第39話 襲来
「おいグラン」
「何だい?」
「例の話……本当にコイツじゃなくて良いのかよ?」
グランと呼ばれた少年から応答が返ってくると、その呼んだ方の少年……バーンは指を鳴らす。すると、彼らの目の前にある巨大なスクリーンに1人の男が映し出される。
「あの大会は俺らから言わせりゃ低レベルそのものだ。だが、そんな中でもコイツ……加賀美 柊弥だけは俺達に並ぶかもしんねぇもんがあると思うんだがな」
「癪に障るが、私もバーンと同意見だ」
もう1人の少年、ガゼルがバーンの言葉に同調する。煽るようなその物言いにバーンは食ってかかるが、ガゼルに軽くあしらわて終わった。
「君達がそう思うのは……この映像だろう?」
そう言ってグランが再生したのは、ボロボロの状態の柊弥が立ち上がり、身体中から影のような炎を燃え上がらせ、得体の知れない何かを生み出したシーンだった。彼が放ったシュートは、そこまで鉄壁を誇った相手のゴールをいとも簡単にこじ開け、反撃の糸口を創り出した。
「ああそうだ。どんなカラクリは分かんねえが、鍛えりゃ使いもんになるんじゃねぇか?」
「確かに、君の言うことは一理あるだろうね」
「だろうね、ということは何か考えがあるということかな?」
グランがそう返すと、ガゼルが訝しげな視線を送る。バーンが勿体ぶるなと僅かに苛立ちをみせると、見下すような嘲笑を見せて口を開いた。
「彼の存在は雷門というチームが強くなるのに必要不可欠さ。父さん……エイリア皇帝陛下の望みは、我々ジェネシスの価値を示すため、彼らを最強のサッカーチームに仕立て上げることだからね。忘れたわけじゃないだろう?」
「もうジェネシス気取りかい?」
「事実だからね」
ガゼルはそう返されると、氷のように冷たい目線をグランに向ける。しかしグランはそれに対して見向きもせず、おもむろにその部屋の外へと歩き出す。
「今頃レーゼ達が動いているはず。いきり立つのは勝手だけど、それで父さんの期待を損ねないことだね」
といってグランは2人を尻目に部屋を去っていった。
「早く会いたいな、円堂君……加賀美君」
その怪しげな笑みに含まれているものは、誰も知ることは無い。
---
「……何なんだよ、これ」
言葉が喉の奥に詰まって出てこない。目の前の惨状に対して思うこと、考えることを声として発することが出来ない。
俺達はさっきフットボールフロンティアの決勝で世宇子に勝利し、日本で最強のサッカーチームになった。その帰りのことだ。突如空が紫に染まったと思ったら大きな揺れが起こり、第六感に従って学校の方まで走ってきたら、そこにあるべきはずの校舎はなく、あるのは無惨に積み上げられた瓦礫の山。
辺りを見渡してみると、所々を黒くした生徒や先生方が同様に唖然としている。だが俺の探している姿はない。それに気付いた時には近くにいた生徒に食いつくように話しかけに行っていた。
「おい!サッカー部の皆を見なかったか!?」
アイツらはもう学校に来ていたはずなんだ。校門の近くに送迎用のバスが置いてあったからな。しかし、俺の見える範囲には皆の姿はない。最悪の想像が頭をよぎる。
「さ、サッカー部なら……」
「加賀美君!」
肩を揺らしながら訊ねた男子生徒が口を開いた時、背中の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。誰かと思って瞬時に振り返ると、こちらに小走りでやってきていたのは校長先生だった。探し求めていた人物では無かったことに少々腹が立ったが、そんな無礼な態度を表に出すことはなく、極力冷静さを取り繕って校長先生から話を聞くことにした。
「実は……宇宙人が来たのです」
「校長先生。悪い冗談はやめていただけませんか?」
歩きながら話を聞くと、宇宙人が来たなどとふざけたことを口にする。場を和ませようとしているのかは分からないが、今はそんなこと望んではない。
「ほ、本当なんです!黒いサッカーボールを持ったヤツらは、OBの人達と試合をして大差で勝ったと思ったら……一方的にこの学校を破壊して行ったのです!」
「本当じゃよ加賀美君。ワシらは不在の君達の代わりに戦ったのじゃが……試合にならなかった」
校長と向かった先はグラウンド。その真ん中にはボロボロになったOBの方々と、何故かキーパーの服を着た古株さんが横たわっていた。まさか、本当に宇宙人だとでも言うのか?
