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「待ってくださいよ監督、修也にチームを抜けろって……意味が分かりません!」
「もしかして、さっきの試合でミスったからでやんスか……?」
柊弥は完全に頭に血が上っていた。
突きつけられた事実は柊弥にとってあまりに残酷で、認めたくない……いや、認めてはならないものだった。
今にも掴みかかりそうな勢いで瞳子に迫る柊弥。今まで見せたことがないほどに感情的になっている柊弥に対し、円堂や鬼道は勿論、話の中心である豪炎寺ですらも驚きを感じていた。
「ミス……?1試合の中でのミスなんかで、修也を追い出そうって言うんですか!?」
「そうです監督!豪炎寺はきっと調子が悪かっただけです!」
必死の訴えに風丸が続き、その他の者達も次々に同調する。
それでも瞳子の表情は揺るがない。
「私の使命は地上最強のサッカーチームを作ること。そのチームに豪炎寺君は必要ない。それだけよ」
「そんな筈ありません!修也は雷門のエースストライカー、何度も俺達を勝利に導いてきました!次の試合ではきっと……きっといつも通り点を決めてくれます!そうだろ、修也!!」
豪炎寺の肩を揺さぶり訴えかける柊弥。
しかし当の豪炎寺はというと、何か言いたそうにしているものの目を瞑り俯いたまま柊弥の問いかけに対して答えることは無い。
「今まではそうだったかもしれない。けれど、今の豪炎寺君にそれが出来るかしら?」
「だから、さっきのは調子が悪かっただけだって───」
「いいえ違うわ。豪炎寺君からはエイリアを倒そうという意思が感じられない。打倒エイリアの邪魔になるだけよ」
何とか発言を撤回させようと言葉を止めないように舌を回す柊弥だったが、そのどれもが瞳子を納得させるには程遠いものであり、どれだけ言葉を並べようが全て一言で切り捨てられる。
他のメンバーはそれを黙って眺めるだけになってしまった。
自分達も柊弥に続かねば、そう思っていても、2人が繰り広げる舌戦の間に割って入れる自信は誰にもなかったようだ。
「もう一度言うわ。豪炎寺君にはこのチームを離れてもらいます」
「───アンタに、修也の何が分かるッ!?」
ついに年長に対する一切の敬意を放り捨てた。その激昂に驚いた鳥達が一斉に木々から飛び立つ。
怒りの篭った目で睨みつける柊弥。その度合いは強く握られ過ぎた拳から流れる血が全てを物語っている。
今まで怒りという感情をここまで表に出したことがなかった柊弥に誰もが驚きを隠せない。
「……最初のエイリアとの試合で半田、マックス、影野、少林、宍戸が怪我でチームを抜けた」
ポツリと柊弥が呟くように口を開く。
「そして、今度は修也?しかも必要ないから?認めるか、認めてられるかッ!!俺らは地上最強を目指す前に雷門イレブンなんだッ!!」
そして再び声を荒らげる。
その言葉には、これ以上仲間を失いたくないという想いがこれでもかと込められていた。
いや、それだけではない。豪炎寺という男は柊弥にとって、幼い頃から同じ夢を見ていた円堂に並ぶほどの存在。仲間を重んじる柊弥の中でも、豪炎寺は特別だった。
その一言は少なくとも瞳子を除く全員の胸は揺さぶれた。
志半ばに去っていった仲間達のことを今一度思い出させ、更には豪炎寺もその道を辿ろうとしていることに誰もが思うところがないはずはなかった。
しかしそれでも、瞳子には届かなかった。
こう吐き捨てた後、身を翻してどこかへと歩いて行ってしまう。
「準備が出来たら去りなさい。以上よ」
「──このッ」
その一言で完全にキレた柊弥が拳を振りかぶる。
背を向けて歩いている瞳子を捉えることは難しいことではない。
しかし、それが為されることはなかった。
振り上げられた拳を止めていたのは、他でもない豪炎寺だった。
拳に滴る柊弥の血が付着しようと、そんなことは気にせずにその拳を力強く受け止める。
全ては、親友であり相棒の手を汚させないため。
「……ダメだ、柊弥」
「修也……でもッ」
「良いんだ」
そう言って豪炎寺は柊弥から手を離し、優しい笑みを浮かべたと思ったらキャラバンに背を向けた。
その後彼が取る行動を、全員が嫌でも察してしまう。
「──修也ッ!!」
そしてその場から去っていく豪炎寺。
誰もが呆然とその背中を見つめるしかない中、柊弥はそれを追いかけて走った。
ーーー
俺は息を切らしながら修也の背中を追い掛けた。ジェミニとの試合で無理をしたせいか、足元が覚束無い。
それでも必死に、必死に追い掛ける。
「あぐッ」
足が縺れて派手に転ぶ。その際に少し良くない角度で入ってしまったせいか、立ち上がる際に少し足が痛む。
けどそんなのお構い無しに立ち上がる。足を引きずりながらも、転んだ時に距離が空いた修也を追い掛ける。
森を抜け、先程の公園に出たところで立ち止まる修也の姿が目に入った。
息を吸い込んで、力の限り叫ぶ。
「──修也ァァァ!!」
修也は振り返らない。
「何で、何で行っちまうんだよ!?あの人が監督だからって無条件に従う必要なんてないだろ!!」
修也はこちらを見ない。
「そうだ、今から引き返して皆で直談判しよう!きっと皆協力してくれる、さっきあんな態度とったけど監督だってきっと分かってくれる!!」
