「カハッ──!?」
ホイッスルがなった瞬間、急に肺が悲鳴を上げて視界が眩み出す。本能に駆られて急いで酸素を取り込むと、段々と肺と視界が落ち着きを取り戻し始める。
「加賀美君、大丈夫かい?」
「ああ……ありがとう」
落ち着いて呼吸を整えていると吹雪がこちらまでやってきて手を差し伸べてくれる。その手を取って立ち上がると、ちょうどそのタイミングで修也もやってくる。
「よくやったな柊弥、お前一人で盤面をひっくり返した」
「うん、凄かったよ。よくあのジェネシスを単騎で突破したね」
「自分でも驚いてる……でも、俺だけの力じゃない」
チームから外れてしまった皆含め、コイツらがいてくれるからこそ今のワンゴールを作り出せた。そのことを……あんなヤツに否定させたくなかった。
「ああ、分かってるさ。そして今お前自身がそれを証明した」
「そうだね。 さあ、とりあえずベンチに戻ろう?」
「そうだな」
俺は二人に連れられるようにベンチに戻る。皆がさっきのゴールについて声を掛けてくれるが、俺の視界にベンチに俯いて座り込む守の姿が映りこんだ。握り締めて震える拳をずっと見つめ、その表情からは静かな怒りが感じ取れる。
……全く、仕方ねえヤツめ。幼なじみのよしみだ。
「守、何浮かない顔してんだよ」
「柊弥、俺……」
「お前の言いたいことは分かってる。キャプテンであるお前自身が吉良の言葉を行動で否定しなきゃいけなかった。そんなとこだろ」
「……ああ」
「じゃあ、ここからだな」
「え?」
そう言うと、守は顔を上げる。
「ここからが本番ってことだ。さっきの俺は先駆けで、次はお前」
「……柊弥」
「さあ行こうぜ親友。俺達の戦いはまだ終わっちゃいねえぞ」
俺は先に立ち上がる。今のやり取りがどのくらいアイツに響いたか分からないが……俺に出来るのは道を開くことだけ。それに着いてくるかどうかはアイツ次第。
「……加賀美、さっきプレーの話だが」
「どうした?」
「お前が度々発揮するあの人並外れた力、気になってカオス戦の後に少し調べてみたんだ」
「あれか……俺もよく分かってないんだが、何か分かったか?」
守との話を終えて後半に向けて準備していると鬼道が話しかけてくる。プレーが終わった今だから分かるが、さっきの力はカオス戦や世宇子戦の時と同じだろう。最も、化身までは引き出せていないが。
「恐らくだが、あれは"ゾーン"だ」
「ゾーン?」
「ああ。これは俺達に当て嵌めた話だが、試合中や練習中に明確な目標を持って集中している時に入れる集中状態があるんだ」
「それがゾーンってことか」
「いや、これはゾーンの前段階である"フロー"だ。お前は更にその先、その集中状態で更に極限まで没頭している時に訪れる極限の集中状態。それがゾーンだ」
「極限の集中状態、ゾーン……」
なるほど、合点がいく。確かに今まで爆発的な力を発揮してきた場面はいつも極限状態だった。そしてその試合ではただ勝ちたいだけじゃなくて、負けたくない、負ける訳にはいかないっていう"明確な目標"が存在していた。鬼道の話の通りなら、その目標を持っている状態がフロー。それが極まったのがゾーンってことか?
