Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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VV8様、誤字報告ありがとうございます!
いつものことですがUAや評価、感想などなど本当に励みになっております・・・


第52話 突きつけられた壁

「加賀美、アイツをどう見る」

 

「木暮か。……正直未知数としか言えない」

 

 

 視線の先では木暮が雷門のユニフォームを身にまとい、試合に出る準備をしている。6番、半田のユニフォームか。

 監督はアイツをDFとして起用するようで、今回は栗松がベンチに下がるようだ。

 木暮は先の漫遊寺の戦いの中でも出番はなかったためその実力が全く予測できない。春奈がメンバー入りを懇願するくらいだから何かがあったのだろうが、考えても分からないのでどうしようもないな、

 

 

「だがまあ、春奈の言うことだ。信じていいんじゃないか」

 

「……それもそうだな」

 

 

 そう結論付けて俺達はポジションに着く。

 今回は特に監督からの指示はない。というより指示の出しようがないという方が適切か。先程漫遊寺と試合をしていたとはいえ、俺達が対峙すればまた違ったものが見えてくる。

 ただ1つ分かっているとしたら、ヤツらはジェミニストームより明らかに強い。北海道での試合からあまりレベルアップ出来ていないことを考えると、やはり厳しい戦いになるかもしれない。やはり鬼道が言っていたようにこちらが何とかしてペースを握っておきたい。

 その為に必要なのは、やはり俺達が点を取ることだろうな。

 

 

 そうしていると木暮もフィールドに走り込んでくる。しかしその表情は見るからに硬い。まあ急に宇宙人と一緒に戦えなんて言われたら萎縮の一つや二つはするか。それを見兼ねてか守や吹雪が楽しもうと声を掛けるが、あまり効果は無さそうだ。

 無理もない。実際のところ俺達とて楽しむ余裕なんて無さそうだからな。

 

 

「雷門中、ジェミニストームに勝利した唯一のチーム。たったそれだけの事で勝てようとは……我々イプシロンも随分も嘗められたものだ」

 

 

 イプシロンゴールからデザームが威圧気味に言い放つ。

 

 

「破壊されるべきは漫遊寺に非ず。我らエイリア学園に歯向かい続ける貴様らと決まった!」

 

「勝手に決めちゃってるよ」

 

「漫遊寺中は6分で片付けた。だがお前達はジェミニストームを打ち破った。それを讃えて3分で決着とする!」

 

 

 3分で倒す宣言とは、随分自信があるようだが……いや、それだけ自分達の実力に疑念が無いということか。事実目の前の集団から感じる圧力は相当だ。それを皆分かっているんだろう、デザームに苦言を呈しつつもやはり表情が険しい。

 

 

「さあ間もなく雷門中とイプシロンの試合がキックオフです!」

 

「角間、今回もいるんだな」

 

 

 緊迫した場面なのに角間がここにいることがどうしても気になる。だってアイツ東京から奈良まで来ただけじゃなくてそこから北海道、今回は京都までチャリで着いてきてるんだぞ?冷静に考えて色々とおかしいと思う。誰もそれにツッコミを入れようとしないが。

 

 

 なんて考えていると試合開始のホイッスルが鳴る。すぐさま意識を切り替えて俺は吹雪、染岡と共に敵陣へと切り込む。

 

 

「戦闘……開始!」

 

 

 デザームがそう告げると、すぐさま俺達3人は抑え込まれる。クリプト、スオーム、ファドラ、メトロンと呼ばれた4人の選手が俺達の行方を阻む。

 

 

「クソッ」

 

「染岡!後ろに出せ!」

 

 

 咄嗟にそう指示を飛ばすと染岡はそれに従ってバックパス。ボールは走り込んできていた風丸に渡る。

 俺達は未だにマークされているが、逆に俺達3人で4人を縛っているとも言える。この状況を逃さずに風丸、鬼道を中心にボールは更に奥へと運ばれていく。

 中盤に差し掛かったところで2人のDFが風丸にスライディングを仕掛けるが、風丸はしっかりと飛んで躱す。やはりアイツらはジェミニストーム以上に速い。だが俺達が追い付けない程ではない。

 

 

「鬼道!!」

 

 

 ボールは空中の風丸から塔子、塔子から鬼道へ。一之瀬、土門も前線に出ているがこのままでは火力が足りない。ザ・フェニックスは守が上がってきていないから狙えない。となると、やはり俺達FWのうち誰かが前へ出る必要がある。

