Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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立て込んでた用事がとりあえず落ち着いたので今のうちに更新したいな…出来ればいいな…
更新止まってる間もUAなどなどありがとうございます、多忙期間の支えとなってました




第55話 力の果てに

「身体中が痛い……何だこのシュートは」

 

「見たか鬼道ォ……!これが俺の力だァ!!」

 

 

 痛みに苦しむ守、それとは対照的に恍惚の叫びを上げる佐久間。自分の身体を抱き締めるようにして狂気すら感じる大笑いだ。その身体が震えているのは歓喜ゆえか、はたまたその身体に襲いかかる大きな代償ゆえか。

 絶大な威力と引き換えに凄まじい威力を発揮する皇帝ペンギン1号。あれこそが影山の企みにして秘策ということか。だが一発でこの様子、連発しようものなら間違いなく佐久間が壊れる。

 

 

「鬼道、あの技は"何回まで"だ」

 

「……2回。もし3回目を撃てば……佐久間は二度とサッカーが出来なくなる」

 

「成程。だが、これ以上撃たせないに越したことはないな……皆聞いてくれ!」

 

 

 皆に声を掛けて集めると今回の作戦を鬼道が告げる。それは極めてシンプルなもので、佐久間にボールを渡さないようにしようというもの。これ以上あのシュートは撃たせない。そして佐久間を徹底的にマークする役目を担うのは───

 

 

「僕に任せて、スピードで抑え込むなら僕が1番適任のはずだよ」

 

「ああ、頼んだぞ吹雪。万が一ということもある、土門、風丸もカバーに入れるようにしておいてくれ。壁山は最悪の事態、シュートを撃たれた時に備えていてくれ。あれは止める側もかなりのダメージになる。守を助けてやってくれ」

 

「はいっス!」

 

「だがお前も無理はするな。止め切るんじゃなくて程々に威力を削るイメージだ、良いな?」

 

 

 吹雪が守備に入るなら得点源を担うのは俺と染岡……いや、もっと有効な手段があるな。これなら佐久間と源田の目を覚ますことも出来るかもしれない。そうと決まれば早速鬼道に提案してみよう。

 

 

「鬼道!─────」

 

「確かに、意表を突くという意味合いでも良いかもしれない。だが大丈夫か?ぶっつけ本番になる」

 

「問題ない。元々攻めの手を増やすために提案しようとしていたことだ。染岡は……まあ何とかなるだろ」

 

 

 鬼道の了解も得られたので染岡にも狙いを伝える。染岡は鬼道とは違って疑いなしに了承してくれた。

 となると、まずは何としてでもシュートチャンスを掴む必要があるな。なおかつ、俺達3人が揃っていなければならない。それなら3人同時に攻め上がるのがベストだろう。ボールのキープは鬼道。俺と染岡は左右を固めるイメージだ。

 

 

「よし、行くぞ」

 

 

 ホイッスルと同時に後ろの鬼道にボールを流して駆け上がる。相手の妨害に備えてて……と思ったがどういう訳か全くボールを奪いに来ない。意図は理解出来ないがまあいい、撃てるチャンスは必ずものにする。

 邪魔が入らなければ当然あっという間にゴール前に到達出来た。ボールを持った鬼道が声を張る。

 

 

「思い出せ!これが本当の皇帝ペンギンだ!!」

 

 

 鬼道の指笛が高らかと響き渡る。それを聞いて地面から姿を現したのは5匹のペンギン。鬼道が思い切りボールを蹴り出すとそれに追従するようにペンギン達は空を舞う。

 強大な力を秘めたペンギンを従えたボールが辿り着いたのは俺と染岡が待ち受ける一点、それを迎えるように、更に送り出すように俺達は左右から同時に渾身のシュートを叩き込む。

 

 

皇帝ペンギン2号ッ!!

