Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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少し期間が空きましたが更新です
新必殺技をお披露目した柊弥、後半はどう立ち回るのか
それと前回も感想などなどありがとうございます、お陰様で頑張れてますのでこれからもよろしくお願いします(全力媚び作者)


第60話 鮮血が舞う

(クソッ、未だに脚が痛む。これじゃ雷帝一閃に持ち込んでも威力が出ない)

 

 

 限界を訴える脚を気にしながらポジションに着く柊弥。打倒エイリア学園の為に開発した新必殺技、雷帝一閃はその絶大な威力の代わりにその脚に甚大なダメージを与えた。一発だけでもかなりの負担になっていたにも関わらず、それを二発も撃てば本来動けなくなってもおかしくない。

 だが、それでも柊弥は折れない。背負った想いが、責務がそれを許しはしない。

 

 

『例え右脚が壊れようが……俺は皆の為に戦う』

 

「柊弥先輩……」

 

「音無さん、加賀美君が心配?」

 

「はい、何と言うか……危なっかしさ?を感じて」

 

 

 ベンチにて音無の呟きを拾った木野は問いを投げかける。その心配の理由は先程聞いてしまった柊弥の独り言だ。トイレに向かった帰りに聞いてしまったその呟きには不退転の決意が込められていた。しかし、同時にそれは柊弥が抱える爆弾の一端を感じ取らせてしまったのだ。前半開始前に感じた違和感のこともあり、その不安は頂点へと達する。

 

 

(右脚が壊れてもって、怪我をしているってこと?じゃあ止めなきゃ?でもこの試合に勝つにはきっと柊弥先輩の力が必要不可欠。それに先輩本人もきっと試合から降りない。それなら……)

 

 

 音無は一人願う。

 

 

(神様、どうか先輩を守ってください……)

 

 

 視線の先では既にボールが動き始めていた。鬼道のキックオフで送り出されたボールを受け取った柊弥は早速切り込む。

 

 

「行かせるか!」

 

「さっきはよくもコケにしてくれたわね!マキュアお前嫌い!」

 

 

 最前線のゼルとマキュアが柊弥を止めるべく動く。それを見た柊弥はヒールでボールを真上に上げて飛ぶ。前のめりになった上半身で一瞬ボールが隠れたせいですぐにそれを理解出来なかった2人は一瞬反応が遅れ、すぐさまボールと柊弥を追うも時すでに遅し。強烈な横回転を掛けながら下にボールを送り出して柊弥はすぐさま着地する。当然ボールが相手から離れているのだから、イプシロンとしてはそれを逃す理由はない。クリプトがボールを確保しに走るが、掛けられた回転がそれを許さない。暫くその場で回り続けた後に飛び跳ねるようにしてクリプトから離れたボールはいつの間にか柊弥が再び手に入れる。

 

 

(加賀美のやつ、いつの間にかあんなテクニカルな技術まで)

 

 

 それを見ていた鬼道が柊弥に感嘆の念を覚える。今見せた空中からのひとりワンツーに必要な技量は相当のもの。元々テクニックではなくスピードよりの選手だった加賀美がそんなことをしたのだからその驚きは何らおかしくない。恐らく同じこと……正確にはそれより少し劣ることが出来るのは鬼道と一之瀬くらいのものだろう。

 

 

 そのままワンマンプレーで全員を抜き去った柊弥は三度デザームと対峙する。しかし、先程自分で感じたように雷帝一閃は使えない。かといってこのシュートチャンスを逃す手はない。

 ならばどうするか?その答えを柊弥は既に導き出していた。

 

 

(雷帝一閃は使えない。だが轟一閃なら特にダメージが蓄積することも無く撃てる)

 

 

 意を決して柊弥はボールを踏み抜く。これまでよりも数段強烈な回転を帯びたボールが放電と共に宙へ浮く。その回転の加速は止まらない。すると周囲の空気を巻き込み纏う雷は更に暴れ出し、更に加速する。そのループの果てにボールが秘めるエネルギーは臨界点へと達する。

