これからも頑張ります
「妹が大切なら、分かるな?」
フットボールフロンティアの決勝の後、傘美野中で最初にエイリア学園と戦った後のことだった。打倒エイリア学園の為に地上最強のチームを作ろうと旅立つことになり、決勝直後に長い眠りから目覚めた夕香に顔を出すために病院に向かった。
病室を出た瞬間、俺の前に3人の男が俺の前に現れる。ヤツらはエイリア学園の志に賛同する者⋯とか言っていたな。
そしてそいつらに持ちかけられた話に俺は悩まされることになる。雷門を裏切り自分達の仲間になれ、さもなくば夕香がどうなるか分からない⋯俗に言う脅迫だ。
それからは酷かった。奈良の公園でエイリア学園の痕跡を探す時も、SPフィクサーズというチームと試合をする時もまるで身が入らなかった。挙げ句の果て、エイリア学園と再戦だという時にあの男達が再び俺の前に姿を現した。以前のように直接話しかけてくるわけではなく、あくまで自分達の存在を仄めかすように。
そのせいで俺は試合にまるで集中できなかった。シュートを撃とうとすればヤツらの言葉がフラッシュバックし、狙いが定まらない。柊弥とファイアトルネードDDを撃つ時に至ってはエネルギーを制御しきれず、あわや大怪我をさせるところだった。
そんな俺を見兼ねたのだろう、響木監督の代わりに俺達を率いていた瞳子監督が俺にこう告げる。
「貴方にはチームを離れてもらいます」
当然だった。私情に惑わされ、エースストライカーとしての役割を一切全う出来ていなかったんだ。そんな男はチームに必要ないだろう。
だがそんな時、柊弥が声を荒らげた。
「待ってくださいよ監督、修也にチームを抜けろって……意味が分かりません!」
「だから、さっきのは調子が悪かっただけだって───」
「───アンタに、修也の何が分かるッ!?」
そんな時だったが、俺は嬉しかったんだ。アイツがここまで俺を気にしてくれていたことが、どうしようもなく嬉しかった。
けど、だからこそだ。今の俺はコイツの隣に並び立つに相応しくない。このチームのストライカーとして、一緒に走る資格が無い。
「⋯ダメだ、柊弥。良いんだ」
俺はチームを離れることを決めた。夕香のことを解決して、今よりもっと強くなる。いつか必ずこのチームに戻ってくるため、今はサヨナラだ。そう自分に言い聞かせた。
「⋯何度でも言うぞ。行くな、戻ってこい」
それでもアイツは俺を追いかけて来てくれた。柄にもなく、瞼が熱くなったのを覚えている。
しかし俺の腹はもう決まっていた。柊弥に俺の10番のユニフォームを預け、誓った。必ず戻ってくるんだと。
それから俺は鬼瓦刑事に拾ってもらい、沖縄に身を潜めた。何で鬼瓦刑事が?と訊ねてみると、何と瞳子監督が根回ししてくれていたと言うのだ。あの人は決して俺が必要ないからチームから外したんじゃない、事情を察して立ち回ってくれたんだ。
その恩に報いるためにも、俺はガムシャラに特訓した。土方に匿ってもらっている手前、あまり目立つ行動は出来なかったが。
そんな時だった。鬼瓦刑事から連絡が入った。
「雷門のヤツらが沖縄に来るそうだ」
俺は自分の胸が無意識に高鳴っているのを感じた。もしかしたらチームに戻れるかもしれない、そんな理想が頭を過ったが、夕香のことがどうにもなっていない以上は無理な話だ、と諦めた。
だが一目見るくらいなら⋯と物陰から海岸での皆の練習を見ていた。俺が沖縄の地で強くなっているのと同じように、皆も格段にレベルアップしていた。染岡や栗松、風丸がいなくなっているのはショックだったが。
それ以上に気になったのは、柊弥がそこにいなかったこと。もしかして柊弥も⋯と思ったが、それは杞憂だった。エイリア学園のバーンという男が人間に扮して皆に接触してきたその場に柊弥はいた。しかし、すぐに俺は気付いた。明らかに柊弥の表情に余裕が無いことに。
そして翌日、俺は柊弥が特訓しているところを目撃する。
たった1人で、凄まじい量の汗を流しながらもアイツは何度もシュートを撃っていた。その威力は最後に見た時とはまるで比較にならないほどだったが、その表情がどうしても気になった。
前日のように余裕が無い⋯なんてものじゃない。あれだけ楽しそうにサッカーをしていた柊弥が、苦しそうに、今にも壊れてしまいそうな顔でボールを蹴っていたんだ。
俺はすぐにその原因が分かった。おおよそエイリア学園から皆を守るため、離脱した仲間達の想いに答えるために必死になっていたんだろう。アイツはそういう男だ。
けど違うだろう、柊弥。お前のやりたいサッカーはそんなに苦しいものじゃないはず。
