リメイク前を書き始めたのはまたそれより前なので厳密には違うかもしれませんが、1つの節目って感じがしますね。
最初は思いつきで書き始めた当作も多くの方に読んでいただき、作者としては感激の一言に尽きます。
時には日間上位に載ってUAがありえない伸びを見せたり、またある時にはコラボのお誘いをいただいたり...本当に色々なことがありました。
まだまだこの小説は続きますので、ぜひお付き合い下さいませ。
「うううう、寒いっす・・・」
「北海道、流石の寒さだな」
俺達はイナズマキャラバンに長時間揺られ、ここ北海道へとやってきた。
窓の外の景色が白くなり始めたと同時に気温が一気に下がり、皆こうして震えている。
キャラバンに暖房はもちろん搭載されているが、燃料節約的なアレで監督からストップが掛かってしまった。シンプルに凍え死にそうなんだが…
改めて外を見ると、まあ北海道って感じの雪だ。場所によっては俺の背丈くらいの高さまで積もっている。
この雪を一気にシュートで除雪出来るようになったりしたら、もしかしてかなりレベルアップできたりして。
「柊弥先輩、寒いので抱きついても良いですか?」
「ダメだと思うな」
「えー」
ナチュラルにとんでもないことを春奈が提案してきた。そんな通路を挟んで隣に座っているドレッドヘアーに殺されそうなことさせる訳にはいかない。宇宙人と戦う前に凍え死ぬのも仲間に殺されるのも勘弁だ。
しかし、女子に取ってこの寒さがキツいというのは事実。
「これで我慢してくれ」
「暖かい・・・けど、これじゃ柊弥先輩が」
「気にするな。暑いのは嫌いだが寒さには慣れているんだ」
上のジャージを脱ぎ、春奈の肩に掛ける。
中には1枚のシャツしか着ていないが、耐えられないほどではないな。呼吸を意識して血の流れを早くすれば体温も上がってくるってどこかで聞いたし、試してみるか。
「それとも、まだ寒──ィッ!?」
「うわわっ!?」
その時、キャラバンに急ブレーキが掛かりその勢いで前の座席に顔面を思い切りぶつける。
俺の前に座っていた守はきっと急に背中から衝撃が伝わってきたことだろう。許せ。
というか痛い。かなりの勢いでぶつかったから痣になりそうだ。鼻血が噴き出していないのは不幸中の幸いかもしれない。
「古株さん?どうしたんですか?」
「あんなところに人がいるんじゃよ」
古株さんが指さした方向を見ると、地蔵の隣にジャージに身を包んだ少年がガタガタと震えていた。
この寒さの中何やってるんだ?このままあそこに立たせ続けたら多分死ぬよな、アイツ。
とりあえずキャラバンに乗せた方が良い気がする。
「瞳子監督、1回彼を保護した方が良いんじゃ…」
「そうね。ここで見捨てて凍死なんてされても困るわ」
「よし!俺行ってくる!」
監督にそう進言すると、やはり同じことを考えていたようで即座に頷く。
それを聞いた守は我先にと席を立ち上がり、雪が激しく吹き付ける外へと飛び出して行った。
入ってきた少年は俺達と同じくらいの年齢層だろう。
面白いくらいにガタガタ震えているが、よく見るとかなりの美形だ。雷門に来れば風丸くらいにモテそうな気がする。
「何であんなところにいたんだ?下手すれば凍死してたぞ」
「あそこは僕にとって特別な場所なんだ。北ヶ峰って言ってね」
「北ヶ峰?確か雪崩が多い地域じゃったよな」
あの雪の量だったら納得だ。
そんなところに突っ立ってたとなると、尚更危なかっただろう。表情から察するにその事をちゃんとわかった上での行動だったようだし、何か事情でもあるのだろうか。
「ところで、どこまで送っていけばいいんだ?」
「蹴りあげられたボールのように、ひたすら真っ直ぐ…かな」
「いいなその例え!サッカーやってるの?」
「うん!大好きさ」
続けざまに行き先を訊ねられると、そんな小洒落た返し方をする。
答え方で分かるように、彼もサッカーをやっているらしい。もしかすると、例の吹雪のことを知っているかもしれない。
ここはひとつ聞いてみるか。
「なあ、おま──ェィッ!?」
「柊弥先輩!?」
口を開こうとした瞬間、再びキャラバンを襲った衝撃に身体を持っていかれて前方の席に顔面から突っ込んだ。
2度の衝突に俺の鼻は耐えられなかったようで、とうとう鼻血が噴き出した。
どうやら、タイヤが雪に持ってかれたみたいだ。この雪の量だからな、もしかしたらとは思っていたが、何も俺が話そうとした瞬間に起こらなくてもいいだろう。
「ちょっと見てくるわい」
「ダメだよ、山オヤジが来るよ」
「山オヤジ?」
春奈からティッシュを貰って上向けになって鼻を抑えていると、少年が聞きなれない単語を口にする。
「ヒイィィッ!?」
「どうした目金!?って何だ!?」
「地震!?」
「いや…外に何かいるぞ!」
誰かが口にしたように地震を疑うような揺れがキャラバンを襲う。
そして揺れ始めたと同時くらいに、外から獣の唸り声のようなものが聞こえてくる。
まさか…山オヤジって。
「デカい熊のことかよ!?」
「熊ァ!?」
「って、アイツがいないぞ!?」
熊の出現、そして少年の行方不明。ついでに俺の鼻血。色々なことが同時に起きすぎだ、一体どうなってる!?
