの力というわけか。秘密兵器的な扱いをされるのも頷ける。
俺が今すべきことは1つ。前線の優一にボールを送ることだ。そうすれば、確実に1点返してくれる。
「紫電の将 鳴神ッ!!アームドッ!!」
すぐさま化身アームドを発動、マッチョスのロングパスを受け取って前を向く。こっちのゴールからあっちのゴールまで、か。
「……余裕だな!」
目を瞑る。身体の中に巡るエネルギーの流れを脚に集中させる。ボールを踏み抜くと、並外れた出力でそこから雷が迸る。一呼吸置き、極限の集中の中に己が身を置く。俺からボールを奪おうと飛び掛ってくるヤツらが辿り着くより速く、光の速さでボールに対して脚を抜く。
「轟一閃"改"」
その強大さはまさに天災。何本もの雷を束ねたような軌跡と共に、ひたすら真っ直ぐにシュートが奥へと突き進んでいく。
「そのまま決めろッ!」
「はい!」
轟一閃に並走する優一。ゴールが間近に迫ったところで爪先からボールに触れ、撫でるように強力な回転を掛けたと思ったらそのまま踵で空高くへボールを送り出す。するとボールの内側から赤と暗青のエネルギーが溢れ出す。優一はそのまま飛び上がり、オーバーヘッドシュートを放つ。
「デスドロップ!!」
死が落ちる。この試合の中で最も強力であろうシュートがプロトコル・オメガのゴールへと迫る。何10メートルと離れたここまで威力が伝わってくるシュートなんて、直撃したらたまったものではない。しかし、それから逃げる訳にはいかないキーパーは、両手を振り抜く。
「キーパーコマンド03!!」
衝撃波がボールを叩く。が、一切シュートの威力を削ぐことなくそのままゴールへと押し込まれる。
「やった!!同点だ!!」
「優一さん!!」
得点を知らせるホイッスルが鳴り響くと、天馬と西園が優一の元へと駆け寄る。俺の脳裏には先程の凄まじいシュートが焼き付いていた。あんな凄まじいシュート、見たことない。修也も染岡も、あのアフロディでさえもあのシュートには遠く及ばないだろう。
ミキシマックスをしたら、俺もあのステージに立つことになるのか?
「よぉし!!加賀美君、君もやるぞ!!」
「今か!」
その時、ワンダバから俺に声が掛かる。試合時間は残り僅か。再開する前に済ませてしまおうということか。すぐさまワンダバの方へと走り出す。
ワンダバは背中の機械、ミキシマックスガンの片方から何かを打ち出す。着弾地点から黄金のオーラが溢れ出して辺りを照らす。そしてその中心にはある男の姿があった。
それは俺にとってよく知った顔で、この世で最も信頼している1人だった。
「こっちでも力貸してくれるんだな……修也!!」
仮想的に作り出された修也がこちらに微笑んだような気がした。その直後、ワンダバがもう片方の銃を俺に向けて放つ。俺はそれに臆することも逃げることも無く、真正面から受け止める。すると、爆炎に包まれたような凄まじい熱さが俺の身体を襲う。これは修也の持つ熱量、すなわち力そのもの。身を焦がす程のこれに耐えられなければ、俺に力を扱う資格はないということ。
「───ッ、こんなモン……余裕だッ」
歯を食いしばり、強がりを吐き捨てる。身体の中まで焼かれているんじゃないかと思えるほどの業火。並大抵なら耐えきれないだろう。
だが残念。俺はその並大抵の枠を外れてる。
「だァァァアアア!!」
思い切り哮る。そうすると、俺の身体を包み込んでいた炎が霧散し、雨のように火の粉が降り注ぐ。全身に満ちるこの力。それだけで全てが上手く行ったのだと悟る。
「ミキシマックス、コンプリィィト!!」
「す、凄い……これが伝説の2人の力!」
「……」
大興奮のワンダバと天馬。それに対して明らかに表情が険しくなったらアルファ。恐らく、ミキシマックスによる脅威がどれほどのものかを知っているのだろう。だからこそ、今この状況が自分達にとって良くないものであると痛いほどに理解してしまっている。