今のワンプレーに当て嵌めるなら、吉良の言葉を否定するために何が何でも点を奪い取る。その目標がフローへの足掛かりとなってゾーンまで突入できた……ってことか?でもそう考えると一つ違和感がある。これまでのその状態がゾーンだとすると、今回はまだ余力がある。世宇子中との試合の時は前半でボロボロにされて、カオスの時は後半終了間際で体力が微塵も残っちゃいなかった。その時と比べると今は……どうなんだろうか。
「そしてもう一つ。このゾーンという状態に踏み入れる人間はごく僅かだ」
「横からごめんなさいね二人共。更にゾーンに没入出来るのは人生で二度もあるかどうか。加賀美君は既に何度も入っているわよね?」
「俺が自覚出来ているのは今回を含め三回。世宇子中戦、カオス戦、そして今回」
「お前が覚えているかは分からないが、福岡でのジェネシスとの試合。加えて小学生大会で俺のチームと当たった時、そして雷門と帝国の初めての練習試合、ジェミニストームの初戦も含まれるだろう」
「そんなにか……」
「ここから推察するに……加賀美。お前は人よりゾーンに入れる敷居が低いんじゃないか?そうでなければ説明がつかん」
「……分からない」
「世宇子中との試合で見せたあの異質な力もある。ゾーンへの突入はきっとお前の潜在能力の片鱗に過ぎない……と、俺は思っている」
鬼道の言う通り、未だ俺は化身を自由自在に扱えたことがない。あれも俺の力の一部だと考えるなら、まだまだ俺には俺が知らない何かが存在してるのかもしれない。
だがそんなことは慢心でしかない。等身大の自分を受け入れ、今目の前の試合に全力で打ち込む。そうじゃなきゃこの試合に勝つことも出来ないだろうさ。
「……俺にどんな力が眠ってるかは今は置いておこう。もし本当にそんな力があるなら飼い慣らして武器にしてやるさ」
「ふっ、確かにそうだな」
「加賀美さんが凄いのなんて、今に始まった話じゃないっスからね」
「おい壁山、それは褒めてるのか……?」
壁山のコメントには触れないでおこう。どこか人外扱いされてそうで気が気じゃないけどな。
「さて皆……点差は俺が縮めたけど、まだあっちが1点有利だ。それにヤツらはまだ底を見せちゃいない」
「そうだな。次は俺がゴールを奪う」
「僕だって、今度はあのキーパーには負けないよ」
「後ろは任せろ!俺達がバッチリ守るからよ!な、立向居!」
「はい!!スーパーノヴァ……凄いシュートでしたが、次は絶対に止めます!」
「……おう!頼んだぞ」
さて、そろそろお目覚めだろ?
「守!締め!」
「……ああ!皆ごめん、俺、一人で勝手に怒ってた……」
「全くだ。お前はすぐこうなる」
「うっ……」
「まあまあ加賀美、円堂が言ってたことは間違ってないし、事実加賀美もちょっと怒ってたろ?」
「バレたか」
「はは、やっぱりキャプテンと加賀美さんって似た者同士だよね」
「間違いあらへん」
「そうか?……まあ確かにそうかもな」
「へへっ、じゃあ皆……後半も一緒に戦うぞ!!」
守が一人一人の顔を見渡す。それに対する俺達の返事は当然……
『おう!!』
そして俺達はヒロト達が待ち構えるピッチに足を踏み入れる。さて、一度状況を冷静に見直してみよう。現在の状況は2-3で俺達が劣勢だ。こっちのシュートの内訳は吹雪のウルフレジェンドと、俺の雷霆一閃。けどウルフレジェンドは時空の壁に止められ、それをぶち抜けた雷霆一閃もゾーンに入れていたからこそかもしれない。
相手はまずヒロトが流星ブレード。そしてウルビダが超スピードの必殺技、アストロブラストでぶち抜き、最後に三人で撃つ連携シュート、スーパーノヴァで立向居の進化したムゲン・ザ・ハンドすら破った。
それぞれの対策は……考えるだけ無駄か。俺達は試合の中で常に進化し続ける。俺の仲間達は皆、俺の想定の範囲なんかに収まらない。その時その時のベストを尽くせば絶対に勝てる。
「柊弥!」
「任せろ!」
試合再開直後、修也からのキックオフパスが俺に渡る。吹雪と修也は軽く横に散るようにしてそこまでラインを押し上げることはしない。
……成程、そういうことか。まだあっちに見せてない手札で勝負しにいく、ってことだな。
「ならまずは……俺が道を開くッ!」
二人の意図を理解した俺はボールと共に加速。当然正面にはヒロトとウルビダが待ち構える。
「行かせないよ加賀美君」
「お前は危険だ。好きにはさせんぞ」
「止められるもんなら止めてみろ」
二人同時に仕掛けてくる。当然と言うべきか、さっきゾーンに入れていた時のような突破は出来る気がしないな。けど対応出来る、あの時の感覚が微かに残っていて、それの模倣にアドリブを加えることてこの二人相手ともやり合える。
「どうしたんだい、さっきまでの圧倒的な力は!」
「はッ、身の丈は理解してるつもりなんでな……守ッ!!」
「いつの間に……!?」
二人を捌きながらも攻めあぐねていた俺だったが、これが目的だ。この二人相手に普通じゃ突破は叶わない。けど、コイツが上がってくるまでの時間稼ぎくらいは問題ない!
