そしてウボァー様、特殊タグの手直しありがとうございます・・・
「ぐがー、ぐがー」
「もう食べられないッス……」
「うわあああ!上から壁山でやんス!!すぅ……」
「……うるせえ」
既に日付は切り替わっているくらいの夜更け、俺は賑やかな寝言によって完全に叩き起されていた。守はシンプルにイビキがうるさい、壁山は夢の中まで食うな、そして栗松は壁山に殺されかけるな。
1人心の中でツッコミを入れていたら眠気は何処かへと行ってしまっていた。寝ようにも寝れないし、この時間に特訓なんてするのも流石に駄目だしどうしたものか。
と、そんなことを考えていたら視界の端、窓の向こうで誰かがキャラバンの前辺りに歩いていったのが見えた。何か思い詰めたような表情をしていたが何かあったのだろうか。
そういえば昼間、浮かない表情をしていたな。何を思ってかは分からないが、何かがあったのは確実だろう。
「痛っ、……鬼道?」
「……」
突如脇腹に鋭い痛みを覚えて後ろに振り返ったが、そこには寝袋に身を包みこちらに背を向けた鬼道のみ。
……行け、ってことか?
「お前からの頼みなら断れないな」
全く、兄貴であるお前が行ってやった方が本人にとっても支えになるだろうに。随分照れ屋なお兄ちゃんなものだ。
俺は皆を起こさないよう出来るだけ物音を立てずにキャラバンの外に出る。流石に扉の開閉音で気が付いたのか、そこに座り込んでいた春奈はこちらを向き、少し驚いたような顔をしていた。
「寝れないのか?春奈」
「柊弥先輩、起きてたんですね」
「ああ。夢の中でも元気なヤツらのおかげでな」
そう言って少し笑うと、また暗い顔で俯いてしまう春奈。
まあ、こちらから切り出さないと駄目だよな。自分から悩みを吐露できるなら最初からそうしているだろうし。
「……少し、歩かないか?」
「え?」
「ほら、程よく散歩すれば互いに眠くなるかもしれないだろ?」
「……はい!」
若干明るさを取り戻した声と共に立ち上がった春奈と共に夜の漫遊寺を散歩する。だがどうしたものか、会話が長続きしない。誘った側がひたすら無言でいる訳にもいかないから何とか話題を振ってはいるが、何かこう噛み合わないような感じだ。
ここは手っ取り早く本題に入るのが吉だろう。少し開けた場所の石に2人で腰掛ける。
「アイツ……木暮のことか?昼も何か考えてたろ?」
「はい……私、あの子の気持ち少し分かるんです。知ってのとおり、私とお兄ちゃんは小さな頃に両親を亡くしてて、その時はずっと裏切られたとばっかり思ってたんです」
「裏切られた、か」
無理もない話だ。当時小学生ですらなかった幼い子供が親は二度と帰らないなんて聞かされても裏切られた、捨てられたとしか考えられないだろう。そんな考えに囚われず、立派に春奈の拠り所であり続けた鬼道が凄すぎるくらいだ。
だからこそ、木暮の境遇に少なからず自分を重ねているのだろう。あの小さな身体の中に押しつぶされるように込められた深く暗い感情が分かってしまう。だからこそそれが気の毒で仕方なく、今もこう気にしてしまっている。
「私もお兄ちゃんがいなければあんなになってたのかな、なんて」
「それは無いんじゃないか?」
春奈がふと呟いた言葉を即座に否定してしまう。あまりのスピード返答だったせいで春奈が呆気に取られてような顔をしている。しくじったな。
柄にもなく自分が焦っているのを感じながらも何とか考えを言葉にして口に出す。
「春奈は優しいだろ?今こうして木暮のことを気にかけているし、俺のことだって何ども気にかけて、助けてくれた。そんな優しい……いや、強い人が道を間違えるなんてことはないさ。俺が断言する」
我ながら口が甘くなるようなセリフを吐いたものだ。案の定、春奈は黙りこくってしまった。
ああクソ、どうして肝心なところで俺は選択肢を間違えるのか。もっと別の伝え方があったはずだ、少なくとも相手が返し方に迷わないような方法は幾らでも。
恐る恐る俺は隣を見る。そこには、文字通り真っ赤になった春奈の顔が。
「柊弥先輩って時々凄く恥ずかしいこと言いますよね……!」
「春奈も人のこと言えないだろ?世宇子との試合の後、全国放送の前で抱きついてきたのはかなりだと思うぞ?」
「あれは!!えっと……そう!感極まってです!感動のあまり身体が動いちゃっただけです!!」
「感動のあまりね、へえ」
「〜〜〜ッ!!」
暫くの沈黙の後、俺達は顔を見合わせて大笑いする。
春奈とここまで砕けて話したのは初めてだろうか。今まではどうしても先輩と後輩という意識があったような気がする。
