おかげさまで週一更新頑張れてます
「よし、計画通りにいくぞ」
『おお!』
雷門と大海原の試合は後半戦に突入しようとしていた。綱海のポテンシャルを評価しての練習試合だったが、雷門イレブンは予想外の苦戦を強いられることとなっていた。
というのも、相手の司令塔である音村の指示があまりに的確すぎたからである。一瞬のうちに相手のリズムを掌握し、それを元にプレーを崩す指示を出すという離れ業を見せてきた。
しかし、雷門が誇る天才ゲームメーカー、鬼道がそのカラクリを明らかにした。リズムを掌握されるなら、それを掻き乱せばいい。鬼道の指示はシンプルなものだった。
「加賀美、あれを正面突破出来るのはお前だけだ。好きに動いてくれ」
「分かった」
あくまで鬼道が提案したのはリズムをズラすこと。しかし、柊弥に限っては純粋なスピードでそれを上回ることが出来た。
よって鬼道は柊弥に指示は出さない。その必要が無いと信頼している故に。
(まずは支配権を握る)
後半は大海原のキックオフから始まる。一旦後ろに下げられたボールは次々に持ち主を変え、最終的にFWの池宮城に渡る。
そこでパスワークが一旦止まった、それがいけなかった。
「速っ!?」
その一瞬で柊弥がボールを奪い取る。徹底的にプレスをしかけたわけでも何でもなく、ただ通り過ぎる際にスッとボールだけ持ち去った、ただそれだけのことだった。
それにも関わらず池宮城が驚愕の声を上げたのは、そのスピードゆえだ。
「加賀美!こっちや!」
柊弥の周囲には敵ばかり。それに対して声を上げたリカは完全にフリーだった。
しかし柊弥はその声を完全に無視、一種のゾーン状態に陥っている柊弥にはもはや仲間の声すら聞こえていなかった。
「ちょい待ちや!ガン無視!?」
(自由に動けとは言ったが、パス要求すら完全に無視……まずいな、恐らく周りが見えていない!)
柊弥はそのまま加速する。ただ真っ直ぐに相手のゴールへと向かう。
「アップテンポ!12ビートで追うんだ!」
「ダメだ!追いつけない!」
音村が指示を出す。しかしそれでも柊弥の雷速には追い付けない。まさに圧倒的な個人技。自分以外の他を一切考慮しない自己完結型のプレーだ。
だが、それは唐突に終わりを告げる。
「ここだよね」
「なッ」
何と後ろから指示を出していた音村がヌルりと柊弥の前に現れ、先程柊弥がやって見せたように通り抜け際にボールを掠め取る。
(追い付かれた!?そんな馬鹿な、エイリア学園でもないのにこのスピードに追いつけるはずがない!!)
すぐさま柊弥はボールを奪い返しに走る。だがそれより音村の出すパスの方が速い。柊弥が音村を間合いに捉えた頃には既にボールはそこになかった。
そしてそれと同タイミング、柊弥の視界は一瞬真っ白に染まる。何が起こったか理解出来なかった柊弥。しかし自分の身体に起こっている異常で原因を突き止めた。
(加速に意識を割きすぎた、酸欠かッ)
直後襲い掛かる頭が割れるような頭痛が襲い掛かる。前のめりに倒れそうになる身体を無理やりに右脚で支え、音村が走り去った方向を睨む。
その時には既にボールは別の者に渡っており、ゴールの近くまで攻めあがられていた。
DFの宜保を中心とした3名、狙いは明らかだった。
『イーグルバスター!!』
それに対して円堂もまた同じ構えを取る。気を一点に集中させ、背後に魔神を呼び出す。迫るシュートに対して腕を突き出す。
「何回でも止めてやる!マジン・ザ・ハンド"改"!!」
雷門ゴール付近で繰り広げられたのは先程の繰り返し。決して弱くはない、むしろ強力なシュートであるイーグルバスター。だが相手が悪かった。円堂が誇る現段階最強のキーパー技、マジン・ザ・ハンド"改"。イーグルバスターではそれを破るには足らなかっただけのこと。
「よし、鬼道!」
円堂の豪快なスローは鬼道に渡る。そのまま前線に上がる鬼道だったが、すぐさま大海原の魔の手が迫る。
しかし先程までの鬼道では無い。大海原イレブンは音村のリズムによるゲームメイクで動くチーム。
(ここだ)
