Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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2日連続投稿です
今回はとうとう⋯

追記:5/30、久々の日間入りにマジで感謝!


第73話 それでも足掻け

 突如として始まった雷門とイプシロン改の試合。前半開始早々怒涛の攻めを見せる雷門イレブンだったが、2人のストライカー、柊弥と吹雪のシュートが一切通じなかった上に吹雪は交代という前半早々にも関わらずピンチに追い込まれていた。

 しかし、それで諦める雷門イレブンではない。残された柊弥は、以前のイプシロンとの試合でデザームからゴールを奪っている。本人の申し出もあり、ここからはその柊弥を軸に攻めを展開することになる。

 

 

 吹雪の交代によって止まった試合はイプシロン改のスローインから再開となる。ボールを受け取ったマキュアすぐさま雷門ゴールへと攻め上がる。

 鬼道の指示をベースに雷門は守備に動くが、圧倒的な身体能力と連携の元に歯が立たない。

 気付いた時には既にゴール前。しかもマキュア1人だけではなく、その横にゼルとメトロンもいる。

 

 

ガイアブレイク!!

 

 

 2度目のガイアブレイク。強大なシュートであることは間違いないというのに、ゴールを守る円堂は一切の恐れを見せていない。どんなシュートが来ても止めてやる、そう立ち姿で語っていた。

 

 

「止める!正義の鉄拳!!

 

 

 円堂は正義の鉄拳でガイアブレイクをしっかりと殺しきる。弾かれたボールは土門の元に。

 

 

「よし!攻めるぞ!」

 

 

 土門からパスが出される。土門から一之瀬、一之瀬から鬼道への素早いパス回しでボールはフィールド中盤まで運ばれる。

 鬼道に対してすぐさまプレスが掛かるが、テクニックをフルに用いてそれを突破する。フィジカルで言えばイプシロンに分があるというのにそこを突破出来るのはひとえに鬼道のテクニックの高さを表していると言える。

 

 

「よし、いけ!!」

 

 

 そのままの流れで鬼道は鋭いパスを出す。名前こそ呼ばれなかったが、その矛先が誰に向いているかは明らかだった。

 そのパスの先にいるのは、今は鳴りを潜めている雷鳴。

 

 

「決める」

 

 

 ボールを受け取った柊弥は、凄まじい加速を見せる。そのスピードは雷を凌駕するのではないかというレベル。DF陣の防壁をスピードのみで強行突破を試みる。

 

 

「甘い!」

 

「通すか!」

 

「甘いのはどっちだよ」

 

 

 柊弥のスピードを見てこれなら止められるとタイタン、ケイソンが同時に襲い掛かる。だが柊弥は更なる加速を見せる。それは雷ではなく、もはや光の領域。余裕の笑みを浮かべていた2人の表情が驚愕に染まる。その驚愕のせいで一瞬防衛線に穴が出来る。そんな穴を柊弥が見逃すはずがない。

 一瞬の突破劇、このフィールドに少なくともスピードで柊弥に勝る者は存在しない。

 

 

「来るか!加賀美!!」

 

 

 ゴール前で再び柊弥とデザームが対面する。嬉々として構えるデザームに対して柊弥が向けるのは絶対零度の覇気。その覇気に当てられてデザームの闘志も爆発する。

 直後、柊弥の覇気が冷気から灼熱へと変わる。対峙する者、それに自分自身まで燃やし尽くす程の凄まじい熱が周囲を焦がす。

 

 

「ォォォオオオオッ!!」

 

 

 雷が暴れ出す。あちこちを飛びまわりながらその力を爆発させ、軌道を変える度にその勢いは跳ね上がる。

 たった1人、それにも関わらず凄まじい力を誇るその様はまるで帝王。

 

 

雷帝一閃ッ!!

