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FW:柊弥 吹雪 豪炎寺
MF:土門 鬼道 塔子
DF:木暮 円堂 壁山 綱海
GK:立向居
「さあ皆!気合い入れていくぞ!」
一之瀬の負傷、吹雪との交代。そしてこちらが1点ビハインドの状態から試合は再開となる。けどまだ前半終了まで時間はあるし、吹雪の投入によって攻めの手数が増えた。後の懸念は……ヒロトだな。アイツを好きに動かせておくのはリスクが高すぎる。
けどいつまでもやられっぱなしじゃないのが俺達雷門イレブンだ。きっと皆も試合の中でさらに進化してヤツらに喰らい付ける。今の俺がやるべきは、その道中での綻びを補強すること。
「修也、吹雪。前は一旦任せるぞ」
「分かった。行けるな?吹雪」
「うん、やってみせるよ」
2人に前線の攻めは任せ、俺は皆のサポートを徹底する。当然チャンスがあれば前にも出るけどな。
「よし……頼んだぞ」
2人は頷くとセンターサークルに着く。それから間もなくしてキックオフ、修也から吹雪にボールが渡り、2人は前へと上がっていく。
「加賀美、任せるぞ」
「ああ」
それに連動して鬼道、土門も前線へと攻め上がる。それを俺は中盤から見守りつつ、ヒロトの動きを注視する。
皆が攻め込んでいけば当然相手の最前線であるヒロト、ウルビダと衝突することになるが、後続の鬼道にボールを預けて修也、吹雪は先に突破。鬼道の近くにいたウィーズが阻止しに掛かるが、その圧倒的なパワーとスピードを鬼道はテクニックで躱す。
けどそれにしても相手の寄せが速い。ウィーズを抜いた頃には既に鬼道は囲まれている。あの場所から通せるパスコースは……土門しかない。
いや待て。土門へのラインだけ警戒が薄すぎないか?まるでそこへパスすることを誘っているかのような……まさかッ!?
「鬼道ッ!!」
「!?」
俺が鬼道に対して叫んだ時にはもう遅かった。ボールは既に土門に対して送り出されていて、土門もそれを受け取っていた。
そしてそれとほぼ同時、音もなく現れた3人が土門を囲んでいた。クソッ、間に合わないか!?
『シグマゾーン!!』
「ぐああッ!!」
土門を中心として展開される円形の包囲網。スローペースな足取りから急加速し、中心である土門の一点で3人が交差。その瞬間に土門は大きく吹き飛ばされ、ボールはジェネシスのコーマに渡る。
「行かせるかよ」
「コーマ!こっちだ!」
「ウルビダ!」
土門への魔の手を阻止できないことをいち早く予見できてしまった俺は、すぐさまボールを奪い返すために動いたが間に合わない。追い付くより先にウルビダにパスを通された。
マズイな、行動がとことん裏目に出てる。キックオフからの一連の流れも俺が後ろにいなければ回避出来たかもしれない。そして今前目に出てしまったせいでウルビダ、ウィーズ、ヒロトが攻める余裕を作ってしまった。
こうなったらアレしかない。その為に……皆、頼むぞ。
「ザ・タワー!!」
「ザ・ウォール改!!」
「旋風陣!!」
「行かせるか!!」
皆があらゆる手でヤツらの進路を阻むが、どれも決定打にはならない。パスやドリブルで尽くを躱し、ヤツらはゴールの近くまで辿り着いた。今ボールをキープしているのはウルビダ……だが、シュートを撃つのは間違いなくヒロトだ。
そして皆の頑張りが俺に時間を作ってくれた。止められなくても良い、俺が間に合えば結果オーライだろ。
「グラン!!」
「さあ……2点目だ」
予想通り、ボールはヒロトに渡る。そしてヒロトが放つのは、十中八九流星ブレード。もうそのシュートは何回も見てる、どういう撃ち方をするのか、完璧に頭に入ってる。
「……!加賀美君ッ!」
「ヒロトォ!お前は俺が止める!!」
ヒロトがボールと共に跳んだと同時、俺も同じ高さまで跳ぶ。俺が今から何をやろうとしているのか、皆にとって火を見るより明らかだろう。だからこそここで成功させて、次に繋がなきゃならない。
俺の雷霆一閃は何度も打ち込んで100%以上のパワーを引き出す必殺技。ヒロトの流星ブレード、修也の爆熱ストームみたいな1発で超パワーを引き出すシュートとは別の性質だ。だからこそ……このまま打ち合いになれば負けるのは俺だ。
けどそれがどうした。所詮それは言い訳に過ぎねえだろ。一撃のパワーで勝てねえなら、それを上回るスピード、俺の最大の武器で戦えば良いッ!!
