しばらく期間が空いていたにも関わらず評価数が40人を超えたり、UAがじわじわ伸びていたりありがたい限りです。
もう少ししたら落ち着くと思うのでご勘弁を・・・
「クソッ、とことん意味が分からねぇ」
「確かにな」
やや冷静さを欠いている染岡を少し制しながらも頷く。
アイツは熊殺しだのブリザードだの、いかにもな異名をぶら下げた凄いストライカーだったはず。
さっき他のヤツがいっていた"今は"というのも引っかかるところだ。
だがまあ、とりあえずやるしかないだろう。
「さあ皆!気合い入れていこうぜ!」
古株さんによって試合開始のホイッスルが高らかと鳴らされる。
俺は染岡にファーストパスを送ったのだが、その瞬間染岡は鬼気迫る勢いで白恋エリアへ単身攻め込んで行った。
あの野郎、完全に頭に血が上ってやがる。あれだけ落ち着けって言ったのに……全く仕方ない。
「染岡!一旦こっちに回せ!」
「ふざけやがって……どけェ!!」
目標はあくまで吹雪のみ。その前に立ちはだかる他の選手を強引に押し退けて進んで行く染岡。
プレイが荒すぎる、あんなんじゃいつかファール取られるぞ。
「その強引なプレイ……嫌いじゃないよ」
すると吹雪は迎え撃つかのように駆け出す。その姿はさながらスケート選手のようで、空中で何回転かして着地するとそこから氷が顔を出し、染岡の全身を凍りつかせてしまった。
打ち上げられたボールを鮮やかに胸で受け止める吹雪。成程、ディフェンスも一級品だ。
「北見!」
「甘い!」
吹雪が北見と呼ばれる選手にパスを出すが、風丸がその間に割り込んでカットする。そのボールを俺に渡すよう頼もうとしたのだが、それより早く染岡にパスを渡してしまった。
吹雪がキーパーの前に立ちはだかったことにより、再び染岡と吹雪のタイマンが始まる。
「止められるもんなら止めてみやがれ!!」
すると染岡は大きく脚を振りかぶる。アイツ、一切の躊躇なく至近距離から吹雪に向かって撃つつもりか!
「染岡!!よせ!!」
「ドラゴン……クラッシュ!!」
蒼色のドラゴンが咆哮と共にゴール……いや、吹雪の元へと飛んでいく。
それに対して吹雪は何もしない。ただシュートを真っ直ぐ見据えてそこに立ち尽くしているだけ。
早く避けなければドラゴンに呑み込まれておしまいだ。それにも関わらず、吹雪本人は勿論他の誰も心配する素振りを見せない。
距離にしておよそ5メートル。そこでようやく吹雪が行動を起こす。
その場でくるりと身を翻し、その勢いのままドラゴンクラッシュに対して真正面から蹴り込む。
なんと、それでドラゴンクラッシュの勢いは完全に殺されてしまった。ただの回転を乗せたキックでだ。
あれはテクニックどうこう以上に、基礎のフィジカルが化け物級だ。少なくとも俺だったら技無しであのシュートを殺しきれない。
「くッ……おおおおおおらァァァァ!!」
染岡は完全にキレている。ボールをキープしたまま動かない吹雪に凄まじい勢いでスライディングを仕掛けた。アイツは後で説教だ。
が、ここまで来ると何となく吹雪の心配をする必要がないように思えてきた。
俺には分かる。アイツはまだまだ底が見えない。
「出番だよ」
吹雪が何かを呟いた直後、暴風が雪を巻き込みながらグラウンドに吹き荒れる。染岡はそれに巻き込まれて大きく吹き飛ばされた。
何かが起こる。
「ハッ!どんだけのもんかと期待したが・・・口ほどにもねぇな!」
「んだとォ!?」
雪を伴った風に巻かれた吹雪から感じる気配はまさに"異質"。
先程までのどこかなよなよした様子とは正反対、言うなれば獣のような荒々しさを感じる。
「覚えておけ・・・俺が白恋のエースストライカー、吹雪 士郎だッ!!」
直後、吹雪が走り始める。圧倒的すぎるスピード、皆目で追うのがやっとと言ったところだ。
だが、ここで何も出来ずに突っ立ってるだけの俺じゃない。
「負けるかよ!!」
「へっ、他よりマシだがまだまだ遅せェよ!!」
