「なぜお前達がここにいる」
姿を現したエイリア学園の先頭に立つレーゼが冷たい声でそう言い放つ。
高所から威圧的に言い放つその様に少なからずプレッシャーを感じているヤツもいるみたいだが、少なくとも俺は1ミリもビビってない。
「俺達が白恋中の代わりにお前らと戦う!」
「ふっ……地球人の学習能力は予想以上に低いようだな」
「ふん!宇宙人の想像力も低いみたいだね。私達が強くなったとは思わないの?」
塔子がそう啖呵を切ると、レーゼの目付きが少し鋭くなった。と思うと今度はニヤリと笑い、手元のボールを強烈なカーブをかけながら守へと撃ち込む。
挨拶代わりの軽いシュートだったのだろうが、守はそれをものともせず受け止める。その光景に僅かながら連中の顔が揺らいだのを俺は見逃さなかった。
「いいだろう……地球にはこんな言葉がある。"二度あることは三度ある"ッ!」
「ならこの言葉を送ってやるよ」
守からボールを受け取り、それをレーゼに向かって返してやる。
音を立てながら迫るそのシュートを胸で受け止めたレーゼ。先程同様、その表情には薄らと驚きの色が映る。
「三度目の正直、ってな」
言葉でなく目線のみでレーゼと威圧し合う。底知れなさは伺えるがそんなことに腰が引ける俺……いや、俺達じゃない。
やがて痺れを切らしたのかレーゼ達はグラウンドへ降り立ち、ポジションに着いて俺達に圧を向けてくる。余裕を見せるためのパフォーマンスか何かだろう。
俺達はそんなもの気に留めず、こちらのベンチで今回の試合についての確認を行う。
辺りが騒々しいので少し見回してみると、テレビ局が複数グラウンドを取り巻いていた。どうやらこの試合を全国放送するらしい。
民衆からすれば恐怖の対象でしかない宇宙人を打ち破るその瞬間は何にも勝る安堵の光景だろう。これを決めたのは国のお偉いさんかそんな感じの人か。
「吹雪!エターナルブリザードでばんばん点を取ってくれよな!」
「そうでやんス!吹雪さんのシュートがあればエイリア学園なんて怖くないでやんス!」
「それに加賀美さんと染岡さんだって負けてないっス!今の俺達は無敵っスよ!」
守が吹雪にそう声をかけると栗松や壁山が続き、他の皆も囃し立てる。
その光景を見た監督は少しため息をついて口を開く。
「吹雪くんはセンターバックに着いて。エターナルブリザードは封印、絶対に前線に上がらないで」
皆から驚きと唖然が入り交じった声が上がる。一之瀬がいち早く抗議するが、案の定監督は一切反応することなく一蹴してしまった。
俺も吹雪のスピードを活かした速攻に出ると思っていたから少し驚いたが、あの監督のことなら何かしらの考えがあることは間違いないだろう。
「この試合は白恋中を守るためだけじゃない。全人類の命運が賭けられた大事な試合よ」
「ああ。監督もそれを分かって吹雪をDFに配置したんだろう」
「後は俺たちが結果を出すだけ、ってことか」
「へっ、吹雪が前に出なくても俺と加賀美で点を取ってやるよ」
予想外のことはあったが、皆試合に対しての気合はしっかり入っているようだ。ならば俺も、その寄せられた期待に答えなければならないな。点を取り、試合に勝つ。やってやろうじゃないか。
もしこの戦いを終わらせることが出来たなら、きっとアイツも戻ってくる。
「よし皆、やってやろうぜ!」
「勝つぞ!!今度こそエイリア学園の侵略を終わらせるんだ!!」
「「「おお!!」」」
円陣から皆それぞれの位置へと小走りで向かう。俺と染岡は敵が目と鼻の先な位置ゆえに、相手が放つプレッシャーを1番に受ける。
だが染岡も俺も一切怯んでない。互いの顔を見て笑い、拳を突き合わせるくらいの余裕はある。
『両チームとも気合いは十分!天は人類に味方するのか、それとも見放すのか!?』
「ふん、本気で我々に勝てると思っているのならおめでたい話だ」
「その余裕が何時まで持つか、見物だな」
互いに牽制し合う。今俺が見せているのは虚勢でも見栄でもなく、勝ちへの自信だ。前まではボロボロにされていたが、今回はそうはならない絶対的な自信がある。
ここまでコケにされた借り、倍にして返してやる。
『さあ!!試合開始だ!!』
「まずは勢いを掴む。いくぞ染岡!」
「おう!」
隣の染岡にボールを渡し、すぐさま駆け上がる。
ボールを持っている染岡に対してレーゼは一切反応することなく進行を許す。小手調べのつもりで見逃しただけではあるだろうが。
案の定、レーゼを抜いてすぐくらいにジェミニストームが2人がかりで染岡を抑えに行く。染岡は俺にパスを出そうと視線を向けてきたが、そのほんの一瞬でボールを奪われてしまう。
だがヤツらの動きが明確に見える。きっと他の皆も同じだろう。
「ここだ!!」
「ナイスカット!土門!」