 

 

 空中で柊弥が一際強く蹴り込むと、ボールを中心に閃光が辺りを支配する。それと同時に轟音が鳴り響き、フィールドに立つ者達は全員視覚と聴覚を奪われる。

 その状態からいち早く回復したのはデザームだった。第六感で危険を感じとったデザームは光に目をやられる前に瞼を閉じる。その向こうで強い発光が収まったと同時にシュートに目を向ける。

 こちらに向かってきている⋯いや、落ちてきているのは本物の雷。

 

 

「面白い!!」

 

 

 デザームは拳に力を集約させる。腕を振り上げるとその拳が強靭なドリルへと変貌する。

 

 

ドリルスマッシャー!!

 

 

 互いのメインウェポンがぶつかり合う。火花を撒き散らし、音を立てながら真正面から削り合う双方は一向に衰えない。

 

 

(この男、先程よりも遥かに強くなっている!)

 

 

 最初の攻防の時よりも更に威力が増していることにデザームは気付く。しかしデザームもまだ底を見せていなかった。咆哮と共に更に力を込める。すると更に強く、更に速く回転する

 

 

「だがまだ⋯足りんぞォォォォォッ!!」

 

 

 再び咆哮。あまりの回転に赤熱化するドリルは砕けるどころかより強靭に。

 そして、雷帝一閃はまたも弾かれる。

 

 

「クッソがァッ⋯!」

 

 

 笑みを浮かべるデザームとは真逆、柊弥は今にも憤死しそうな程の怒りに顔を歪ませる。

 

 

 弾かれたボールの支配権はイプシロンへ。そこから即カウンターへと繋げてくる。目まぐるしく入れ替わる攻防、それは互角の勝負のように観客の目に映っていたが実際はそうでは無い。フィジカルはイプシロンの方が上、加えてパスワークなどの技術もだ。それなのに喰らいつけているのは鬼道の的確な指示と雷門イレブンの執念の賜物だ。

 つまりのところ、実際に優勢なのはイプシロンなのだ。その証拠に攻めに転じた際の切り替えが雷門より優秀、それに対応するために雷門は必要以上の消耗を強いられる。

 

 

ザ・ウォール"改"!

 

ザ・タワー!!

 

フレイムダンス!!

 

ボルケイノカット!!

 

旋風陣!!

 

 

 雷門側は必殺技を使用する頻度がイプシロンより高い、それも消耗を加速させる要因となっている。

 

 

ガニメデプロトン!!

 

正義の鉄拳!!⋯よしっ!!」

 

 

 幸いなのはそのおかげで相手のシュート数を抑えられているため円堂の負担が軽くなっていることか。万全の状態で正義の鉄拳を放つことでイプシロンの決め手をことごとく潰せている。

 だが現状決め手がないのは雷門も同じ。柊弥の雷帝一閃が通じない以上、点を取る手段がないのだ。

 

 

(皆の消耗が激しい、俺が、デザームから点を奪えていないせいで⋯!)

 

 

 柊弥は内心焦る。自身のシュートが通じないことはもちろん、仲間の負担がそれで増えているがゆえに。

 

 

(まずは1点、確実に1点を取る)

 

 

 その時、柊弥の全身から力が抜けたとほぼ同時、全身から雷が迸る。本来蒼である柊弥の雷には僅かながらに紅が混ざり始めている。先日の大海原との試合でも見せたあの力だ。

 

 

(その為に、出し惜しみなんてしてられるかよ)

 

 

 直後柊弥の姿が消える。一瞬で前線から下がってきた柊弥はボールをキープしていたゼルに正面衝突。パワープレイでそのボールを奪い去る。

 

 

「何だと!?」

 

 

 突如として自分達の攻めが止められたことに動揺を隠せないイプシロンの前衛。そんなことはお構い無しに柊弥は奪い取ったボールと共にゴール前に現れた。その柊弥のスピードはもはや速いなんて次元ではなかった。空間を切り取ったかのようにゴールへ辿り着いた柊弥は吼える。

 

 

「デザァァァムッ!!この1点だけは何が何でも決めてやるッ!!」

 

「その迫力⋯良い、ようやくあの時と同じだ!!さあ撃ってこい!!私を心の底から滾らせてみろォッ!!」

 

 

 血を吐くような咆哮と共に柊弥の纏う雷は完全に紅一色に染まる。その瞬間、それを見ていた全員にジェネシスとの試合がフラッシュバックし、最悪の予想が頭を過ぎる。そう、暴走だ。

 だが今の柊弥はあの時と違って背中から何か(化身)が出てきていないことからまだ違うと分かる。

 

 

ガァァァァァァァァァッ!!!