 

 

 その時、染岡と目が合った。視線で何かを訴えてくる染岡。俺はそれを何とか読み取り行動に出る。

 

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

「ありがと……よッ!!」

 

 

 染岡が半ば強引に包囲を振りほどこうとする。急にそんな行動に出たとなれば染岡に意識が向くのは当然。俺はそこに生まれた僅かな隙を狙い撃ち、何とか1人前線へ向かうことに成功する。

 それに気付いた鬼道は2人のDFを自分に惹き付け、絶好のタイミングで俺にパスを出す。

 

 

「決めてやれ!!」

 

「任せろ!!」

 

 

 ゴール前。何人かが既に俺の方へ向かってきている。溜めが長いライトニングブラスターは間に合わないな。あの必殺技は……ここで出すには少し信頼に欠ける。ならこれしかない。

 

 

 ボールを踏み抜き、回転と雷を吹き込む。同時にボールに与えられたそれは互いに相乗効果を生んでみるみるうちに出力が跳ね上がる。

 一際強く輝いた瞬間、それを一瞬で蹴り抜く。

 

 

轟一閃"改"ッ!!

 

 

 轟一閃は確かに威力で言えばそれほど高くはない。しかし、ここに至るまでで俺自身がレベルアップしたことでこのシュートも確実に強くなっている。付き合いが長い分最も信頼のおける技でもある。

 これに対してどう出てくる、イプシロン。

 

 

「コンマ0.22秒。削れ」

 

「「ラジャー」」

 

 

 そのシュートがデザームに触れるより早く、2人の選手が横から飛び込んできて同時に蹴りを叩き込む。完璧なタイミングで放たれたそれは確実にシュートの威力を削ったのだろう、纏う雷が弱まったのが分かる。

 だが完全に殺されきらなかったシュートはそのままデザームに向かって突き刺さる──と思った次の瞬間だった。

 

 

「ふんッ」

 

 

 デザームが()()()()()()()()()。キャッチやパンチングではなく、さも当然かのように脚を使ったんだ。

 威力を削られていたとはいえ、シュートはそれで進行方向を180°逆に変える。撃ったシュートがそのまま俺に跳ね返ってくるようにこちらへ飛んできたのだ。無防備に受けたらマズイ、そう直感で感じ取り俺は何とか回避する。

 直後俺の目に映ったのは砂塵を巻き上げながら一直線に進む()()()()。そう、キャッチング代わりに放たれたキックがそのままシュートとなったのだ。しかも俺の轟一閃以上の威力で。

 

 

「……嘘だろ」

 

 

 流石にそんな声が漏れた。手を抜いた訳では無い、本気のシュートだった。それをキーパーの蹴り返しでいとも簡単に止められるどころかシュートに展望するだなんて、予想だにしていなかった。

 

 

「壁山!塔子!」

 

「はいッス!ザ・ウォール"改"!」 「任せて!ザ・タワー!

 

 

 鬼道が声を荒らげると2人がすぐさま動く。おそらく守なら止められるだろうが、FWのシュートでもないと考えるとここで守を消耗させるのは痛いと判断しての指示だろう。

 2人のダブルブロックはしっかりと機能したが、あまりの威力にボールは高く打ち上がる。

 それに対して飛んだのは吹雪。だがその下からメトロンとスオームも飛んできている。このままでは吹雪より先にアイツらがボールに触れてしまう。

 

 

「へッ!貰ったぜ!!」

 

「なッ!?」 「ぐッ!?」

 

 

 何と吹雪は下から来ている2人を踏み台にし更に高く、早く跳躍。2人を蹴落とし、自分は見事にボールを手に入れた。あそこであんな咄嗟の判断が出来るとは……やはり吹雪の幅は広い。

 

 

「喰らえ、エターナルブリザード

 

 

 そしてそのまま遥か高くからエターナルブリザードを放つ。超ロングレンジのシュートだ、全員の意表を突くことにしたそれは誰も反応出来ない。

 そしてデザームはそれに対して手を差し出すのみ。いくら距離があるとはいえエターナルブリザードだ。必殺技も無しで止められるはずがない。

 

 

「よし、もらったッ!!」

 

 

 間もなくしてゴールで爆発が起こる。手応えがあったのだろう、吹雪は拳を握りしめて勝ち誇る。

 段々と砂埃が晴れ、その中からデザームが姿を現す。

 

 

「……何だと」

 

 

 ゴールに押し込まれた姿ではなく、堂々とボールを受け止めている姿で。

 それを見て吹雪だけでなく俺も、いや皆も驚愕の声を上げる。あの吹雪のシュート、しかもエターナルブリザードだ。それを必殺技無しで止められるだなんて、誰も思っていなかった。吹雪ですら必殺技を打たせることすら出来ないとでも言うのか?