 

 

 かつて帝国が俺達との試合で見せたあのシュートが俺達の手によってそれを最もよく知る2人の眼前に解き放たれる。

 佐久間が放った皇帝ペンギン1号を改良して負荷の分散に成功したのがこの2号。言わば影山から離れた帝国の象徴だ。この技を持ってして2人の心を取り戻してやる。

 

 

「ふッ……」

 

 

 その時源田が見せた不敵かつ獰猛な笑みが何か良くない予感を感じさせる。何とも言い表せないそれにはお構い無しにキャッチの構えを取る源田。その構え方はいつかの試合で見せたパワーシールド、フルパワーシールドのどれとも違うものだった。両手首を合わせ、一点に気を集中させている状態から思い切り手を開く。その様はまるで獲物を待ち構える獣。

 

 

「なッ、あれは!!」

 

 

 源田を見た鬼道が顔を顰める。それだけで俺が感じた予感が間違いであってくれなかったことを察しがつく。鬼道の反応、シュートを敢えて撃たせるような動き、そして先程の佐久間の禁断の技。クソッ、後者二つで十分に察することは出来たはずなのに何故気付けなかった!?

 

 

ビーストファングッ!!

 

 

 テリトリーに入り込んた獲物を食い殺すかの如くボールへ喰らいつく源田。上下から襲い来る牙にペンギン達は無惨にも食い破られる。

 もしシュートを止められるだけならどれだけ良かっただろうか。だが非情にも目の前の源田は先程の佐久間を彷彿とさせるように息を荒らげ、顔を苦痛に歪める。だがその奥には圧倒的力への歓喜が秘められていた。

 

 

「鬼道」

 

「ああ……ビーストファング、皇帝ペンギン1号と同じく封印されたもう1つの禁断の技だ!」

 

「佐久間にシュートを撃たせず、源田にあのキャッチをさせないようにしなくちゃいけない訳か」

 

 

 口で言うのは簡単だがこれはかなり難しい。シュートを撃たせないのはまだしも、源田に技を使わせないというのが特にだ。こちらは既に1点リードされている以上シュートを撃たなければ負ける。しかしシュートを撃てば……という訳だ。

 つまり、源田の反応を許さずにシュートをぶち込まなければならない。そんなことが出来──

 

 

「──そうだな」

 

 

 1つ妙案を思い付いた。これなら源田に必殺技を出させることなく点も奪い取れるかもしれない。というよりこれ以外に手段が思い付かない。この作戦のキーになるのは染岡、吹雪。この2人だ。必要なのは互いにしっかりと合わせるための連携力と何よりスピードだ。

 俺と染岡でも連携は出来るかもしれないがスピードの面を考慮すると吹雪と染岡で組ませた方が確実だろう。北海道での一悶着を経てアイツら2人のコンビネーションも高まっている、任せる価値は十二分にあるだろう。

 

 

「染岡、吹雪!ちょっと来てくれ」

 

「どうしたんだい?」

 

「お前達に点を取ってもらおうと思ってな」

 

 

 作戦はこうだ。まず俺がボールを前線へと運ぶ。シュートを狙えるエリアまで辿り着いたら染岡がワイバーンクラッシュを撃つ。ただし回転を掛けてゴールから逸れるように調整してもらう。そうして向かう先で待ち構えるのは吹雪。エターナルブリザードでのシュートチェインで源田の意表を突き点数をもぎ取る。

 

 

「へっ、おもしれぇじゃねえか」

 

「やってやろうぜ吹雪!」

 

 

 作戦内容を告げると吹雪はあの攻撃的な雰囲気でニヤリと笑い、それを見た染岡も握り拳を作って同意を示す。

 シュートを撃つのは2人だが、そこまでボールを運ぶ俺も責任重大だ。作戦の発案者でもある以上しくじる訳にはいかない。もう一度気を引き締め直さないとな。

 

 

「鬼道、お前は佐久間を注意しておいてくれ。吹雪が攻撃に参加する以上徹底的にマークしておきたい」

 

「ああ。……源田を頼む」

 

「任せろ」

 

 

 俺達はフォーメーション変更、後ろに下がっていた吹雪を前に押し上げ、代わりに塔子が後陣に参加する。鬼道は依然として中陣を担っているが、必要に応じて後ろに下がるだろう。念の為一之瀬にも万が一の時にはすぐ守備に回れるようにと頼んでおいた。

