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「はあ、集まんねえ」
溜め息と共に芝生に寝転がる。
帝国との練習試合が決まってから数日が経った。
今の人数のままでは試合が成立すらしない、というわけで雷門サッカー部は新入部員勧誘に全力を注いでいる状況だ。
といっても、動いているのは俺と守、秋の3人だけだが。
「どうしたもんかねえ」
ぼやきながら芝生を指で撫でるも、芝生が返事をしてくれるわけでもない。きっと守は今も学校中を駆け回っていることだろう。
部員が集まらなかったら練習試合は出来ない、そうすれば無条件で廃部だ。まずいよなあ……もしかしなくてもまずいよなあ……
「はあ……」
「か、加賀美先輩!」
「ん?」
俺の名前を呼ぶ声に対して視線を返す。メガネが特徴的な、何処かで見たことがある女の子……あ、そうだ
「音無さん、だっけか」
「はい! 先日はありがとうございました……あの、何してるんですか?」
「あー……休憩という名の現実逃避?」
身体を起こし、立ち上がる。少し歩きながら音無さんと話をすることになった。
新聞部という側面もあってか、音無さんもサッカー部の現状についてはよく知っているようだ。
「集まったとしてもあの帝国と試合だからなあ……困った困った」
「帝国、ですか……」
少しばかり暗い声色に表情。
どうかしたのか、と訊ねるとすぐに先程までの明るい雰囲気に戻り、何でもないと言った。あまり詮索するべきではなさそうだ。
グラウンドに差し掛かったところで、目の前を高速で通過する物体があった。
「雷門サッカー部、部員募集中でーす!!」
「サッカー部のキャプテンさん……ですよね?」
「ああ。さすが守……一切勧誘の手を緩めちゃいない」
俺も守を見習って部員集めしないとな。キャプテンばかりに雷門サッカー部を必ず作るって、確かに誓ったからな。
「私、校内新聞でサッカー部さんの宣伝しておきますね。力になれるかは分かりませんけど……」
「本当に? 助かるよ、やたらとこの学校サッカー部に風当たり強いからさ……それじゃ」
「あっ、頑張ってくださいね!!」
音無さんの激励に対して、背を向けながら手を振り返す。
久しく応援されていなかったものだから、少しむず痒い気持ちになるな。
さて、やるか。
「雷門サッカー部、部員募集中です!」
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「また今日もダメだったよ……」
抵抗虚しく、今日もめぼしい反応を得ることが出来ないまま1日が終わってしまった。
こんな調子で本当に大丈夫だろうか……いや、何とかしなければ。
とりあえず気分転換に
雷門中から10分と少しばかり歩くとその目的地は見えてくる。ここ稲妻町のシンボルである鉄塔が聳え立つ広場だ。
小さい頃に守に連れてこられてから、すっかり俺のお気に入りスポットにもなってしまった。
「あれ? 豪炎寺?」
「……加賀美か」
階段を登りきると、町を一望できる場所に豪炎寺がいた。
俺に一瞬だけ視線を向けると、またすぐ町を見下ろした。
「隣、失礼するぞ」
「ああ」
「いやあ、相変わらず部員が集まらなくてさ。豪炎寺も聞いてるだろ? 帝国との練習試合」
豪炎寺は一瞬だけ眉をしかめる。
……部員が集まらない可哀想なサッカー部をアピールすれば少しは揺らいでくれるかと思ったが、やはりダメか……
仕方ない、プランBだ。
「……お前ほどの選手がサッカーを辞めたのには何か理由があるんじゃないのか? 良かったら話してみてくれよ」
プランB、サッカーを離れた理由を聞き出し、そこから話を膨らませサッカー部に誘導する作戦だ。
が、豪炎寺は眉ひとつ動かさない。なんて薄情なヤツだ……!!