「遅せぇッ!!"真"轟一閃ッ!!」
「ッ!?」
打ち合いを想定したんだろう、ヒロトが驚愕の表情を浮かべる。やっと顔色変えやがったな。
轟一閃。俺の原点にして最速の必殺シュート。ライトニングブラスター、雷霆一閃のパワーには程遠い。けど、そのスピードだけならどのシュートよりも圧倒的に速い。右脚にエネルギーを集中させ、スイングスピードの一点に全力を注ぐ轟一閃なら、この局面でも先手を取れる!
そして、このボールを受け取るのはお前だ───
「いけ、吹雪」
ーーー
空中で繰り広げられた柊弥とヒロトの衝突は、己の武器を最大限に活かした柊弥が制した。柊弥が空中で放った轟一閃は、直線的な軌道を描きながら前へと突き進む。
その前に立ちはだかる者は誰もいない。だからこそ全員がそれをロングシュートだと誤解する。しかしあくまでいないのは"立ちはだかる者"。それを"受け取る者"は確かにそこにいた。
「加賀美君……ッ!」
そしてそのボールを受け取ったのは吹雪。役目を終えて地上に戻っていく柊弥の視線に頷きで答え、身を翻す。向かうは当然、ジェネシスのゴール。
「この試合で僕は……俺は!!完璧になるッ!!」
直後、吹雪の人格は切り替わる。士郎からアツヤへ、完璧を求めて。
「吹き荒れろ……エターナルブリザード"V2"ッ!!」
久方ぶりにフィールドに吹き荒れるブリザード。暫く表に出ることのなかったその闘志が炸裂する。
「プロキオンネット!!」
しかし無情にもそれは抑え込まれる。勢いを失ったボールを見せつけられた吹雪は歯軋りと共に睨み付けるが、それで何かが変わるというわけではない。
実際、そんなことはお構い無しにネロはボールを放る。そのボールの行き先は、雷門のゴール付近から全く同じスピードでジェネシス側まで走り込んできていたヒロトと柊弥だ。
(さっきの身体強化を使わずに喰らいついてきている……凄まじいな、この短期間で進化したというのか?)
(やはり速い、けど追い付ける)
無意識下で進化を続ける柊弥に対してヒロトは苦戦を強いられる。試合の中での進化、それこそが柊弥をはじめ雷門イレブンの強みとは分かっていたものの、ここまで急速だと流石に驚きを隠せない。
加えて柊弥はヒロトを自由に動かせすぎないようにハンドワークを用いている。ネロからボールを出されてもヒロトはそれを確保するのに苦戦を強いられる。
(このまま攻めの勢いを保たれても面倒だ。ここでもう一度流れを手繰り寄せて、折る!)
ボールまで数メートルの距離まで迫ったその瞬間、ヒロトが加速する。スピードだけではない、全身に力を込め先程までとは比較にならない勢いを得る。
手、腕でヒロトを制していた柊弥はその影響をモロに受ける。急激に前に引っ張られるように重心を崩され、スピードが乗った状態ということもあり立て直せずそのまま倒れ込む。
「先に行くよ」
「ぐッ」
柊弥を横目にヒロトは空中のボールを我が物にする。そしてそのまま柊弥を避けるようなコースで雷門側へと切り込む。
「完璧にッ、なるんだッ……!」
しかしその瞬間、吹雪がヒロトの背後を取っていた。アツヤから士郎に切り替わり、何かを呟きながら冷気を纏う。
「アイスグランドッ!!」
吹雪が回転と共に着地すると、その着地点からヒロトに向かって氷塊が生成されていく。それは確実にヒロトを呑み込み、動きを止めた。