「鬼道!土門!」
「ああ!」
「おうよ!」
俺が声を上げると後ろから鬼道と土門も前線へ上がってくる。それと同時に修也、吹雪が少し後ろへ下がり、欠けた部分を補強する。俺とこの三人で、ゴールを奪い取る!
「守、一旦戻せ!」
「任せた!」
「よし……」
視野を広げろ、このフィールド上の全てを捕捉しろ。今の俺の役目はコイツら3人とボールをゴール前まで送り届けること。
「コーマ!クィール!」
「塞ぐぞ!」
「ディフェンス陣!ゴール付近に寄るぞ!」
俺の前方。ジェネシスの連中は守備を固めている。さっきの得点から明らかに俺に警戒が向いている。だから敢えて俺が追加点を狙う体で攻め上がる。多分、アイツらはデスゾーン2について知らない。雷霆一閃をブラフにすることでデスゾーン2を叩き込む、これがこの状況の最適解だ。
「いくぞ!!」
「了解!!」
「潰すっポー」
その時、俺は包囲されていることに気が付いた。この陣形は……さっき土門からボールを奪った必殺技だ。あれは三人で対象を包囲し、不規則なペースかつ同じ動きで感覚を乱す。動き出しを一切感じさせない同時突撃で一気にボールを掠め取る必殺技だ。千羽山のディフェンスも似た必殺技を使ってきたな。この手の必殺技の破り方は……こうだな。
「上ガラ空きだ!!」
「なにッ」
相手と同じく、ノーモーションから包囲のない上に跳ぶ。反応されればそれまでだが、されるようなやわなスピードじゃない。
「加賀美!こっちだ!」
「ナイスポジショニング、土門!」
高く跳べばパスコースは幾らでも作り出せる。俺の考える理想の位置取りをしてくれていた土門にパスを送って着地。下で待ち構えてるヤツらの寄せが来る前に最高初速でブチ抜く。
「加賀美、そのまま出せ!」
「そのまま……はッ、随分なアドリブじゃねえか」
土門からボールを戻され、守、鬼道、土門の三人の後ろに追従する形でそのまま上がる。ジェネシスのDF陣は俺だけじゃなく、この三人もある程度の警戒を向けている。だからこそのこの鬼道の指示だろう。もしこの場で自分達がボールを持てば間違いなく全力で阻止される。
なら、俺が起点になればいい。そういうことだな?
