Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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お気に入りが減った…って落ち込んでたらそれ以上に増えていく今日この頃。何と今回は12000字越えとなりました。
2つの話に分割しようかな…とも思ったんですが、アニメではジェネシスとの試合は何と1話のうちの半分くらいしか掛けられていないので1話に詰め込みました。その他にも意図はあるんですがそれはまあそのうち…


第64話 崩壊

「まさか、イプシロンの他にまだチームがあったなんてな」

 

「イプシロンを倒したら終わりだと思ってたでヤンス……」

 

 

 ベンチにて試合前の作戦会議を行う雷門イレブン。突如として始まろうとしているエイリア学園第3のチーム、ザ・ジェネシスとの試合に戸惑いを隠せないといった様子だ。

 その戸惑いも当然。最初に倒したジェミニストームはセカンドランク、あのイプシロンはファーストランクと名乗った。そのまま受け取ればイプシロンこそがエイリア学園の本命。まさかその上があろうなど思ってもいなかった。

 

 

「加賀美、アイツらに関して何か知っていることは?」

 

「……分からない。ただあっちのキャプテン、あの赤髪のヒロトは俺の雷帝一閃の完成に一枚噛んでいる。実力者と見ていい」

 

 

 そう柊弥が返すと鬼道は少し考え込む。イプシロンと引き分けた後に出てきたこのチーム、順当にいけばイプシロンよりも強いだろう。だとすると、イプシロンと引き分けだった自分達はこのチームに勝てるのか?そんな考えたくもない疑問が頭に過ぎってしまう。だが、そんな疑問は直ぐに振り払った。試合の中でそんな迷いは何の役にも立たない。勝つ気でやらない試合に勝てるはずがないのだと、そう奮起する。

 

 

 そして、少し離れた場所にてまた一人考え込んでいる者がいた。

 

 

(この試合、僕がシュートを決めるんだ。吹雪 士郎が撃つんだ!)

 

『はァ?お前が?』

 

(──ッ、アツヤ!?)

 

『お前はディフェンスだろうよ。ボールを取ったら大人しく俺に回せ、良いな?』

 

(……そんなこと言ったって、お前も前の試合では決められてなかったじゃないか)

 

『……うるせェ、もうあの時の俺じゃねえ』

 

 

 吹雪……いや、士郎は己の中に住まうアツヤと喧嘩まがいの言い争いをする。士郎の言う通り、アツヤは以前のイプシロンとの試合で点を決めることは出来なかった。それを指摘するとアツヤはバツが悪そうに吐き捨てる。

 それ以上の押し問答は意味を成さないと感じたアツヤは再度ボールを取ったら大人しく変われ、とだけ言って士郎の心の奥へと姿を消した。だがそう言われても士郎の腹積もりは変わらなかった。自分がここにいる意味、存在価値を見つけ出し、それに縋るために。

 

 

「吹雪!」

 

「……なんだい?鬼道くん」

 

「この試合、最初からお前と加賀美のツートップだ。良いな?」

 

「うん、勿論さ」

 

 

 そう声を掛けられた吹雪は皆のいる方へと歩み寄る。心の内で何かを悩んでいたことを悟られぬように平静を装いながら。

 作戦の伝達が終わった雷門イレブンはグラウンドへと目を向ける。その視線の先には底知れない威圧感を放つザ・ジェネシス達が佇んでいる。柊弥の視線に気付いたヒロトは少し笑って身を翻す。

 

 

「よし皆!行くぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

 円堂の発破を受けて全員走り出す。ポジションに着いた柊弥は目の前のザ・ジェネシス達を見て冷静に分析を始める。

 

 

(あのイプシロンの試合から皆また強くなってる。だがコイツらは間違いなくイプシロンよりも強い。どの程度強いのかは全く分からないが……悔しいけど、こっちよりもあっちのアベレージの方が高い。それを打ち破る為には……)

 

 

 自分の仲間達よりも相手の方が強いと判断を下した自分に苛立ちを覚えながらも、腹を決める。

 

 

(俺が中心になって立ち回る。攻撃も守備も全て)

 

 

 傍から見ればただのエゴ。だが、その根底にある想いは決してそんな軽いものではない。柊弥の胸に宿るのは唯一つの強い決意。何があろうとも自分が仲間を守る。仲間達が自分に刃を向ける悪夢なんて関係ない。それが自分、加賀美 柊弥がここにいる意味。貪欲に強さを追い求めた意味なんだと。