ギリギリまで敵を引き付けマッチアップが始まる1歩手前、鬼道は動きのリズムをズラす。すると明確に相手の動きに綻びが生まれる。当然、鬼道がそこを突かないはずがない。
「なにィ!?」
とうとう大海原のペースを柊弥以外が崩すことに成功した。今まで崩されることのなかった自分達の流れを打倒されたことに驚きを隠せない大海原イレブン。
しかし、その中で戦意を剥き出しにし続けている者が2人いた。
「すっげえ!やっぱお前ら最高だぜ!」
(リズムをズラしたか。あの司令塔、中々やるじゃないか)
それは綱海と音村だ。既に1点を奪われている上、自分達のゲームメイクもバレているというのにその顔から笑みが消えることは無い。綱海は単純な闘争心、それに対して音村にはまだ手札が残っていることが大きな要因だろう。
「リカ!」
「よっしゃ!任せえ!」
鬼道から大きなループパス。それを受け取って走り出したのはリカだった。
それを迎え撃つべく大海原の中盤がリカを囲む。その時、リカは本能か何かで一之瀬の存在を感じ取り、ノールックでのパスを放つ。
「ナイスパス!リカ!」
「流石ダーリン!この試合が終わったら結婚や!」
「おーっと!ここからは行かせねえよ!」
ボールを受け取って大海原側へ一気に攻め込む一之瀬。だがそれと同時、野生の勘で危険を感知した綱海が一之瀬のマークにつく。一之瀬は得意のテクニックで突破を試みるも、綱海の反応速度では追いつかれる可能性がある。
一旦落ち着いて状況を俯瞰する一之瀬。すると綱海の意識が甘い抜け穴を見つける。そしてそこに柊弥が走り込んできているのも見えた。
「よし、いけ!加賀美!」
一之瀬はやや強めのパスを出す。ほぼ直線を描きながらそれは、柊弥が伸ばした脚にジャストで突き刺さる。それを受け取った柊弥は加速そのままにゴールへと迫る。
「だから、甘いよ」
「なッ」
このままシュート、というところに意識外からの妨害が入る。先程同様背後から急に現れた音村は流れるように柊弥からボールを奪い取り、そのまま大きくパスをだす。
「知ってるかい?サッカーにおけるチームとは1つのリズムなのさ」
「⋯それがどうした」
この短時間で二度の失態。呆気に取られていた柊弥に音村は試合中にも関わらず話しかけた。
「どこが1つの拍子が狂えば、リズム全体が狂うのさ」
「だから何が言いたいんだよ、オマエは」
含みを持たせて言葉を投げてくる音村、そんな音村に何度もデュエルで負けている自分に対しての苛立ちが募り始めている柊弥は高圧的に音村に対して言葉を返す。
そんな明らかに冷静を欠いている柊弥を見た音村はフッと笑い、柊弥の横を通り過ぎる。
「単に他の拍子に追い付けないだけならまだいい。けど、独りよがりで好き勝手やるような拍子はもはや"ノイズ"だ」
「だから、言いたいことがあるならハッキリと──」
「雷門におけるノイズは君さ、加賀美君」
言葉を濁したままこの場を去ろうとする音村を引き留めようと腕を伸ばした柊弥。しかし、直後音村から放たれた言葉がその腕を止めた。
「君達は地球の運命を背負って宇宙人と戦っているんだろう?なら、少し考えを改めた方が良いんじゃないかな」
それを最後に音村は前線へと参加する。1人取り残された柊弥は、まるでその場に縫い付けられたように動けなくなってしまった。
自分はこのチームにおけるノイズ、邪魔な存在だという言葉が何度も頭の中で反響する。
「俺が⋯ノイズ⋯」
しかし、言葉に出来ない感情は段々と言語化できるものへの昇華する。身体の内側から熱を帯び、放出しなければ己が燃え尽きてしまいそうな感情⋯そう、怒りだ。
それはノイズ扱いしてきた音村に向けて⋯では無く、ノイズ扱いされるような自分へと向けられたもの。強く在らなければならないのに、他者からはチームにとって邪魔に見えるほど"弱い"と思われている自分へと無尽蔵の怒り。
(俺はノイズじゃない、証明してやる)
直後、大海原陣地にて轟音が響く。それは柊弥が初速を得るための踏み込みの音だった。全員が何事かと視線を一点に集中させる。
轟音と共にボールへと向かっていく人物、それが纏っていたのは蒼と紅が入り交じる歪な雷。
「加賀美!?」
(あれはあの時の⋯まさか、また暴走か!?)