 

 

「へっ、何を考えてるか知らねえけど何もしない方が良いんじゃねえの!」

 

「そうは行かない。お前らの好きなはさせない」

 

「やれるもんならやってみなァ!!」

 

 

 ボールを持った不動に対して圧力を掛ける。嘲笑とともに負けじとぶつかってきて俺の身体が大きく揺れる。

 この男、影山の企みに何を思って賛同しているのかは分からないが相当なやり手だ。ボディコントロールは勿論俺の動きを的確に読んでくる。そこに荒々しさが加わってくるのだから厄介極まりない。

 

 

 だがな、その程度で折られる訳にはいかないんだよ。

 

 

「ラァッ!!」

 

「チッ、穏やかじゃねぇな!」

 

 

 ここは力づくで突破するのが手っ取り早い。敢えてボールを奪いきらずに粘ることで俺では不動からボールを奪うに足らないと油断させる。心理的な余裕から生まれるプレイの隙を強引に突いてやればボールは俺のものになる。プレスに耐えきれず俺から離れた不動、それを横目に俺は一気に加速する。

 直後、2人のDFが俺に襲いかかる。大柄な体型を活かした質量での力押しか。これなら避けられる、問題無い。

 

 

「良い!撃たせろ!」

 

 

 その時、不動がその2人に撤退を命令する。撃てるものならどうぞ撃ってください、ということだろうな。仮にも仲間を使い潰すような真似だがアイツは佐久間、源田に技を使わせたがっている。俺達がバカ正直にゴールを狙ってくれるのなら願ったり叶ったりということだろう。

 

 

 

「染岡ッ!」

 

「おうよ!!ワイバーンクラッシュ!!

 

 

 だが俺達にはあの作戦がある。油断してくれるなら思う存分に油断してくれれば良い。俺は染岡にパスを送る。すると染岡はボールを蹴り上げ、蒼のワイバーンを呼び寄せる。空中でヒラリと舞った後に染岡の元へ降り立つと、染岡は全力でシュートを放った。……ように見えるだろうな。

 

 

 染岡を見て源田は再びあの構えを取る。だがしかし、そのシュートは源田の意図せぬ方向へと曲がる。そこに待ち受けていたのは吹雪。その表情が一気に焦りへと転ずる。だが流石に一流、すぐさま意図を察して構え直すが──

 

 

「遅せぇ!エターナルブリザード!

 

 

 最小限の動きで最大限のスピードを発揮したエターナルブリザードが炸裂する。元々ボールに乗っていたシュートの威力に上乗せする形になったため威力も上々、そのシュートは源田の反応を一切許さずゴールネットを激しく揺らした。当然、必殺技の発動すら許していない。つまり俺達の狙い通りだ。

 

 

「ナイス」

 

「おう」

 

「当然よ」

 

 

 こちらへ戻ってくる染岡、吹雪を手を挙げて迎えるとやや強めのハイタッチが飛んでくる。それと同時くらいに前半終了のホイッスルが鳴り響く。スコアは1-1の同点、勝つにはあと一点奪う必要がある訳だが……先程と全く同じでは流石に通用しないと見た方が良いだろう。だがどうする、それ以外に手段など思い付かない。

 

 

「俺達はこのまま佐久間にシュートを撃たせず、さらに1点を奪い取る必要がある」

 

「ああ。しかし同じ手は通用しないだろう。源田はそんなに甘くない」

 

「それにあっちのキャプテン……かなり頭が切れるよ、もしかしたら鬼道クラスかも」

 

「……よし」

 

 

 汗を拭き取りながら次の攻め手をどうすべきか考えていると、吹雪が何か思い付いたようにベンチの柱から身体を離す。

 

 

「何か思いついたのか?吹雪」

 

「まあ、お前の案の受け売りだけどな」

 

「てことは同じ手段、ではないのか?」

 

「ああ。染岡が撃ち、更に俺が撃つ。んでもってその次にお前だ」

 

「……ほう」

 