 

 

 そう決意した柊弥は修羅のような空気を纏い出す。そんな背中を見ていた雷門のメンバーは柊弥の気迫に半ば気圧される。だがそんな中で、珍しく円堂が心配の目線を向けていた。

 

 

「柊弥……」

 

 

 普段ならば円堂が柊弥を心配することはない。互いに積み上げた信頼がアイツならば大丈夫だという確信へと繋がっているからだ。しかし、近頃の柊弥はそんな確信すらも揺らぐ程に不安定だった。何時もは鈍い円堂ですら危うい何かを感じていた。だがそれでも、円堂が柊弥に向けたのは信頼の目線。

 

 

「頼むぜ、親友」

 

 

 円堂のその呟きを聞いたものは誰もいない。そしてそんな想いを向けられていたことに今の柊弥は気付かない。最早敵とみなした目の前のチームしか眼中に無かった。

 

 

「加賀美君」

 

「俺が、俺がやるんだ……絶対に……」

 

 

 吹雪が柊弥に話し掛ける。だがその声はまるで届いていないようで、独り言をブツブツと発するのみ。そんな様子が吹雪の不安感を更に煽る。自分は眼中にないのではないか、自分の存在意義を求めて焦っている吹雪は更に焦る。

 

 

「さあ、始めようか加賀美君、そして雷門イレブン」

 

 

 ヒロトがそう呟いたその瞬間、ホイッスルが鳴り響く。それとほぼ同時だった。ボールを持った柊弥がまるで爆発のような踏み込みから加速、一瞬にして姿を消した。近くにいた吹雪がパスを要求する余裕すらない、正しく神速の切り込み。

 

 

「何ッ」

 

「ただの人間が……ここまでの!?」

 

 

 それだけではなかった。柊弥のスピードはジェネシスのメンバーですら驚きを隠せない程の凄まじいものだった。それを見たヒロトは最大限まで口を歪めて柊弥へと襲い掛かる。

 

 

「凄いよ加賀美君!俺達にも負けない凄いスピードだ!」

 

「ヒロトォ!そこを退けェッ!!」

 

 

 誰も止められない。そう思わせるほどの突進だったがその前にヒロトが立ちはだかった。姿が消えたと錯覚するほどのドリブルのコースを完璧に見切った上での対処、その時点でヒロトの、引いてはザ・ジェネシスの実力は相当のものだと鬼道は理解する

 柊弥が右から抜けようとすると、ヒロトもすぐさまそれに反応する。ならその上を行こうと柊弥が跳ぶとヒロトも跳ぶ。ありとあらゆるコースを潰すようなヒロトの動きに柊弥は歯をギリッと鳴らす。

 

 

「そうそう、俺の名前はヒロトじゃなくてグランって言うんだ」

 

「知るかァ!!」

 

「酷いなぁ」

 

 

 ヒロト……グランが余裕の表情でからかうようにそう言うと、柊弥はどうでもいいといった様子で一蹴する。それと同時に柊弥は身を低くして両脚に力を込める。その直後、柊弥の全身に猛々しい雷が迸る。まるで獣のような低姿勢から先程見せた以上の加速を見せる。

 

 

雷光翔破"改"ィ!!

 

「おっと、これは厳しいかな……」

 

 

 正面から止めるのは不可能。ボールだけ掠め取れるようなスピードでもない。グランは止めることを諦めて柊弥を見逃した。その加速のまま柊弥はジェネシスのゴールへと突っ込んでいく。が、ジェネシスのDF、ゾーハンが行く手を塞ぐ。

 右手に気を集中させて振り上げると、ゾーハンの頭上に惑星が出現する。勢いのままそれを振り下ろす。

 

 

プラネットシールド!!