春奈は既に俺にとって後輩以上の……何だ、上手く言葉に出来ない存在になっているのは間違いないだろう。
「あの、柊弥先輩」
「どうした?」
「……ありがとうございます!おかげでスッキリしました!」
「そうか、それならそろそろ戻るか」
「いえ、私はもう少しここにいます。笑ったら少し暑くなっちゃって」
そう言って春奈は背を向け、夜空を見上げた。気が楽になったなら本来の目的は達成できたわけだし、ここは要望通り1人にしても大丈夫だろう。俺もそろそろ寝なければ明日の特訓がキツくなるからな。
「それじゃあ、おやすみ」
「はい!おやすみなさい」
ーーー
「……はあ」
柊弥先輩がキャラバンに戻った後、私は1人月を眺めていた。
思い出されるのは先程までのような暗い記憶ではなく、隣で一緒に笑ってくれた大切な人の横顔と口先まで出かかって躊躇ってしまった、たった数文字の短い言葉。
声に出して伝えるのはそんなに難しいことじゃないはずなのに、いざ伝えようとするとどうしようもなく怖くなってしまう。
願い通りにならないかもしれないから?違う。
自分が傷付いてしまうかもしれないから?それも違う。
……それはきっと、今のままの関係でいられなくなるのが怖いから。
「何で言えないかなあ……好きですって」
私は大きなため息をつく。ため息をつけば幸せが逃げるなんて良く言うけれど、このくらいは許して欲しい。
だって、あの時から……お兄ちゃんとの確執が辛くて仕方なかったところを救ってくれたあの時から。ずっとずっとあの人のことが好きで仕方ないのだから。
「……また秋先輩に相談かなあ」
そうしよう。出来ることなら夏未さんや塔子さんも巻き込んでまた北海道に行く前みたいな女子会の中で相談したい。きっと力になってくれるはず。問題はあの3人全員がキャプテンに対して特別な思いを抱いていることだけど。
「……ん?何だろう?」
そんなことを考えていると、建物の中で何かが光ったのが見えた。あそこは確か……サッカー部の修行場?
誰かがいるのかもしれない。もしかしたら宇宙人が夜な夜な何か罠を仕掛けに来たのかな?もしそうなら尚更確かめなきゃ。
意を決して扉を開ける。そこには警戒していたような姿ではなく、昼に見たばかりの小さな影が。
「木暮君?」
ーーー
「よーし!一旦休憩!」
守の声が辺りに響くと、全員息を切らしながらベンチへと戻っていく。今日の特訓はかなりハードだったから無理もない。
マネージャー達がドリンクとタオルを配ってくれているが、その中に春奈の姿が無いことに気が付いた。
「秋、春奈は?」
「音無さんなら別の仕事をしてくれてるみたい……気になる?」
「……そういうのじゃない」
全く、少し前まではこんなに悪い顔をするようなヤツじゃなかったんだが。おかげさまで周囲からの生暖かい視線がこれでもかというくらい突き刺さる。
後ろから肩に乗せられた手に振り向くと、そこには鬼道が。
「妹はやらん」
「お前はどの立場なのかハッキリしろよ。昨日俺をけしかけたくせに」
「なんの事だかサッパリだ」
隠すのがとことん下手なやつだ。あんなバレバレの工作に俺が気付かないとでも思ったのか。
特に言葉もなく鬼道の背中を叩き、向けられた圧力を他所に水分補給をして汗を拭う。それにしても春奈に任された仕事とは一体何なのか。
「ん?おい、皆あれをみろ!」
束の間の休憩時間、そんな中で驚いたような声で土門は若干声を荒らげる。
指さされた方を見ると、漫遊寺のシンボルの上に佇みながら赤い光、黒い霧を撒き散らす黒い男、イプシロンのデザームがそこにいた。襲撃は今日、って訳か。
俺達は大急ぎで漫遊寺グラウンドへ向かう。辿り着いた時には既にイプシロンと漫遊寺イレブンが睨み合っていた。
「何度言われても答えは同じです、私達に戦う意思はありません」
「ならば仕方ない」
1歩前に出て言葉を交わす影田とデザーム。試合を拒否するスタンスはやはり変わっていないようで、デザームからの要求に一切応じる様子はない。
それを聞いて痺れを切らしたのか、デザームはボールを上に掲げる。すると横に待機していた銀髪が目にも止まらぬ速さで飛び、そのままボールを蹴り飛ばす。
放たれたシュートは紫色の光を纏いながら空気を裂き、歴史上の建造物の如く頑強な漫遊寺の校舎を貫く。それを見て周囲の生徒達からは悲鳴が上がる。
そんな凶行を見てようやく決心が着いたのか、影田の、漫遊寺イレブンの目の色が変わる。
「やむを得ません……その勝負、お受け致しましょう!」