 それを確認して柊弥は鋭い蹴りを叩き込む。まるで抜刀術のような静かで、それでいて力強い一撃だった。一太刀の元に斬り捨てられたボールはエネルギーを爆発させ、その絶大な威力を維持しながらゴールへと襲い掛かる。

 

 

"真"轟一閃

 

 

 柊弥の代名詞、轟一閃は更に上のステージへと昇華した。真の名に全く恥じないそのシュートは、残念ながら雷帝一閃には及ばない。だとしても、並のキーパーから点を奪うことは容易だ。

 

 

(先程のシュート程では無いが凄まじい威力だ!あの技を使うか?いや、あれはまだ切るべきでは無い)

 

 

 デザームは心の内で一瞬迷ってしまった。切り札とも呼べる必殺技を解禁するか否か。だがそれを見せてしまえばそれ以上がないと言ってしまうようなもの。この闘争を楽しみたいといえ、己に課せられた至上命題はまた別。もし負けることがあればそれこそ終わりだ。

 その事実がデザームの選択肢を絞った。大きな円を描きながら腕を回し、胸の前で交差させる。そして待つ、あの雷が己のテリトリーに踏み入るまで。

 

 

「ここだ!ワームホールッ!!

 

 

 荒れ狂う雷のようなシュートが自分の射程圏内へと踏み入ったその瞬間、異次元へと通じる穴を開ける。重力が滅茶苦茶にねじ曲げられたらその空間の中で轟一閃の威力は段々と削がれていく。

 だが完全に抑えることは出来なかった。再び次元の穴が開くと、まだ生きているシュートがデザームへと襲い掛かる。しかし、それは充分に抑えきれてしまう範疇。デザームは両手でガッチリと受け止める。

 

 

「素晴らしい……もっと撃ってこい!」

 

「望み通り何度でも撃ってやるよ」

 

 

 だがその挑発とは裏腹にデザームはボールを前へと送り出した。現在は雷門側がリードしている。先程も脳裏に過ったように自分達に敗北は許されない。柊弥のシュートを味わうためにはまず同点、そこから点数有利を取らなければいけないことを理解しての行動だった。

 だが、その狙いとは裏腹にボールがイプシロンに渡ることは無かった。

 

 

「点を取る、僕が、俺が……」

 

 

 小さな声でボソボソと何かを呟いた、次の瞬間。

 

 

「点を、取るんだァァァァァァァッッッ!!」

 

「よせ吹雪!戻れ!」

 

 

 獣のような咆哮と共に吹雪は一気に加速する。フィールドの真ん中辺りからまるで風のように駆ける吹雪。その過程で邪魔をする者は全員力尽くで押し退ける。暴走機関車と例えて差し支えないほどの立ち回りに全員危機感を覚えるが、それと同時に期待も抱く。今の吹雪ならもしかしたら追加点が取れるのではないか、そんな思いが頭を過った。

 

 

「来るか、いいだろう!」

 

「その余裕、ぶっ壊してやるよォォォ!!」

 

 

 ディフェンスの最終ラインすらも突破した吹雪、そのままの勢いでシュート体制に入る。両脚で挟み込んだボールに回転を掛けると、凄まじい勢いでブリザードが巻き起こる。冷たく、肌を突き刺すような冷気。あまりの強さに少し離れたところにいる柊弥も腕で顔を守る。そして同時に感じ取った。今から放たれるシュートは先程の轟一閃に劣らない威力を秘めていることを。

 

 

エターナルブリザード"V2"!!ぶっ飛べェェェェェ!!

 

「すげぇ!さっきより進化してるぞ!」

 

 

 直後、ブリザードが荒れ狂う。天災の如き威力のシュートは容赦なくゴールへと襲い掛かる。それを見たデザームは口元を笑みで歪める。先程と同じように構え、同じように迎え撃つ。

 

 

ワームホォォォル!!