「しくじっても恨むなよ……いけェ!!」
俺はそのまま遥か高くにボールを蹴り上げる。
「ミスキックだ!!」
「それはどうかな……!」
「いくぞ!!」
『おう!!』
ジェネシスの誰かがそう言ったその直後、鬼道の号令で守、土門は同時に回転と共に飛び上がる。俺が撃ち上げたボールを中心、続いて飛んだ三人を点として紫色の三角形が作り出される。
三人が回転を続けるにつれて中心のボールに注がれるエネルギーは莫大なものになっていく。
「俺には仲間がいる。一緒に戦ってきた仲間、新しい仲間、いつも見守ってくれてた仲間がいる!!俺たちの強さは……そんな仲間達と共にあるッ!!」
守がそう叫んだと同時、ボールに込められたエネルギーは最高潮に達する。
『デスゾーン2!!』
三人同時に蹴り込むと、死のエネルギーに満ちたボールがゴールへと落ちていく。その並々ならぬ力にゴール前のネロも余裕が無さそうだ。
「時空の壁ッ!!」
雷霆一閃の時とは違い、必殺技の展開は間に合う。けど、それは大した問題ではなかった。俺と同じく仲間の力、その全てを込めた必殺技が止められるはずはなかった。捻じ曲げられた時空の中で紫色の雷が迸り、荒れ狂う。時間と空間を掌握する技すらもその前では通用しない。
「ぐッ、こんな……馬鹿なことがッ……!!」
その言葉を最後にネロの領域は崩壊、デスゾーン2がネロを巻き込みながらゴールに突き刺さりホイッスルが鳴る。これで3-3、やっと同点だ。
「ナイスシュート」
「おう!それにしても柊弥、練習なしでよくあんな合わせ方出来たな?」
「そこの司令塔様に無茶ぶりされてな」
「信頼として受け取ってくれ」
「どう思う?土門」
「うーん。要求する鬼道も鬼道だし、応えられた加賀美も加賀美ってことで」
「引き分けか」
まあ終わったことは良いか。何はともあれこれでようやくイーブンだ。これ以上の失点を防ぎつつ、最低でもあと一点を奪い取る。今のワンプレーを俺達四人で完結させられたおかげで皆の消耗も抑えられている。それに比べてジェネシス側はある程度の消耗、そして同点に並ばれたことへのプレッシャー。流れは完全に俺達だ。
大事になってくるのは試合再開後の初動。あっちのキックオフからな以上ゲームメイクもされやすい。そしてこの状況でヤツらが一番狙いたいのはもちろん追加点での突き放し、つまり速攻。アイツらの手札の中でそれを可能にするピースは……十中八九アレだろうな。そしてそれに誰よりも早く対応出来るのも俺。それの阻止が俺の至上命題ってことだな。
「鬼道、再開後だが」
「分かってる。お前のスピードを信じるぞ」
流石、分かってたか。ならその期待に応えるしかないな。
(……さて)
俺はポジションに戻って試合再開のホイッスルを待つ。全神経をホイッスルの鳴り始めに注ぎ込み、すぐにでも動き出す。
「俺には父さんがいる……仲間なんて、必要ないッ!!」
(来た、ここだ!!)
ホイッスルが鳴り、それと同時にヒロトが動き出す。それと全くの同タイミングで俺も動く。
「くッ、邪魔だ!!」
「いかせねえよ!!」
俺がマークに着いたのは
「ウルビダ!引き剥がせ!!」
「分かっている!」
「だから、させねえよッ!!」
最悪ヒロトが単騎でシュートを撃つなら、立向居が確実に止められる。なら俺はスーパーノヴァの阻止だけに意識を割いて、隙あらばボールを奪い取って攻撃に転じれば良い。
しかしウルビダは待ちではなく勝負に出た。一気にトップスピードまでギアを上げ、俺を振り払おうとしてくる。流石に速いが……追い付ける。2点目を奪われた時は完全な不意打ち、完全に警戒している今なら隙を突かれることもない!
「……ッ、邪魔だァァァァァァァ!!」
「なッ……!?」
その時だった。併走していたウルビダがスピードはそのままに思いっきりタックルを仕掛けてきた。パワープレイでの振り払いは想定していた、けどこのトップスピードの状態での衝突は想定出来ていなかった……!
フィジカルを考えて普通にぶつかり合えばまず俺が負けることは無い。けど、スピードに全振りしたこの状況じゃ話は違う。些細なブレが一気に崩壊に繋がる。それは当然ぶつかられた俺だけじゃなく、ぶつかってきたウルビダも同じはずだった。
しかしコイツは一切躊躇うことなくぶつかってきた。一切備えることが出来なかった俺はそのまま重心を崩し、地面を何度も転がされる。
「チッ、マズイな……!」
ヒロト、そしてその後ろにいたウィーズを止めることは出来ていなかった。そして俺が突破されて、ウルビダがそこに合流してしまう。
「追加点は俺達が貰うッ!」
「我々が……ジェネシスこそが最強なのだ!」
ヒロト達はボールに凶悪な程のエネルギーを注ぎ込み、そのまま3人で飛び上がる。クソ、阻止できなかった……!