修也は、口を開かない。
「だから……行くなよ……」
目元からボロボロと涙が零れ落ち始めた。
カッコ悪いし情けない。こんな姿誰にも見せちゃいけないはずなんだ。
それなのに、そう分かっているのに涙は止まらない。
涙と同時に修也と過ごした記憶が溢れ出てくる。
時間にすればたかが数ヶ月かもしれない。けれど、俺とコイツ、そして雷門の皆でのその時間は、既にどうしようもないくらいかけがえのないものだ。
だからこそ俺はコイツをこのまま行かせたくない。
来たばかりの監督の決定に従って、大人しく見送るなんてことは絶対に出来ない。
どれだけカッコ悪くてもいい。何としてでも引き止めてやる。
「……」
「なあ、覚えてるか?お前が初めて俺達とサッカーをした時のこと」
そう、帝国との初めての練習試合だ。
廃部がかかってる試合だったから、必死に足りない部員をかき集めたよな。その過程でも修也に声を掛けたけど、最初は軽くあしらわれて。
「お前が10番のユニフォームを来てコートに入ってきた時、俺すっげえ感動したんだよ。いや、俺だけじゃない。皆そうさ、お前の凄いシュートに圧倒されたんだ」
「……」
「それからさ、予選大会決勝での帝国との再戦。鬼道と春奈のことでクヨクヨしてたのを助けてくれたのはお前だった。シュート撃ち込まれた時は驚いたけどさ、感謝してるんだぜ?あれのおかげで鬼道と……帝国と真正面から向き合えた」
コイツには本当に助けられてばかりだよな。
そうそう、それに……
「俺達の最強の必殺シュート、ファイアトルネードDD。帝国も世宇子も、大切な試合はこのシュートで勝ちを引き寄せたんだよな。さっきの試合では不発だったけどさ、俺あのシュート大好きなんだよ。俺達2人の絆の証って感じでさ……」
片っ端から頭に浮かんだ言葉を、口上を並べる。
修也について思うことなんてキリがないんだよ。それだけ俺とコイツは濃い時間過ごしてきてるからな。
……そう思ってたのは俺だけなのか?頼むから、こっち向いてくれよ、修也。
「……本当に、行っちまうのかよ」
「……すまない」
ようやく開かれた修也の口から聞こえたのは謝罪だった。
「何でいなくなるかは、教えてくれないのか」
「……俺じゃ力不足だからだ」
「そんなわけない。お前は、このチームのエースストライカーなんだぞ?」
お前で力不足なら、俺も力不足だろうが。
なんで、そんな簡単に諦めるんだよ?
「……何度でも言うぞ、行くな。戻ってこい」
「……ッ」
すると突然、修也がカバンを漁りながらこちらへ近付いてくる。
取り出したのは、10番の、修也のユニフォームだった。それを俺の胸に押し付けてくる。
「あの日、このユニフォームを着てから俺は雷門イレブンになった」
あの日、とはさっきも話した帝国との練習試合ではなく正式にサッカー部に入ることを決めた時だろう。確か尾刈斗との試合の前だったっけ。
「お前らが託してくれたエースストライカー。それに恥じないよう俺は今日まで戦ってきた」
「今も恥じることなんかねぇよ、だから──」
「今の俺に、この番号を背負う資格はない」
何でだよ。何を根拠にそんなこと言うんだよ。
お前を以外にこのチームのエースストライカーが務まるはずないだろうが、お前だから皆このユニフォームを任せられるんだよ。
「だから、これはお前が預かっててくれ」
「……嫌だ。お前がこのチームでこれを着ろ」
「頼む。お前にならこのユニフォームを任せられるんだ」
絶対に嫌だ。俺がそれに了承してしまったら、修也を追い出すようなものだ。
そんなこと、絶対に認めない。
「俺は、いつか必ずこのユニフォームを着る」
「……」
「約束する。また10番を背負うに相応しいストライカーになってから、絶対に戻ってくる」
「……もう、腹は決まってるんだな」
力強く頷く修也。
コイツはやるといったことは必ずやり遂げる男。戻ってくると宣言した以上、必ずこのチームに帰ってくるだろう。
そしてここまで真剣な眼差しは、よくコイツが試合で見せるもの。
この発言は至って真面目、これまで通り必ずやってみせるという宣言とも取れる。
……はあ、結局こうなるのかよ。クソッ。
俺は、差し出されたユニフォームに手に取る。
「俺が預かってやる。だから必ず取りに戻ってこい」
「ああ。約束だ」
「絶対守れよ。もし破ったらお前に轟一閃ぶち込むからな」
そんな冗談を突きつけてやると、時折見せる穏やかな微笑みを浮かべ、それを最後に再び俺に背を向け、歩き出す。
静寂の中、再び俺達の距離は開いていく。
修也は振り向かない。そして俺も、もうそれを引き止めない。
「……またな、相棒」
去りゆく背中に1人呟く。
それっきり、俺達が言葉を交わすことはなかった。
夕日に向かって消えていく修也。そして俺はその背中が見えなくなるまでずっとそこで眺めていた。
分かれた道はきっと別のどこかでまた繋がり合う。
だからそれまでは……お別れだ。
太陽が完全に沈んだ頃、涙など既に引っ込んでいた。
最初はこの話とプラスで北海道出発まで描きたかったんですが、試合でもないのに1万文字を越しそうだったため分割
分割した方も明日投稿します