 

 

 そんな超質量に押し潰されてはひとたまりもない……はずだった。ゾーハンには手応えがなかったのだ。本来ならば相手を潰した感触があるはずなのに、それがない。それが指し示す答えはただ一つ。

 

 

「こんな石ころで……俺が止まるかァァァ!!」

 

「んなッ!?」

 

「ゾーハンのプラネットシールドを突破しただと!?」

 

 

 直後、ゾーハンの作りだした惑星は粉々に砕け散った。中から姿を現したのは雷に身を包まれた柊弥。まさか正面から破られるとは思っていなかったらしく、ゾーハンは言葉を失ったまま動けない。そんなことはお構い無しな柊弥は再び加速。他のDF陣がそれに気付いた時には既に遅かった。柊弥が足を止めた時、そこは既にゴール前だった。

 

 

「来いよ」

 

「後悔するなよ」

 

 

 柊弥を包む雷の勢いが増す。まず一撃、柊弥は思い切りボールに蹴り込む。閃光と共に突き進むシュートは突如その軌道を変える。それをやってのけたのは当然柊弥。自身の撃った本気のシュートに追い付き再び蹴り放つ。正しく常人の域を外れた神業に追い付ける者は誰一人いない。

 ボールの内包するエネルギーが極限まで高められたその瞬間、柊弥は思い切りボールを蹴り上げる。そしてボールが天まで登るより速く柊弥は天に立つ。自身に向かって登ってくるシュートに対して浴びせたのは本気の踵落とし。そのままボールは重力に従って下へと墜ちる。その時には既に柊弥は地に立ち待ち構えていた。

 

 

雷帝一閃ッ!!

 

 

 完璧なタイミングで柊弥はボールに向かって一閃。周囲を焦がすような発光の後に落雷のような轟音が轟く。ゴールに向かって雷速で襲い掛かるシュートは圧倒的だった。イプシロンとの試合の最後に見せた一本よりは劣るが、ゴールを決めたシュートよりは明らかに進化していた。柊弥のこの短期間での脅威の成長率に戦きながらも雷門は確信する。先制点はこちらのものだ、幸先のいいスタートを切れたと。

 

 

プロキオンネットッ!!

 

 

 対するネロはエネルギーを集中させ、3つの点を展開する。それらの点が線で結ばれた時、その中心に現れるのはエネルギーによって作り出されたフィールド。その中心に突き刺さった雷帝一閃は、障壁を食い破らんと暴れ回る。ネロの眼前まで迫るボールは今にもプロキオンネットを貫こうとしている。それに僅かながら焦りを感じたネロは両腕を突き出す。するとたちまち雷帝の放った一撃は勢いを失い、守護者の腕の中に収まった。

 

 

「嘘……だろ?」

 

「加賀美さんのあのシュートが止められるなんて、どうすればいいっスか!?」

 

「……うぐッ」

 

 

 雷門に走る衝撃。間違いなく雷門の持つシュートの中で最強と呼ぶに相応しい柊弥の雷帝一閃が止められたというその事実はあまりに重すぎた。

 言葉を失う雷門イレブンをよそにネロはその場に膝をつく。咄嗟に目線を落とすと、そこには未だに震えている自身の両手。正直なところ1人を除いてジェネシス全員が驚愕していた。鉄壁を誇るネロがただの人間の撃ったシュートに対して初手から必殺技を使用したこと。加えてネロはそれが破られかけたことにも驚きを隠しきれない。手に残る痺れ、受ける瞬間感じたあの衝撃。キャプテンであるグランの放つシュートに勝るとも劣らない凄まじい威力であることを嫌でも認識させられる。

 

 

「人間にしては良いシュート撃つじゃん……でもその必殺技、キツイんじゃない?」

 

「余計な世話だッ……!」

 

 

 そう啖呵を切る柊弥の表情はどこか苦しげだった。その姿を見て大多数は飛ばしすぎて消耗をしているだけと思っていたが、2人ほど違和感に気付いている者達がフィールドとベンチにいた。

 

 

(柊弥先輩、やっぱりあの技は……)

 

 

 1人は音無。先のイプシロンとの試合の中でのハーフタイムで柊弥の呟きを聞いてしまっていた音無は、雷帝一閃のその威力の裏側にあるリスクを薄々だが勘づいてしまっていた。音無とて柊弥が苦しんでいる姿など見たくもない。それでも、柊弥が成し遂げようとしていることを考えればそれを止めてもいいものかと脚が動かなくなる。同時に脳裏に過ぎるのはイプシロンとの試合の後倒れた柊弥の姿。どうするのが正解なのか、音無にはどうしても分からなかった。出来るのはただ祈ることのみ。

 

 