なんて言うのは冗談だ。あまりしつこくされるのも豪炎寺としては嫌だろうし、この辺りで切り上げよう。
されて嫌なことは人にするな、昔からこう言うからな。
「……まあいいや、気が向いたら話してくれよ? じゃあな」
「……」
結局豪炎寺とはこれといった会話を交わせないまま別れたのだった。
いつか気を許してくれると良いんだけどな、単純に仲良くしたいし。
「あれ、柊弥じゃないか」
「おう守、帰りか」
「うん、これからいつものところで特訓しようと思ってさ!」
特訓。鉄塔広場で何をするのだとこれを聞いた人は思うだろう。
彼、円堂 守は鉄塔広場にて、木にロープでタイヤを括り付け、大きく揺らして自分に返ってきたタイヤを受け止めるという何とも奇天烈な特訓をしているのである。が、不思議なことにそれが形となっており、それによって守は強い身体を手に入れたのである。
「あ、豪炎寺がいたけどあまりしつこくするなよ」
「え!? 豪炎寺がいるのか!? おーい!」
「……」
そう忠告した矢先に豪炎寺の元へと弾丸のように突っ込んで行った。守が詰め寄り、それを疎ましく思った豪炎寺が去る。この流れが簡単に想像できてしまう。哀れ、豪炎寺。
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「おーっす」
「加賀美さん、こんにちはっス!!」
翌日の放課後、部室にやってくると何やら皆が忙しく動き回っていた。机に目を向けると、紙が束になって置かれているのを見つけた。それを1枚手に取って見てみる、なになに? 新入部員募集中……?
「お前達……やる気出してくれたんだな!」
「へっ、俺達のキャプテンの熱に負けちまったよ」
「キャプテンに加賀美さん、マネージャーが一生懸命なのに俺達は怠けてるなんて……間違ってたでヤンス」
そうだ、これが守にキャプテンを任せた理由だ。アイツには人を惹きつける魅力がある。そして守の熱意は、燃え広がるように他の人にも共有されていく。その結果が今だ。
よし、俺も負けてられないな。
「よし、部員勧誘の後は皆で河川敷で練習するぞ!!」
「「「おう!!!」」」
その声を合図に、全員が部室を飛び出して勧誘に走る。
俺も行くかと思い、部室の扉に手を掛けた瞬間、外側から扉は開かれた。
「やる気だな、皆」
「……風丸!?」
そこには何故か風丸がいた。風丸は陸上部、そして陸上部は今練習中のはずだが……何故ここに?
「何でここにいるのかって顔してるな……まあ、アイツらと同じさ」
「というと?」
「円堂さ。アイツに毎日のように誘われる内に、サッカーもいいかな何て思ったんだ……まあ、あくまで陸上部には助っ人って体で通してるけどな」
そうか、確かに守は風丸にも声をかけているって話していたな。他の部活からも引き抜いてくるとは、恐るべき守の熱血魂。
「そうか……お前とサッカーできるなんて嬉しいよ、ようこそサッカー部へ」
「ああ! よろしく頼む」
風丸と硬く握手を交わす。さて、俺らも部員勧誘に行きますかね。
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試合当日。あの後も順調に部員勧誘に成功し、何とか最低限必要な人数が集まった。2年の影野にマックス、かなりギリギリだったがキッチリと揃えてみせた。
「ちょっと!! 僕を抜きにして集まるなんてどういうつもりですか!!」
「誰?」
「僕は目金。この部のエースになる男です」
クイッという擬音がよく似合いそうな名前と仕草である。大きな態度の目金に対して染岡が食ってかかるが、守と風丸に制される。
「あー、10番が欲しいならあげるけど君ベンチね」
「ベンチィ!? な、なるほど。主役は遅れてというわけですか、良いでしょう! その話に乗ってあげますよ!」
チョロい。
一応10番は俺が着る流れだったが、別にエースナンバーに固執している訳でもないのでそのユニフォームを目金に渡す。本人は試合に出るつもり満々だが、まあ恐らくベンチを温めてもらうことになるだろう。許せ。
「さて、そろそろ帝国が来る時間だ。グラウンドで出迎えようぜ」
「ああ! なあ柊弥、ワクワクするな!」
「ふっ、相手は全国王者、俺達とは天と地ほどの実力差があると見ていい……それでもか?」
「当たり前だ! 皆でサッカーが出来る、それ以上の理由は必要ないだろ?」
さも当然のことかのように守は言い放つ。……コイツには勝てないな。
「そうだな……俺もワクワクする」
「へへっ、だろ?」
部室の扉は勢いよく開かれた。
さ、相手が帝国だろうが何だろうが、俺達の全力サッカーをぶつけてやろうぜ?
次回、帝国戦開幕