その後、またも鬼瓦さんから電話が掛かってきた。何と、夕香を安全なところに避難させることが出来たと言うのだ。
後はあの男達を捕まえるだけ。そうすれば、俺は晴れてチームに復帰出来るという。どれだけ電話越しにお礼を言ったか覚えていない。
そして今日、エイリア学園のイプシロンが再び皆の前に現れた。以前の試合は引き分け、だから今回は決着をつけるために来たのだろう。
先日のバーン、そしてあの赤髪の男が更に控えている以上、皆はイプシロンに勝っておかなければならない。そうして雷門とイプシロンの試合が始まった。
だが、ヤツらはあまりに強かった。円堂が相手の連携シュートを完璧に抑えるも、柊弥、そして俺の後に入った吹雪のシュートもまた相手に全く通じなかった。そして事情は分からないが、その吹雪は交代してしまう。
それから柊弥は何度もゴールを狙うが、相手のキャプテンでありキーパー、デザームにはその一切が通じなかった。
もし俺があの場にいれば⋯悔しさで拳を握り締めていると、土方の電話が鳴った。鬼瓦さん達の準備が整ったと言うのだ。
「豪炎寺君だね。あれから事情が変わったんだ⋯すぐに我々と来てもらおう」
「残念だったな、誘拐の現行犯だ」
俺と土方は試合会場から離れ、その男達の監視が一瞬外れるところで鬼瓦さんと入れ替わる。その鬼瓦さんを俺だと勘違いした連中はまんまと引っかかり、警察に包囲される。
しかしヤツらの不思議な技術でその場から逃げられた。が、これで俺は自由の身となる。
「よく頑張ったな、さあ行け!お前さんの仲間達の元に!」
俺は走り出す。一分一秒でも早くアイツらの元に戻るために。
『⋯またな、相棒』
あの時返すことが出来なかった言葉に、胸を張って答えるために。
---
「⋯待たせたな、柊弥」
「修、也」
雷門とイプシロン改の試合が繰り広げられるフィールドにその男は現れた。柊弥に襲いかかる脅威も、柊弥から溢れ出す負のエネルギーも全てを燃やし尽くすシュートと共に。
その男が誰なのか分かった瞬間、雷門イレブンの表情に光が宿る。
「豪炎寺さんが⋯帰ってきたっス!!」
「豪炎寺!!」
「へへっ⋯いつもお前は遅いんだよ!!」
一気に湧き上がる会場。その場にへたり込む柊弥に肩を貸して立ち上がらせ、ベンチまで連れていく。
「豪炎寺君!」
「もう、大丈夫なのね?」
「はい⋯ありがとうございました、監督」
マネージャー陣が豪炎寺の帰還を喜ぶ中、瞳子は豪炎寺にそう訊ねる。それに対して豪炎寺が返したのは力強い頷き。それを見た瞳子は少し笑って審判に告げる。
「選手交代!!浦部さんに代わり10番、豪炎寺 修也が入ります!!」
その宣言に更に会場は沸く。柊弥から受け取った10番のユニフォームを身にまとい、豪炎寺はフィールドに向かう。
「柊弥、ここで見ていてくれ」
「俺も──」
「ダメよ。次のワンプレーの間下がりなさい。音無さん、加賀美君が大丈夫か見てあげて」
自分を置いて1人で行こうとする豪炎寺に待ったをかけるも、そこにさらに瞳子が待ったをかける。瞳子が指示したのは交代せずにこの一瞬だけベンチに下がること。当然その間雷門側は10人で戦わなければならないが、それで良いと判断する。
「待ちくたびれたぞ、豪炎寺」
「悪いな、鬼道」
「構わん。まずはお手並み拝見といこうか」
フィールドに戻った豪炎寺を迎えたのは鬼道。軽口を飛ばしてはいるが、豪炎寺が戻ってきたことを内心喜んでいる。
デザームのシュートを豪炎寺が妨害することで中断された試合をどう再開するかについては、審判の判断によってイプシロン側のスローインから再開となった。
「豪炎寺 修也⋯」
「⋯」
自分に対して視線を向けるデザームに対し、豪炎寺は鋭い視線で答える。それがデザームの着火剤となり、一気に豪炎寺に対して戦意を剥き出しにした。
スローインを行うのはイプシロンのマキュア、ホイッスルが鳴り響いてとうとう試合が再開される。
「さあ、お前の力を見せてみろッ!」
ボールを受け取るやいなや、引き寄せられるかのように豪炎寺の元へ向かうデザーム。先程までと同じようにわざと当たりにいくような攻め方をしているのだと鬼道は一瞬で理解するが、今の豪炎寺ならなんてことはないという確信があった。
その鬼道の予想通り、豪炎寺はデザームの強烈なタックルを軽くいなしてみせた。しかもただ回避しただけじゃない、すれ違いざまにボールを奪った上でタックルを回避しているのだ。
「馬鹿なッ!」
(さあ、いくぞッ!!)