数秒のうちにボールをキープしている大海原のFWの背後まで辿り着く。悪寒が走るような闘気に触れたそのFWは思わず振り向いてしまった。
そこに居たのは血走った目でこちらを睨み付ける悪魔のような男だった。
「ひッ」
「なにボーッとしてんだよ」
振り向いて固まっている相手にはお構い無しにボールを奪い取る柊弥。そのまま身に纏う雷を増幅させ、再び加速。ジェットエンジンのように雷を扱い推進力を得た柊弥はもはや誰にも止められない。音村のゲームメイクでも、綱海のフィジカルでも、仲間の呼び掛けでも止まることは無い。
(俺はッ!!強くなけりゃここにいる価値がないんだッ!!)
ゴール前まで辿り着いた柊弥は、勢いそのままにシュートを放つ。それに対して迎撃体制をとったキーパーだったが、そのシュートは目の前で遮られる。それをやったのは他でもない柊弥、キーパーがギリギリ視認できるような速さでシュートコースに割り込んだ柊弥は更にボールを蹴る。何度も、何度も何度もエネルギーを注ぎ込まれたボールはもはや破裂寸前。1本の雷帝一閃でもゴールを奪えたようなキーパーに対して放つにはあまりにオーバーキル。
「シッ!!」
最終的に柊弥は何本ものシュートを束ねたボールを上へ蹴り上げる。紅と蒼の雷が互いに交錯しながら天へと昇るその光景はまさに圧巻。
しかし、事態の異常さに何人かが気付く。
「加賀美よせ!!危険すぎる!!」
「首里!それはマズイ!!逃げるんだ!!」
鬼道が柊弥にストップを掛け、音村がキーパーの首里へ退避の指示を出す。それほどまでに柊弥が今放とうとしている一撃は危険だった。並のキーパーでは大怪我は確定、エイリア学園⋯ジェネシスのキーパー、ネロですら圧倒されかねない程の超高出力だった。
それもそのはず、柊弥は無意識に全エネルギーをこの1本に込めていたのだから。
「ォ゛ォ゛ラァッ!!」
人が放つとは思えない咆哮と共に柊弥がボールへ蹴り込む。その時だった。
蹴られた瞬間にボールが破裂、それと同時に内包していたエネルギーが空中で大爆発を起こす。閃光と共に爆風が地上にいた者達を襲う。とはいえ、そんな怪我をするような程では無い。強いて言うならゴールから対比したものの1番近いところにいた首里が少し吹き飛ばされた程度で怪我はない。
だが、問題ないというのはあくまで地上の話。空中、それも1番近いところでその爆発を受けた者はその限りではない。
「ガハッ」
吹き飛ばされた柊弥は身動きの取れないままに背中からグラウンドに強く打ち付けられる。
凄まじい衝撃が柊弥の全身を襲う。骨が折れていないのが奇跡なほどの勢いで叩き付けられた柊弥はしばらく身動きが取れなかったが、少しの後立ち上がる。
「クソが⋯次は決めるッ、ボールを俺に集めろォ!!」
柊弥の叫びがフィールドに響き渡る。しかし、それに対して誰も言葉を返さない⋯いや、返せない。
全身ボロボロになりながらも未だに目を血走らせ、心胆震え上がるような咆哮を上げる。そんな姿に誰もが気圧されていた。
そして、そんな柊弥にようやく返ってきたのはホイッスルの音だった。
「加賀美君、交代よ」
「は⋯?いや監督、俺はまだ──」
「貴方に拒否権はないわ。目金君、行きなさい」
「は、はいっ」
瞳子は目金に柊弥との交代を命じた。その指示にフットボールフロンティアから柊弥と共に戦ってきたメンバーは心底驚いた。
なぜなら柊弥は今まで1度も試合に欠場どころかベンチに下がったことすらなかったのだ。だがそれと同時に安心もする。これ以上柊弥が危機に瀕する可能性が完全になくなったために。
「⋯クソッ」
柊弥は反抗しても無意味だと悟り大人しくベンチに下がる。その際円堂や一之瀬が声を掛けたり、ベンチでマネージャー陣がタオルやドリンクを渡したりしたが柊弥は終始無言だった。ただひたすらに視線だけをギラつかせ、試合の行く末を眺めていた。
柊弥が抜けたことで攻め手が欠けた雷門はシュートチャンスを作ることはできず1点のまま。それに対して大海原は円堂の鉄壁を崩すことは叶わず1点すら取れていない。
最後の最後で綱海がロングシュートを放つも、円堂が咄嗟に放ったパンチングでそれを阻止しそのまま試合は終了、1-0で雷門の勝利となった。
その後雷門と大海原で試合後にバーベキューをしていたが、そこに柊弥の姿はなかった。
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「隣、良いか」
「やあ鬼道君、座りなよ」
大海原との試合が終わり、相手の提案で浜辺でのバーベキューが行われた。試合の熱のまま始まったそれは凄まじく盛り上がり、今もなお串を片手にお祭り騒ぎだ。
そんな中、1人離れたところでそれを眺めていた音村を見つけたさっきの試合について聞きたいことがあったので隣に腰掛ける。