気の毒だが、手加減はしない。
「行くぞ……修也」
その状態のまま試合が始まる。プロトコル・オメガからのキックオフ。ボールが送り出されたその瞬間に強烈な何かを感じ取った。化身だ。視線の先ではアルファが化身を展開している。
「アームド」
アルファは静かにそう呟く。再び化身を身に纏った力の権化が俺の前に立ちはだかる。こちらも化身アームドで対抗すべきか?いや、必要ないな。何故なら……
「ボールは貰うぞ」
「加賀美さん!危ない!」
俺には修也がついている。
前に加速したと同時にアルファの持つボールに蹴り込む。当然、アルファも真正面から対抗してくる。化身アームドの力は流石のもので、ボール越しにその凄さが伝わってくる。これに対抗するには確かに同じ化身アームドが1番だろう。というより、それしか手段がないかもしれない。天馬の心配も最もだ。
しかし、今の俺は負ける気がしない。相棒とも呼べる男が、時空を超えてまで俺に力を貸してくれているからな。それで負ける方がおかしいというものだ。
ボールに対して蹴り込む力を更に強くする。すると一瞬アルファの身体が揺らぐが、すぐさま持ち直してくる。なので、それよりもっと強い力を込める。先程よりもアルファは大きく体勢を崩しかける。その一瞬の隙に漬け込み、全力を込めて前へと進む。すると、化身アームドしたアルファを軽々と吹き飛ばした。
「馬鹿な!?」
「やっと人間らしい表情を見せたな」
アルファが目に見えた焦りと驚きを見せる。まさか押し負けるとは思っていなかったのだろう。残念だったな。それほどまでに俺と修也はベストマッチ……いや、スーパーベストマッチなんだよ。
そのまま相手ゴールへ向かって走る。当然控えていた連中がボールを奪いに来るが、全身から炎を立ち昇らせて突撃すると、ヤツらは為す術なく押し返されていく。俺達2人の力、生半可な気持ちで止められる筈がない。
「加賀美君、決めるんだ!」
「任せろッ!」
ボールを軽く蹴り上げて天を仰ぐ。すると俺の全身から途轍もない勢いで炎が燃え上がり、雷が迸る。その両方はボールに吸い込まれるように纏わりつき、蒼い雷によって形成された球体の周りに深紅の炎が燃え、俺の背後から眩いコントラストが辺りを照らす。
後方に宙返りするような形で飛び上がると、そのエネルギー体は圧縮され、それを地面に叩きつけるように蹴り落とす。そしてそれが地面と触れる前にすぐさま着地し、左足で回転を加える。
ボールから溢れ出すエネルギーが渦を巻きながら再び宙に放たれ、ある一点に達した瞬間に爆発的にその勢いを増す。
「ラストリゾートッ!!」
最終兵器という名を冠したそのシュートは、射線上の全てを打ち滅ぼさんと荒れ狂う。爆炎と迅雷が織り成す圧倒的過ぎる破壊力は、威力を削ごうとその前に立ちはだかろうとする連中を一切寄せ付けない。
「キー───」
シュートの通り道は真っ黒に焦げ、所々が赤熱を帯びている。当のシュートはというと、必殺技で抵抗を試みたキーパーを一瞬ではじき飛ばし、ゴールに飛び込んで行った。それで勢いは止まらず、そのままゴールネットすらも焼き続け、やがてその大半を崩壊させ、後ろの壁に激突したボールは音を立てて派手に破裂した。その場にいた全員が唖然としたのを感じた。審判に至っては得点のホイッスルを鳴らすことすら忘れている。
……1番驚いているのは自分だ。あのシュート、人に直接撃とうものなら命を奪うことすら難しくないんじゃないか?
するとようやく得点のホイッスル……いや、同時に試合終了を告げるホイッスルが鳴り、意識が上の空だった全員を現実に引き戻す。
「あ、あのシュートって……」
「うん、豪炎寺さんと2人で撃った、史上最強と言われたあのシュートだよね……?」
西園と天馬が何かを話しているのが聞こえたが、その詳細までは分からなかった。とりあえず、試合は俺達の勝ちで終わり……ということで良いんだよな?