直後、豪炎寺は加速する。そのスピードは柊弥に匹敵するのではないかと思われるほどの凄まじいものだった。柊弥のスピードはデザームを上回るほど、それと同等となれば、誰も豪炎寺を抑えられない。
この場はもはや豪炎寺の独壇場、一切を寄せ付けない圧倒的なエースがそこにいた。
(見ていろ柊弥!!これがお前の相棒に恥じない存在になるため、このチームで再びエースストライカーとして戦うために編み出した、新しい必殺技だ!!)
ゴール前に辿り着いた豪炎寺は全身に気を漲らせ、一瞬でそれを爆発させる。すると豪炎寺の背後に現れたのは爆炎を纏った魔神。目の前に立つ者全てを燃やし尽くすような、そんな凄まじい熱が魔神を従える豪炎寺から発せられる。
その魔神に押し上げられ、豪炎寺はファイアトルネードのように回転しながら天高くへ至る。そしてその頂にて、圧倒的な一撃が放たれる。
「爆熱ストームッ!!」
炎は爆熱へ。炎のエースストライカー、豪炎寺 修也の進化ここに極まれり。
豪炎寺の内にひめる情熱に比例するかのようにその熱量は爆発し、雄々しく燃え上がるその炎に誰もが目を奪われる。
正義の鉄拳が円堂にとっての究極奥義であるように、この爆熱ストームもまた豪炎寺が辿り着いた究極奥義。太陽と見間違う程の圧倒的爆炎は、この空間全てを焦がす。
「ワーム───」
1人でゴールを守るゼルは焦りと共に必殺技を展開する……が、遅いとかどうとかの話ではなかった。ゼルの器では、その炎を抑え込むに足らなかった。ゼルごと爆熱ストームはゴールに突き刺さった後、周囲に全ての熱を解き放つ。
残火が雨のように降り注ぐ中、豪炎寺はゴール内の惨状を意に介さず自陣へと戻っていく。
「す、すげえ⋯」
「これが雷門のエースストライカー、豪炎寺さん!」
そんな豪炎寺に驚愕する綱海や立向居を他所に、雷門中サッカー部のメンバーはその成長への喜びと共に豪炎寺を囲む。しかし豪炎寺はそんな輪を遮ってある場所へと向かう。
それを見て瞳子は柊弥の背中を押す。
「さあ、行きなさい加賀美君」
既に音無による簡単な応急処置を終えていた柊弥だったが、瞳子にそう促されてもなかなか歩き出さなかった。
脚を怪我していたから、という訳ではない。ただ、自分の中で様々な感情がぐちゃぐちゃになってしまっていただけ。
そんなことをしているうちに、豪炎寺の方が柊弥の元へ辿り着く。
「し、修也──」
「次はお前の番だ、柊弥」
言葉も纏まらないうちに話しかけてきた柊弥に向かって鋭くも熱を帯びた視線を突き刺す。
それは決して柊弥を責めるようなものではない。今もまだ迷っている親友への信頼の視線だ。
「……最初にジェミニストームとの試合の後、怪我で皆が入院した。そして俺が抜け、染岡に風丸、栗松もこのチームを離れてしまった」
豪炎寺の拳が強く握り締められる。仲間が欠けたことへの無念、そんな大変な時にいれなかった自分への激しい怒りが生み出す力は相当なもので、その拳から血が滲む。
「お前はそれから必死に強くなった!だがそれはお前だけじゃない、皆も、俺も同じだ!」
「……!」
「だから、もう良いんだ。柊弥」
豪炎寺が血の滲んでいない方の手を柊弥へ差し出す。その目には燃え盛る炎ではなく、優しさを点した穏やかな炎が宿っている。
「皆のために戦うんじゃない、皆と……俺達と一緒に戦おう」
その言葉を受け、ハッとした表情で柊弥は周囲を見渡す。豪炎寺だけではなく、大切で信頼出来る仲間達が自分に優しくも力強い視線を向けていることに気が付いた。その視線に込められているのは決して助けて欲しいという嘆願ではない。お前は1人じゃない、一緒に戦おうという熱い想い。
そんな熱が炎となり、柊弥の全身を包み込む。長い間柊弥を縛り付け苦しめていた孤独の鎖が音を立てて崩れ落ちる。
(俺は────)
そして再び雷鳴は光り轟く、仲間と共に。
次回、再轟