(以前の試合から感じていたあの違和感……何だ、あの様子では絶対何かがあるんだ。しっかり見ろ……俺でなければ気付けないような何かを)

 

 

 そしてもう1人は鬼道だった。その広い視野に度重なる違和感が引っかかるのも当然だった。その正体が一体何なのか、どういうものなのか。チームを指揮する立場としてそれを見定めねばという義務が鬼道にはあった。

 だが鋭い観察眼を持つ鬼道でもそれは未だに為せていなかった。理由はたった一つ、柊弥がひたすらにそれを隠していたからだ。撃つ度に莫大な負荷が掛かるなど、仲間に知られては確実に止められる。皇帝ペンギン1号のことを知っていた鬼道なら尚更だ。しかし、エイリア学園を打倒するために雷帝一閃は必ず必要。そう確信していた柊弥は当然バレないようにたち振る舞う。イプシロン戦の後に柊弥が陥っていた状態は、本人ですら知るところではない。

 

 

(まだいける、こんなところで脚を止めて良いはずがない)

 

 

 柊弥がそう奮起した瞬間、状況は一瞬にして変わる。ネロが送り出したボールによってすぐさまジェネシスのカウンターが始まる。残像が残るほどの恐ろしいスピードでのパス回し。まさに次元が違った。初めてジェミニストームと対戦した際のあの圧倒的差、それに近いものを全員感じずにはいられない。突如として現れたこのチームは、これまでの2つのチームとは別次元。雷門イレブンは嫌でもそう認識させられた。

 

 

「な、何なんだこのスピードは……」

 

「円堂さん!」

 

 

 それを見ていた陽花戸イレブンもまた絶句させられていた。ジェネシスの実力もそうだが、何より憧れの雷門が手も足も出ていないこと。柊弥の稲妻のような速攻の際には希望を抱いていたが、今はそれとは真反対、絶望に近いものだった。

 

 

 雷門のディフェンスラインは決して脆弱ではない。むしろ層が厚いまであった。それにも関わらず、ジェネシスのスピードを止めることが出来ない。あのスピード自慢の風丸でさえ追いつけないほど。

 そうなれば当然、ジェネシスはゴールを狙える位置まで一瞬で到達してしまう。ゴールを守れるのは円堂のみ。ディフェンスのために壁山や塔子は前気味に出ていたためシュートブロックで加勢も出来ない。

 

 

「まずは小手調べだよ」

 

 

 最後にボールを受け取ったグランはシュートを放つ。必殺シュートではなく、ただのシュートだった。だと言うのに、円堂にとってはこれまで受けたシュートの中で群を抜いたプレッシャーを感じた。ノーマルシュートと言えど、全力で迎え撃たねば確実に失点を許す。そう感じた時には既に構えに入っていた。爆裂パンチでも、ゴッドハンドでもない。全身全霊のマジン・ザ・ハンドの構えだった。

 

 

マジン・ザ・ハンド"改"ッ!!

 

 

 黄金の魔神と共に右手を突き出してそのシュートを止める……はずだった。シュートとぶつかった瞬間そのパワーに耐えきれず魔神は霧散、集中させたエネルギーも消し去られた円堂は何が起こったかも分からないままゴールネットに押し込まれる。ほんの数秒、正に一瞬の蹂躙だった。

 

 

「……え?」

 

「嘘だろ、円堂のマジン・ザ・ハンドだぞ!?」

 

「そんなことが……」

 

 

 無情にも得点を告げるホイッスルが鳴り響く。まだ1点、しかも前半開始して間もない時点のはずだった。いつもならまだ焦ることは無い、どうにでもなると持ち直せる状況。

 しかし、この場においてその定石は通用しなかった。

 

 

「キャプテンのマジン・ザ・ハンドをあんな軽々破って、加賀美さんのシュートも止められた……や、ヤバいっス!!」

 

「しかも、まるで追い付けなかった……ヤツら、イプシロンよりも遥かに」

 

「……まずいな」

 

 

 そんな呟きが耳に入ると、グランは心の中で笑う。今この状況こそグランの狙いの1つだった。まずは圧倒的な実力差を見せつけて、雷門全体の不安を煽る。気持ちに余裕が無くなる仲間達を前に、目的の男はどう動くのか?グランの視線の先では、柊弥が静かに鬼を宿していた。

 

 

(そうだ加賀美君、もっと君の力を引き出すんだ。そんなものじゃないんだろう?君の全力は!)