 

 成程な。フェイントに次ぐフェイントということか。染岡のワイバーンクラッシュに吹雪のエターナルブリザード、俺がそこに轟一閃をチェインする。当然フェイントにもなるが単純な速度でも源田の反応を越えられるかもしれないな。

 ……最初はライトニングブラスターの圧倒的威力で必殺技ごとぶち抜こうと思った。だがあの様子を見る限り発動させた時点でダメージは避けられないだろうからな。

 

 

「よし、それで行こう!」

 

「他の皆は引き続き佐久間を警戒だ!」

 

 

 方針は決まった。兎にも角にもやるしかない。試合に負けるうえ2人が影山の支配に囚われたままなんて最悪の結末は絶対に回避しなきゃならない。

 

 

「加賀美」

 

「どうした?」

 

「頼むぜ?次の点を取れるのはお前しかいねえ」

 

「当然だ、任せとけ」

 

「……それによ」

 

 

 少し顔を俯けて染岡は笑う。

 

 

「お前のプレーはなんつーか……見てて心が熱くなんだよ。だからもしかしたらそれでアイツらの目も覚めるんじゃねえか?」

 

「はっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 

「へへっ、ぶちかましてこい」

 

 

 染岡と拳を合わせて前を見る。 俺のプレーは見てて熱くなる、か。俺は自分ではそんな柄じゃないと思ってるんだけどな。そういう役は守だったら……修也だろう。現に俺は後ろに構える守の姿、前を走る修也の姿に幾度となく助けられてきた。

 けど、悪い気はしない。存分に力を振るってやろう。

 

 

 そうしてホイッスルが鳴り響く。直後俺達は走り出す。後ろから吹雪、染岡が追従する形で走ってくる。俺がそれを確認して踵でパスを出したその時、不動が嫌な笑みを浮かべて俺を通り過ぎた。

 その時、俺の第六感が再度警笛を鳴らす。絶対何かが起きる、止めなければ。すぐさま後ろを振り返る。

 

 

 

 

「ぐ、ァァァァアアッッ!?」

 

 

 

 

 直後俺の目に映ったのは足を抑えて蹲る染岡、そして先程のようにニヤついている不動。染岡の発する尋常ではない絶叫から何があったのかが分かる、いや、分からされる。

 

 

「染岡ァァァァァァァ!!!」

 

 

 吹雪がこれまでに見せたことの無い焦りようで染岡へと駆け寄る。当の染岡は依然として這いつくばったまま。他の皆も駆け寄ってきて吹雪は不動に詰め寄る。不動に審判はイエローカードを突きつけるが、一切悪びれる様子もなく吹雪、他の皆を煽りに煽る。

 

 

「テメェ今のワザとだろうがッ!」

 

「悪い悪い、まさか避けられないとは思わなくてさぁ」

 

「この野郎ッ」

 

「よせ吹雪ィ!そいつを殴ったらお前が退場になるぞ……」

 

 

 不動に掴みかかった吹雪。それを染岡が苦悶を滲ませながら制する。それで何とか拳を納めた吹雪が鬼道と共に染岡をベンチへ運ぼうとする。不動はそのまま飄々とこちらへ背中を向けてポジションに戻っていく。まるで何事もなかったかのように。

 

 

 俺は、それを追い掛けて肩を掴む。そして──

 

 

「あ?なん──」

 

 

 全力で右拳をその顔面に叩き込んだ。

 

 

「ガッはァッ!?」

 

 

 何が起こったか分からないといった表情のまま派手に吹っ飛ぶ。一瞬置いて状況を理解した不動はそれでも俺の行動が理解出来ていなさそうな様子だが何とか取り繕おうと睨んでくる。

 しかしそんなものは関係ない。そのまま詰め寄って胸倉を掴む。

 

 

「こんな競技だ、怪我をしたさせたは仕方ない」

 

「な……なら何だ?それが分かっててこんなことしてんのか?自分から退場させられるような──」

 

「けどな!!」

 

 