そうだ。宇宙人どうこうは今はどうでもいい。もっと確認すべきことがあった。
「サッカー部は……皆は?」
「彼らは理事長の指示で傘美野中に向かいました。何でも、今度はそっちに宇宙人が現れるのだとか……」
ヤツらは突如やってきたと思ったらサッカーで勝負を挑み、勝った瞬間に相手の校舎を破壊しているのだと言う。雷門が破壊されたあとは、木戸川といった他の学校からも相次いで被害報告が寄せられている。
ヤツらに勝ってこの凶行を止められるのは、あの世宇子中に勝って全国一となった雷門サッカー部しかいないと言う。だから、いち早く学校に駆けつけた守達はさらなる被害を防ぐため、傘美野に現れるであろう宇宙人と戦いに行ったのだと言う。
この話を聞いて真っ先に浮かんだのは、皆の怪我の状況だ。軽傷とはいえ、決勝の前半で6人も怪我で交代。最後までフィールドに立っていたものの、かなりボロボロになってるヤツだっていた。その状態でそんなヤバいヤツらと試合しようものなら、次はどんな大怪我をするか分からない。
「加賀美君!どこへ!?」
「決まってます。アイツらを助けにいく」
「ダメです!貴方は誰よりもダメージが大きいと響木監督から聞いています!ここに来た貴方を止めるようにと私は仰せつかっているのです!」
校長に背中を向けると、そんな必死な声が聞こえてくる。だがそんなものはお構い無しだ。副キャプテンである俺がアイツらと一緒に戦わないなんて選択肢、万に一つもあるはずがない。
「加賀美君!!待ちなさい!!」
俺は走り出した、後ろから聞こえる声にお構い無しに。申し訳ないが、校長先生では俺の事を止められない。その先にいた他の先生が抑えにくるが、難なくそれも突破し、校門を飛び出した。
脳裏に浮かぶのは最悪の光景。先程のOBの方々のような、ボロボロになって地面に横たわっている皆の姿がどうしても頭から離れてくれない。校舎をあんな有様にするような連中だ、試合中で起こりうるような怪我の範疇を大きく超えたような状況にさせられても何らおかしくはない。
息も絶え絶え、全身が痛むが気合と根性で耐え、悲鳴をあげる脚を容赦なく動かす。脚が縺れて転んだし、勢いを殺しきれなくて壁にぶつかりもした。それを見ていた人に声を掛けられたりもしたが、一切構わず傘美野への道を急ぐ。
「柊弥!」
商店街を抜け、総合病院の前を通った時だった。聞き慣れた声で脚を止めると、そこには修也がいた。そうか、夕香ちゃんの見舞いに来てたんだったな。
「状況は木野からのメールで聞いた!急ぐぞ!」
「ああ!」
その一言でもしかしたら俺にもメールが届いていたかもしれないと考えたが、それを確かめる時間する惜しい。俺達は一言も交わすことなく走り続けた。
「ちッ!!」
「大丈夫か!?」
再び走っている最中に派手に転んだが、すぐさま立ち上がる。修也が心配して声をかけてくれるが、俺がすぐ走り出したのを見てそれに追従してくる。そのまま10分程走った。すると、ようやく目的地が目に入る。閉まっていた校門を飛び越え、グラウンドがあるであろう方向へ急ぐ。
そこで俺と修也の目に飛び込んできたのは、目を疑うような光景だった。
「10-0……だと」
「馬鹿な、一体どういうことだ」
確かに、俺と修也が欠けている状態ではあった。そのうえ一之瀬と土門も木戸川に行っていたため不在だ。だがしかし、ゴールには守がいるし、頭脳を担う鬼道、俺達に負けないパワーを持つ染岡もいたんだ。1点も取れない上、こんな大差で負けているなんてことが有り得るのか?