 

 

 叫びながら柊弥は何度も蹴り込む。一発一発に込める力は先程とは段違いだ。それは柊弥の雷が更に荒くなったこともあるが、何より柊弥自身のパワーが限界値を超えてきていることも理由の一つ。

 

 

 気の済むまで威力を増幅させたシュートを柊弥は踵で下に堕とす。真っ赤なそのエネルギー体は世界の終わりを連想させるような凄まじい光景を創り出す。

 

 

雷帝ェッ!!一閃ッッッッッ!!

 

 

 柊弥が真っ直ぐに蹴り抜く。あまりの威力に柊弥の全身は痛みに包まれるがその進撃を止めることは無い。意地と執念で放たれたそのシュートは間違いなくこの試合の中で最高の威力を誇る。

 そんなシュートを前にしてもなお、デザームは狂気的な笑みを絶やさない。

 

 

「フ、フハハハハッ!!素晴らしいッ!!やはりお前は最高だ、加賀美 柊弥ァ!!」

 

 

 高らかに笑いながらデザームは拳を上に突き上げる。先程のように拳をドリルに変えたのだが、明らかに様子が違かった。

 まるで柊弥に触発されたかのようにその色は赤く染まっていたのだ。最初から先程の技の過程で辿り着いた状態と言ったところか。

 

 

ドリルスマッシャー"V3"ィ!!

 

 

 三度雷帝の怒りがゴールへ突き刺さる。真正面からぶつかり合う雷帝一閃とドリルスマッシャー"V3"。どちらもこれまでの衝突とは比較にならないほどの威力を秘めている。

 だが先程までと明らかに違う点がある。それは、最初からどちらかが明らかに優勢であること。

 

 

「貫けェェェェェェェ!!」

 

「今の私は⋯誰にも負ける気がせんぞォォォオオオオッ!!」

 

 

 それがどちらなのか、答えは案外すぐに出ることになった。

 数秒の衝突の後、その場から紅雷が霧散する。その事実だけでどちらが勝者かは火を見るより明らかだ。

 

 

「貴様の全力、討ち取ったぞ!!」

 

「ぐ、ぐォォォォォォォアアアアアア!!」

 

 

 地に落ちたボールを拾い上げ、デザームはそれを見せつける。対する柊弥は言葉にならない声で叫ぶ。

 負ける気なんてさらさらなかった。この1点を起点に試合に勝ちに行くつもりだった。だがそんな理想は今完璧に打ち砕かれた。今の自分に出せる最大を持ってしてもデザームを打倒するに足らなかった、その事実が柊弥の心を抉る。

 

 

「良い時間だった!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その時、デザームがボールを外に出した。

 

 

「ポジションチェンジだ!!FWのゼルと私が交代する、良いな!」

 

 

 前に出てきたデザームが胸のボタンを押す。すると、イプシロンのフィールドプレイヤーが身に纏う赤を基調としたユニフォームがデザームの身を包む。反対にゼルのユニフォームはデザームのものと同じ黒いものに。

 

 

「ポジションチェンジだと!?」

 

「アイツ、本職はFWだっての!?」

 

 

 シュートを撃ったあとその場に柊弥は膝をついていた。当然、あれほどの威力となれば消耗は相当なもの。デザームがボールを外に出したタイミングで円堂がその肩を支えに前へ出てきていた。

 そんな2人の元にデザームは歩み寄り、高らかに宣言する。

 

 

「円堂 守。貴様の究極奥義、正義の鉄拳は私が破る!そしてフィールドプレイヤーとしても私の方が優れているということを思い知らせてやろう!加賀美 柊弥よ!!」

 

「なんだと⋯!?」

 