真正面から吹雪にプレスを掛けにいく。最大限までスピードを乗せた重いタックルを仕掛けたが、吹雪はものともせずぶつかり返してくる。
コイツ、どこからこんな力が湧いてきやがる?まるで熊でも相手してるみたいな感触だ。ビクともしないどころか仕掛けたはずの俺が押し負けそうだ。
こうなれば方針変更だ。1度大きいのを仕掛けて重心が揺らぎ、立て直される前に吹雪の前へと躍り出る。
そして吹雪が支配するボールへと思い切り蹴り込む。
「そのボール置いてけェェェ!!」
「力比べかァ!?いいぜ、受けてたってやるよォォォ!!」
すると、吹雪もそのまま蹴り入れてきた。
パワーは完全に拮抗している。俺も吹雪もどちらも押し負けることなく絶えず力を加え続けており進展がない。
俺からは雷が、吹雪からは冷気がそれぞれ噴き出す。それらは足を伝いボールにも注がれていく。
「チィッ!!」
「はんッ、中々やるじゃねぇか!」
際限なく注がれたエネルギーが暴走し、小規模の爆発を伴いながら空中へと飛び上がる。
チャンスだ、吹雪よりも早くボールを手に入れる。
そう思い跳んだ矢先だった。俺より遥か高くにヤツがいたのは。
「そんなハエの止まりそうな速さで、この俺に勝てるかよ!」
「──クソがッ」
捨て台詞を吐き捨てながらも、口端がつり上がっているのが分かってしまった。
ここまで圧倒されてはむしろ気持ちの良いものがある。因縁も何も無いサッカーが久しぶりで単純に楽しいというのもあるが。
着地して吹雪の後を追いかけようとした時には既に遅かった。
鬼道に一之瀬、土門の包囲網を正面から突破して吹雪は既にゴール前へとたどり着いていた。
「吹き荒れろ」
吹雪がボールを両足で挟み、跳躍と共に冷たい空気がボールへと集中していく。そのエネルギーの膨大さからボールは氷塊と化す。
渦巻くように風と雪が吹雪を中心に吹き荒れる。その様は正しく"ブリザード"
「エターナル・・・ブリザードッ!!」
数度回転と共に勢いをつけ、その氷塊へと蹴りを叩き込む。
解き放たれたエネルギーが強大すぎることを示すかのように音をたてながらゴールへと迫る。
間違いない、あのシュートはエイリアを含めた誰よりも強力だ。離れているはずのここまでそのパワーが伝わってくる。
「ゴッド──」
為す術なし、だった。
エターナルブリザードと称されたあのシュートはパワーだけでなくスピードも超一級品。守が迎撃しようとしたその時には既に目前へと迫り、急ぎ突き出した拳をものともせずゴールをこじ開けた。
凍りついたゴールがシュートの威力を物語っている。
「スーパーディフェンスに素晴らしいシュート。期待以上だな」
「ああ。悔しいが俺や染岡、修也よりも圧倒的に上だ。とんでもないヤツがいたもんだな」
そんな総評を述べる鬼道に対して頷く。
確かにアイツは凄い。正直あんな仲間がいたら負けないだろうなって安心できる。
けどな、いくら吹雪が凄い選手だったとて俺も負けっぱなしなつもりは無い。それが一選手としての矜恃というもの。
こうも熱を煽られては大人しくしていられない。完成には程遠いが"アレ"を試してみるか。
「そこまで!試合終了よ!」
瞳子監督の声がベンチから響いた。
こんな中途半端なところで終わるのか?まあ、目的は吹雪の力を確かめることだから既に済んではいるが・・・なんというか、生殺しだ。
「ふざけんな!やられっぱなしで終われるかよッ!」
「おい染岡!待て!」
なん考えていたら、染岡が勝手に吹雪の方へとドリブルで向かっていった。あの野郎、この頃無鉄砲が過ぎる。控えることを覚えてもらわないと色々と面倒なことになりかねない。
「やる気か?来いよ!」
「俺は、負ける訳にはいかねぇんだよ!!」
今度は宙に浮いたボールに対して吹雪と染岡が同時に蹴り込んだ。が、特に競り合うことも無く吹雪が染岡を押し退けてしまった。
「はッ、この程度かよ?さっきのアイツの方が幾分マシだったぜ?」