シュート圏内に入られるより早く、土門が相手のパスを遮った。追いつかれるとは思っていなかったらしく、奴さんが分かりやすいくらいに驚いているのが分かる。
土門が出したパスは意趣返しのようにカットされるが、それをまた風丸が奪う。圧倒出来ている訳では無いが、明らかに連中と渡り合えるようになっている。
「ザ・タワー!!」
塔子が紫髪の女に対して必殺技でボールを奪いに行った。前までなら発生すら揺らされなかっただろうが、今回はボールを奪うところまで成功している。やはり今の俺達ならコイツらに勝てる。
「疾風ダッシュ!」
塔子からのパスを受け取った風丸がお得意の疾風ダッシュで骸骨みたいな男を抜き去る。風丸のスピードもかなりの極地に達している。恐らくは俺と同格以上。
前線へ運ばれたそのボールを受け取るために俺と染岡は走る。風丸が選んだパス先は俺だったが、俺はそのボールを受け取るふりをして染岡にそのまま流す。意図を汲み取っていた染岡はボールを取り零すことなく、そのままシュート体勢に入った。
「いくぞ宇宙人!ドラゴンクラッシュ!!」
「チッ……ブラックホール!!」
染岡がドラゴンを従えたシュートを相手ゴールへと放つ。その威力は以前までとは比較にならないくらいに強力だ。つい数週間前の俺達では決して辿り着けないレベルの一撃。
これに対して相手の大柄なキーパーは舌打ちの後、右手を突き出す。すると掌の中心に黒い渦が発生し、周囲の空気ごとシュートを引き寄せる。ブラックホールの名に恥じぬ力を秘めていたようで、染岡のシュートは完全に抑え込まれてしまった。
だがやはり手応えはある。前までなら必殺技を使わせることなど叶わなかっただろうからな。手札を切らせただけでもかなりの進歩だ。
キーパーからボールはレーゼへと渡る。あそこまでの自信はやはり本物で、凄まじい速さで雷門のゴールへと迫っていく。あれは恐らく俺と風丸では厳しい。もし余裕を持って対処出来るスピードがあるとしたら、それは……
「アイスグランド」
そう、吹雪だ。
フィギュアスケートのような美しい舞から地面を凍りつかせ、超スピードを誇るレーゼから見事ボールを奪い取ってみせた。吹雪をDF起用した理由はこれが1つだろう。
さて、俺もそろそろ仕掛けるとしよう。
「吹雪!」
「行っておいで!加賀美君!」
中盤まで戻って吹雪からのパスを受け取る。するとすぐさま俺に1人寄ってくるが、もう遅い。
全身から雷を迸らせ、地面が砕ける程の踏み込みからまさに雷光の如き速さでその場を去る。
「雷光翔破」
「馬鹿な!?」
ヤツらが想定していた以上のスピードだったのだろう、誰1人として俺に触れることなくゴール付近までの侵入を許した。
キーパーが冷や汗を流しているのが分かるがそんなのはお構い無しだ。まずは一本ぶち込んでやる。
思い切り踏み抜くことで音を立てながら回転と共に上昇するボール。空気との摩擦により俺が込めたエネルギーが何倍にも膨れ上がり、それはやがて雷となって周囲を叩く。帯電したボールが一際強く輝くその瞬間こそが最高点。雷塊と化したそのボールの中央に秘めたる一刀を振り放つ。
「轟一閃"改"」
轟々と音を鳴らしながらシュートがゴールへと迫る。
冷や汗を垂らしていたキーパーはすぐさま迎え撃つ姿勢を取り、先程の必殺技を放つ。
「ブラックホォォル!!」
光をも閉じ込める深い闇と眩い光を放つ雷が正面衝突する。超エネルギーのぶつかり合いによる力の波がこちらにまで伝わってくる。
感触は悪くなかったが、段々とシュートの威力は削がれ、やがて完全に殺されてしまった。
やはり今の轟一閃ではゴールは割れないか。ライトニングブラスターならば威力は十分だろうが、後半を戦い抜く体力が懸念される。
とすると、やはりあのシュートしかないか?だがあれはまだ未完成。その状態で狙うのは些かリスキーな気もする。
「イオ!」
「おっと、悪いがもう一度撃たせてもらうぞ」
そのパスは流石に分かりやすい。イオと呼ばれた男に出されたパスを俺は奪い取り、再びシュートを狙う。
リスキーではあるが、流れを掴むために今俺が出せる手札はこれしかない。
一呼吸おき、ボールを空中へ蹴り上げる。脚に十分にエネルギーを集中させ、そのボールの後を追うように俺も大きく飛ぶ。
シュートのつもりでボールを蹴り、それに追いついて再び蹴る。また追いついて蹴る。まだ止まらず追いつき蹴る。この流れでシュートのエネルギーを乗算式に跳ね上がらせる。
未完成でもエターナルブリザードに並ぶ可能性があると吹雪のお墨付きを貰ったこのシュート、受けてみろ。
「いくぞ、これが俺の雷──」
今の俺が制御しきれるギリギリまで威力を高めたシュートをゴールに向けて放とうとした、その時だった。
突如俺の目の前に躍り出るヤツかいた。レーゼだ。
