Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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心做しか最近イナイレ原作の小説の更新が活発で嬉しいですね。この波に乗り続けたいぜヒャッホイ!!


追記
月曜に予約更新したつもりだったのに普通に日付ミスってたぜ…ヒャッホイ…
次の話ももう書き上がっているので月曜更新は予定通り行えます、何なら月曜必ず更新して随時出来る時はする時でも良いのかも…?


第65話 決壊

 

 

「うわァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!」

 

 

 柊弥の絶叫がグラウンド中に響き渡ったと同時、凄まじい何かが辺り一帯を叩く。唐突のそれに雷門もジェネシスも、グラウンドにいない者も一箇所に視線が集中する。

 そこには、獣のような呻き声を上げながら両手で頭を抑えながら狂ったように額を地面へ叩き付ける柊弥の姿が。

 

 

「ァァァァアアアアアッッッ!!」

 

 

 見たこともない、狂ったような柊弥の振る舞いに全員が驚愕する。怒り狂う猛獣のようなそれに全員がただ事じゃないと嫌でも察せられる。

 その直後、決壊したかのように柊弥の全身からドス黒い何かが噴き出す。血のような黒い紅に染まったそれはまるで衝撃波のように手当たり次第に辺りを叩き、近くにいた選手は全員身を守る。

 とめどなく溢れるそれとは他所に、柊弥は変わらず苦しみながらもその場で立ち上がった。と思えばまた頭を抑えながら振り回し狂乱する。

 

 

 柊弥から放たれる禍々しいオーラ、それはやがて得体の知れない何かを形作る。歪な形をした刀に鬼を型取ったような甲冑、兜の隙間から覗かせる眼光は憤怒と憎悪に満ちており、口元には魔獣のような牙が煌めいている。

 

 

「あれは……世宇子中の時の!」

 

「いや違う!あの時はこんなにハッキリとした恐ろしい姿ではなかった!」

 

 

 その場にいた全員、姿を現したその異形に見覚えがあった。正しい名前は誰も知らないが、それこそサッカープレイヤーの気が極限まで高まった際に出現する()()である。

 鬼道があの時とは違う、と言ったのはその姿を見れば明白だろう。以前は影のような炎に全身を包んだただの人型。今回は形こそ明らかになってはいるが、感じさせる雰囲気はあの時とは真反対。仲間である鬼道達ですら恐怖に近いものを感じる程だ。言うなれば恐怖の化身。それを構成するのは柊弥の内に秘められた負の感情。

 

 

「随分と怖い顔してるけど……間違いないね」

 

 

 その様を見てグランだけが笑う。彼の脳裏に過ぎったのは親愛なるお父様の言葉。

 

 

『加賀美 柊弥の秘める力を引き出しなさい。そうすれば私達の計画は更に1歩前進することになるでしょう』

 

「さて、その力見せてもらうよ、加賀美君!」

 

 

 そう言ってグランは身を翻し、ボールと共に柊弥の方へと駆けていく。こちらへ迫るグランを"敵"と認識した柊弥は唸り声を上げながら迎撃体勢を整える。背後の化身が心胆震え上がるような咆哮と共に刀を向け、凄まじい速さでスタートを切る。

 

 

 

「ガァァァァァァァァァッッッッ!!」

 

「ふッ!」

 

 

 柊弥とグラン、両名が同時にボールに対して蹴り込む。その直後紅の雷が周囲に迸る。それはこれまでに見せたどんな力よりも強く、禍々しいものだった。それを最も近いところで受けているグランはというと、その口元を獰猛に歪めている。

 

 

(なんて膂力!先程までだったら万全の状態でもここまで俺に肉薄は出来なかった!)