 怒りのままに叫ぶ。全身が燃えていると錯覚するほどの怒気、それを抑えることなく目の前の馬鹿にぶつける。

 

 

「わざと大切な仲間傷付けられて、黙って見過ごすわけねえだろうがァァッッ!!」

 

 

 俺達がどんな思いで戦ってると思ってる、どんな想いを背負って戦ってると思ってる?怪我をしてサッカーがやりたくてもやれないヤツらだっているんだ。それなのにコイツは、自分の私利私欲のためだけに染岡を怪我させた。下手すれば今後一切サッカーが出来なくなってもおかしくない行為だ。

 もしかしたら不意の事故かもしれない。けど反省の一つもない、謝ることもしない。そんなヤツをみすみす見逃してはいお咎めなしとは言えない、言えるはずがない。

 だから俺はもう一度拳を振り上げる。血が滲むくらいに力を込め、全力で叩き付けてやる。

 

 

「この、クソ野郎がァァァ!!」

 

 

 拳を振り下ろす。しかしそれが不動の顔面を捉えることはなかった。後ろを振り向くとそこに居たのは守。俺の腕を掴み、悲痛な表情で俺を見つめていた。

 

 

「それ以上は……それ以上はダメだ、柊弥」

 

「そうだ加賀美、俺なんかのためにそんなに怒るんじゃねえ」

 

 

 吹雪と鬼道に支えられながら染岡も俺に言葉を投げる。コイツらの意志を組みたい気持ちと許せない気持ちが互いにせめぎ合ってぐちゃぐちゃになる。

 守に止められてすぐのことだった、ホイッスルが鳴り響き審判が俺に近付いてくる。そして、俺に赤い何かを突きつける。

 

 

「レ、レッドカード!」

 

「……当然だ、試合相手に手を出した時点で覚悟は出来てる」

 

 

 俺は不動から手を離し、染岡と共にベンチへ戻る。心配そうにこちらを見ている春奈達をよそに監督の前へ行き、頭を下げる。

 

 

「申し訳ありません、監督」

 

「……何も言わないでおくわ。けれど貴方がしたことの重さ、忘れないことね」

 

「はい」

 

俺がやったことは、サッカー選手としてのマナー、倫理に大きく反することだ。幾ら仲間が傷付けられたからといえそこは反省しなければならない。その上レッドカードでの退場は選手の補填が認められない。つまり皆はここから10人で試合しなければならないということ。そこまで考慮して動けなかったのは俺の責任だ。

 

 

 俺はそのままベンチに腰掛けて染岡が手当を受ける様子を見守る。染岡のソックスが剥がされると、その中から真っ赤に腫れ上がった足が姿を見せる。骨は折れていないにしても相当の重傷だ。このまま試合続行はまず不可能だろう。恐らく栗松と交代になると思った。だがしかし染岡が監督に、皆に懇願する。

 

 

「交代はしねぇ!俺を最後までフィールドに置いてくれ!」

 

「だが染岡!その怪我では」

 

「分かってる!!けどあんなヤツに負けたくねぇんだ!!じゃなきゃ、じゃなきゃ俺のためにアイツぶん殴ってくれた加賀美に報いることが出来ねェ!!」

 

「染岡、お前」

 

 

 瞳子監督はこの試合を鬼道に一任している、よって染岡を下げるも下げないも鬼道次第だ。

 

 

「……分かった。試合続行だ」

 

「ありがとよ」

 

 

 そしてそのまま試合が再開する。俺がいないことで空く穴は鬼道のゲームメイクで何とか埋まっている。だが決め手に欠けていることには変わりない。先程の吹雪と染岡の連携を狙おうにも染岡はシュートを撃てる状況じゃない。それを分かってか吹雪が単身切り込むが攻めきれずボールを奪われている。

 

 

 そのまま真・帝国ペースで試合が進む。後半15分に差し掛かった頃、不動がボールをキープしたまま攻め上がり、佐久間は常にゴール付近で待機している。

 

 

「佐久間にシュートは撃たせない!」

 

「へっ、俺を止めたきゃ殴って退場する覚悟で来るこったな!」

 

 