 

 

 再び出現した次元の穴にエターナルブリザードは吸い込まれる。そしてまるでリプレイのように威力が死んでいないボールが異次元を貫いてデザームへと突き刺さる。

 だがそのボールはやはりというべきか、デザームの手中に収まりきっていた。

 

 

「クソがァッ……!」

 

「この局面で進化するとは、貴様も面白い!だが私からゴールを奪いたければ……これくらいはやってみせろ!!」

 

 

 そう言い放ってデザームは思い切りボールを蹴り飛ばす。その着地点にはゼル、マキュア、メトロン。そして本来そこを守るべきは……吹雪だった。

 それに気付いた時にはもう遅い。風丸、壁山、土門がその穴を埋めに走るが間に合わなかった。そこを突いてイプシロンはとうとう雷門ゴールへと辿り着く。

 

 

「ガイアブレイクだ!戦術時間2.7秒!」

 

『了解!!』

 

 

 デザームの指示を聞いて待ってたと言わんばかりに加速する3人。ボールを背に気を高めると3人のエネルギーが互いにぶつかり合って増幅し、地面を割る。光の柱と共に浮いたボールが鎧のようにそれらを纏い、岩塊と化したボールを3人が同時に蹴り放つ。

 

 

ガイアブレイクッ!!

 

 

 正しくそれは大地の一撃。岩の鎧から解き放たれたシュートは凄まじく、強大な力を帯びていた。

 音を立てながら迫るそのシュート、対する円堂は並々ならぬ圧力を感じていた。

 

 

(すごいシュートだ!止められるか?いや───)

 

 

 だがそれでも、彼は逃げない。

 

 

「おおおおおおッ!!マジン・ザ・ハンドォ!!

 

 

 心臓から右手へ、右手から全身へ。漲らせた神々しいエネルギーは円堂の全身から金色の魔神となって現れる。咆哮を上げながらその威厳を誇示する魔神は、主人の意志に従い迫り来る脅威を迎え撃つ。

 しかしあの3人が放つガイアブレイクは、イプシロンが誇る強き矛。円堂のマジン・ザ・ハンドは確かに強力だ、そのうえ使用者である円堂自身ももはや国内において最高峰と言って差し支えないキーパー。

 それでも、偉大な大地の力を得たこのシュートは抑えきれなかった。

 

 

「ぐ……うわッ!!」

 

 

 円堂の魔神は掻き消され、ゴールネットは突き破られそうな程に揺らされている。無情にも得点を告げるホイッスルが鳴り響き、円堂は悔しさを拳に込めて叩き付ける。

 得点は互いに1点、同点である。

 

 

「円堂!大丈夫か!」

 

「ああ……すまん、止められなかった」

 

「仕方ねえよ、あんなとんでもないシュートを隠し持ってるなんてな」

 

 

 鬼道や土門がすぐさま駆け寄り円堂に肩を貸す。口では気にするな、と言いつつも全員危機感を覚えずにはいられなかった。特訓を経て凄まじいほどのパワーアップをしたにも関わらず点を奪われてしまったのだから無理はない。しかも前半終了直前、柊弥の新必殺技は止められ、吹雪のシュートも通用しなかった。

 しかし、それとは裏腹に柊弥の闘志はさらに練り上がる。点を取られたのならまた取り返せばいい、勝つにはそれしかないのだからと。

 

 

「加賀美、いけるか?」

 

「今はまだ待ってくれ。その時が来たら……俺が必ず点を奪う」

 

 

 その問いに対して柊弥が返したのは今ではないという答え。その真意を悟ることは出来なかったが、現状唯一の打開策は柊弥の雷帝一閃。それ故に鬼道は首を縦に振るしかなかった。

 短く会話を終えて2人揃ってポジションに戻る。間もなくしてホイッスルが鳴り、柊弥は鬼道へボールを渡す。その時だった。

 

 

「おおおおおおおおッ!!!」

 

「なッ!吹雪!?」

 

 

 2人の間に吹雪が割り込む。そのままの勢いでイプシロンのゴールへと向かっていく。鬼道や他のメンバーが声を掛けるも聞こえていないようで、イノシシの如く敵陣を走り抜ける。