 

 

 自身に向けられている力が求めていたものであることを改めて確信し、更に込める力を強くする。当然それに対して柊弥も抵抗する。目の前の獲物を狩り殺す為、持てる力の全てをボールを介して注ぎ込む。

 

 

「くッ、これは───」

 

 

 この試合の中で柊弥とグランが何度か衝突した時と同様にボールを中心に爆発が起こる。もっとも、その規模は比較にならないが。グランはいち早くそれを察知して退避するが、柊弥は一切引く様子なくその爆発に呑まれる。

 それを見ていた雷門一同は柊弥の安否を案じるも、爆煙を引き裂くようにして中から姿を見せた柊弥によって安心を得る。とはいえその姿は先程よりもボロボロであり、目は血走り歯を剥き出しにして激情を顕にしたままである。

 

 

「グォォォォォォォォォォ!!」

 

「全員掛かれ!」

 

 

 天を仰ぐように咆哮する柊弥。それと同時に背後の化身も持っていた刀を砕き、鋭く尖った爪を誇示する。

 未だ止まらぬその姿を見て、ウルビダがジェネシス全員に柊弥への攻撃を命じる。正しく閃光のように柊弥へ襲いかかるジェネシス達。それを見て柊弥を守るべく立ち上がる雷門イレブンだったが、すぐにその足を止めることになる。

 

 

「……ダメだ、下手に介入しようものなら俺達が更にダメージを負うことになる」

 

「でもそれじゃあ加賀美が!」

 

「落ち着けよ!それで俺達が万が一再起不能になってみろ!それこそおしまいだ!」

 

 

 繰り広げられる攻防は雷門にとって別次元だった。白い軌跡を残しながら柊弥を囲むジェネシス。その中に血のような閃光が混じりそれは続く。

 そんな中に入ろうものならば今以上の怪我を負うことになる。そう考えるのは自然なことであった。

 

 

「加賀美さん、一体どうしちゃったんスか?」

 

「分からない、だが結果的に俺達が守られることになっているのは確かだ」

 

「……でも、アイツ苦しそうだよ」

 

 

 鬼道が言ったことは間違いではない。柊弥があの暴走によりジェネシス全員の注目を惹いているおかげで他のメンバーは更なる負傷を避けることが出来ている。

 

 

(加賀美、お前はそんなボロボロになってまで俺達を……)

 

 

 風丸は1人拳を握り締める。その脳裏にはつい先日の柊弥とのやり取りがフラッシュバックしていた。

 

 

『俺は副キャプテンだから、皆を守りたいんだ。もう誰も失いたくない。ただそれだけだ』

 

『お前一人には背負わせない、もっと仲間を……頼れよ?』

 

(あんなこと言ったけど、結局俺なんかじゃ加賀美が頼れる器にはなれないんだ)

 

 

 キャプテンでも副キャプテンでもない、2人を後ろから見ていた風丸だからこそ柊弥の背負うものの重さに気付いてやれた。だからこそあの日、自分を頼れと、力になると約束を交わした。

 それなのに今の自分はどうか。力になどなれてやしない。どうしようもない力の壁に絶望し、助けると決めた友人に対して何も出来ずにいる。

 無力を噛み締めた少年はただ目の前の光景を眺めていることしか出来なかった。

 

 

「柊弥、どうしちゃったんだよお前っ」

 

 

 円堂は遠く離れたゴールから幼なじみの変わり果てた姿に絶句する。

 彼にとっての柊弥は兄弟のようにボールを追いかけてきた人物。これまで苦しいことは何度もあったが、常にサッカーを楽しむその姿に小さな頃から憧れを抱き、中学になってようやく互いに背中を預けてプレイが出来た。

 その時円堂は考えた、柊弥が最後に楽しそうにサッカーをしていたのはいつだった?

 そう、エイリア学園による騒動が始まる前のあの決勝戦が最後だ。それ以来柊弥は心の底からサッカーを楽しんでいるようには見えなかった。

 常に仲間のことを想っていた柊弥だからこそ、それに囚われてサッカーを楽しめていなかったのではないか。この土壇場で円堂はそう思った、否、思ってしまった。

 ではそれは誰のせいか?勿論エイリア学園のせいと言えばそれまでだろう。だがそれ以上に、円堂はある答えに辿り着いてしまう。

 

 

「俺が柊弥のことをちゃんと見てやれてなかったから、柊弥はあんなに苦しんでるのか……?」

 

 

 風丸や円堂だけではない。その場にいた誰もが柊弥に多くのものを背負わせてしまったことを今その場で理解した。

 その理解は遅すぎたのかもしれない。しかし自分で自分を責めようとも、他の誰に責められることは無い。

 それを背負うと決めたのは他でもない、柊弥自身なのだから。

 

 

「ゴガァァァァァァァッッッアアアアアア!!」

 