 

 

 不安が拭えぬまま試合は再開する。吹雪からボールを受け取った柊弥は前を見据える。自身に向けられた全視線、注目が向いていることは嫌でも分かる。と同時に、先程のカウンターで相手の実力も理解させられた。だがそんなことはこの男にとって止まる理由にならない。

 

 

「加賀美君、僕に──」

 

 

 吹雪が自分にボールを預けろと声を掛けたその時には既に柊弥は走り出していた。まず最初に柊弥とぶつかるのは最前線のウィーズとウルビダ。真正面から柊弥を抑えに行くが、すぐさまボールを奪うことは叶わない。極限まで感覚が研ぎ澄まされた柊弥には寸分の隙もなかったのだ。最初は驚きこそしたが、今回の襲撃は柊弥がターゲットだと事前にグランを通じて命令が下っている。わざわざそんな命令がある以上この者は他とは訳が違うと理解していた。

 そんな拮抗を先に破ろうとしたのはウィーズ。ジェネシスでも随一のパワーを持って強引に仕掛けにいった。だが、柊弥は落ち着いて対処する。視線、身体の動き、気配。全てを見通してその裏にある真意まで読み切ってみせる。

 ウィーズの仕掛けたタックルを避けた先に待ち構えていたのはウルビダのプレス。超スピードで仕掛けられるそれを凌ぐのは困難を極めるが、柊弥はそれに真正面からぶつかりにいった。ウルビダは女性と言えどジェネシスの中でもトップクラスの実力者。それにも関わらず柊弥は打ち勝つ。回避してすぐに全身に力を込め、逆に相手の姿勢を崩す。

 

 

「素晴らしい、素晴らしいよ加賀美君!」

 

 

 前衛二人を乗り越えた柊弥に更なる攻撃を仕掛けたのはグラン。柊弥の正面にも関わらず、思い切りボールに蹴り込もうとする。すぐさま意図を読んだ柊弥は支配権を奪われないように対抗して蹴り込む。同時のタイミングで2人が蹴ると、ボールを中心にしてエネルギーのぶつかり合いが起こる。誰も近付けない程の規模のエネルギー帯の中でグランは柊弥に話し掛ける。

 

 

「楽しいね加賀美君!雷門との、君とのサッカーは本当に楽しいよ!!」

 

「ォォォォォオオオオオオッ!!」

 

 

 それに対して柊弥が獣のような咆哮を返した瞬間、ぶつかり合ったエネルギーが大爆発を起こした。耐えきれず地面を数度転がった柊弥が晴れた砂埃の先に見たのは、ボールを足蹴にしてこちらを見下ろすグランの姿。

 

 

「ヒロトォッ!!」

 

「でもまだ底じゃないだろう?だから……もっと追い詰めてあげよう」

 

 

 その時グランが姿を消した。吹き抜ける暴風に身体を持っていかれそうになりながらもすぐさま後ろに振り向いた柊弥。その視線の向こうに見えたのは──

 

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

「円堂!!」

 

 

 為す術なくゴールへ押し込まれる親友の姿だった。

 

 

「クッ……ソがァッ!!」

 

 

 柊弥は拳を地面に叩き付ける。地球を砕く程の怒りを込めて振り下ろした拳には血が滲み、痛みが走るがそんなもの意に介していなかった。続けざまに2点を奪われた柊弥からもう後退のネジは外れてしまった。速いペースで雷帝一閃を撃てばその分負担が大きくなるということなど頭から抜け落ちていた。

 

 

 三度目のホイッスル。もはや声など届かない柊弥はすぐさま仕掛けるつもりだった。しかしここで予想外のことが起こる。

 

 

「鬼道君!」

 

 

 吹雪はキックオフのパスを柊弥ではなく鬼道に出したのだ。そして鬼道にボールを要求して再度受け取り、敵陣へと走っていく。

 

 

「吹雪!こっちだ!」

 

「僕も、僕もやれるんだッ!!」

 

 

 柊弥は当然それを追いかけるが、その要求は通らない。どこか遠くを見ている吹雪は単身で切り込んでいくと、すぐさまマークされる。だが柊弥同様スピードに特化している吹雪はギリギリのところでそれを躱し続け、何とゴール前まで辿り着く。