 

 まさかの宣言に円堂は驚愕する。ほぼそれと同時、柊弥を支えていた方の肩が突き放される。

 先程まで息を切らしていた柊弥は、デザームを力の限り睨みつける。

 

 

「テメェどこまでコケにしやがる⋯絶対潰す」

 

「その意気や良し。虚勢でないことはプレイで示してみせろ!」

 

 

 普段の柊弥ならば絶対に出ないような言葉だった。それを間近で見ていた円堂はただならぬ何かを感じて柊弥に声を掛けようとする。しかし、今柊弥に触れようものならその指を喰い千切られる、そんな気がして伸ばした腕を引っ込めてしまった。

 

 

(相手のキーパーはどうせデザーム程じゃねえ。どれだけ慢心していたか思い知らせてやるッ!!)

 

 

 リカのスローインから試合は再開。ボールを受け取った柊弥はすぐさまゴールの方を向く。しかし、その視界は急に塞がれることとなる。

 

 

「なッ」

 

 

 その正体はデザーム。柊弥が視認できないほどのスピードで前を塞いだデザームは、そのままそのボールを奪い取る。一瞬の奪取に柊弥はもちろん他のメンバーも呆気に取られていた。

 

 

「くっ、止めるんだッ!!」

 

 

 いち早く正気に戻った鬼道が声を荒らげる。すぐさま他のメンバーがデザームの行く手を阻むが、凄まじいパワードリブルで全て薙ぎ払っていく。その様は蹂躙と呼ぶに相応しい。

 

 

「いくぞ!円堂 守!!」

 

「こいッ!」

 

 

 軽々と最終防衛ラインすらも突破したデザームは腕を組みながらボールを踏み付ける。するとボールを中心に異空間が展開され、デザームはそれに呑み込まれ姿を消す。

 その異空間の中でデザームはシュートを放つ。あまりの威力に時空を貫きそのシュートは現世へと降臨する。

 

 

グングニル!!

 

 

 神の槍の名を冠するそのシュートを見て、雷門イレブン、特に柊弥は絶望に近い驚きに脳を支配された。

 何故なら、そのシュートは柊弥の雷帝一閃を遥かに凌ぐほどの威力であることが一目で理解出来てしまったから。

 

 

正義の鉄拳ッ!!

 

 

 グングニルと正義の鉄拳がぶつかり合う。凄まじい膂力に円堂は身体が後ろに押されるが、地面を削りながらも耐える。

 

 

「何てパワーだ!けど⋯じいちゃんの究極奥義が負けるはずない!!」

 

 

 円堂は更に力を込める。しかし現実はあまりな残酷だった。

 

 

「うわァッ!?」

 

 

 円堂が力を込めたその瞬間、それに呼応するようにグングニルの威力も跳ね上がったのだ。結果、総合値で勝ったのはデザームのグングニル。

 この試合で初めてゴールネットが揺らされたのは雷門ゴールだった。

 

 

「そんな!」

 

「正義の鉄拳は⋯究極奥義じゃなかったの!?」

 

 

 そのタイミングで前半終了のホイッスルが鳴る。スコアは0-1、柊弥の雷帝一閃は止められ、円堂の正義の鉄拳は破られた。はっきり言って最悪以外の何でもない状況だ。

 それを理解してしまっているのだろう、ベンチの空気は過去類を見ないほどに重苦しい。

 

 

「なぁに!正義の鉄拳が通用しねえならその分俺達がカバーすれば良い!違うか!?」

 

「た、確かにそうっス!」

 

「けど、点を取るにはどうすれば⋯」

 

 

 綱海がその空気を払拭しようと声を上げる。それに壁山達DFが同調するが、一之瀬の何気ない一言でまた空気は引き戻される。こればかりは綱海もフォローしきれないようで、口籠ってしまった。

 

 

「俺に任せろ」

 

 

 グシャリ、という音がその静寂を破った。その音の出処はドリンクのボトルを握り締める柊弥からだった。ボトルが変形しかけるほどの怒り、それが今の柊弥を支配している。

 