「クソッ、なんなんだコイツ!!」

 

「面倒だっポー」

 

 

 化身が両腕を力の限り振り回す、と同時に響き渡るこの世のものとは思えないような咆哮。それに呼応するように柊弥の全身が煌めいたと思ったら真っ赤な爆発が巻き起こる。巻き込まれるのを避けるべく柊弥に襲いかかっていた全員は退避するが、数名が間に合わず身体を焼かれる。

 

 

 纏わりつくように柊弥を包囲していたジェネシス達が離れた直後、柊弥は地を砕きながらボールと共に遥か高くへと飛び上がる。

 化身が雄叫びを上げると、纏っていた鎧兜がバラバラに砕け、中からドス黒い炎に身を包んだ何かが姿を現す。その何かから放たれるエネルギーは雨のように見境なく地上に降り注ぐ。

 誰しもが何とか身を守っている中、それを間近で受けていたボールは放たれるエネルギーと同じような色に煌めいていた。

 

 

『ヒロト。もう十分です、退却しなさい』

 

「父さん……本当によろしいのですか?」

 

『構いません。それ以上はお前達に被害が及ぶ可能性があります』

 

 

 離れたところから届いた通信にグランは一時疑問を示すが、自分達を案じての指示と理解しその言葉に従う。

 ジェネシス全員が1箇所に集まり彼らの技術力が可能としたテレポートで撤退しようとした、その時。

 

 

「ガ、ァァァァァアアアアアアッッッ!!」

 

「加賀美君、やはり君は強いね。次会う時に決着を付けよう」

 

「やめろ、柊弥ァァァァ!!」

 

 

 煌々と輝くボールに対して柊弥が蹴り込み、化身がその拳を振るう。

 一瞬時が止まったかのように感じる程のエネルギーの集約。細い一筋の光が地面に落ちたかと思えば、その後を追うように光の着弾点で想像を絶する大爆発が巻き起こる。

 明らかにジェネシス達が固まっている場所に放たれるそれを見て円堂が柊弥に叫ぶがその声はもう届かなかった。

 無慈悲に放たれた圧倒的暴力は地に降り立つや否や、破壊の嵐を巻き起こす。地を抉り、周囲を焼き尽くし、暴風雨のような衝撃波を無差別に振り撒く。

 視界が晴れた時、全員の目に映ったのは直径10メートル程の大穴とあちこちに散在する焼跡、ボールだったであろうものの亡骸と──

 

 

「……」

 

 

 俯きながら鎮座する柊弥の姿であった。

 

 

「ジェネシスは!?」

 

「ギリギリで退却したようね。紅い光が視界を覆い尽くす中、紫色の光が見えたわ」

 

「跡形もなく消された……訳では無いようね」

 

 

 木野が真っ先に上げた疑問に瞳子が答え、他のメンバーも少し胸を撫で下ろす。宇宙人と言えど、柊弥がもし彼らを文字通り消した、つまり命を奪おうものならば取り返しのつかない業を背負うことになるから。

 

 

 だがまだ全員の緊張は続く。俯いたまま動かない柊弥。先程までの暴走の限りが嘘のように静寂を保っているため不気味極まりない。

 全員が警戒して動けない中、真っ先に動いたのは……円堂だった。

 

 

「柊弥?」

 

「……」

 

「……おい柊弥、目開けろよ、なあ!!」

 

 

 円堂が柊弥の肩を掴んで思い切り揺らす。しかしそれでも柊弥の反応は無い。

 他のメンバーも駆け寄ってきてそれぞれ声を掛ける。だがそれでも一切動かない。

 

 

「か、監督!!」

 

「……!?皆離れてッ!!」

 

 

 もしかして柊弥は命の危険に瀕しているのでは無いか、そう思い円堂は瞳子を呼び、瞳子も呼ばれるまでもなく近くへ駆け寄ってくる。

 だが、ただ1人だけ瞳子は見えてしまった。

 

 

 柊弥の眼が爛々と紅く煌めいたのを。

 

 

「あ、がァァァァァァッッッ!!??」

 

「うわッ!?」

 

 

 直後悶えるような雄叫びを上げる柊弥。それと同時に柊弥を覆うように紅色の嵐が巻き起こる。

 至近距離にいた円堂は間違いなく巻き込まれるはずだった。しかしギリギリのところで伸びてきた柊弥の手で押し退けられたことによって事なきを得る。

 