「……貧弱すぎる」
「なッ」
だが、それはほんの一瞬に過ぎなかった。吹雪が凍り付いたヒロトからボールを奪おうと走ると、直後氷塊は砕け散り、その勢いで吹雪は吹き飛ばされる。
「全然通用しない……僕は、完璧にならなくちゃいけないのにッ……!」
吹雪は一人焦燥に駆られる。試合に負けるかもしれないなど、今この試合に関してではなくあくまで自分のことで。"完璧になる"ということに囚われた吹雪の動きは目も当てられないほどに重く、遅かった。
その理由は分からずとも、本調子でないことは誰が見ても明らかであった。しかし、それをより鮮明に感じ取っていた者が二人。
「……吹雪」
一人は豪炎寺。誰もそのことは知らないが、出発前夜に吹雪の歪んだ完璧を指摘していた。その答えを見つけるために吹雪はフィールドに戻ってきたのだが、この現状は豪炎寺にとって気の良いものではなかった。
ただひたすらに打ち込むならまだしも、どこか上の空な状態でのプレー。誰よりも真剣に試合に臨む豪炎寺にとって、それは許せるものでは無い。
しかし豪炎寺はそんな吹雪を見守り続ける。彼の求める答えは彼自身が見つける他ないのだから。
(吹雪、何を焦っている……お前の力はそんなものじゃないはずだろ)
そしてもう一人は柊弥。様々なことを乗り越え、以前にも増して仲間をよく見るようになった柊弥だからこそ敏感に感じ取る、その違和感。
(……俺は信じてるぜ)
柊弥はそんな吹雪を横目に走る。後ろの仲間達へ迫る脅威へと共に立ち向かうために。
「ここは行かせないぞ!ヒロト!」
「止めてごらんよ、円堂君」
その視線の先では円堂がヒロトと対峙していた。フィールドプレイヤーに転向した円堂は確かに強い。しかし、今現在ではヒロトが更にその上を行く。
「こっちだ!」
「へえ」
しかしそれで諦める円堂では無い。常に諦めないその気持ちが己を、雷門イレブンをここまで導いてきたのだ。
ヒロトのスピードに少しずつ追い付き始める円堂にヒロトは笑みを浮かべていた。自分に対抗出来るのが柊弥だけでは無いというその事実が、ヒロトの本能を刺激する。
「円堂ォ!」
「綱海!」
「おっと……これは少し分が悪いね」
ヒロトを止める円堂の元に綱海が走り込んで来ていた。少々危険を感じたヒロトは無理をせずボールを後ろに戻す。その先にいたウィーズがボールを受け取ろうと走るが……
「ここだ!」
「何ィ!?」
「円堂と綱海に負けてられないよ!木暮!」
「おう!!」
その間に塔子が割り込んだ。そしてそのボールは素早く木暮に回り、奪い返そうとするジェネシスよりも早く再びパスが送り出される。
「させんぞ」
「嘘っ」
だが、意趣返しのように今度はジェネシス側のウルビダがパスに割り込む。ヒロトに匹敵するほどの超スピード、単純なスペックで追い付けるものはそういない。
「グラン!!」
「さあ、今度こそ2点目だ」
ヒロトが再び流星ブレードの構えに入る。しかしそれと同時、またも空中に跳ぶ一つの影があった。
「だからやらせねえって言ってるだろ」
「ふっ、来ると思ってたよ」
柊弥だ。再び足に雷を宿しながらヒロトと同じ高度まで跳び上がった柊弥だったが、そこであることに気付く。
(コイツ、俺が来ることを予期してシュートモーションを短縮してやがる!!)