そうして漫遊寺とイプシロンの試合の準備が始まった。俺達が戦おうと提案しないのか監督に聞いてみたが、まずはこの試合を見てからでも遅くはないと言う。確かにイプシロンの実力を見定めることも出来るし、理にかなっている。ここは大人しく横で見ているとしよう。
そうしている間に試合は始まる。
まず先手を打ったのは漫遊寺。鋭い切り込み、器用かつ精巧なパス回しでぐんぐん前線へ押しあがっていく。流石裏の優勝校と評されるだけあって、素晴らしい技術だ。それを扱うだけの身体もしっかりと仕上がっている。
「竜巻旋風!!」
9番がボールを挟み込み、回転を与えてグラウンドに叩き付ける。するとまさに竜巻が如く突風が巻き起こり、それと同時に砂塵も巻き上げる。
それに包まれたイプシロンの女選手。あれを至近距離で受けては一溜りもないだろう。
と思ったその時。
「何っ!?」
その竜巻の中を一切怯む様子なく突っ切ってきた。あんな芸当は少なくとも俺達の中で出来るやつはいない。
凄まじい速さでカウンターを仕掛けるイプシロン。必殺技を用いてそれを止めにかかる漫遊寺だったが、それらをものともせず一瞬でゴール前まで侵入を許す。
「四股踏み!!」
四股を踏んで大規模な衝撃波を発生させたが、それに包まれても怯むことなく前進。そのまま放たれたシュートによってDFはボールごとゴールネットに押し込まれた。
流れるような得点、あまりの実力に皆揃って言葉を失っていた。
しかもそこからも悪夢は終わらない。数々の強力な必殺技をもってイプシロンに立ち向かう漫遊寺。だがそのどれもが真正面から打ち砕かれる。イプシロンは当然のように必殺技を使ってこない。
1人、また1人とその場に倒れていき、1点ずつイプシロンの得点が増えていく。
その得点が15点に差し掛かった頃、既に立っている漫遊寺の選手はおらず、時間の針はようやく6分を刺したかといったところだった。
正直、圧倒的だ。
「所詮この程度か……やれ」
「待てェ!!」
もはや用無しと言った様子で再びボールを掲げるデザーム。次に放たれるのは校舎を破壊するあの恐ろしいシュートであることは容易に想像出来た。
だがそれを遮る声が1つ。俺達雷門イレブンだ。
「あんな強い漫遊寺を一方的に倒したイプシロン……俺達勝てるッスか?」
「勝てるか勝てないかじゃない、勝つんだろ?」
弱気になるのも無理はないが、気持ちで負けて勝てる試合なんてあるはずもない。厳しいようだがここは喝を入れる場面だ。
「キャプテン!それなら木暮君にも戦わせてあげてください!」
「春奈?」
「木暮君だって漫遊寺の一員です!きっと力になってくれます!」
春奈が必死に訴えかける。ここまで言うということは、何かそれを裏付けるだけのものを見たということだろう。恐らくはさっき秋が言っていた別の仕事というのも監督に頼まれてそれを見定めていたとかそんな感じかもしれない。さりげなく監督の顔を伺ってみるが特に拒絶の様子はない。この人が明確にノーを出さない時はどちらでも良いということ。
なら、ここは1つ春奈を信じてみよう。
「良いんじゃないか?俺は賛成だ」
「柊弥が言うなら……よし分かった!木暮、俺達と一緒に戦ってくれ!」
「え、ええええ!?」
木暮の絶叫が木霊する。何をもって春奈が木暮を推しているのかまでは分からないが、ここまでお膳立てしたんだから腹括ってもらおうか。
「ようこそ雷門イレブンへ、歓迎するぞ」
「お前、なんか怖いよ」
木暮の背中を叩いてやるとそんな失礼な一言が飛んでくる。俺なりに緊張を解してやろうとしたんだが不発だったようだ。
秋と春奈が木暮のユニフォームを取りに行ってる間、俺達は丸くなって作戦を立てる。
「間違いなくアイツらはジェミニストームより上だ。試合のペースは常にこちらが握っておきたい」
「任せろよ、俺達FWがバンバン点を取ってやるからよ!」
「守りだって気にするな!絶対ゴールは守ってみせる!」
「円堂だけには背負わせない、俺達だってゴールに近づけさせないぞ!」
よし、ここまでやる気だったら改めて気合を入れる必要は無いな。
相手は全くの未知数。今の俺達が通用するかは分からないがとにかくやるしかない。
コイツらをここで倒してしまえばこれ以上戦う必要は無い、その筈だ。だからこそ何が何でも勝ちに行く。
見てろよ皆、これを正真正銘最後にしてみせる。
この場面ではあくまでイプシロンさえ倒せば・・・って思ってるけど後からマスターランクの存在が分かったら当事者からするとふざけんなってなる、きっと。