……いや、分からなくもないか。散々俺は心配していたはずだ、皆の消耗や怪我の具合を。それを考慮すれば、本来のパフォーマンスを発揮出来ないのも十分に納得出来る。
「修也、11点だ」
「ああ。俺達で取り返すぞ」
現在、試合は中断中。理由はおそらく、足を抑えている宍戸と少林。決勝で宍戸は最後までフィールドに立っていたが、やはりダメージは蓄積している。少林に至っては、負傷でベンチに下がっていたんだ。今試合に出ていたというのが無茶なレベルだろう。
「選手交代だ!!」
俺が高らかにそう宣言し、修也と2人でベンチ付近に飛び出す。俺達の存在を認識すると、雷門の皆の顔に光が宿る。
「加賀美、お前は校長に止めろと頼んだはずだ。何故ここに?」
「すみません監督。仲間のピンチに大人しくしているなんて、俺は出来ません」
そう答えると、監督は渋々と言った表情で交代を承認する。負傷した2人はベンチに下がり、応急手当を受ける。
「柊弥先輩、本当に大丈夫なんですか?」
「心配するな。宇宙人だかなんだか知らないが……俺達2人で逆転まで持ってってみせる」
準備をしていると春奈が声を掛けてくる。見るからにボロボロな俺の姿を見ての心配だろう。何度も繰り返しになるが、皆が戦っているのに俺が大人しくしているなんて許されることじゃない。
後ろから心配そうな目線を受けながらも、俺はフィールドの中に脚を踏み入れる。その瞬間ヤツら、エイリア学園の視線が俺に集中する。……確かに、人間離れした見た目をしていたり、不気味な雰囲気を纏っている。そして何より、世宇子の試合とは別のベクトルで悪寒が走る。得体の知れない恐怖……とでも言うべきだろうか。
だが、それに臆する俺ではない。
「皆!ここから11点、絶対取り返してみせる!!勝つぞ!!」
「「「おう!!」」」
11点、自分で言ったことだが、随分と現実離れしているものだ。だが、やるしかない。平気で学校を壊すような異常者達に負けるわけには行かないんだ。これ以上の被害を出さないためにも。
「行くぞ、修也!!」
「ああ!!」
ホイッスルが鳴った瞬間、俺達2人は走り出す。鋭いパス回しでヤツらを掻い潜る……つもりだった。そんな必要はないようだ。ヤツらは様子見といった感じで一切動かない。決勝の最序盤といい、今日は随分と侮られる日だ。
「その余裕、後悔するなよ!!」
俺がボールを蹴り上げ、俺と修也は炎を従えながら同時に飛ぶ。ちょうど中央にボールが来るように飛び上がり、同じタイミング、強さでキックを叩き込む。同時にボールに注がれた炎が互いに互いの勢いを強め、本来の何倍もの威力でゴールへと襲い掛かる。
「「ファイアトルネードDD!!」」
手応えがあった。さっきの試合で撃った同じシュートよりも明らかに強い。そんな感触だ。
だが、そんな感情はすぐさま地に叩き付けられる。
「ふああ……何だぁ?今の貧弱なシュートは」
「な……!?」
ヤツは欠伸をしながら、これでもかというほど退屈そうにシュートを片手でキャッチした。
これは何の悪い冗談だ?俺と修也の最強の連携シュートだぞ?雷門が持つ数ある必殺技の中でも、トップクラスの威力を誇るといっても過言では無い。それをヤツはいとも簡単という言葉すら温く感じる程の余裕で止めて見せた。
「ほら……よ!」
キーパーは軽くボールを投げ上げたと思ったら、気づいたら横を向いていた。いや、単に横を向いたんじゃない。あれは──
「シュートを……撃ったのか!?」
蹴った瞬間が見えないほどの速さのキックだったんだ。それに気付いた時には立っているのも困難なくらいの暴風が全身を叩く。認めたくはないが、俺達のさっきのシュートの何倍もの威力を感じる。ただのノーマルシュートでだ。
風が止まり、巻き上げられた砂塵が落ち着く。すると、その奥にあったのはうつ伏せに倒れている守の姿とゴールラインを割っていたボールの姿だった。
守はすぐさま立ち上がったため、まだ大丈夫だろう。しかしあんなシュートを何本も撃ち込まれたらたまったものではない。アイツが潰れたらこのチームは崩壊する。そうなると、俺が上手くボールキープし続けそのうえで得点するしかない。手段があるとすれば、化身の力だ。あれさえ使えばコイツらにも対抗出来るかもしれない。だが、確実性に欠ける手段だ。あの試合で出せたのは偶然の産物。現にあの時の感覚が今思い出せない。
……出来るか?俺に。これ以上の皆を傷付けさせず、そのうえでこの点差をひっくり返すことが。
「……やれるやれないじゃない、か」
そうだ。やるしかないんだ。出来なければ俺達は負ける。勝つためには弱音なんて吐いてる暇も余裕もない。
こちらからキックオフで試合再開。ボールを受け取った俺はすぐさまゴールへと駆け上がる。ヤツらは再び動かない。ゴール前まで簡単に辿り着けるなら好都合だ。
「はァァァアアア!!」
身体の中に存在する力を呼び起こす。微かに感じるその流れを支配し、少しずつ練り上げ、大きくする。ここまでは必殺技と何ら変わりない。大切なのはここからのプロセス。徐々に身体から溢れてくるこのエネルギーを爆発させ、形として顕現させる。
「来いッ……鳴神ィ!!」
身体から立ちのぼるエネルギーが一気に大きくなる。圧倒的な力が発現したのを背中に感じる。
ほんの一瞬だけ。
「……畜生ッ」
完成直前にその形が崩れ、俺の中に引っ込んでしまったのを感じた。力を増幅させるところまで上手くいっていたはず。何故失敗したんだ?