 

「俺が1点でも10点でもヤツらのゴールを壊す。それで何の問題もねえだろ」

 

「けど、雷帝一閃は⋯」

 

「関係ねえよ⋯あのゼルは所詮サブキーパー、デザームほどの実力はない。何度でも撃つ、それだけだ」

 

 

 土門が吐露した不安に柊弥はそう言い切る。それは頼もしくもあったのだが、同時に不安でもなかった。雷門イレブンは全員柊弥の実力を良く知っている。だが、そんな柊弥が今の今までゴールを奪えていない。どうしてもその事実が先行してしまうのだ。言わば今の柊弥は口だけ。不安が拭えないのも無理はない。

 

 

「⋯とにかく今は1点取って追いつかなければならない。攻めは後半も加賀美を主軸、守りは前半よりも固めていくぞ」

 

『おお!!』

 

 

 鬼道がそう締めくくり、ハーフタイムは終了する。

 

 

「円堂さん、少し良いですか?」

 

「おう、どうした立向居?」

 

 

 ポジションに戻る前、立向居が円堂に話し掛ける。

 

 

「俺、マジン・ザ・ハンドを初めて見た時雷が落ちたみたいな衝撃を感じたんです。けど正義の鉄拳にはそれを感じませんでした」

 

「衝撃?」

 

「はい。上手く言えないんですが、ライオンはライオンでも子どものライオンを見ているような⋯すみません、感覚的なことしか言えなくて」

 

「良いって!後半、頑張ろうぜ!」

 

 

 立向居のその言葉を円堂は頭の中で噛み砕いていた。同じキーパーであり、素質は自分を凌駕するかもしれない、そんな立向居からの言葉を円堂は無下にはしなかった。

 あのグングニルを止めるには何かが足りない。そのヒントが立向居の言葉の中にある、そんな確信があった。

 

 

 最後に円堂がゴール前に立ち、全員がポジションに着いた。

 

 

「さあ加賀美 柊弥。後半も楽しもうではないか」

 

「黙れ」

 

 

 デザームのその言葉を柊弥は一蹴する。そのやり取りの直後、試合開始のホイッスルが鳴った。

 

 

(これしか、ねえだろッ!!)

 

 

 リカからボールを受け取ってすぐ、柊弥は前半同様全身に雷を宿す。目の前に立ちはだかるデザームを突破するため、最初からフルスロットルでいくしか選択肢は残されていなかったのだ。

 

 

「ほう」

 

(スピードでは俺が上!!このままゴールをぶち破るッ!!)

 

 

 柊弥の全速力はデザームを上回った。一気にイプシロン陣内へ侵入した柊弥はそのまま捕まることなくゴール前まで駆ける。

 

 

「おおォォォォォォォッ!!」

 

 

 ゴール前でゼルと真っ向勝負。柊弥は勢いそのままにボールを蹴る。追いついては蹴り、追いついては蹴りを繰り返す。

 爆発寸前までエネルギーを込めたボールを柊弥はそのままシュートとして解き放つ。

 

 

雷帝一閃ッァァァァ!!

 

 

 本日4度目の雷帝一閃。以前までだったら3本目の時点で既に倒れていた。それがここまで持つようになったのは特訓の成果と言える。

 しかし、柊弥は必死すぎるあまり気付いていなかった。

 

 

ワームホール!!

 

 

 前半から今までずっと全力で立ち回ってきた弊害が自身に付き纏っていたことに。

 

 

「は──?」

 

 

 その雷帝一閃は何事もなく止められた。サブキーパーであるゼルに、ワームホールで。

 柊弥はその場で膝を着く。全身が震えて呼吸が一向に落ち着かない⋯そう、ガス欠だ。

 

 

「自身の限界も把握出来ない愚か者が。お前如き、私で充分だ」

 

 

 ゼルがボールを投げる。すぐさまイプシロンのカウンターが始まる。凄まじいパスワークで瞬く間にボールは雷門陣内へ。ハーフタイムで回復した体力も一瞬のうちに消えていく。

 その間、柊弥はイプシロンのゴール前から動けなかった。

 

 

「ぐあッ!」

 

「くそォッ!」

 

 

 聞こえるのは仲間達の苦痛に満ちた声。だがそれでも、柊弥は動けない。

 

 

「さあ2点目だ、円堂 守」

 

(子どものライオン⋯衝撃⋯クソっ!一体どうすれば良い!?)