状況を呑み込めず混沌とするキャラバンの中だったが、ここで一際大きな衝撃がキャラバンを襲い、大きな音が外から響いてくる。
熊はどうなった?
「…どうなってるんだ」
窓越しに外を覗く。
すると、揺れの正体であろう、おそらくキャラバンよりも大きな熊が雪の上に突っ伏している。
そして外からサッカーボールを持った少年が戻ってきた。
「もう出発して大丈夫ですよ」
「・・・まさか、な?」
「流石にないでやんスよ」
守や栗松が苦笑いしながらそう頷き合うが、状況的にコイツが何かやったとしか思えない。
あの巨体を誇る熊をサッカーボール1つで撃退なんてにわかには信じられない。
それこそ、修也のようなシュートを撃てるストライカーでなければ…いや、修也でも流石にあの熊は厳しいか?
「・・・なあ春奈」
「はい、何でしょう」
「さりげなく抱きついてるのは何故でしょうか」
「怖かったので!」
「・・・そうですか」
あんな状況で頼られるのは満更でもないが、ストレートに抱き着かれると色々マズイ気がする。
特に女子陣からのニヤニヤとした視線と、鬼いさん、もとい鬼道からの殺意混じりの視線。前者は他人事と思って楽しんでるし、後者は自分事のようにキレてる。いや、キレてるとはまた違うんだろうが・・・それを向けられた側からすると大して変わらない。
そんなことは他所にキャラバンは再び走り出す。
10分程進んだ後、例の少年がここで良いと言ったのでここで降ろすことになった。
「本当にここで良いのか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね」
周りを見た限り、雪が積もってるばかりで建物の類はほとんど見えない。本人の意思ということでここで降ろすことになったが、本当に大丈夫だろうか。また道端で凍えられたりしたら笑い話になるだろうな。
「そうだ。君、ちょっといいかい?」
「どうした?」
「…大切にね」
「何が!?」
降りる前に俺に話しかけてきたと思ったら、そんなことを言い残して行った。
大切に?散々虐められた鼻のことか?それを聞き直す前にヤツはキャラバンを降りて行った。
そういえば名前すら聞いてなかったな・・・まあいいか。
そして再びキャラバンは走り出した。目的地は再び吹雪 士郎がいる白恋中。
ーーー
豪炎寺君がいなくなってから、チームの雰囲気がどこか変わってしまった。
円堂君や鬼道君は、瞳子監督を実力ある指導者として認めているし、一之瀬君や土門君も監督の立場を理解している。
だけど、壁山君や栗松君、何より染岡君は監督の行動に疑問を持っているみたい。
こればっかりは仕方の無いことなのかな。
1年生の皆にとって豪炎寺君はエースでありヒーローみたいな存在だっただろうし、染岡君にとっては同じストライカーとしてのライバルでもあり、憧れでもあり、何よりかけがえのない友達だったと思う。
けれど、そんな皆の中でも私や夏未さんが一際心配していたのは加賀美君。
豪炎寺君が離脱させられることに目立って反発していたし、豪炎寺君との絆が1番深いことは私達だけじゃなく、チームのみんながよく分かっている。その上、仲間を大切にする加賀美君だからこそ、今回のことが大きく影響しているんじゃないかって、そう思った。