 強引に一之瀬にぶつかる不動。負けじとぶつかる一之瀬だったが、その攻防の果てにボールは明後日の方向、いや、佐久間が待つ方向へと飛んで行った。

 

 

「まずいッ」

 

皇帝ペンギン

 

「や、やめろッッ!!」

 

1号ォ

 

 

 再び呼び寄せられてしまった血のペンギン。佐久間の意思に従いゴールへと襲い掛かる。守はすぐさまマジン・ザ・ハンドの構えに入るが、それより早くシュートは飛んでくる。このままでは再びリードを許されると思ったが、そうはならなかった。

 間に割り込んだのは鬼道。その足に莫大な負担が掛かるだろうが意地で皇帝ペンギン1号を止めにいく。

 

 

「ぐ、ォォオオオオオ!!」

 

「鬼道!!」

 

「後は……頼むッ!!」

 

 

 だが限界があったんだろう。少し威力を削ったところで負傷しないように離脱する。しかしそのおかげで守が十分に溜めることが出来た。

 守は溜めた力を一気に解放し、金色の魔神を顕現させる。雄々しく吠える魔神はその手を持ってしてシュートを抑え込む。

 

 

マジン・ザ・ハンドッ!!

 

 

 鬼道のブロックに加えて万全の状態で放つマジン・ザ・ハンドでは皇帝ペンギン1号といえどゴールを割ることは出来ない。ボールは守がしっかりと抑え込んだがグローブからは黒煙が立ち上っている。

 

 

「円堂!大丈夫か!」

 

「そっちこそ!」

 

「俺は問題ない。だが……」

 

 

 視線の先には四つん這いで汗をダラダラ流す佐久間の姿。先程より息は乱れ、身体は大きく震えている。だがそれ以上にヤツはその絶大な威力に酔いしれているかのように顔を崩している。その姿は狂っていると言っても過言では無い。

 

 

「はァ、はァ!!次は決めるゥ……!!」

 

「今ので2回目……もし次あのシュートを撃ったら」

 

「佐久間は再起不能になる、間違いなく」

 

 

 鬼道が佐久間にもうやめろと声を掛けるがお構い無しに佐久間は戻っていく。が、一歩踏み出したその直後佐久間が絶叫する。歩くという単純な行為ですら身体への負担になる。そこまでして何故強さを求めるのか。

 ……いや、俺も根っこの部分は何も変わらないのかもしれない。形は違えど譲れない何かのために佐久間も、源田も力を求めたのだろうか。もしそうなら……俺にそれを否定する権利は無い。

 

 

 佐久間の、鬼道の苦しみなど関係なしに試合は続く。これ以上佐久間に撃たせまいと試合を展開していく皆。

 だがその焦りが仇となった。プレーに綻びが生まれ、不動の思い通りに事が進むことになる。

 

 

「退けェ!」

 

「ぐあッ!」

 

「決めろ佐久間ァ!!」

 

 

 不動かシュートのようなパスを佐久間に繰り出す。それを受け取った佐久間は……正しく狂人の笑みを浮かべて指笛を鳴らす。

 

 

皇帝ペンギン1号ォォゥゥ!!

 

「佐久間ァァァァ!!」

 

 

 3度目。死のカウントは満たされてしまった。2回目で限界のはずたった皇帝ペンギン1号をまたも放った佐久間はもはや獣のそれに近い叫びを上げる。そしてその射線上に立ち尽くすのは鬼道。佐久間の惨状を目の当たりにして動けずにいる。

 このままでは鬼道に直撃だ、もし無抵抗にあれを喰らったら鬼道も再起不能になったっておかしくない。

 

 

「ぐッ……らァァァァァアアアアッッッッッ!!」

 

「そ、染岡ッ!?」

 

 

 何とその間に割り込んだのは染岡。しかも、怪我をした方の利き足でだ。一瞬シュートが止まったが、染岡が弾き飛ばされると同時に明後日の方向へと飛んで行った。地面に打ち付けられ、その場に蹲る染岡。すぐさま鬼道が駆け寄るが動けそうもない。