 

 

 デザームの姿が消えた、と思った数秒後には空間を割って全てを貫く槍が姿を見せる。

 

 

グングニル!!

 

「やるしかない!!正義の鉄拳ッ!!

 

 

 再びグングニルと正義の鉄拳が衝突する。円堂は持てる全力でグングニルを迎え撃った。しかし、やはりその力の差は歴然。無情にも黄金の拳は砕かれる。

 

 

「ぐぅッ!!」

 

 

 得点を告げるホイッスルが鳴る。当然スコアボードが更新されるのはイプシロンの方だ。

 

 

「ふん、もはやお前達への興味は消え失せた⋯よってここからは、お前達を破壊するとしよう」

 

 

 円堂に背を向け、デザームはそう告げる。自身を熱くさせた存在は全て打ち破った。となればもうデザームにこの試合を楽しむ理由はない。エイリア学園、イプシロンとして邪魔になる敵を徹底的に排除する、その目的だけが残っていた。

 

 

 再び雷門側からキックオフ。何とか立ち上がりリカからボールを受け取った柊弥は、何とか点を取るべく歯を食いしばる。

 

 

「遅い!」

 

「ぐァッ!!」

 

 

 しかし、もう余力など残っていない。一瞬でデザームにボールを奪われる。

 ボールを奪ったデザームはすぐさま雷門イレブンはを潰しに掛かる。目の前に立ちはだかる障害を一つ一つ、確実に粉砕していく。

 

 

グングニル!!

 

「させないっス!!ザ・ウォール"改"!!

 

「これ以上点をやるかよ!!ボルケイノカット!!

 

 

 三度デザームのグングニルが放たれる。しかし、壁山が身体を張ってシュートの威力を削り、そこで生まれた僅かな時間で土門が更にシュートを削る。

 

 

正義の⋯鉄拳ッ!!

 

 

 だがそれでもグングニルは止められない。僅かにコースが逸れたものの行き先はゴールの中。これで0-3、そう思われた次の瞬間、そのコースに一人の男が割って入る。

 

 

「させるかあああ!!」

 

 

 なんと、綱海がそこに飛び込んできた。シュートを腹で受け、背でゴールポストにぶつかることで生きていたグングニルの威力を完全に殺しきる。

 しかしその代償は決して安くなく、綱海の腹と背中には激痛が残る。

 

 

「綱海、助かったぜ⋯」

 

「おう、良いってことよ⋯!」

 

「円堂ォ!!!」

 

 

 だが、なおも円堂達に余裕などなかった。なんと弾かれたボールは再びデザームの支配下へ。いち早くそれを読んだ鬼道が叫ぶと、円堂はすぐさま立ち上がる。

 

 

グングニル!!

 

「うォォオオオオ!!正義の鉄拳ッッッッッ!!

 

 

 容赦なく放たれたグングニル。円堂はまたも正義の鉄拳で迎え撃つが、やはり勝てない。数秒の拮抗の後にまたも正義の鉄拳は打ち砕かれる。

 だが、その数秒が命を繋ぐ。

 

 

『させるかァァッ!!』

 

 

 鬼道、木暮、土門、壁山が円堂の後ろに回りこみ、4人がかりでシュートを止める肉の壁となった。

 何とかグングニルを止めることが出来たが、その4人は倒れたまま動かない。それに加え他のメンバーはデザームの猛攻によって既に動けない状態だった。

 今、この場で動けるのは円堂ただ1人。

 

 

「来い⋯絶対に止めてやるッ!!!」

 

「良く言った!!いくぞォッ!!」

 

 

 デザームが再び異空間に姿を消す。その間円堂は先程の立向居の言葉、そして大介のノートに書かれていたことを思い出していた。

 

 

(ライオンの子ども⋯究極奥義は未完成⋯)

 

 

 空間を裂いてグングニルが姿を現す。誰も助けには入れず、円堂1人でこの場を凌ぐしかない。

 だがそんな逆境に、この男は覚醒する。

 

 

(そうか!!究極奥義は完成しないってことじゃない⋯ライオンの子どもが大きくなるように、常に進化し続ける!!そういうことか!!)