 

「柊弥!聞こえるか!」

 

「ガッ───アアアアアアッ!!」

 

 

 頭を抑えながらその場に蹲る柊弥を他の者達は見ていることしか出来ない。近付けばどんな危険が降り掛かるか容易に想像できてしまう。だが大切な仲間である柊弥がもがき苦しむ様に、誰もじっとはしていられない。

 

 

「加賀美!!クソッ、一体どうすれば!?」

 

「監督!!」

 

 

 柊弥を囲むエネルギーの奔流は更に大きくなる。その中で1人悶え苦しむ柊弥に対して誰も手を差し伸べることは出来ない。

 それは大人であっても例外ではなく、何が起こるか分からないこの状況で瞳子は何も為す術がなかった。決して己が身可愛さなどではない。何か自分がすることで他の守るべき子ども達にどんな被害が及ぶかが計り知れないからだった。

 

 

「……皆退いてください!」

 

「音無?」

 

「おい春奈、何をするつもりだ!」

 

 

 その時、音無が皆を掻き分けて前へ出てきた。何をしようとしているのかが手に取るように分かってしまった鬼道は大事な妹を止めるべく声を掛けるが、当の本人は一切それに応えない。

 

 

「まさか音無……この中に飛び込むつもりか!」

 

「無茶っス音無さん!ボロボロになっちゃうっスよ!」

 

「そうよ!今近付いちゃダメ!」

 

(……柊弥先輩)

 

 

 音無が思い出していたのはナニワランドで柊弥と過ごしたあの時間。

 エイリアの秘密を探るという名目で柊弥と遊園地を回ったあの時間は音無にとってかけがえのないものになっていた。

 

 

『俺の連れに何か用事でも?』

 

『気にするな。ほら、行こうぜ』

 

 

 脳裏に鮮明に思い出される柊弥とのやり取り。そのどれもが忘れがたく、何時までも覚えていたい記憶。

 そしてそれ以上に大切で仕方ないのは、目の前で苦しむ想い人。

 

 

『エイリア学園を倒した時、絶対に真正面から春奈に向き合う。約束だ』

 

(あの返事を聞かせてもらえるまで……絶対に何処かへ行かせたりなんてしないんですから!)

 

 

 そしてとうとう意を決して飛び込んだ。直後襲いかかってくるのは凄まじい勢いのエネルギー。それはマネージャーに過ぎない音無にとってはあまりに強く、すぐに立ち止まってしまう。

 しかし、そこで立ち止まるのは悪手でしか無かった。絶えず自分に向かって放たれる凶暴すぎる力。華奢な身体は瞬く間にボロボロになっていく。

 

 

「音無さん無茶よ!!戻って!!」

 

「春奈、春奈ァァァァァァ!!」

 

 

 夏未が、鬼道が、他のチームメイト達が、柊弥が音無に対して叫ぶ。

 だが本人はお構い無しに歩みを進める。1歩、また1歩と進む度に身に纏うジャージが、身体が負うダメージは大きくなる。

 それでも音無は止まらない、確実に歩みを進める。

 

 

「絶ッ対に諦めない……!」

 

「戻って!!音無さんッッ!!」

 

 

 何を言われようがその脚は止まらない。そして全身に力を込めて、身体の底から声を絞り出す。

 

 

「貴方は私の大切な人!!どんなに大きな壁があっても、絶対、絶対に諦めないんだからッ!!!」

 

 

 決意の咆哮、それに引っ張られるように音無の身体は大きく進む。手を伸ばせば柊弥に届く距離、そこで音無は思い切って柊弥に向かって飛ぶ。

 それまで絶叫しながら力を撒き散らしていた柊弥。だが突如として自身に飛びかかる温もりを受け止めきれずにその場に倒れ込む。

 柊弥の上を取る形で抱きついた音無は、容赦なく襲い掛かるエネルギーに目もくれず柊弥を捉えた腕に力を込める。

 

 

「貴方がどれだけ深い闇に囚われても、自分を失ってしまっても!必ず私は傍にいますッ!」

 

 

 そして、力強く言い切る。

 

 

「だから……大丈夫ですッ!」

 