そう、柊弥が同じ方法でシュートを阻止することを予期していたヒロトはシュートに必要な動きを小さくすることで、より早く打ち出せるように構えていたのだ。
当然そうすればシュートの威力は多少なり落ちる。しかしそれは多少と表現する必要が無いほどの誤差だ。ヒロトが短縮した時間は実に"0.5秒"。その0.5秒で、柊弥に阻止されるより早く撃ち出すことが出来る。その上シュートの威力もおよそ9.5割維持出来る。
しかし、ヒロトはシュートの威力に妥協をしない。込めるエネルギー量を増やすことによりその減衰をカバー。消耗こそ増えるものの、100%の威力で流星ブレードを放つことを可能にした。
(クソッ、撃ち合うしかねえ)
それを認識した瞬間、柊弥も己の内に秘める力を爆発させる。雷霆一閃と同等以上の威力を誇る流星ブレードを抑え切るのはほぼ不可能だと理解していても、決して退かない。
『"真"轟一閃ッ!!/流星ブレードッ!!』
二人が撃ち込んだのは全くの同タイミング。その直後フィールド全体に雷を孕んだ衝撃波が広がる。
「グ、ォォォォオオオオオッ!!!」
「流石、流石だよ加賀美君ッ!!ここまで僕に肉薄出来るのはキミだけだッ!!」
が、その言葉とは裏腹に徐々に力の均衡は崩れて行く。
「けど勝つのは僕だッ!!全ては……父さんのためにィッ!!」
「クッ、ソォォォォォッ!!」
天秤は完全にヒロトへと傾いた。ヒロトがその脚を振り抜くと、ボールを挟んでぶつかり合っていた柊弥は撃ち落とされ、そのシュートは真っ直ぐにゴールへと向かっていく。
しかしその威力は柊弥の奮闘によってだいぶ削られている。止めることは容易だ。
「止めるッス!ザ・ウォール"改"!」
故にそのシュートはゴールまで届かない。壁山がザ・ウォールで完璧に止めきった。
「ガハッ!!」
「加賀美さん!!大丈夫ですかッ!?」
柊弥が撃墜されたのは立向居がいるゴール付近。凄まじい勢いで撃ち落とされた柊弥にすぐさま駆け寄る立向居。
「俺が、俺が一人でゴールを止められればこんなことには……」
「バカ言うな立向居。一人で何とかする必要なんてねえだろ……俺達は仲間なんだ」
「か、加賀美さん……」
「けど、どこかで俺も攻撃に参加しなきゃならない。皆も常にカバー出来るとは限らない。だからその時は……お前を信じて任せるからな、立向居」
それだけ言うと柊弥は何事も無かったかのように立ち上がり再び走り出した。
「……はい!」
後ろから聞こえてきた力強い返事に、柊弥は背中を向けたまま笑みを浮かべる。
ボールは後ろまで下がってきていた鬼道に渡り、鬼道を中心に土門、豪炎寺で攻め上がる……はずだった。
「悪いね、貰うよ」
「なッ」
常軌を逸したスピードで鬼道の前を横切ったヒロト。そのスピードは明らかにヒロトのステータスの上限ギリギリ。先程の柊弥との正面衝突がヒロトの闘志に火を付けてしまった。
勢いそのままにまたもゴールを狙うヒロト。柊弥は先程のダメージが抜けきっておらず、先程のような阻止は見込めない。ピリつく空気に立向居は固唾を飲む。
「流星ブレードッ!!」
(ムゲン・ザ・ハンドは通じない、一体どうする!?どうすればあのシュートを止められる……!?)
しかし、その柊弥が先程言ったように立向居は一人では無い。
「情けねえ顔すんな立向居!俯いてるだけじゃ、何も解決しねえんだ!」
「ッ、綱海さん!」
立向居が顔を上げると、ヒロトの間に立ちはだかるように綱海、塔子、木暮が構えていた。
「いくよ!!」
「「おう!!」」
塔子がそう指示すると、3人は同時に走り出す。前を先行する塔子はその場で立ち止まり、巨大な塔を形成する。その塔の頂上から綱海と木暮は雷を纏い、迫るシュートに蹴り込む。
『パーフェクトタワー!!』
まさに完璧なる塔。この土壇場で編み出された新必殺技は、ヒロトの流星ブレードを完璧に止めきってみせた。
しかし完成して間もないこの必殺技にはまだ穴があった。3人による連携であるパーフェクトタワーは、緻密なコントロールがあってようやく成立する。この場で初めて成功したパーフェクトタワーは、最後の最後でそれを欠いてしまう。
「あっ」
「もらったァ!」
そう、ボールを抑えきれず止めた勢いで弾いてしまったのだ。そのボールの行き先は無情にも仲間達ではなく、敵であるウィーズ。
「甘いッ!!」
「なっ、お前どこからッ!?」
しかし、その動きをキャッチして柊弥は既に動いていた。ウィーズがボールを確保したその瞬間、間髪入れずにスライディングを仕掛け奪い返す。そしてそのまま高めのパスを送る。
「鬼道!!」
「任せろ……吹雪ィ!!」
柊弥が選んだのは鬼道。位置的にスライディングの体勢からでもパスが届く位置に構え、柊弥の意図をほぼ完璧に汲み取れる思考力を持つのが鬼道だ。