 そこで鬼道の脳裏に浮かび上がったのは先程の光景。吹雪の独断で生まれた穴を突かれたカウンターだ。

 刹那、鬼道は声を張る。

 

 

「加賀美!吹雪のポジションに入ってくれ!」

 

「分かった」

 

 

 鬼道が降したのは柊弥と吹雪のポジションを入れ替えるというもの。瞳子からの指示でのポジションだったが、それすらも無視している以上こっちが合わせるしかない。

 

 

「面白い!!」

 

 

 デザームのその大胆不敵な立ち姿に吹雪は更に激昂する。もはや目の前のゴールしか見えていない吹雪は再びエターナルブリザードの構えに入る。

 同時に吹雪が発したのは血を吐くような咆哮。それに共鳴するかのように豪雪が唸りを上げる。先程のシュートよりも更に強くなっていることは容易に分かった。

 

 

エターナルブリザード"V2"ッッッ!!

 

 

 ボールを蹴り砕く勢いで放たれた一撃は絶対零度の冷気と共にゴールへと襲い掛かる。シュートが風を切る音は猛獣の叫び声のようだった。しかしデザームはその笑みを崩さない。

 

 

ワームホール!

 

 

 再びワームホールで迎え撃つデザーム。先程よりも押されているように見えたが、やはりその守りを崩すには至らない。デザームの腕の中にボールは納められる。

 

 

「クッソォ……ッ!!」

 

「ふん、まだ足りんようだ──なッ!!」

 

 

 歯軋りする吹雪を横目にボールを送り出すデザーム。それを受け取ったのはゼル。その後ろからマキュア、メトロンも走ってくる。イプシロン側の狙いを雷門陣営はすぐに察しただろう。そう、ガイアブレイクだ。

 だが先程とは違う点が1つある。守備に参加した柊弥だ。迫り来る3人に対して柊弥は指を鳴らす。

 

 

サンダーストーム"V2"

 

 

 柊弥の背後に出現する11本の剣。バラバラの軌道を描きながら前方へと飛んでいく。雷風の如く襲い掛かるその斬撃にメトロン、マキュアは斬り刻まれる。

 2人が欠けたことによりガイアブレイクの発動条件は満たせない。ならばとゼルが単身シュートを撃つために走る。

 だがその前に立ちはだかるのは土門。腹を括った土門は右足にエネルギーを溜めて飛び上がる。

 

 

「やらせるか!!」

 

 

 そのまま右足を振り抜くと斬撃が放たれる。その斬撃が地面を刻むとそこからマグマのようにエネルギー波が壁を作る。それに行く手を阻まれたゼルはボールを逃してしまう。

 これこそ土門が特訓の果てに編み出した新必殺技。ジェミニストームの襲撃にて怪我をしてしまった親友に学んだものだ。

 

 

「凄いっす土門さん!!」

 

「まるで地面から噴き出すマグマ……さしずめ、ボルケイノカットと言ったところでしょうか」

 

 

 土門からボールは柊弥に渡る。一瞬柊弥は攻めるべきか守るべきか選択を迷ったが、鬼道の頷きで腹を決める。

 直後加速する柊弥。選んだのは攻めだった。しかし柊弥はまだ決めるつもりはなかった。来るべきに確実に決めるためにデザームを削る、それが柊弥の選択だ。

 

 

「おい!俺によこせ!」

 

「少し頭を冷やせ。今のお前じゃデザームから点を奪えない」

 

「んだとォ……!」

 

 

 柊弥の横に張り付くようにしてボールを要求する吹雪。だが柊弥はそれに一切取り合わない。

 その時だった。なんと吹雪は柊弥にタックルを仕掛けた。それにより柊弥はグラりと体勢を崩すが倒れない。

 

 

「そこまで言うなら良い、お前が撃て」

 

「言われなくてもやってやらァ!」

 

 

 それに対して柊弥は怒ることも無く、ただボールを渡した。味方である吹雪に潰されるリスクを負うくらいならいっその事委ねた方が良いと判断しての行動だ。

 そのまま吹雪はエターナルブリザードを放つ。そして同じように止められる。先程と異なる点を上げるならばまたシュートの威力が上がっていたことか。

 

 

 そこから試合は膠着状態に陥る。吹雪が撃ち、止められ、逆に攻め込まれたら雷門のDF陣がそれを阻止する。これの繰り返しだった。

 だがその中で明確に何かが変わっていく。

 

 

旋風陣ッ!!