 

 

「吹雪!!エターナルブリザードだ!!」

 

「やっちまえ!!」

 

 

 こうなってはもう撃つ以外の選択肢などない。後ろから鬼道や土門が声を上げ、吹雪本人もシュートの構えに入ろうとした。だが、直後吹雪の全身が硬直する。突然相手のキーパーの姿が大きくなったように感じたのだ。それは吹雪が感じているプレッシャーによる錯覚。しかしそれで集中が途切れてしまった吹雪はボールを奪われてしまう。

 再度仕掛けられるカウンター。今回は鬼道がしっかりと指示を飛ばすも、やはりそのスピードには追いつけない……と思ったその時、柊弥がジェネシスのパスコースに割り込んでみせた。

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

 カウンターが途切れ、一瞬全員の動きが止まる。そこを見逃さなかった柊弥はすぐさま()()()()()()()()()()()()。当然ボールは飛んでいくが、その方向にいるのはジェネシスのコーマ。

 

 

(パスミスか!)

 

 

 そう確信してボールを受け止めようと構えたその瞬間、ボールと自分の間に影が入り込むのが見えた。その正体は柊弥、あまりに予想外のことに再びコーマの動きは固まってしまう。

 

 

「ラァァァッ!!」

 

 

 柊弥はまたもボールに蹴り込む。一発一発に必殺シュート級の力が込められてるが故にまるでそれは地を這う稲妻のような軌跡を描いていた。予想だにしない行動に全員唖然としていたが、徐々に柊弥の意図に気付くものが増え始める。

 

 

(まさかあそこから雷帝一閃を仕掛けようというのか!?)

 

 

 それに気付いてしまった時、鬼道は心の底から驚愕する。それもそうだ、誰が自陣のディフェンスラインからシュートの動作に入るなどと予想できるだろうかか。まさに常識破りの離れ業。

 そんな驚愕は他所に柊弥は着々と力を高めていく。前半開始からまだ10分も経たない現時点で二発目の雷帝一閃、もはやリスクなど度外視な上、始動の位置が位置ゆえにその威力は一発目を大きく上回る。

 

 

雷帝一閃ッ!!貫けェェェェェェ!!!

 

 

 過剰に込められたエネルギーがその場で大爆発を起こす。雷門の後衛はもちろんベンチまで衝撃が襲い掛かり、全員咄嗟に身を守る。突然それはジェネシスも例外ではなく、一瞬シュートから目を切った隙にすぐそこまで迫っていることにネロは顔を青くする。

 

 

(プロキオンネットは間に合わない!いや、まず止めきれない!!ならあれを使うしか──)

 

 

 ネロもまた全身からエネルギーを発し、特殊なフィールドを展開する。そこは一切の物理法則の通用しない、時空すらも捻じ曲げてしまうネロの領域。怒れる雷帝の一撃であれど例外では無い。しかし、ネロの焦りは最大限に達する。この必殺技、時空の壁はプロキオンネットを大きく凌ぐ、言うなれば自分の最終兵器。それにも関わらず、迫るシュートの威力を殺しきれていないのだ。やがてその領域の時間は狂い、空間にはヒビが入り始める。

 

 

(まず──)

 

 

 まずい、そう思った時には既に自身の領域は粉々に破壊されていた。ゆっくり迫っていたはずのシュートがスピードを取り戻しこちらへと向かってくる。だがしかし威力は確実に削れている。これなら押え込める、そう思ってネロは胸で受け止め、両腕で抑え込む。

 しかしボールが止まらない、それどころか徐々に自分を後ろへと押し込んでいる。どうする、どうするのが正解だ?そんな疑問を持った瞬間、ふと力が緩んでしまった。

 

 

「うわッ!!」

 

 

 その時、ボールは力を失ったと同時にネロの身体から離れた。その行き先はゴール右上。コースが逸れたと言えどそこは未だゴールの枠の中。

 

 

「させないよ」

 

 

 だが、遂にゴールネットが揺らされることはなかった。空間を縫うようにして現れたグランがゴールラインを割るより早くボールを止める。

 

 

「グラン、すまない……」

 

「良いさ。俺だってあれは予想外だった、仕方ないよ」

 

 