『スーパーノヴァッ!!』
再び放たれる凶星。俺のシュートブロックは距離的に間に合わない、けど走るしかない!!
「
俺の視線の先では立向居が進化したムゲン・ザ・ハンドでスーパーノヴァに喰らいつく。しかし、先程の繰り返しのようにすぐさまムゲン・ザ・ハンドはヒビだらけになってしまう。
「ぐッ……うわッ……!!」
「まだだ!」
「守ッ!!」
打ち砕かれたムゲン・ザ・ハンド。しかし間一髪で守が間に合った。守の額から形成されたのは、黄金の拳。
「メガトンヘッドッ!!いっけェェェェ!!」
滑り込むようにして発動したメガトンヘッドがスーパーノヴァと真っ向からぶつかり合う。立向居の奮闘もあってその威力はだいぶ削れている。ここで破られたらもう誰も間に合わない、頼むぞ守……!
「負け、るかァァァァァァァ!!」
「なッ、馬鹿な……!?」
次の瞬間だった。守の気合いに呼応するかのようにメガトンヘッドが一際強く光り、完全にスーパーノヴァを打ち砕いてみせた。アイツ、最高だ──
「──ッ!?マジか……!!」
クソがッ、こんなことってありかよ!!
「……もう一度だッ!!」
弾かれたボールを追いかける俺の視線の先にいたのは、撃ち終わりで着地したばかりのヒロト達。ボールが飛んできたヤツらは、当然もう一度ゴールを狙う。
『スーパーノヴァッッ!!!』
「チィッ!!」
さっきのシュートブロックに間に合わなかったからこそ、今回は間に合った……が、状況は最悪だ。さっきみたいに雷霆万鈞を発動する余裕すらなかった。言ってしまえば、ただシュートの前に躍り出ただけ。
「ぐ……がはァッ!?」
「加賀美さん!!」
せめても抵抗で身体でぶつかりにいった。が、何の意味もなかった。威力を一切削ることも無く、ただ弾き飛ばされただけ。
「立向居ッ!!俺のことはいい……止めてくれッ!!」
「……はいッ!!」
俺は何も出来なかった。さっきはブロックに間に合った守もその時のダメージでまともにブロック出来るか分からない。他の皆も間に合わない。頼れるのは立向居、お前だけだ。
「立向居!!頼む!!雷門のゴールを守れるのは、お前しかいないんだ!!」
『立向居!!』
「皆のゴールを……俺が、守るんだァァァァァァ!!」
その時、立向居の纏うオーラが突然大きくなった。アイツ、まさかこの瞬間にまた進化しやがったのか……!?
『
現れた無限の腕達は明らかに先程よりも強靭だった。幾本の腕が同時にスーパーノヴァを抑え込む。二度の敗北を経て更に強くなったムゲン・ザ・ハンドは、その威厳を崩さない。
「な……馬鹿な……!?」
「やった……止めました!!加賀美さん!!円堂さん!!」
「立向居!!お前最高だ!!」
「ああ!スッゲーキャッチだった!!シビれたぜ!!」
立向居のヤツ、マジで最高すぎるぜ……!この土壇場で進化して、シュートブロック込みでもギリギリだったスーパーノヴァを一人で止め切りやがった!!
「こんな……こんなことが……」
『グラン、リミッター解除しなさい』
「ッ!?リミッター解除……!?そんなことをしたら、皆が!!」
俺達が立向居を囲っていると、何やら穏やかでは無いやり取りが聞こえてきた。リミッター解除……?何だ、何をしようとしている?