柊弥の期待通り、鬼道は完全にフリーである吹雪にパスを出した。しかし、当の吹雪はというと……俯いたままそのパスが接近していることに気付けていなかった。
「完璧に……僕は、完璧になるんだ……」
「ッ、吹雪ィ!!」
「えっ……あッ……!」
吹雪はそのパスを受け取ることが出来なかった。豪炎寺が声を上げて気付いた時には既に遅く、変なところでボールを受けてしまいあらぬ所へ飛んでいく。
完全フリーというチャンスを棒に振ってしまった吹雪。そのことに気付き、更に心に霧が掛かる。
(僕は、一体何をして───)
その時だった。吹雪の腹部に鈍い痛みと衝撃が走る。吹雪に襲いかかったのは、単純なシュートだった。そのシュートにはどんなシュートよりも熱が籠っており、まるで炎のような熱さに満ちていた。
痛みに悶えながら咳き込む吹雪。そしてその目の前に、自分にシュートを撃った張本人がやってきた。
「ご、豪炎寺君……」
「……吹雪」
豪炎寺は、真っ直ぐに吹雪を見ていた。
「本気のプレーで失敗するなら良い。だが……今のお前のようなやる気のないプレーは絶対に許さない!」
「……ッ」
強い口調で豪炎寺はそう言い放つ。豪炎寺の言っていることは何一つ間違っていないからこそ、吹雪は何も言い返さない。
「お前には聞こえないのか……あの声が」
「……声?」
豪炎寺の言う"声"というものが何なのか、吹雪は理解することが出来なかった。しかし、伝えたいことは伝えたと言わんばかりに豪炎寺は吹雪に背を向け、その場を去る。
「吹雪、立てるか?」
そして、入れ違いのように今度は柊弥が吹雪に元へやってきた。差し伸べられた柊弥の手を掴み立ち上がると、豪炎寺とは真逆の優しい声色で吹雪に話し掛ける。
「吹雪、今のお前は前の俺だ」
「前の、加賀美君?」
「ああ。悩みに悩んで、悩みすぎて。視野も狭ければ耳も遠い、そんな状態だ」
「……うん」
「けど、同じだった俺だから言える。上じゃなくて、自分と同じ高さを見ろ。前を、横を、後ろを見るんだ。そうすれば修也の言う"声"ってのが聞こえてくるはずだ」
そう伝えると、柊弥は吹雪の肩を叩いてポジションに戻って行った。一人取り残された吹雪は、二人のチームメイトからの言葉を何度も何度も頭の中で反復させていた。
「声、同じ高さ……」
そんな吹雪を他所に、試合は再び動き出す。ジェネシス側のスローインから始まったこともあり、流れは完全にジェネシスが掴んでいる。凄まじいスピードのパス回しに翻弄され、正面を抑えてもその突破力に苦戦を強いられる。
高く送られたパスに対して跳んだウィーズを止めるべく壁山と円堂も跳ぶが、それはフェイク。そのままボールは見送られ、ヒロトの足元へ落ちてくる。
「流星……ブレードッ!」
『パーフェクトタワー!!』
再び放たれた流星ブレード。それを止めるべく先程の三人がパーフェクトタワーを展開するも、そのシュートの威力は先程の比では無かった。触れた瞬間塔は崩壊し、3人は弾き飛ばされる。
「……声」
その光景をぼんやりと眺めながら、吹雪は呟く。そんなことはお構い無しに突き進むシュート。その前に立ちはだかったのは円堂だ。
「はあああああ!メガトンヘッドォ!!」
パーフェクトタワーによって威力は削られていたものの、まだまだそのパワーは健在。加えて滑り込むようにして放ったメガトンヘッドだったため溜めが不十分、自分の狙ったところに弾くことは出来ず、明後日の方向へ弾くのが限界だった。
「いいや、良くやった守ッ……!」
しかし、円堂がボールを弾いたその先に柊弥は誰よりも早く跳んでいた。空中でボールをトラップし、そのまま目のあった、自分を見上げていた男にパスを出す。
『吹雪!!』
その時、全員の声が重なった。パスを送った柊弥だけでなく、その場にいた全員がそのパスを受け取る吹雪の名前を呼ぶ。
そのパスを胸で受け取ったその時、そのボールから聞こえてくる何かを吹雪は確実に聞いた。
(……!聞こえる、ボールから皆の声が……皆の思いが込められたボール……)
その時、真っ暗だった吹雪の世界に一筋の光が射す。その光は段々と大きくなっていき、その中からは一本の腕が伸びている。吹雪がその腕を掴むと、一気にその光の中に引き寄せられた。
その光の中に自分を引きずり込んだのは円堂だった。そしてその後ろには他の仲間達。そして円堂が指さした方向にいたのは、豪炎寺、柊弥。
(隣にはキャプテン、後ろには皆……そして、前には豪炎寺君、加賀美君……)
自らの心の中で何かを理解しかけていた吹雪。しかし、そんな吹雪に横槍を入れるようにコーマ、クィールがスライディングを仕掛ける。
(同じ高さを見る、声を聞く、完璧になる……そうか、そういうことだったんだ!)