「──ッ!!野郎ッ!!」
憤慨する染岡。それを他所に吹雪はボールを俺の方に蹴ってきた。
「おいお前!今度はお前が撃ってみろ!まだまだ底見せてねェだろ!?」
吹雪が挑発気味に声を上げる。
監督からの指示は試合終了だが、やはりどうも熱が冷めきらない部分がある。それにここまでお膳立てされて引いたら、ストライカーの名が廃る。
少しの葛藤に苛まれているうちにボールが胸で止まる。視線の先の吹雪はニヤリと笑ってこちらを見つめている。
その期待に答えるかのように俺も笑みを返し、足元に落ちたボールを思い切り蹴る。
そして、蹴り出されたボールよりも速く動きそのボールを再び蹴る。また追いつき、また蹴る。何度も、何度も何度もボールを蹴る度に雷がエネルギーとしてボールに込められて蒼く発光する。
10回くらい蹴ったあたりで、吹雪に向かって存分に力を溜めたボールを解き放つ。
「止めれるもんなら止めてみろォ!!受け取れェ!!」
「良いじゃねェか!!てめェの全力.俺がねじ伏せてやるよォ!!」
纏う雷の強大さゆえに、触れずとも射線上の地面が軽く抉れていく。
そんなシュートに対して吹雪は、先程見せた必殺技と同じような要領で勢いよく蹴り込む。
「はははははッ!!良いねェ、ビリッビリ来やがるぜ!!」
吹雪の賞賛は本物のようで、先程までの余裕一色の表情が僅かに崩れたのが見えた。
しかしそれでも、まだまだこんなものでは無いと立ち振る舞いで感じさせられる。
「ほらよ、お返しだァ!!」
雷が氷雪へ塗り替えられる。
吹雪が軽い咆哮と共に脚を振り抜くと、俺のシュートを上書きして先程のエターナルブリザードに限りなく近いシュートが放たれた。
こうなりゃとことんだ、またこのまま蹴り返して──
「加賀美さん危ないッス!!」
「壁山!?」
なんと俺の前に躍り出たのは壁山だった。
撃ち返すつもりしかなかったが、俺の身を案じてくれたのかその巨体で俺とシュートの間を阻む。
「ザ・ウォール"改"!!」
「手伝うよ壁山!ザ・タワーッ!」
壁山が創り出した壁にめり込むシュート、そしてそれを上から雷が抑え込みに掛かる。
「お前らに止められるようなシュートじゃねぇェ!!打ち砕けェ!!」
吹雪が吠えるとそれに共鳴するかのようにシュートの威力が増し、二重のブロックを難なく突破してしまった。
だがそのおかげでシュートコースは俺から逸れ、本来シュートが向かうべきゴールへと矛先が向けられた。
「壁山」
「はいッス・・・いてっ!!」
「俺があれを撃ち返せないほどヤワだとでも思ったのか?うん?」
「そ、そんなことないっス!!ついというか、DFの本能というか.」
倒れ込んだ壁山に手を貸すと思わせてデコピンをかます。
考え方によっては俺と吹雪の決闘に水を指したようなものだからな。
「冗談だ。助かったよ、サンキューな」
「えへへ、どういたしましてっス!」
壁山に手を貸して立ち上がらせる.つもりだったが、あまりの重量に俺が転びかけた。
壁山の強みの1つなのは間違いないが、少し食事量を見直させる必要があるか?マネージャー達と検討しておこう。
そんな俺の思惑を察したのか顔を青くする壁山を横にシュートの行き先を見る。
先程は吹雪のシュートに為す術なくねじ伏せられた守。果たして今回はどうだ?
「壁山、塔子・・・お前たちの頑張りは無駄にしない!」
身をひねり、心臓の辺りからエネルギーを右手に集中させると守を囲むように黄金のオーラが巻き起こる。
正面に向き直り右手を振り上げると、守の背中から威厳に満ちた魔神が姿を現す。
「マジン・ザ・ハンド!!」
絶対守護の右手が突き出された。
が、シュートはその手に触れた瞬間大きく軌道を変え、ゴールポストを超えてフィールドの外へと飛び出してしまった。
正攻法でシュートを止めたわけではないが、結果として今回シュートを無力化することには成功した……この方法、使えるんじゃないか?