 

 

「敵ながら中々のシュートだ」

 

「チッ、褒めてくれてありがとよ……」

 

「お前達は我らエイリア学園にとって大きな価値がある。残り2分20秒、存分に楽しませてもらうぞ」

 

 

 そのままデザームは豪快なスローでボールを一気に前へ送る。鬼道の指示で土門と一之瀬がカットしに向かうがそれより早くボールはあちらの手に渡る。

 当然俺達も見てるだけじゃない、すぐさま守備に参加するが先程以上のスピードで翻弄される。さっきまでは全然本気ではなかったということか。

 

 

「木暮お前も!」

 

「無理!!絶対無理!!」

 

 

 鬼道が木暮にも指示を出すが木暮は動かない、いや動けない。

 俺達は諦めずにボールを奪いに行くが突破力は勿論のことパス回しが速すぎて全く追い付けない。

 抵抗虚しく俺達はゴールエリアまで侵入を許す。後は……守に託すしかない。

 

 

ガニメデ……プロトンッ!

 

 

 ゼルと呼ばれたFWはパスを受け取ると、ボールに手を翳してエネルギーを注ぎ込む。それに反応してかボールは紫色のオーラを纏いながら徐々に持ち上げられ、ゼルの胸の前辺りで静止する。

 そのままゼルは腰辺りに両手を構え、ボールに向かってエネルギー砲を放つ。それはそのままシュートとして守が構えるゴールへと突き進む。

 そのシュートは強力で正確で、何より……速かった。

 

 

「爆裂パ──」

 

 

 守の持つ技の中でも最も速く出せる爆裂パンチですら間に合う素振りがなかった。拳を繰り出すよりも速くゼルのシュートが守に突き刺さり、そのままゴールへと押し込んだ。

 デザームのスローからここまで、実に20秒程度。

 

 

「……化け物か」

 

 

 誰かがそう呟く。確かにそう形容する他ないほどにコイツらは異次元だ。正直、現時点でコイツらに勝てるビジョンが見えない。

 だがそれがどうした。俺は最後まで諦めない。点を取られたなら取り返せば良いだけのことだ。

 

 

「皆、まずは1点返すぞ!!」

 

 

 そう意気込んで再びキックオフ。だが、現実は俺達に厳しかった。

 そこからはまさに蹂躙。最初にジェミニストームと試合した時ほどでは無いが、あっという間に全員が追い詰められていく。アイツらの最初の余裕は慢心なんかじゃなく、やはり自分達にはそれだけの実力があると理解してのものだった。

 気付いた時にはもう立っているのがやっと。中には膝をついてるヤツもいる。

 

 

「間もなく3分。そろそろこの試合を仕舞いとする……が」

 

「──ぐッ!!」

 

 

 デザームは俺に向かってボールを投げる。本人にとっては軽いスローのつもりなんだろうが、中々に重い。だが何とかそれを受け止めた。

 そして何故か他のイプシロンのメンバーはゴール、デザームへの道を開け始めた。まるで進めと言わんばかりに。

 

 

「お前の真の実力を見せてみろ。先程のシュート、本気ではないだろう」

 

「……とことん見下しやがる」

 

 

 だが、絶好のチャンスだ。もしここで俺が1点だけでも奪えればその時点で同点。この後の試合が中断されたとしてもそれは次に繋がる一手になるはずだ。だったら癪に障るがここは誘いに乗るべきだろう。

 

 

 俺はボールと共にゴール前に立つ。

 轟一閃が通じないのは分かっている。アイツが望む全力を見せつけるなら出力最大のライトニングブラスターだが、確実にその後気絶する。しかも暫く倦怠感が続くことも分かっている以上、ここで迂闊に切ったら次の試合に参加出来ないということも有り得る。

 だったら、あれを試してみるしかない。

 

 

「行くぞッ!!」

 

「こいッ!!」

 