 ……そして。

 

 

「ァ……ァァ……」

 

「さ、佐久間?」

 

「……」

 

「佐久間ァァァァァァァァ!!」

 

 

 染岡に続き佐久間も倒れた。同タイミングで試合続行が不可能に陥った選手が2人。そしてその瞬間に試合終了のホイッスルもなる。

 

 

「染岡!!おい!!しっかりしろ!!」

 

 

 試合が終わったなら俺がコート内に立ち入れない理由もない。すぐさま駆け寄って染岡を抱きかかえる。意識はあるようで苦痛に悶えながらも反応はある。

 

 

「お前どうしてあんな……!」

 

「へ、へへっ……言ったろ?ああでもしないとお前に顔向け出来ねぇと思ったんだよ」

 

 

 俺が、俺が早まってあんなことをしたから染岡が無茶をしたんじゃないか?俺のせいで染岡が、こんな──

 

 

「佐久間!目を開けろ!!佐久間ッ!!」

 

「もしもし!?急いで救護をお願いします!場所は──」

 

 

 佐久間に至っては目を覚まさない。この事態に監督はすぐさま救急車を呼ぶ。真・帝国のメンバーもこんなことになるとは思っていなかったようで、佐久間を囲みながら狼狽えている。誰よりもそれが顕著なのは源田だった。

 そういえば鬼道は何処に行った?試合が終わってすぐどこかへ──

 

 

「誰か鬼道を見なかったか!?」

 

「鬼道?そういえはどこに」

 

「クソッ、やっぱりか!!」

 

 

 アイツ、1人で影山のところに乗り込みやがった。何をされるか分からないってのに無策すぎる。どうにかして見つけ出さなければ。

 

 

「誰か染岡を──」

 

 

 染岡を任せ鬼道を探しに行こうとしたその時、轟音と共にこの船全体が大きく揺れる。誰かが指さした方向を見ると、なんと炎と共に黒煙が空へ昇っている。影山のヤツ、爆弾でも仕掛けてやがったのか!?

 もしそうならここにいるのは危険だ、すぐさま避難しなければ皆まとめて海の藻屑だ。

 

 

「全員埠頭に避難だ!!このままじゃ全員死ぬぞ!!」

 

「皆落ち着いて移動しなさい!」

 

 

 瞳子監督の指示で全員急いで外へと逃げる。入り組んだ構造だったが真・帝国の選手達が案内してくれたおかげで何とか事なきを得た。

 だが鬼道の姿がやはり見えない、まさか死んじゃいないだろうな?

 

 

「あ、あれ!!」

 

 

 春奈の視線を追うとヘリコプターとそこから伸びるハシゴにしがみついている鬼瓦さんと鬼道の姿があった。無事だったか……心配かけさせやがって。

 程なくして救急車も到着、意識のない佐久間だったが運ばれる間際に目を覚ましたようだ。その表情は先程とは打って代わり穏やかで、正気を取り戻したのだと分かる。

 染岡は途中から自分の足で立てており、搬送は必要ないと主張していたためこの場に残ることになった。

 

 

「佐久間……」

 

「大丈夫かな、アイツ」

 

「お前達、無事か!」

 

 

 佐久間が乗せられた救急車の姿が見えなくなって間もなく響木監督がやってきた。俺達が偽の連絡がここで来たことを知り飛んできたのだと言う。俺達の無事を確認してから何やら瞳子監督と険しい表情で話をしている。

 

 

 皆がとりあえず一悶着を終えたことに安心している最中、俺は先程の倒れる染岡の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 




真・帝国編終了、次はとうとう…
柊弥君が不動をぶん殴ったことは賛否両論だろうな…と思いつつも後々に必要になってくる描写なので割り切って描きました。今の加賀美 柊弥という男はこういうヤツなんだと思ってくれれば幸いです。
更新する際の時間についてのアンケートを置いてありますので御協力お願い致します!


追記
感想にてレッドカードによる退場は選手交代が認められないとのご指摘を頂き一部訂正致しました。h995様、ありがとうございます
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