「……撤退する」
気がついたらプロトコル・オメガのメンバーは1箇所に集まり、アルファがサッカーボールのような機械を起動すると光に包まれて姿を消した。それと同時くらいに、身体の内側から炎が逃げていくのを感じる。
「……ありがとな、修也」
届きはしないだろうが、無意識の内に相棒に礼を告げていた。
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「これでこっちの歴史は変わったのか?」
「うん、ミッションコンプリートさ」
フェイ曰く、天馬達の知る本来の雷門イレブンが、歴史が戻ってきたと言う。だが天馬や神童達の間に明るい雰囲気はない。その理由は直ぐに分かった。皆の視線の先で1人佇む優一のことだろう。
聞く話によると、この試合が終わり、歴史が本来の路線に修正されれば今の優一の存在は消え、在るべき場所に戻るのだという。それは、下半身不随で歩けない姿。今の優一があるのは、歴史の改ざんによりその原因となる事故が無くなったかららしい。それにより弟の京介はサッカーから離れることになり、本来の雷門イレブンではなくなった。そして、京介にサッカーを返すために優一はこの試合に臨んだ。
「これで、俺の役目は終わりだ」
そう優一が満足そうに呟くと、身体が光に包まれる。そして脚元から徐々に粒子となり、何処かへと消えて行く。今から消えてしまうというのに、満足そうな表情だ。自分のやるべきことをしっかりとやり遂げられたからだろう。
「加賀美さん」
「……何だ?」
身体の半分が消えたあたりで、優一が俺に話しかけてくる。
「貴方は……俺の、俺達兄弟の憧れです。そんな人とサッカーが出来て……本当に嬉しかった」
「そっか。俺もお前みたいな凄いヤツと一緒に戦えて楽しかった、……また、いつか会おう」
そう返すと、優一は実に穏やかな笑みを浮かべて最後にこう言い残した。
「ありがとう、皆」
そうして、完全に優一は光の粒子となって消えてしまった。優一が在るべき場所に帰っていった、ということは……
「次は俺、か」
目の前に俺をここに連れてきたものと全く同じブラックホールのようなものが現れる。来た時とは違い、無理やりに引きずり込まれる様子はない。自分で帰れということだろう。
「お別れだな、皆」
身を翻し皆の方を向く。すると天馬が1人歩み寄ってきて、手を差し出してくる。
「ありがとうございました、加賀美さん。おかげで俺達のサッカーが取り戻せました!」
「良いんだよ。前助けてもらったのは俺だからな」
その手を強く握り返す。最初に俺達が出会ったのも、今この試合を共にしたのも何かの運命だったんだろう。まさか時空を2度も超えることになるとは思っていなかったが。
「またサッカーやろうぜ。それじゃあな!」
別れが惜しくなる前にその穴の中に飛び込む。すると視界を眩い光が包み込み───
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「──弥、柊弥!」
「……修也?」
俺を呼ぶ声に気が付いて目を開ける。その正体は修也だった。急いで身体を起こして辺りを見渡すと、夜の河川敷だった。
「明日の試合を考えると落ち着かないから散歩に出てきたんだが……驚いたぞ。こんなところで倒れているから、何かあったのか心配したんだ」
「そっか……悪いな」
荷物は……無事か。それにしても、俺は一体何でこんなところで寝ていたんだろう。いや、気を失っていた?何か凄い体験をしたような気がしたんだが……夢でも見ていたんだろうか。こんなところで眠りに落ちるなんて、相当疲れてたのかもしれないな。
「ああそうだ、ありがとうな修也」
「……?なんの事だ?」
確かに、何で急にお礼なんて言ったんだろう。気がついたら口に出していた。
「……さあ、何でだろう?」
「まあいい。俺は帰るぞ」
俺もこんな夜にここにいる意味は無い。さっさと帰って明日に備えよう。もう21時近いしな。
『勿論!!またサッカーしましょう!!いつか、必ず!!』
突如として頭の中にそんな声が響く。けれど、誰の声だか分からない。まだ寝惚けているんだろうか。でもまあ、何だか──
「──悪い気はしないな」
いつかまたソイツに会える。そんな気がする。
【ラストリゾート】
日本を背負った2人のストライカーが放ったとされる最強のシュート。その爆炎は全てを燃やし尽くし、その迅雷は全てを貫く。
次回からエイリア編突入です、よろしくお願い致します。