「良かった……目を覚ましたか、加賀美君」
「はい、ありがとうございます」
とある病院の一角、目を覚ました柊弥は医者と話していた。意識が戻ったと言えど緊急搬送された身、本人にしか分からない何かがあるかもしれない。それのカウンセリングも兼ねられていた。
「特に問題はありません、動こうと思えば今すぐにでも動けます」
「そうか……だが、大事をとって今日一日はここにいなさい。退院の手続きはしておく」
「わかりました」
そういってカウンセリングは終わり、医者は病室を出る。それと入れ替わるようにして音無が入ってきて椅子に座る。
「柊弥先輩」
「春奈……心配かけた、ありがとう」
「良いんです、私は柊弥先輩が戻ってきてくれただけで十分です!」
春奈はそう言って眩しい笑顔を柊弥に向ける。それを見て柊弥の頬も少し緩むが、何かを思い出したように再び顔を引き締める。
「それであの後……一体どうなったんだ?教えてくれ」
「……わかりました」
音無は全てを話した、あの試合で一体何があったのか。ただし、一部を隠して。試合中に暴走して1人でジェネシスと衝突したことはそのまま伝えた。しかし、ジェネシスの退却後のことについては話さなかった。自分に、仲間にそんな力を向けていたことを知れば柊弥は罪悪感で潰れてしまうと思ったから。これは音無だけでなく瞳子含めた雷門イレブンの総意だ。
「試合中に暴走……そんな情けないことになってたなんてな」
「そんなことないです、柊弥先輩の奮闘がなければどんなことになっていたか……それと」
音無は口を噤む。そう、どうやってもそのまま伝えなければならない話があるのだ。こればかりは隠してもどうにもならない。柊弥がチームに戻れば直ぐに気付いてしまうことなのだから。
「風丸先輩に栗松君が、キャラバンを降りました」
「……は?」
それを聞いた柊弥は手に持っていたペットボトルを落とし、言葉を失う。何を言っているか分からないといった表情のまま訊ねる。
「嘘だろ、何で風丸と栗松が?怪我でもしたのか?」
「……いいえ。2人共もう戦えないって、そう言って知らないところで」
「……風丸、栗松」
柊弥は拳を握りしめながら歯を食いしばる。また仲間達が去ってしまった。しかも、怪我ではなく、今回は心の問題で。栗松はまだ1年生、これだけのことがありながらも必死に戦ってきた。けれど、それもここで限界が来た。そして風丸は強い男だった。チームを守られなければと奮起していた柊弥のことを気にかけてくれるような、背中を任せられる男だ。そんな風丸もいなくなってしまった。
「……あの時、本当は風丸も辛かったんだな」
「あの時?」
「福岡に着いた時、風丸は俺のことを気にかけてくれてたんだ。1人で抱え込むな、自分を頼れって。風丸がああやって言葉をかけてくれたのは初めてだったんだ。本当は、自分も不安だったことの裏返しだったのかなって」
「そんなことが……」
その時、柊弥の中で再びあの想いが激しく燃え上がる。チームを守らなければ、もっと強くならなければという頼もしくもあり危なくもある感情だ。
そして音無は柊弥の目付き、雰囲気がガラリと変わったことに気付いた。いつも柊弥を見ていた音無だからこそ気付けたことだ。このままだと、またどこかで柊弥は壊れる。
そう思った時、音無は柊弥を優しく抱き締めていた。
「……春奈?」
「柊弥先輩が誰よりもチームを気にして頑張ってることは分かってます、けどお願いですから頑張りすぎないで……これ以上何かあれば、私はもう耐えられません」
自分を包む優しい体温、向けられた優しい言葉。それを突き放すことなんて出来るはずもなかった。
柊弥は腕を伸ばし、そっと抱き締め返す。一瞬音無の身体が跳ねるが、お構い無しに抱き締める。
「大丈夫だ。春奈が伝えてくれたあの想いに応えるまで俺は折れない。だからもう少しだけ、待っていてくれ」
「……はい、絶対ですよ」
その言葉を最後に2人は離れる。柊弥は落ち着き払っているが、音無は対照に顔を真っ赤にしている。
「……顔、真っ赤だぞ」
「し、仕方ないじゃないですか!まさかやり返されるとは……」
「自分から仕掛けたのにな?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
ここ最近の柊弥からは考えられないような軽口が飛んでくる。その事実に音無はそっと胸を撫で下ろした。この様子なら大丈夫だろう。そう思って椅子から立つ。
「それじゃ私はそろそろ戻りますね。柊弥先輩が大丈夫だったことを皆に伝えてきます!」
「ああ。気をつけてな」
そう言って音無は病室を後にした。足音がどんどん遠ざかっていくのを聞き届け、柊弥は立ち上がって窓から外を眺める。
「……ごめんな」
そして柊弥はもうここにはいない音無に謝る。理由は単純、さっき掛けた言葉に一部嘘が混じっていたから。
「やっぱり、俺が頑張るしかないんだ」
音無が本気で自分のことを案じてくれていることくらい分かっていた。だからこそ柊弥は演じたのだ、もう無理はしないと。だが柊弥は、今まで通り自分1人で背負う気だった。それは全て仲間のため……のつもりだ。
ーーー
「皆、心配掛けた」
「柊弥!!おかえり!!」
「もう身体は大丈夫なのか?」