俺が蹴り出すより早くそのシュートはレーゼに撃ち出され、そのままフィールドの外へと飛び出していってしまった。
そのシュートが小さな崖の岩壁へ当たると、そこを中心としてヒビが入り、数秒のうちに崖を丸々崩してしまった。
「お前は危険だ。これ以上シュートを撃てると思うな」
「ふッ……俺1人ご苦労なことだな、宇宙人さん?」
挑発気味にそうけしかけてみたがレーゼは相手にすることなく去っていった。これで冷静さをかければ多少楽になったんだが、そう上手くもいかなかったようだ。
だがしかし、あの宣言は本物だろう。レーゼには少なくとも俺くらいのスピードには対処できる力がある。ならば今後俺にシュートチャンスは回ってこないと思った方がいい。
「惜しかったな加賀美」
「悪いな、あれで勢いをつけたかったんだが」
「気にすることねえよ。俺だって最初の1本で点を取れてねえ」
染岡の労いを受けつつ試合再開に向けて体勢を整える。ボールを出したのはレーゼだからこちらのスローインから試合再開だ。
鬼道の一之瀬に向けたスローイン。だがそれはレーゼに寄って割り込まれた。そのままディアムと呼ばれた茶髪に対してパスが回され、相手が支配権をえ得てしまった。
「行かせん!」
そこに鬼道が立ち塞がる。アイツは相手の癖やパターンを以前見抜いている。任せておけばボールを奪ってくれるだろう。
と、思った。その慢心が良くなかった。
「何!?何だこのパターンは!!」
「鬼道が共有していたパターンじゃない!?」
紫髪がイオに対してパスを送ると、そのままダイレクトで深いパスが出される。それをフリーの状態で受け取ってしまったのは……よりによってレーゼだ。
ヤツはボールに回転を加える。間違いない、必殺シュートだ。恐らくは以前の試合で俺が気絶したあとに守のマジン・ザ・ハンドを破ったとされるとんでもないシュート。
「撃たせるか!」
「遅い!アストロブレイク!!」
先程やられたようにシュートを阻止しようと走り出したが既に遅かった。天体の破壊と称されたそのシュートはその名に恥じぬほどの威力があると嫌でも伝わってきた。
そしてそれは俺だけじゃなかったようで、壁山と塔子がシュートに対してブロックの構えを取る。
「ザ・タワー!!」
「ザ・ウォール"改"!!」
二重の防壁がシュートを阻みに掛かる。が、そのシュートはあまりに圧倒的すぎた。パスからタイムラグ無しで放たれたために必殺技を出すための溜めが十分じゃなかった。シュートに触れた瞬間に塔子も壁山も打ち破られてしまう。
そして反応が間に合わなかったのは守も同じだった。マジン・ザ・ハンドを出すための時間は確保出来ず、ゴッドハンドも間に合わない。
「爆裂パンチ"改"!!」
溜めが必要ない爆裂パンチで迎え撃つ。超高速の連撃はシュートを的確に捉えているが、レーゼのシュートはあまりに強力だった。
「ぐ、ぁぁああああッ!?」
守の拳を打ち砕き、無情にもゴールネットを揺らした。先制点は相手に奪われてしまった。
すれ違いざまにレーゼが悪意に満ちた笑みと共に声を掛けてくる。
「これが貴様らの限界だ」
「……言ってろ」
そのタイミングで再びホイッスルが鳴った。0-1でリードを握られたまま前半終了だ。
状況は良いとは言えないが、以前は前半終了時点で数十点の差がついていた。そう考えれば今の状況も決して悪いものではないと言える。
「くっそー!あのシュート止められなかった!」
「悔しいっス!!」
「気にするなって!次は俺もマジン・ザ・ハンドで迎え撃つ!三重の壁なら鬼に金棒だろ?」
悔しがる2人に守がそう声を掛ける。確かに、あの場面でマジン・ザ・ハンドが間に合っていればもしかしたら止められていたかもしれない。まだまだ希望はある。
「それより問題はこちらからの攻撃だ。撃てさえすれば点になる気がするが、マークが厚すぎて俺はこの試合でシュートを撃てそうにない」
「俺のドラゴンクラッシュはアイツらには通用しねえ……感覚は悪くねえんだが」
「その点は問題ないわ」
俺と染岡がそう問題提起していると瞳子監督が割って入ってくる。問題ない、ということは?
「吹雪くん。後半からは攻撃に参加してちょうだい」
「やはりそういうことか」
「俺達はスピードを磨いたが、ヤツらに慣れるには時間がかかる。だから前半は守備の人数を増やした……ってことだな?」
鬼道にそう訊ねると頷きが返ってくる。監督の反応を見るにそれで間違いなさそうだ。
吹雪がシュートを解禁、ということはエターナルブリザードが選択肢に入るということだ。正直いって頼もしい。
となればやることは1つ。俺は繋ぎに徹して吹雪、そして染岡にシュートを任せる。
「よし皆、勝ちに行くぞ!」
準備は整った……あとは勝つだけだ。