『怖気付いたのですか、グラン。お前には失望しました……ウルビダ、お前が指揮を執りなさい』
「父さんッ」
「はい、お父様」
よく分からないが、どうやらここからジェネシスの指揮権はウルビダに移るらしい。あのヒロトの狼狽の仕方とリミッター解除という単語……何か嫌な予感がする。何がハッキリとマズイのかは分からない。
……次は立向居のゴールキックからだ。念には念を、だな。
「立向居!こっちだ!」
「はい!」
俺はすぐさま立向居にボールを要求し、そのまま加速する。ジェネシスのメンバーは一切動かない。
「……リミッター、解除」
その時、視線の先でウルビダがユニフォームのボタンらしきところを押す。それを見てか他のメンバーも同じように動く。表情が曇ったままだがヒロトもだ。間違いなく何か仕掛けてくる……油断はしない、一瞬でゴールまで駆け抜け──
「──は?」
一瞬でゴールまで駆け抜ける。そう自分に言い聞かせようとした時だった。俺の足元から一瞬でボールが消えた。文字通り本当に一瞬だ。
「……お前ら、一体何をした?」
「……答える義理はない」
俺は直感的に視線をズラすと、斜め前にボールを確保して佇むウルビダの姿を捕捉した。あまりに急なことに動転し、試合中にも関わらず問いを投げかけたが……当然と言うべきか、それに対して反応はない。まあ良い……どんな手を使ったかは関係ない。そのボールは返してもら──
「さっきまでの我々と思うなよ」
「……ッ!?何だよあのバカげたスピード!?」
速い。いや、速いなんてもんじゃない。スピードに長けてる俺でも目で追うのがギリギリだ。これがリミッター解除……!?
『人間は身体を守るために限界を超える力を出さないように無意識に力をセーブしている。では、その全てを出し切れるとしたら?』
「……そういうことかよ、クソ野郎ッ!」
身体を守るためにリミッターがあるのに、それを人為的に無理やり外す。そんなことしたら当然、すぐに身体がボロボロになる!吉良のヤツ、それを躊躇いなくヒロト達にやらせやがった……!
「お父様の望みは我々の望み……これが、ジェネシス最強の必殺技!!」
俺が反応出来ないスピード。それが意味するのは、単純なスピード勝負じゃ誰もアイツらに追い付けないということ。凄まじいスピードで上がるウルビダ達を止められるヤツは、誰もいない。
あっという間にゴール前まで辿り着いたウルビダ、ヒロト、ウィーズ。メンバーはスーパーノヴァと変わっていないが、明らかにシュートの入りが違う。スーパーノヴァ以上の必殺技を隠し持っていて、今のリミッターを外した状態で撃つ……クソッ!最悪のパターンじゃねえか!!
『スペースペンギン!!』
ウルビダが地上で気を解放すると、禍々しいエネルギーと共に地中から宇宙服を纏った5匹のペンギンが姿を現す。そのペンギン達はボールと共に上空まで一瞬で到達する。そして、そこに待ち構えていたのはヒロト、ウィーズ。2人が同時に蹴り込むと、明らかにスーパーノヴァ以上の威力を秘めたシュートが放たれる。
『
立向居の更に進化したムゲン・ザ・ハンドが襲い来るシュートに喰らいつく……が、みるみるうちに腕にはヒビが入る。それに追い討ちをかけるように、5匹のペンギンが腕に突き刺さる。
「……ッ!!!何だ、このシュート───」
直後、あのスーパーノヴァすら止めてみせたムゲン・ザ・ハンドがいとも簡単に打ち砕かれた。立向居はそのままゴールに押し込まれ、ホイッスルが鳴る。3-4……再びこちらが劣勢に追い込まれたな。
「ぐッ!?」
「がァァ……!!」
「……リミッター解除の代償か」
「これくらい、父さんのためなら……!!」
吉良、お前はここまで自分を慕ってくれるジェネシスのヤツらすら道具程度にしか思ってないのか?しかもコイツらはまだ俺達と変わらない、子どもだろ?それなのに、ハイソルジャー計画だ、エイリア石だと……挙句の果てに、身体に莫大な負担をかけるリミッター解除を強いる。
「……許さねえ」
許す訳にも、負ける訳にもいかない。絶対にこの試合に勝つ。そして吉良の……いや、エイリア学園が間違っていることを絶対に証明する。
次回、試合決着です。皆様良いお年をお過ごしください。
ちなみに明日更新です。