 

 その時、暴走の一途を辿っていた紅の暴風雨は跡形もなく霧散する。それと同時に柊弥の意識は途絶えた。

 力無く倒れたまま動かない柊弥を心配して全員駆け寄ってくるが、微笑みながら頷く音無を見て無事であることを理解した。

 

 

「音無さん!怪我は?」

 

「私は大丈夫です、それより柊弥先輩や吹雪さんを!」

 

「ええそうね……すぐに救急車が来るわ!木野さん、夏未さんは皆のケアを、音無さんは私と一緒に病院まで付き添って!」

 

 

 瞳子の指示を聞いて全員が動き出す。やがてサイレンを鳴らしながら到着した2台の救急車の中から救急隊員が飛び出してきて柊弥、吹雪をすぐさま病院へ搬送する。

 その救急車の中で音無は、絶えず柊弥の手を握り続けていた。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「2人の容態は……」

 

「どちらも大きな問題はないそうよ。直に目を覚ますわ」

 

 

 柊弥と吹雪が担ぎ込まれた福岡の病院の一室にて、雷門イレブンは目を覚まさない2人が横たわるベッドを囲んでいた。

 医師の診断によれば2人とも復帰が絶望的というほどではないらしく、1週間もあれば回復するだろうという見通しだった。

 だがそれでも一同の顔付きはどこか暗い。

 

 

「それにしても、あの時の吹雪……何か変じゃなかったか?」

 

「変……って、何が?」

 

「何て言うかさ……鬼気迫るというか、感情が先走ってたというか」

 

「確かに。見たこともない顔してたよ」

 

 

 全員の頭にフラッシュバックするのは、グランの流星ブレードに対して飛び込む時の吹雪の姿。確かに吹雪が試合中にガラッと雰囲気が変わるのは全員の知るところだった。

 しかしそれを考慮してもあの試合での吹雪は異常だったと言える。それはジェネシスとの試合だけじゃなく、昨日におけるイプシロンとの試合でもそうだったと結論づけられる。

 イプシロンの去り際、殴りかかりそうな程に激昂する吹雪。それを他のメンバーが止めていたのは記憶に新しい。

 

 

「そういえば俺、この前吹雪に何か変じゃなかったかって聞かれたんだ」

 

「イプシロン戦の後に、か?」

 

「うん。あの時は俺どう答えればいいのか分からなくて……」

 

 

 イプシロン戦が終わったあと、円堂と吹雪が2人きりで話してる時に吹雪がふと零した問い掛けだった。

 その時円堂は当たり障りのない答え方をしたつもりだったが、今になってはそれも吹雪にとっての負担だったのではないかと後悔してしまう。だがそんな問い掛けは誰がされても上手く答えられないだろう、と全員が円堂を庇う。

 

 

「監督は、吹雪について何か知っているんじゃありませんか?」

 

「……ええ」

 

 

 鬼道の鋭い言葉に瞳子は肯定の言葉を返し、ここまで閉ざしていた口を開いた。瞳子の口から語られたのは吹雪の過去だった。

 吹雪は幼い頃、弟のアツヤと共にジュニアチームでサッカーをしていたこと。試合が終わって家族で帰っていたある日、吹雪を残して家族全員が亡くなってしまったこと。そして、吹雪の中に士郎とアツヤの2つの人格が存在すること。

 ようやく明かされた吹雪の背景にどこか皆納得しているようだった。試合中に吹雪が人が変わったように立ち回ること、雪崩を彷彿とさせる轟音を苦手とすること。様々な要素が今になって線で結ばれ始めた。

 吹雪は度重なるエイリアとの試合で心のバランスが崩れ、精神が崩壊寸前まで追い込まれたのが今回の原因かもしれないという。

 だがその分析は、一部の反感を呼ぶことになってしまう。

 

 

「だったら、どうして吹雪君をキャラバンに誘ったんですか!?」

 

「ッ!」

 

 

 真っ先に声を上げたのは木野だった。なぜそれを知っていたのに吹雪を誘ったのか、試合に起用したのか、こうなるまで気にかけなかったのか。様々な疑念が瞳子に突き刺さる。

 らしくなく食ってかかる木野を一之瀬が宥めるが、瞳子は申し訳なさだったり後ろめたさだったり、様々な感情がぐちゃぐちゃになった表情を浮かべる。

 