チームの中でも比較的大人な加賀美君だからかもしれないけど、今は監督の言うことに大人しく従ってはいる。けど、そんな彼だからこそいつ崩れてしまうかが心配だし怖い。
だからこそ、私達は昨日のテントの中で音無さんに加賀美君のサポートをお願いした。
あわよくばくっついてしまえ、なんて邪な発想もあるけれど、本質はそういうこと。
「ねえ夏未さん」
「どうしたの?」
「皆大丈夫かな?私ちょっと不安になってきて」
隣で目を閉じていた夏未さんに小声で話し掛ける。
「大丈夫よ。彼らは強いわ。秋さんだって見てきたでしょう?どんな困難でも、彼らは乗り越えてきたわ。マネージャーである私達がそれを信じてあげなくて、誰が信じてあげられるのかしら?」
「・・・そうだね」
優しい微笑みと共に夏未さんはそう返してくる。
そうだよね。私が皆を信じてあげなきゃダメだよね。
マネージャーとして、これからも支えてあげなくちゃ。
「おお見えてきたぞ!あれが白恋中じゃ!」
ーーー
「んーっ、着いたーッ!!」
「まさに雪原に聳える、と言った感じだな」
白恋中正門前で降ろしてもらい、雪原の台地を踏み締める。ずっと座っていたからこうしていると身体が伸びていくのが明確に分かる。
監督は一足早く降りて校舎の中に行き、関係者と話を付けてきたようだ。
許可が降りた俺達は寒いので足早に中へと入る。壁山なんかは顔真っ青にして震えているからな。
「すごーい!本物の雷門中だ!」
「握手して!」
「凄い歓迎ぶりだな」
「俺達はFFの優勝校だからな。それなりに有名ではあるんだろう」
白恋中のサッカー部の人達が熱い歓迎をしてくれる。
鬼道が言った通り、数日前に全国大会で優勝しているわけだしサッカーをやっている人にとっては一定の知名度はあるんだろう。
互いに身の上話をしたところで、本題を切り出す。
「そうだ、吹雪 士郎ってやつは何処に?」
「吹雪君?吹雪君なら今頃スキーじゃないかな、今年はジャンプで100m目指すって言ってたよ」
「いや、きっとスケートだよ」
聞いた感じ、吹雪は随分多才なようだ。ウィンタースポーツは大体プロレベルらしい。
噂の凄いシュートというのは、そういった別のスポーツでの技術も応用した上でのものなのかもしれないな。
「あ、帰ってきたんじゃない?」
1人がそんな声を上げると、小柄な女子が廊下を覗く。
「吹雪君だ!早く早く!お客さんだよ」
「お客さん?」
「!?」
「この声って」
俺達は揃って驚いた。
なぜなら、教室の外から聞こえたその声が先程聞いた声と同じだったから。
「あれ、君達!さっきぶりだね」
「お前が熊殺しか!?」
「実物を見てガッカリさせちゃったかな?大体僕の噂を聞いてきた人は大男かなんかだと錯覚してるみたいで」
いや、俺もそう思っていた。
少なくとも、修也を含めた雷門のストライカー陣よりはガッシリとしている男なんだろうなと思い込んでいたが、実際は真逆。俺達よりほっそりとしているかもしれない。
だとしたら、さっきの山オヤジとかいう熊をやったのも本当なのか?