考えても答えは出てこない。そして試合時間は止まることなく進んでいく。1点だ、とにかく1点取れ。それが今の俺の役割だ。
「〜〜〜ッ、だァァァァアアアッッッ!!」
ボールを踏み抜き、全力で獣のように咆哮する。身体から溢れ出たエネルギーが火花を散らし、雷としてボールに注ぎ込まれる。90%だ。シュートを撃ったあとにギリギリ動けるくらいの力だけ残して全部ボールに注ぎ込んだ。そのパワーは他のどのシュートよりも強大だ。勝る可能性があるとすれば、ファイナルトルネードくらいのもの。
受け取れ、宇宙人共。
「ライトニングッ……ブラスタァァァァッッッ!!!」
万物を焼き尽くす雷の砲撃が放たれる。その瞬間気を失い欠けるが、歯を食いしばって耐えた。視界全体が眩い光に包まれるほどの威力。ヤツとてこのシュートは止められない。止められるはずがない。
「───ふんッ」
キーパーはシュートに対してアームハンマーを叩き込む。必殺技ではない。ただ拳を槌のように振り下ろしただけだ。それだけでボールが従えていたエネルギーは全て霧と消え、ボールは地面に叩きつけられて止まる。
言葉が出なかった。畜生とか、クソがとか、苦言を呈すくらいの余裕はいつもならあるはずだった。だが今はそれすらもない。これが止められては、他に点を取るビジョンが一切浮かんでこないからだ。
「地球人。よく頑張ったようだが所詮その程度だ。我々に対抗することは"大海を手で塞く"に等しいと思え」
キーパーがボールを蹴った方向には、キャプテンマークを腕につけた緑髪の男がいた。そして次の瞬間ボールは消え、腹に鈍い感触が走る。
「がッ……」
視界を落とすと、腹にボールが深々とめり込んでいた。胃液が逆流し、喉の奥で嫌な味がした。堪らずその場に倒れ込むと、突風が吹いた。その直後に得点を告げるホイッスルが響いた。
「加賀美!」
鬼道がこちらに駆け寄ってくる。苦しむ俺を見兼ね、腕を貸して立ち上がらせてくれる。
「今ベンチに連れてってやる!」
「やめろッ、俺はまだ戦える!」
「だがッ!!」
俺をベンチに連れていこうとする鬼道を怒鳴りつけるようにして止める。分かってる。とっくに限界だってことくらい。それでも、俺が真っ先にリタイアすることなんて許されないんだ。俺はこのチームの副キャプテン。どんなにボロ雑巾にされても、最後までフィールドに立つ責務が俺にはある。
「……ッ、次無理をしたら有無を言わさず下げる!良いな!?」
「ありがとよ、鬼道」
鬼道が感情を剥き出しにしてそう忠告してくる。悪いな。お前が心配してくれてるのは重々承知しているさ。
「まだ足掻くか。大人しく引き下がれば良いものを」
「諦めねぇのが俺達の必殺技なんだよ」
「ふん……己の無力を悔いる頃にはもう遅いぞ」
先程の男が不敵な笑みを浮かべながら話しかけてくる。生憎、諦めが悪いことだけが取り柄なんでな。
再びキックオフ。
「がッ!?」
その瞬間、衝撃と共に大きく宙を舞っていた。地面に激突する頃には、他の皆も為す術なく吹き飛ばされ、重い音と共に地に倒れ込む。ヤツらは直ぐにゴールを奪うことをせず、俺達を執拗に痛めつけ始めた。何度も立ち上がり、立ち向かうが俺達の連携も必殺技も何もかもが通用しない。
ヤツらは適当なタイミングでシュートを放ち、軽々と守ごとゴールを揺らす。笛が鳴って俺達はすぐさまねじ伏せられる。立ち上がる度に無力な虫のように叩き潰される。そしてさも当然のようにゴールを奪われる。
もう何度倒れたか分からない。あちこち痛む身体を奮い立たせ、何とか立ち上がる。そこで俺は言葉を失った。
「嘘……だろ」
試合残り時間は残り1分。得点は20-0で無論こちら側が0。そして何より、俺を除いた皆が倒れ、もう立ち上がれない。もう皆限界を大きく超えているんだろう。ただでさえ世宇子戦のダメージがあった。そのうえでここまで嬲られれば立ち上がることなど不可能。