「鬼道!」
「ああ!今の方法ならエイリアのシュートも止められるかもしれない!」
守1人に任せるんじゃなく、シュートブロックも選択肢に入れるわけだ。良いな、雷門の全員サッカーは攻めじゃなく守りにも反映出来る。
「はいそこまで!もう満足したかしら?」
瞳子監督が今度こそ試合を止めに来た。
その瞬間、先程の吹雪から絶えず発せられていた強者の威圧感が霧散した。目つきも先程までの鋭いものではなく、柔らかなものへと戻っている。
「吹雪!お前凄いな!あんなシュート初めてだ!」
「君たちこそ。僕のシュートに触れたのも、全力で蹴り返させられたのも初めてのことだよ」
「それは光栄だな」
吹雪へと駆け寄っていく守に俺も着いて行く。
「吹雪!俺お前とサッカーしたい!」
「僕もさ!君たちとなら、思いっきりサッカーが出来る気がする!」
「吹雪くん。改めてになるけれど、イナズマキャラバンに参加してくれるかしら?」
その答えを吹雪は微笑みとともに差し出した手で返す。
守がその手を強く握り締め、ここに新しい仲間が迎えることを認められた。
周りから歓声が湧くが、1人だけその輪に参加することを拒んだ者がいた。
「染岡!」
「柊弥、俺が行く!」
染岡を追いかけようとしたら守に止められ、止めた本人が走っていってしまった。アイツもキャプテンとして染岡に何かしてやりたいという気持ちは同じだろうし、ここは大人しく譲ることにする。
「さ、試合で疲れただろうし皆でお餅でも食べようか。うちのマネージャー達が準備してくれてるんだ」
「良いね。ああ壁山、お前はあまり食べすぎないように」
「加賀美さん!?さっきのことやっぱり恨んでるッスか!?」
そんな壁山とのやり取りに笑いが上がる。
とりあえず俺達は白恋のマネージャーの案内で先程の教室へと戻って行った。
ーーー
「それにしても吹雪、お前なんであんなに強いんだ?」
「うーん、敢えて言うなら"風になれば"良いんだよ」
「風?スピードを上げろってことか?」
「ふふ、明日にでも見せてあげるよ」
吹雪とそんな会話をしながら焼きたての餅を頂く。ちなみにだが俺が食べているのはきな粉餅だ。
風になれば良い……確かに吹雪の真の強みはあのシュートでもディフェンスでもなく、その両方を難なくこなすスピードだ。
そして、今の俺に1番足りないものでもある。
「そういえば僕に撃ったあのシュート、なんていうんだい?」
「ああ、あれか?あれはまだ未完成なんだ」
「そうなの?贔屓目抜きにしても、エターナルブリザードに並ぶくらいの威力はあると思うんだけど……」
これは事実だ。俺が本来想定しているあのシュートの完成系にはまだ到達出来ていない。
シュートを蹴り出したタイミングは自分でシュートを制御出来るギリギリの範囲だからというだけで、目指しているのはまだまだ先の段階だ。何なら、撃ち出すタイミングで散々込めたエネルギーが3割くらい流れてしまっている。あんなんじゃまだまだ完成とはいえない。
「その点についても、明日何かの力になれるかも」
「そうか。じゃあよろしく頼むな」
「うん、勿論さ」
吹雪と会話を終えたくらいのタイミングで守と染岡が戻ってきた。
染岡はやっぱり納得しきれていないような表情だ。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかないだろうか?
そんなことを考えた、その時だった。
「た、大変です!」
脇の方で情報を整理していた春奈が声を上げる。
何事かと春奈の方を全員向くと、自前のパソコンの画面をこちらに見せ、ある映像を再生する。
『白恋中の者に告ぐ。我々はエイリア学園だ』
「ジェミニストーム……!」
その画面に映ったのは紛れもなくエイリア学園、ジェミニストーム。俺達が2度も負けた連中だ。皆の表情が険しいものになるのを感じる。
映像の中のレーゼが告げたのは、白恋に対しての襲撃予告。それを聞かされた白恋の皆は青ざめてどうしようどうしようと慌てふためく。
「皆落ち着いて。大丈夫だよ」
「そうさ!エイリア学園は今度こそ俺達が倒す!吹雪と一緒にな!」
吹雪が宥め、守がそう宣言する。
次で3度目の戦いになる。そろそろこの因縁にもケリをつけなければならない。
いつ連中がやってくるかは分からないが、これまでの襲撃予告を元に考えると数日程度の猶予はあるとのことだ。
良いだろう。その次の試合で必ず俺たちが勝ってやる。
この辺りで悲劇も終幕だ。