大海原の1人にイタズラをした木暮を春奈が追いかけている様を見ながら俺は音村と様々な話をした。と言っても、主に音村のゲームメイクの秘密についてだ。
リズムやビートを元に相手の動きを把握し、盤面を制圧する。非常に興味深い話だった。これを使えば、今後のエイリアとの戦いで戦術面での有利を取れるかもしれない。
「時に鬼道君、加賀美君のことだけど」
「加賀美か。どうかしたか?」
「彼、このままだと破滅するよ」
音村が神妙な顔で俺にそう告げた。
「彼は確かに唯一無二の戦力だ。けれど周りが見えていない⋯いや、それどころか自分のことすら見えていない」
「⋯痛い指摘だ」
「何て言うんだろうね⋯自分の出すべき音を勘違いしているって言うのかな。なにか大切で致命的な思い違いをしているように感じたんだ」
「なるほど⋯お前にはそう見えたか」
自分の在り方を見失っている、と言ったところか。これは雷門の外である音村だからこその発見かもしれないな。
「けどそれは彼自身が気付くか、或いは彼が全幅の信頼を置けてなおかつ同じ視線に立てる人間に諭されないと正せないだろうね」
「⋯豪炎寺か」
「豪炎寺君⋯雷門のエースストライカーだね。今はいないようだけど、フットボールフロンティアでは彼と加賀美君、そして染岡君のスリートップが印象的だった」
「ああ。あの三人はそれぞれ別の強さを誇るうちのストライカーだ。エースとして10番を背負っていたのは豪炎寺だが⋯俺にとっては3人全員がエースのように思えていた」
豪炎寺に染岡、アイツらが今もチームにいれば加賀美も⋯いや、止めておこう。チームの司令塔としてないものねだりはしていられない。今の俺達が加賀美を支えてやらねば、どうにもならないことだ。
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「いい場所だな、ここ」
「だろ?たまに行き詰まってどうしようもない時、ここで夕日を見てんだ」
翌日、円堂は綱海に頼み込んでサーフィンを教えてもらっていた。試合の中で綱海が見せたサーフィンの動きが正義の鉄拳を完成させるピースになるのではないかと確信したからだ。
最初綱海は反対した。一朝一夕で身につけられるほどサーフィンの身体使いは簡単では無いと、自分が1番分かっていたから。
それでも承諾したのは、円堂の熱意あってこそだ。
「俺さ、この正義の鉄拳を完成させて柊弥を安心させてやりたいんだ」
「加賀美をか?」
「ああ。柊弥は今1人で戦っているんだ。エイリア学園から俺達を守るために、俺達が傷つかないためにって」
円堂は拳を握りしめ、夕日に向ける。
「けど、俺はそんな柊弥を守りたい!アイツは頭も良いけど、たまに今日みたいな無茶するからさ。だから俺が支える!小さい頃からずっと一緒にサッカーしてきたんだ」
「へえ、幼なじみってやつか⋯なら、明日も頑張ってサーフィンをマスターして、完成してやろうぜ!正義の鉄拳をよ!」
「綱海⋯おう!明日もよろしく頼むな!」
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既に辺りは真っ暗、そんな遅い時間だというのに柊弥は1人シュートを撃ち続けていた。最初は何本撃ったか数えていたが、1000を超えたあたりから面倒になって放棄した。
1000と撃ってなお続けている時点でかなりおかしいのだが、本人は未だに満足出来ていないようでなおもボールを蹴り続けている。
「こんなんじゃ⋯ダメだッ⋯!」
やがて限界が近付いてきたのかその場に四つん這いに倒れ込む柊弥。とめどなく落ちては地に吸われていく汗を見つめながら息も絶え絶えの声で呟く。
「俺は強くなきゃダメなんだ、まだまだ足りない」
誰よりも強い自分以外は認めない。今の心境を言い表すならそんなところだろうか。悲鳴をあげる身体で立ち上がり、再び柊弥はシュートにを放つ。
そんな様子を、陰から音無は見守っていた。
(また無茶して⋯止めた方が良いのかな)
大海原との試合での柊弥を見ていた音無は、以前の暴走した時の柊弥を思い出していた。いざとなったらまた自分が止める、そうは思っていたものの、そんな状況まで追い詰められて欲しくないとも思っていた。
しかし、やはり自分に柊弥が強くなろうとしているのを止める資格はない。陰から支えてやる、それが柊弥のためになると腹を括っていた。
「⋯あれ?」
タオルとドリンク、それと練習終わりに食べられるようにおにぎりでも持ってこよう。そう思ってその場を離れようとしたその時、音無はある人影に気が付いた。
暗い上にオレンジのパーカーで顔を隠しいるためよくは見えないが、森の中から柊弥の方を見ている。
(エイリア学園?いや、もしそうなら何の為に?)