「これが本当の吹雪士郎なんだ。よろしく」
「・・・くッ!」
「染岡?」
染岡は唐突に教室を飛び出して行ってしまった。
修也と重ね合わせて幻滅した、とかそんなところか。あれは少しカバーしとかないと後々マズイかもしれないな。
「ちょっと行ってくる」
そう言って俺も染岡の後を追う。
校舎の外に出ると、真新しい足跡が続いていたため追跡は簡単だった。
丘のようになっているところに染岡は1人立っていた。
「染岡」
「加賀美か・・・」
「お前の考えていることは大体分かる。修也のことだろ」
そう指摘すると、染岡は傍にあった木に拳を叩き付ける。
振り積もった雪が音を立てて落ち、周囲の積雪を僅かに巻き上げる。
「分かってる。アイツを嫌うのは筋違いだってことぐらい。けど、前も言ったろ?アイツを・・・吹雪 士郎を認めたら、豪炎寺の居場所が無くなっちまう!雷門のエースストライカーは豪炎寺しかいないんだ!」
染岡の悲痛な叫びが木霊する。
修也がチームを抜けた直後、山での自主練の時に染岡の考えは聞いていた。
俺は受け入れるしかないだろって諭したが、まあコイツの性格上簡単に受け入れることは難しいだろうな。
何回も言うが、俺だって修也の代わりなんて認めない。
だから俺は吹雪を修也に代わるストライカーとしては見ない。あくまで新たな1人のストライカーとだけ考える。
雷門のエースは俺でも染岡でも吹雪でもない、修也ただ1人だ。
「そんなこと皆分かってるさ。だから今はアイツの実力を見定めてやろう。俺達に着いてこれるくらいどうか、な」
「・・・ああ、分かったよ」
染岡のことだ、俺の顔を立てるために頷いたけど納得はしていないだろうな。まあそれで良いさ。
その都度俺がカバーしてやればいい。俺は副キャプテンだからな。
2人で皆の元へ戻っていくと、吹雪に俺達の目的を説明するために少々自由時間を取るらしい。
皆はその間グラウンドで雪遊びでもするらしいが、俺は瞳子監督にその場に同席するように頼まれた。
俺だけじゃなく、春奈に守、白恋イレブンの子も1人交えた上でだ。
話は一瞬で作られたかまくらの中ですることになった。流石に雪国の中学生、お手の物だな。
「さて、お話ってなんですか?」
「私達はエイリア学園を倒すため、最強のサッカーチームを作っているの。音無さん」
声をかけられた春奈はパソコンでエイリアの被害を受けた学校を映し出す。その中には俺達の雷門中も。
流石に大々的にニュースでも報道されている内容なだけあって知っているらしい。
「でも、うちは大丈夫だよ。最近やっとサッカー部としての活動が出来るようになったんだ。エイリア学園も狙ってこないさ」
「白恋中だけの問題ではないわ。これ以上エイリア学園の好きにさせる訳にはいかないの」
「そうだ!俺達はエイリア学園を倒して、この悲劇を終わらせたいんだ!なあ柊弥!」
「ああ。ヤツらを見過ごす訳には行かない」
校舎の破壊も、怪我人もこれ以上増やさせない。一刻も早く俺達はエイリア学園を倒す。
そしてそのために吹雪の力が必要となるか、俺は今ここで見定めてみたい。
「お前が噂通りのストライカーかどうか、俺達に見せてくれないか」
「良いよ。練習試合、ってことかな?」
「そうね。白恋の監督さんにも話はしてあるわ」
そうして、俺達と白恋とで練習試合をすることが決まった。
外で遊んでいる皆は雪合戦やらなんやらで身体が暖まっていたようで、意気揚々と試合の準備に入る。
俺や守はそうでもないので少し2人でウォーミングアップすることにした。
「轟一閃"改"ッ!!」
「ゴッドハンド!・・・わっ!?」
1本勝負として放った全力の轟一閃。
以前は守のゴッドハンドを破れなかったが、今回は簡単にその手を打ち砕くことが出来た。
間違いない。あの必殺技の特訓のおかげで俺個人としての能力が以前より上昇している。しかも俺の想定を大きく超える形で。
そんな必殺技が完成すれば、エイリアから点を奪うことも難しくないはず。今はまだ完成には程遠いが。
「気合入ってるな、柊弥!」
「ああ。アイツがいない分、俺が点を取ってやる」
「頼んだぜ!副キャプテン!」
ふと白恋のベンチの方を見てみる。
すると、キャプテンマークを身につけた吹雪がチームメンバーを鼓舞しているところだった。
先程少し話して感じた吹雪の印象だが、どうも掴みどころがないと言ったところだ。
修也や染岡のようなストライカーとしての圧を感じるわけでもなければ、守のようなキャプテンとしての熱もそこまで感じない。
だが、チームメンバーが吹雪に向ける信頼の目線からやはり只者ではないと伺える。
さて実力を見せてもらおうか、と思いポジションに着いた。
そこで俺達は有り得ないものを見てしまった。
「吹雪が…DF!?」
「おい、どうなってんだよ・・・?」
センターライン付近に構えるヤツら曰く、吹雪は確かにFWだが今は違う、とのことだ。
考えられる可能性は、試合の途中でのポジションチェンジ。吹雪はFWでありDFもこなすハイブリッドな選手なのかもしれない。
何はともあれ、実際にアイツのプレーを見てみないことには始まらない。
「やってやるか」
改めて吹雪 士郎。お前がどれだけ凄い選手か…俺達に見せてみろ。
次回、VS白恋中
今後ともよろしくお願いします