魔の手が襲い掛かる、その時だった。吹雪は目にも止まらぬ速さでボールと共に跳躍。そのスピードには先程のような鈍重さは感じられない。例えるなら、柊弥やヒロトの領域。
宙を舞う吹雪の表情は、どこか爽やかさすら感じられた。
(完璧になるっていうのは、僕がアツヤになることじゃない……仲間と一緒に戦うこと、一つになることなんだ!!)
『そうだ、兄貴は独りじゃない!』
吹雪は空中で自分が肌身離さず身に付けていたマフラーを放り投げる。それは過去の己との決別。
少年、吹雪 士郎は今ここで完璧となった。
「吹雪……見つけたみたいだな」
「ふっ、俺達も行くか」
直後、吹雪は身を翻してジェネシスのゴールに走る。パスを出してから前線まで上がり、吹雪の様子を見守っていた柊弥、そして豪炎寺はその吹雪を追い掛け、横並びになる。
先程までとは何か違う、そんな直感がジェネシスのDF達を突き動かす。ジェネシスの中でも巨体を誇るハウザー、ゾーハンが吹雪の正面を抑えた。しかし吹雪はすぐさま右サイドの豪炎寺に鋭いパスを送り、その隙に二人の間を通り抜ける。
だがまだジェネシスのDFは残っている。最後の砦となったキーブがスピードの乗ったスライディングを吹雪に仕掛けるが、今度は左サイドへ吹雪がパス。そこには先程まで誰もいなかった……が、その吹雪の動きを見て柊弥が一瞬で加速、そのボールを受け取るとすぐさまキーブの背後にスピンをかけてパスをだす。吹雪の動きに翻弄されたキーブは為す術なく吹雪に抜かれ、回転で前に走る自分に向かってくる形で戻ってきたボールを吹雪は確保、そのまま走る。
(お前は独りじゃない、仲間がいる!お前を支え、共に戦う仲間が!!)
(さあ行け吹雪!お前には俺達がいる!!)
「ありがとう……二人共、皆!」
とうとう吹雪はジェネシスのゴール前まで辿り着く。
「これが、完璧になることの答えだ!!」
吹雪はトップスピードを保ったままボールと共に跳躍、そのままボールに蹴り込む。すると狼の爪痕のような軌跡が幾度か刻まれ、そのエネルギーが膨大に膨れ上がる。
今まで使用していたエターナルブリザードは、弟であるアツヤの必殺技。そしてこの必殺技は、アツヤと士郎が共に編み出した二人の必殺技。アツヤと一つになり、仲間と歩むことを決めた吹雪が放つ覚醒の咆哮。
「ウルフレジェンドッ!!うおおアアァァッ!!!」
吹雪が放ったウルフレジェンドの威力はあまりに凄まじかった。爆熱ストーム、雷霆一閃に張り合える程……いや、それ以上の威力かもしれない。
「プロキオンネット!!」
そんなシュートにネロが選んだのはプロキオンネット。狼の宿る一撃が一等星達の中心に吸い込まれていく。
だが、その勢いが衰えることはない。それどころか、その抑圧を打ち破るべく更に荒れ狂う。その激情が収まるのは、何時なのだろうか。
答えは、その星々を喰らい尽くす迄である。
「ぐ、うわッ!?」
ネロの表情に焦りが浮かんだ瞬間、その護りは突き破られる。GKが押し負ければその後に待っているのは勿論失点。直後、その失点を報せるホイッスルが鳴り響き、スコアボードが切り替わる。1-1、同点だ。
「……ありがとう、アツヤ」
士郎のその呟きに声は返ってこない。しかしそれでも、今の士郎は満ち足りていた。新しい自分として一歩を踏み出せたから、自分と歩んでくれる仲間の存在を理解することが出来たから。
とうとう吹雪覚醒でした。元の完成度が高すぎるので二次小説としてどう落とし込むか考えまくりましたが、自分では納得出来る出来栄えに仕上がりました。
マジでイナイレさん少年向けアニメの中でブッチギリに良すぎる…