 

「木暮!!やっと成功したな!!」

 

 

 木暮がずっと特訓してきたあの必殺技を完成させ──

 

 

「なるほど、私にも分かってきました。デザーム様の言葉の意味が」

 

「フハハハ!!そうだ、魂と魂のぶつかり合い。これこそが私の求めていたものだ!」

 

 

 試合の中で成長していくそんな雷門イレブンを見てデザームが、それに感化されたイプシロンのメンバー達が高揚感を覚える。

 そして、その様子を見て心を躍らせるのはイプシロンだけでは無い。

 

 

「皆すげぇぜ!俺も負けてられないな!」

 

 

 雷門陣地の1番後ろで円堂は笑う。自身の頬を叩き、自分もやってやろうと気合いを入れ直す。そしてそれが試される時は案外すぐに訪れた。

 ゼル、メトロン、マキュア。ガイアブレイク撃てる3人はこれまでの攻防の中で確信した。雷門のディフェンスラインに踏み入ってはシュート前に阻止される可能性は高い。ならば、その前から撃ってしまえば問題は無いと。それでもあのキーパーを破る威力がガイアブレイクにはあると。

 

 

ガイアブレイクッ!!

 

 

 そして放たれた一撃。圧倒的な大地の力がゴールを守る円堂へと襲い掛かる。

 先程ゴールを破られた円堂だったが、その顔は笑っていた。

 

 

(止めろ守、それさえ何とかしてくれれば、後は俺が……)

 

「円堂ォ!!」

 

「へへっ、任せろ!」

 

 

 円堂はこれまでとは違う形で構える。その時、心臓に満ちたエネルギーが円堂の身体の周りでうずまき始め、凄まじい勢いでそのパワーは増幅していく。

 円堂の右手が光り輝き、それを高く掲げる。するとこれまで見せた中で最も強大な力を感じさせる魔神が姿を現す。次々と進化していく仲間達に負けじと1つ上のステージへと登ってみせた。

 

 

マジン・ザ・ハンド"改"ッ!!

 

 

 真正面からぶつかり合い大地の一撃と魔神。以前ならば間違いなく円堂が押し負けていただろう。だが進化した魔神はそのシュートをものともしない。後ろに押し込まれることなくシュートを殺した円堂はボールを手中に収める。

 

 

「ほう、ガイアブレイクを止めるか」

 

「やったな円堂!!」

 

「おう!!後は頼むぜ……柊弥ッ!!」

 

 

 この時点で既に後半終了はすぐそこだった。このまま行けば引き分けでこの試合は終わるだろう。

 しかし、それをこの男が許すはずもない。

 

 

「任せろ」

 

 

 円堂から送られたロングパス。それを受け取ったのは柊弥。

 そのまま雷光の如く攻める柊弥を止めようと試みるイプシロンだが、誰一人その行く手を阻めない。

 そして遂に、柊弥とデザームが向き合う。

 

 

「来い!加賀美 柊弥!!貴様の全力、この私が止めて見せよう!!」

 

「……」

 

 

 デザームのその宣言に対して柊弥は何も返さない。ただ静かに、真っ直ぐデザームを見据える。

 この試合の中で常に平静を保ってきた柊弥。しかし、直後柊弥の顔に戦鬼が宿る。

 

 

「終わりだァァァァッッ!!デザァァァァァムゥゥゥッ!!」

 

 