 申し訳なさそうに自分に声を掛けるネロに気にするなと返し、視線を前に向ける。そこには表情を絶望に染めた雷門イレブンと、顔を歪めながらもこちらを鋭く睨み付けている柊弥の姿があった。

 

 

「良いね、まだ諦めていないみたいだ」

 

「当然だ……お前らなんかに負けるかァッ……!」

 

 

 息を切らしながらも必死に自分に圧を放つ柊弥を見てグランは笑い、加速する。それを挑発と受け取った柊弥は当然それを追い掛ける。しかし、二度の雷帝一閃により蓄積するダメージ、疲労によって全く追い付けない。それどころか脚が縺れて顔面から転倒する。

 立ち上がるより早く、耳に入ってきたのはゴールを告げるホイッスルだった。

 

 

 まだまだ余裕のジェネシス。それに対して一方的に消耗させられていく雷門イレブン。ただ1人ジェネシスに喰らい付いていた柊弥も最早満身創痍。そうなればそこから何が始まるのか想像に難くない。

 次々と鳴るホイッスルと更新されるスコアボード。当然誰もがジェネシスに好き勝手させまいと動く。だがその圧倒的実力差を前に追いつくことすら不可能。柊弥も何度も仕掛けようとするが、もうゴール前に辿り着くことも出来ていない。得点差は前半20分の時点でジェネシスの得点は20。それに対して雷門は……0だった。

 

 

(どうする、どうするどうする──)

 

 

 最初はただジェネシスを倒すことしか考えていなかった柊弥だったが、この絶望しかない状況を前に焦りを感じないはずがない。何をしてもジェネシスには届かない、一方的に仲間が傷付いていくだけ。守ると誓ったのにこの醜態、その顔が怒りから絶望で歪むのは時間の問題だった。

 

 

(僕、何でこんなことをしているんだろう)

 

 

 絶望に沈んでいるのは柊弥だけではなかった。この試合でシュートを撃ち点を決める。そのつもりだったのにシュートを撃つことすら出来ていない。シュートを決めなければ自分が存在する意味なんてないと自己嫌悪のループに陥っている吹雪はもう棒立ちのまま動かない。自分の内側から何かを訴えかける声に耳を塞ぎ、ただただ試合を眺めていることしか出来ていない。

 

 

 そしてもう1人。圧倒的な実力差を前に何も出来ず、己の無力さを悲観している者がいた。どれだけ走っても相手の背中に追い付けない、手が届かない。次第に呼吸は乱れ、目の前が真っ暗に染まり始める。

 少年、風丸 一郎太の心は既に折れていた。

 

 

「うわァァァァァッ!!」

 

 

 ボールは奪われ、再びグランの元へ。そしてその目の前にいたのは……柊弥だった。

 

 

「加賀美!頼む!!」

 

「これ以上は円堂が持たない!!」

 

「もうお前しか点を取れない!!」

 

「加賀美先輩!!」

 

 

 後ろから突き刺さる仲間達の懇願。柊弥はそれから逃げることが出来ない。今一度心を奮い立たせ、グランの前に立ちはだかる。

 

 

「信頼されているんだね。なら……」

 

 

 そう言うとグランは柊弥の方へボールを転がす。困惑する柊弥に向かってグランは飄々と言い放つ。

 

 

「もう一度撃ってごらんよ。次は決まるかもしれないよ?」

 

「……お前、どこまで俺達をバカにしているんだ」

 

「バカになんかしてないさ、君の実力を知っているからこそだよ?」

 

 

 まるで自分を誰よりも知っているかのようなその物言い、相手を下に見ていないと出ないようなこのパス、そして仲間からの頼み。それら全てが消えかかった柊弥の心の炎を過剰なまでに燃え上がらせる。

 何かがキレた柊弥は燃えたぎる怒りと憎悪と共に声を荒らげる。

 

 

「ならその余裕をぶち壊してやるッ!!後悔するんじゃねェぞッ!!」

 

 

 柊弥の全身から雷が溢れ出す。その中にはイプシロンとの試合の最後で見せたような紅色の雷も混ざっている。紅と蒼のコントラストが辺りを照らす中、グランは口元を歪める。

 

 

(そうか!怒りだ!!これこそが加賀美君の力を引き出す鍵!!)