 

「……それが、私の使命だからよ」

 

 

 そう言って瞳子は病室を去っていった。暫くの静寂の後、最初に口を開いたのは円堂だった。

 

 

「俺があの時気付いてやれてれば、こんなことには!」

 

「やめろ!お前だけのせいじゃない!これはチーム全体の問題なんだ!吹雪のことも……加賀美のことも」

 

 

 自分を責める円堂を否定する鬼道。そんな言葉の後、視線は吹雪から柊弥へと移る。

 

 

「なあ、加賀美は今までにもあんなことあったのか?」

 

「いや、1度もない。似たような力を世宇子中との試合で見せたが……あの時は今回の暴走、というよりも覚醒という言葉の方が当てはまっていた」

 

「今回の加賀美さんは……正直宇宙人より怖かったっス」

 

「おい壁山……」

 

「いや、俺も同意だよ。もし音無が加賀美を止められなかったら……もしかしたら俺達はあの力にことごとく痛めつけられていたかもしれない」

 

 

 壁山のもっともな感想に土門が難色を示すが、一之瀬も同意を見せる。

 全員が思い出すのはあの試合の中での柊弥の大立ち回り。正しく破壊の権化として暴れ回っていた柊弥の姿は普段とは似ても似つかなく、あまりに印象が深すぎた。

 何故、一体どうして今回のようなことになってしまったのか。全員が考えるが、思い当たる節は多かった。

 

 

「極限のストレスが引き金となり何かが決壊した……」

 

「吹雪だけじゃない。俺達は加賀美にも負担を掛けてしまっていたということか」

 

「確かに、北海道でも大阪でも誰よりも一生懸命特訓してたのは加賀美さんだったでヤンス」

 

「漫遊寺でデザームに焚き付けられてから何か様子がおかしい、とは思っていたわ。けど、ここまでとはね」

 

「柊弥は副キャプテンだから、俺のことも、チームのことも支えようって普段から弱みを見せようとしなかったんだと思う。だからついついそれに甘えちゃって、柊弥がここまで追い込まれているなんて気付いてやれなかった」

 

「それに加賀美君は……入院してる皆のことも人一倍気にかけていたわ。それもあって、強くならなきゃって躍起になってたのかも」

 

 

 柊弥が他とは違う何かを持っているのは全員分かっていた。特に雷門中としてフットボールフロンティアを戦ってきたメンバーは。

 窮地でも諦めず、いつも活路を切り開いていたのは柊弥だった。世宇子との試合では今までにない力を発揮し、あの絶望的な状況から逆転する一手を打って見せた。

 だからこそ、そんな柊弥に知らず知らずのうちに頼ってしまっていた自分達がいることを今の今まで気付けずにいたのだった。

 

 

「俺達は、ここで変わらなきゃいけない。吹雪と加賀美に頼りきりにならないよう、全員で強くならなければ」

 

「……そう、だな。2人のために、エイリア学園に勝つために!」

 

「俺も賛成だ!」

 

「ウチも!」

 

「僕もです!」

 

 

 チームの方針は定まった。今後は2人の負担を減らすためにも、様々な面で強くなることを目指さなければならない。

 そして2人が目を覚まして戻って来た時には、また全員で頑張ろう。そう誰もが決意した。

 ……1人を、除いて。

 

 

「……」

 

 

 その1人が静かに病室を去っていったのに気付けた者はいなかった。

 今回のことを乗り越え、またチームとして強くなれる。そう誰もが信じていたが、知らないところで亀裂は取り返しのつかない所まで大きくなってしまっていた。大きくなりすぎた亀裂はやがて崩壊を産む。それを知る者は……誰もいない。




とうとう爆発してしまった爆弾とそれを理解してしまったチームメイト達のお話でした。
リメイク前は早々にエイリア堕ちした柊弥、今回はどうしようか…と考えた時にまず思いついたのがこの暴走でした。というのも今後の展開に色々繋がってくる一つの場面でして、それを描写できるのは何年先になるか分かりませんがまあそのうち…

にしても柊弥のせいで雷門イレブン全体の湿度がマシマシになりすぎているなあ…まあこれも描きたかった事なんですけどね。
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