 その時が来た、と言わんばかりに柊弥は感情を爆発させる。正しく血を吐くような咆哮だった。それと同時に柊弥の全身から迸るのは()()の雷。その様はまるで弾ける血のようだった。柊弥がこれまで見せてきた雄々しき雷とは真反対、暴力の象徴のような禍々しさを撒き散らす。

 力を漲らせた柊弥は弾丸のようなシュートを放つ。その時点で十分すぎる威力を誇っているにも関わらず、何度も自らのシュートに追い付いては蹴る。

 増幅したエネルギーは今にも暴発しかねないほど。そんな暴れ馬のようなボールを無理やり支配下に置いている以上、当然莫大な負荷が掛かる。 だがそれでも、柊弥が止まることは無い。

 そして柊弥はボールを蹴り上げる。凶星が空高く煌めく。それは柊弥によって地へと堕とされる。ほぼ同時に地面に降り立った柊弥は真っ直ぐに脚を振り抜いた。

 

 

雷帝一閃ッ!!

 

 

 三度雷帝の一撃が轟く……かと思われた。ボールは柊弥の脚から離れていない。あまりに膨大すぎたエネルギーを柊弥は送り出すことが出来ていなかったのだ。

 鬼気迫る表情で柊弥は更に力を込める。

 

 

「がッ」

 

 

 その時、身体の内側から嫌な音がしたのを柊弥は聞いてしまった。何かが千切れるような、弾けるような音だった。

 蓄積したダメージ、そして無理に放とうとしたこの一撃。この2つの要因が柊弥の身体に限界を齎してしまった。

 だがそれでも……柊弥は折れない。

 

 

「ガ、ァァァァァァァアアアアアアッ!!」

 

 

 再び咆哮。柊弥は()()()()()()()()()()更に力を込めた。その瞬間、時が止まり、空間が歪んだ。不変のはずのその概念を捻じ曲げるほどの凄まじい一撃だった。

 そして、そこで柊弥の意識は闇へ沈んだ。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「ガ、ァァァァァァァアアアアアアッ!!」

 

 

 柊弥先輩が叫びながらボールを蹴り抜いた。その時凄まじいことが起こった。私達の視界は真っ赤に染まり、その端っこで何かが爆発してその爆風がベンチにいた私達にまで襲い掛かる。

 それが治まって顔を上げた時、私達は皆言葉を失ってしまった。イプシロンのゴール側、正確にはゴールから右に逸れた先の壁が抉れていたから。

 本来それを撃ち込まれるはずだったデザームには何の傷もなかった。けれど、無表情のまま動けていない。

 そして、柊弥先輩はその場に崩れ落ちた。

 

 

「と、柊弥先輩ッ!!」

 

「加賀美!」

 

「柊弥!しっかりしろ!」

 

 

 私達はすぐさま柊弥先輩に駆け寄る。声を掛けても反応はない。身体を抱えて起こすと、先輩は気を失っていた。いくら呼び掛けても目を覚まさない。

 

 

「……ふっ、引き上げるぞ」

 

『ハッ!デザーム様!』

 

 

 その時、デザームの指示でイプシロンが全員ゴール付近に集まり、上からはあの黒いサッカーボールが降ってきた。

 それを見た吹雪先輩が怒り狂って詰め寄ったけど、キャプテンが止める。

 

 

「再び戦う時は遠くない。我々は真の力を示しに現れる」

 

 

 そういってデザーム達は消えた。吹雪先輩は落ち着きを取り戻し、頭を冷やしてくると言ってどこかへ行ってしまった。

 私の腕の中では、柊弥先輩が目を閉じている。

 

 

「私が……私が、止めなかったから」

 

 

 もしあの時私が止めておけば、柊弥先輩は傷つかなかったかもしれない。確かにこの試合に勝つには先輩の力が必要だったんだと思う。けど、こんな傷ついた先輩を見るくらいなら、止めておくべきだったのかもしれない。

 私は、どうすれば良かったんだろう?その問いに対して答えを返してくれる人は誰もいない。




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