音無が警戒を強めると、それとは裏腹にその人影はどこかへと去っていった。ただの通りすがりか、と結論付けて音無もその場を離れる。
「⋯柊弥」
それが、その男が今の柊弥に1番必要な存在であることに気付かずに。
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「行くぞ、守」
「おう!」
数日後、大海原のグラウンドにて円堂と柊弥は対峙していた。綱海とのサーフィン特訓を終えた円堂、今なら正義の鉄拳が出来るかもしれないと思い立ち、柊弥に声をかけて試してみることにした。
それを聞き付けて他のメンバーもその場を囲むようにして見守っている。
「"真"轟一閃」
踏み抜かれたボールは凄まじい勢いの回転と共に雷を帯びて浮き上がる。それと同時に右脚を後ろに引いた柊弥は、ボールが最高点に達するタイミングで最速で右脚を振り抜く。
前方向へ衝撃を受けたボールはそれに従い凄まじい速さでゴールへと襲い掛かる。空間に残る軌跡がそのスピードを物語っている。
(すげえシュートだ!柊弥のやつ、またレベルアップしてる!)
自身に向かって飛んでくるシュートに対し、円堂は思わず笑みをこぼす。更に強くなった幼なじみに対して自分も負けていられないと奮起する。
そんな想いが円堂の拳に集約する。それは自身の体内のエネルギーを増幅させ、黄金の闘気として放たれる。
「正義の鉄拳!!」
そしてその闘気が拳を形作る。回転と共に放たれたその拳は、迫り来る轟雷の一撃に負けることなく真っ直ぐに突き出される。
完璧に威力を殺されたシュートは鉄拳に大きく弾かれた。それは、遂に究極奥義の一角、正義の鉄拳が完成したことを証明していた。
「これが正義の鉄拳⋯」
「よっしゃあ!やったぜ柊弥!」
その凄まじさは実際にシュートを撃った柊弥が1番理解出来た。強靭な肉体を前提とし、緻密なボディコントロールの上に発揮される絶大な威力を誇るのがこの正義の鉄拳。
それを目の当たりにした柊弥は感嘆と共に円堂の進化を心の底から喜んでいた。
「ああ、最高だ──」
柊弥が円堂が掲げた手にハイタッチしようとした、まさにその瞬間。2人の背後に何かが落ちてきた。
巻き上がる砂塵から目を守りつつ、柊弥はその中心にあるものを見た。
それは、真っ赤な光を放つ黒いサッカーボール。
「⋯デザーム」
「フハハハ!!久しいな雷門イレブン!!」
砂塵が晴れると、イプシロンの面々が姿を現した。しかしすぐさま雷門イレブンは異変に気付く。イプシロンのメンバーは全員目が真っ赤に染まっていたのだ、比喩でもなんでもなく。
その真ん中に立つデザームが1歩前に出て大きく笑う。
「我々は特訓を重ね、イプシロン"改"へと進化した!さあ雷門イレブンよ、またあの時のように私を楽しませてみせろ!!」
「楽しむ?そんなお前らの勝手が戦う理由になんかなるか!」
「断れば適当な学校にコイツを落とす」
デザームの物言いに土門が反論するが、ゼルが黒いサッカーボールをチラつかせながらそう言い放つ。
断ればどこかの学校が被害を被ることになる。そう考えれば首を縦に振る以外の選択肢は自動的に削除されたようなものだった。
「⋯イプシロンに勝てなければ、どの道ジェネシスやプロミネンスには勝てないわ」
「やるしかないってことか⋯よし!勝負だ、イプシロン"改"!!」
瞳子がそう呟き、全員が覚悟を決める。代表して円堂が勝負を受ける意思を見せると、デザームの口角がつり上がった。
そしてそのデザームの視線は、柊弥に真っ直ぐ突き刺さっていた。
「⋯イプシロン如きに、日和ってられるか」
それに対して柊弥も睨み返す。再戦のゴングは今鳴らされた。
イプシロン"改"襲来!
ということはとうとう⋯?