「ああ、少し鈍っているとは思うが」
「じゃあ吹雪が合流するまで少しだけ蹴ってくれよ!」
翌日、柊弥は無事雷門イレブンに合流していた。目を覚ましたとは聞いていたが実際に戻ってくるとその安心感は段違いだった。
午前中の内に出発する予定だったが吹雪の合流が少し遅れているため一同は待機となっていた。その時間を使って柊弥のリハビリがてら少しサッカーしようと円堂が提案する。
「あのっ!俺も良いですか!?」
「ああ。立向居、だっけか。よろしくな」
円堂が熱を取り戻した時、立向居はイナズマキャラバンへの参加を希望した。マジン・ザ・ハンドが完成した時に自分も連れて行ってくれと言うつもりだったらしい。既に立向居の同行は瞳子からも許可が降りており、音無から柊弥も聞いていた。
「退院直後だ、程々にしておけよ」
「分かってるさ」
鬼道の念押しに柊弥は頷きながら準備運動を終える。ゴールの前には立向居。その横で円堂が見守っている。
立向居と対峙した柊弥は気付いた。この前1度シュートを打ち込んだ時の立向居とは別人であることに。この短期間で一体どんな成長を遂げたのか、それを確かめるために柊弥は小手調べから意識を切り替える。
「おいおい、加賀美のやつあんなこと言っておきながら本気じゃないか?」
「あの馬鹿……」
「と、柊弥先輩らしいよ……あはは」
土門や鬼道から呆れ声があがるのは当然だった。撃つなら轟一閃だと思っていたのだろう。しかし、柊弥が選んだのは自身の最強シュートであるあの技だった。
「雷帝一閃」
そう、雷帝一閃だ。とはいえ全力ではない。流石に病み上がりのこの身体で全力の雷帝一閃を撃とうものならどんなことになるか分からない。それを見極めた上でだいたい半分くらいの出力に留めていた。それを察して見ていた者達もほっとするが、それでもその威力は轟一閃を遥かに凌ぐ。
それに対して立向居は、柊弥が良く知る構えを取る。
(おい、あれは──)
「オォォォォッ!!マジン・ザ・ハンド"改"ィ!!」
マジン・ザ・ハンド。それも円堂と同じ上の次元に達したマジン・ザ・ハンドだ。円堂の黄金の魔神と違い、その色は柊弥の雷と同じ蒼。しかし、円堂に引けを取らない……いや、それ以上のパワーを柊弥は感じていた。
突き出された魔神の手と雷帝の一撃がぶつかれば、互いのエネルギーがスパークする。
「負けるかァァァァァァ!!!」
「……マジかよ、あれは」
"守のマジン・ザ・ハンドより強いんじゃないか?"。そう柊弥は心の中で呟いた。半分の出力でも雷帝一閃は最強クラスのシュート。しかしそれは立向居よって完璧に止められていた。立向居はこのチームの弱点であるサブキーパーの不在を補うための採用かと思っていたが、柊弥は認識を改める。立向居は円堂に匹敵するほどの逸材だった。
「……凄いな立向居。正直ここまでとは思ってなかった」
「ありがとうございます!!でも、まだまだ俺は強くなりますよ!!」
「頼もしいな」
そう言って柊弥と立向居は握手を交わす。横から円堂が次は自分だと言いながら割り込んできたことで再び柊弥はシュートを撃つ。それを見ていた他のメンバーも次第にボールを持ってグラウンドに入ってくる。
「なんか、安心しますね」
「ええ。一時はどうなることかと思ったけど」
「これが雷門イレブンよね」
それをマネージャー陣はベンチから眺めていた。ここのところ思い詰めていた柊弥も少し表情が和らいでいるように思えた。
「ただいま」
「吹雪君!おかえりなさい!」
そして暫くすると、横から声がかかる。聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこには瞳子と共に吹雪がいた。それを見てボールを追っていた他のメンバーも寄ってくる。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、皆には心配かけちゃったね」
「大丈夫さ!これからも頑張ろうな!」
その時、瞳子の携帯が鳴った。
「響木さん?──はい、瞳子です」
電話のやり取りは数分続く。瞳子の驚き方から只事では無いと柊弥達は察する。
そして電話が切られたあと、瞳子から聞かされた内容は予想外すぎるものだった。
「沖縄に炎のストライカーと呼ばれる人がいるそうよ」
「炎の……まさか」
その時柊弥の脳裏に浮かんだのは、かけがえのない相棒の姿。あの日追いかけることを諦めてしまったあの背中。
柊弥は誰よりも早く口を開いた。
「監督、行きましょう」
「俺も賛成です!きっとそこに……沖縄に豪炎寺がいる!!」
「……ええ、そうね」
雷門の絶対的エースストライカー、豪炎寺。彼はこのチームにとって特別な存在だった。柊弥にとっては特に。
(待ってろよ修也、あの時の約束……沖縄で果たそう)
柊弥は自身のバッグの奥に大事にしまっていた10番のユニフォームを握りしめそう誓う。
再会の時は近い。
読んでもらうと分かるように柊弥の精神デバフはすこーーしだけ軽減されてます。愛ですよ、愛。
とはいえ、エイリア絶対俺が潰すっていうスタンスは変わってないです。ガチ病みエイリア潰すマンからちょい病みエイリア潰すマンに変わっただけです。
まあ、あと1つ彼には試練が待ってますので…