 

 ボールを全力で蹴り出す。それだけでシュートとして成立しそうな威力にも関わらず、俺はボールの行き先へ回り込んで再び蹴る。まだまだ終わらない。追い付く、蹴る、追い付く、蹴る。その流れが10回に達するくらいで既にシュートの込められたエネルギーは暴発寸前。これ以上はボールも俺の脚も耐えられなくなる。

 辛うじて1発蹴り込み、シュートを撃つのにベストな位置へ調整する。当然調整に過ぎないそれですら最早凶器レベルの威力。筋肉が千切れ、肺が裂けそうになりつつも俺は追いつき、最後の一撃を放つ。

 

 

「がァァァアアアアアッッ!!!」

 

 

 放った直後、ボールを中心に巻き起こった大爆発に俺は吹き飛ばされる。そのせいで半分程のエネルギーが失われつつも、そのシュートは先程のゼルのシュートに匹敵する威力でデザームへと襲い掛かる。

 

 

「面白い!!あの方が見込んだだけの事はある!!」

 

 

 それに対してデザームはまたも蹴り込む。

 

 

「1つ助言をくれてやろう!!己のシュートに追い付くスピードは大したものだが、貴様には増幅した力を制御しきるパワーが備わっていない!」

 

 

 力の余波が離れているこちらにまで伝わってきて上手く聞き取れないが、デザームが俺に対して何か言っているのは辛うじて聞き取れた。敵に塩を送られているようで気に食わないが、アイツが言っていることは事実。だからこそ見透かされているようで余計に腹が立つ。

 

 

「精進しろ加賀美 柊弥!そして雷門イレブン!我々は1週間後、再び貴様らの前に現れよう!!」

 

 

 デザームがそう言い終えると、先程のようにシュートが逆向き、つまり俺達の方へと飛んでくる。あれすらも打ち返すか、規格外め。

 だが元のシュートが桁違いだったせいか、返ってくるそれも凄まじい威力だった。

 

 

「クソッ!ふざけんなァ!」

 

 

 吹雪がそれを止めに行くが、為す術なく弾き飛ばされる。

 

 

「皆避けろ!今の状態であれを受けるのは危険すぎる!!」

 

 

 それ指示を飛ばすと皆身体を引き摺りながら何とか退避する。しかし、2人……壁山と木暮が逃げ遅れた。

 焦って転んだ壁山の脚に引っかかり転倒しかける木暮。しかもシュートは既に目の前に迫っていた。助けに行こうにもあれでは間に合わない。クソッ、一体どうすれば!?

 

 

「う、うわ、うわああああ!!」

 

「木暮!?」

 

 

 その時、木暮が頭を中心にして独楽のように回転した。しかも両脚に上手くボールが挟み込まれ、木暮は吹き飛ばされることなくただただシュートの威力を受けて回転し続ける。

 回転は弱まることを知らず、やがて1つの旋風と化した。それが止むと、中から顔を覗かせたのは無傷の木暮と転んだまま間抜けな顔をしている壁山。

 

 

「いてて……あれ?」

 

「なっ!?」

 

「イプシロンが……消えた?」

 

 

 それと同時にイプシロンも姿を消していた。木暮に気を取られて全く気付かなかった。

 皆木暮に駆け寄って本当に怪我がないことを確認して一安心し、シュートを止めたことを褒め讃える。

 漫遊寺イレブンも木暮の活躍に胸打たれたようでこちらへ走ってくるが、木暮が仕掛けたらしい落とし穴に見事にハマり、一転して怒声を響かせていた。

 

 

 そこに漫遊寺の監督がやってきて、どこかへ逃げた木暮に関して皆が一緒に連れていくべきだとか色々と話をしていたが、俺にはその内容が頭に入ってこなく、ただ呆然とゴール……デザームがいた場所を見つめていた。

 

 

 この試合、俺は何も出来なかった。あの絶好のチャンスで点を取ることも、相手のシュートを阻止することも、結果無事だったとはいえチームに慣れていない木暮を守ることも何もかも。先のジェミニストームの試合では、FWの中で俺だけゴールを奪えていない。

 こんなんじゃダメだ。いなくなった皆の思いを背負っているのに、このチームの副キャプテンだというのに。

 

 

 

 

 

もっと、強くならないと。




筆が乗ってるので次の更新ももしかしたら近いうちにできるかもしれません、多分

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