 

 

 柊弥は滅茶苦茶にボールを蹴る。どこからその力が湧いてきているのかも分からないほどに速く、強く蹴って蹴って蹴りまくる。ダメージのせいでその威力は二発目に劣るが、それでも十分すぎる程だ。

 ボールが蹴り上げられてまるで逆雷のように天へ登ると、地を砕きながら柊弥も跳ぶ。

 

 

「消し飛べェェェェェェッ!!」

 

 

 そして柊弥がそのままシュートを撃ち出そうとした、その時だった。凄まじいエネルギーを脚に集中させながらグランも同じ高さまで一瞬で登り詰める。空中でボールを挟んで向き合った柊弥とグラン。柊弥が蹴り込んでボールが離れていくのを遮るようにグランも蹴り込んだ。

 

 

流星ブレードッ!!

 

雷帝一閃ッッッ!!

 

 

 先程の2人の衝突よりも遥かに凄まじい爆発が巻き起こる。しかし今度は柊弥は吹き飛ばされず、そのまま拮抗状態に持ち込んだ。それを見たグランは目を見開きながら狂気の笑みを浮かべる。

 

 

「凄い!!君は本当に凄いよ加賀美君!!俺にここまで肉薄するなんて、あの2人以外で初めてさ!!」

 

「うるせェェェェェェ!!」

 

 

 柊弥が吠えながら更に力を込める。すると僅かにグランが押されるが、今度はそれ以上の力をグランが注ぎ込む。

 

 

(クソ!!押し返されるッ──)

 

「でもまだだ……そんなんじゃ俺達ザ・ジェネシスには勝てないよッ!!」

 

 

 再度爆発が起こる。今度は耐えきれなかった柊弥は勢いそのままに撃ち落とされ、ボールは完全にグランの流星ブレードに塗り替えられてゴールへと襲い掛かる。それは柊弥の雷帝一閃よりもはるかに強い、最早人智を越えていると言っても過言では無いシュート。

 歯軋りする円堂。マジン・ザ・ハンドで迎え撃とうとするが、円堂はあることに気付く。

 

 

「う、わァァァァァァ!!」

 

「吹雪!?」

 

 

 吹雪が半狂乱になりながら走ってきていたのだ。それに気を取られた円堂は溜めたエネルギーを散らしてしまう。このままでは無防備にゴールへ押し込まれる……と思ったその時、吹雪がその間に割って入るように飛び込む。

 そのシュートに頭でぶつかりに行く。しかしそんなことをすれば当然流星ブレードの衝撃を一身に受ける事になる。

 

 

「吹雪ィィィィ!!」

 

 

 シュートはコースを大きく外れた。しかしその代償に吹雪は数メートル吹き飛んでしまう。何度も地面をバウンドし、ようやく止まった吹雪はピクリとも動かなかった。

 すぐさま全員吹雪に駆け寄る。急いで吹雪の状態を見てみると、ただ気を失っているだけだと分かった。だが仮に今意識が戻っても試合ができるはずがない。

 

 

「あ、あぁぁ……」

 

 

 未だ撃墜されて起き上がれていない柊弥はそのまま頭を抱える。自分がグランに押し負けたせいで吹雪があんな目にあった。それだけでは無い。自分が点を取れていないせいで試合に負けていること、仲間が傷付いていること、今この瞬間にその事実全てが柊弥にのしかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、柊弥は1つの結論に辿り着いてしまう。

 

 

「俺が弱いせいで、皆が傷付いている?全部、俺のせいで?」

 

 

 急に極寒の地に投げ出されたかのように震えが止まらなくなる。視界がどんどん真っ白に染まっていき、息が乱れていく。

 

 

『お前のせいで』

 

『加賀美のせいで』

 

『加賀美さんのせいで』

 

『加賀美先輩のせいで』

 

『あなたのせいで』

 

 

 

『柊弥のせいで』

 

 

 

 

『柊弥先輩のせいで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!」

 

 

 血のように真っ赤な光が辺りを照らすと同時、何かが崩れた。




吹雪→半狂乱からの気絶
風丸→戦意喪失
柊弥→発狂からの…?

原作より重くない?と度々感想を頂いていましたが、全くもってその通りです。ですがこれもこの物語に重みを持たせるため。しばらく暗い話が続きますがお付き合いいただけると嬉しいです。
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