 

 

 その時、円堂の空気が変わる。取った構えは先程の正義の鉄拳とまるで同じ。だが確実に何かが違う。

 その答えは、すぐに示される。

 

 

正義の鉄拳(G2)!!

 

 

 繰り出された拳は真っ直ぐに、それでいて力強く神の槍を捉える。先程までだったら確実に打ち負けていた。しかし、一向にその拳は砕かれない。

 円堂は更なる力を振り絞り拳を突き出す。すると、段々とシュートが押し返されていく。

 

 

「馬鹿なッ!?」

 

「うォォォォォォオオオオ!!」

 

 

 そしてとうとう、グングニルが砕け散る。

 

 

「円堂!!」

 

「キャプテン!!」

 

 

 弾かれたボールは放物線を描きながら飛んでいく。やがて地面に着弾したボールは、ある男の元へと辿り着く。

 

 

「こんなとこで⋯寝てられるかよッ」

 

「円堂 守がグングニルを止めただけでなく、貴様も立つか⋯加賀美 柊弥!!」

 

 

 それを見たデザームがすぐさま加賀美の前に立ちはだかる。

 

 

「面白い!!円堂 守は後だ!まずは貴様を破壊する!!」

 

 

 柊弥から強引にボールを奪ったデザームは、その場で異空間に姿を消す。それが何を意味するのか、全員すぐに理解してしまった。

 

 

「まさか、加賀美にグングニルを!?」

 

「やめろデザーム!!シュートを撃つならゴールに撃てェッ!!」

 

 

 円堂が腹の底から叫ぶ。しかしその声をデザームが聞き入れる理由などない。

 神をも殺す槍は、瀕死の雷帝に向かって放たれた。

 

 

グングニルッ!!さあ終わりの時だ!!加賀美 柊弥ァ!!」

 

 

 迫り来るシュート。これを受ければただですまないことは容易に理解出来た。

 だからこそ、柊弥は歯向かう。その事実を覆すために、もう動かないはずの身体を震え上がらせて。

 

 

ガァァァァァァァァァッ!!

 

 

 柊弥の目が血走り、全身から血のようなグロテスクな色のエネルギーが迸る。

 そう、持てる力を使い果たしてなお立ち上がり、負けられないと執念を燃やす柊弥は再びその引き出しに手を掛けることになった。

 自身でも制御しきれない、圧倒的暴力に。

 

 

「あれはッ!!」

 

「駄目だ柊弥!!落ち着いて逃げるんだ!!」

 

「柊弥先輩!!」

 

 

 円堂が、音無が柊弥に声を掛ける。しかし柊弥には届かない。

 シュートとぶつかる瞬間、柊弥の意識が完全に闇に落ちる。再び暴力の嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「ぐッ!?」

 

「何だッ!?」

 

 

 グングニルと柊弥の間に1本のシュートが割り込む。そのシュートは全てを燃やし尽くす程の凄まじい炎を纏っていた。

 それと正面衝突したグングニルは完全に折られ、柊弥から溢れ出すエネルギーは全て焼き払われる。

 

 

 真っ赤に染まり掛けた視界が色を取り戻していく中、柊弥の目はある姿を捉えた。

 

 

「────あ」

 

 

 オレンジのフードを被ったその男は、フィールドの中に入ってきて柊弥の前で足を止めると、ゆっくりとその顔を晒す。

 

 

「⋯待たせたな、柊弥」

 

「修、也?」

 

 

 そこにあったのは、あの日別れた"相棒"の姿だった。




次回、復活の爆炎

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