畜生、変な意地を張らず、直ぐに降参すべきだったのか?俺ならその選択肢を提案することだって出来たはず。そうすれば、皆がここまで傷付くことは無かったはず。
今、こんな惨状になっているのは俺の責任だ。
「ち、くしょォォォォォォ!!」
やり場の無い感情に支配され、喉が張り裂けるほどに叫ぶ。喉の奥では胃酸と味と血の味が混じり、この上ないほど不快な何かを醸し出していた。力の限り連中を睨み付ける。ヤツらは揃って余裕の笑みを浮かべるばかり。
このまま、引き下がれるか。
俺は覚束無い足取りでボールに向かって走る。直後、視界が真っ暗になり痛覚が刺激される。顔に叩きつけられたボールが下に落ちると、赤い液体が滴るのが見えた。
「ゲームセットだ、地球人」
ホイッスルが鳴り響く。試合終了を知らせるものだ。
俺達は、負けた。
「約束だ。……この学校を破壊する」
すると、ヤツの手元に黒いサッカーボールが意志を持っているかのように飛んでくる。その瞬間、宙に浮いたそのボールにドス黒く、凄まじいエネルギーが集中する。間違いない。コイツはやる。一切の躊躇なく傘美野中の校舎を破壊する。
そう確信した時には動いていた。ヤツと校舎の間に割って入っていた。
「ほう……まだやるか?」
「お前らの……好きになんてさせるかよ……!」
俺の啖呵を聞き届けた宇宙人は、ニヤリと笑ってそのボールを打ち出した。これはヤバイ。直感でそう理解した。他の皆もそうだったのか、悲鳴混じりに逃げろと声を荒らげる。
音を立てながらシュートが迫ってくる。凄まじい速さでこちらに襲い掛かってきているのだろうが、やたらと遅く感じる。そういえば死ぬ前は時間の流れがゆっくりに感じるって話を聞いたことがあるな。てことは、俺はここで死ぬのか?
そんなのお断りだ。
「……来い」
消えそうな声でそう呟く。その時、全身から影の炎が噴き出した。そしてそれは巨大なシルエットを創り出し、迫る脅威に対して何かを叩きつけた。凄まじい衝撃波がその場全体を叩いた。ボールはそれに阻まれているせいで俺を進路から退けることが出来ない。
そのまま俺はハイキックのようにボールに蹴りを叩き込む。すると、ボールの進行方向は真反対へ変わり、その主の元へと逆再生のように戻って行った。
「馬鹿な!?」
初めてヤツらは驚いた表情を見せた。
「言ったろ……諦めねえのが俺達の必殺技だって」
その一言を聞いたヤツから、何かがキレる音がした。
「ならば、これを止めてみるがいい!!」
ヤツはボールを大きく蹴り上げる。そして落ちてきたそれを破壊しかねないほどの力でシュートを放つ。間違いなく先程のシュートより高威力だ。建物なんて簡単に崩壊させるだろうし、人に撃ち込もうものなら確実に大怪我、或いは殺せるシュートだ。
だが、俺は逃げない。
「が、ァァァァアアアアア!!??」
身体からボキッと嫌な音がなる。そのまま身体は宙を浮き、シュートに引き摺られていくように奥へと押し込まれていく。全身に激痛が耐えず走る。何かが折れたような音が何度も身体の中で響き、中身を揺さぶられるような感じがする。
ただ痛みに身体を委ねるしかない中、今度は背中に凄まじい衝撃が走る。どうやら、建物に打ち付けられたようだ。壁にヒビを入れ、ボールと壁に挟まれた俺の身体はようやく止まった。
口の中は鉄の味一色。不快感を吐き出すと赤い液体がビシャリと地面にこびりついた。そして間もなく、額の辺りから何かが滴り始めて視界を真っ赤に染めた。
耳を劈くような悲鳴が聞こえた。誰かが俺の名前を呼んだ。けれど俺はそれに答えることが出来ず、とうとう意識を手放した。
新章始まって早々に死にかける主人公