疎遠になっていた双子の幼馴染と再開したらやっぱり僕は奪い合われる運命にあったようです 作:夏之 夾竹桃
そうか………今、僕達は2人きりなんだ。
「光華?聞いてる?」
「あ、うん。ごめん。」
僕は一華にそう返した。そんな、正気を保っていられるような状況下ではない。
「全くもう、そんなんだと私のところ来れないよ?」
「だって………一華、流石にこの距離は近いよ………。」
「そうかな…?」
僕は知っている。こういうとき、僕は必ずからかわれているのだ。全く、酷い人だ。口に出すのはよしておくことにするが。
「まぁ………わかった。頑張るよ。」
「うん。それでいいんだよ。」
しかし、やっぱり近い。一華の身長は小さい。だから胸が目の前に………なんてことはないんだけど、顔が近い。
本当に、手を伸ばせば届きそうだ。まぁ、僕にはそんな勇気なんてない。
いわゆるヘタレだ。あのときのあれが精一杯。でも、約束しちゃんだんだよな。いつか続きを言うって。
「光華?」
「ご、ごめん。」
「何も頭入ってきてないね?せっかく人が教えてあげてるのにさ。」
「ごめん………やっぱり近くて………。」
「意識しちゃうんだ?」
「………うん。」
男として情けないとは思っている。直さなきゃとも思っている。でも同時に、この性格が直るんだろうかとも思っている。
正直な話怖いのだ。
「うーん、せっかく教えてても光華にやる気がないんじゃな………じゃあ、今日頑張ったらご褒美あげるよ。」
「ご褒美………?」
「うん。」
「何するの………?」
「ナイショ。」
そう言って一華は教えてくれなかった。しかし、俄然やる気が出てきた。そりゃあ………何も考えないわけがないからね。
僕だってそういう年なのだ。
「おお………目に見えて集中しだしたね。」
「そう………かな?」
自分じゃわかってた。そりゃあやる気だって出るさ。
「やっぱり………光華って地頭いいからね。慣れたら簡単でしょ?」
「うん。すごい簡単。」
「でも、応用とかには弱いもんね。」
「うぐ………。」
痛いところをつかれた。確かにそのとおりだ。今までのテストだってそれで点数を落としてきた経験が何度もある。
「だから、まずは応用に強くなろう。」
「うん。」
そうして、僕はまた目の前の問題集へと目を向けた。
弱点さえ克服してしまえばいいのだ。と、簡単に考えたはいいものの、それが出来たら苦労はしていないだろう。
ともかく、この大事な時期。弱音を吐いてなんて居られない。頑張るしかないのだ。
「一華、ここはどうやるの?」
「あぁここはね、要領自体はさっきのと同じなの。違うのは考え方で………。」
1度でも集中さえしてしまえば僕のペースだ。一通り試してわからなければ叩き込む。それの繰り返し。
そうやって僕は学んできたのだ。だからこのまま続けていく。
そうして、どれほど経ったか解らないが僕は気がついたらあの問題集を終わらせていた。
「おお、頑張ったね。しかも最後のあたりは質問なし。つまり、今までのことが頭に入ってる証拠だね。」
そうやって、一華は僕を褒めてくれた。とても嬉しかった。そりゃあ………好きな人から褒められたのだ。当然の反応だろう。
「顔、赤くなってるね。」
「………余計恥ずかしくなるから………。」
やっぱりからかわれるのは苦手だ。芋蔓式に弱い部分がさらけ出されていく。
「でも、何したら恥ずかしがるかなんて私結構前から知ってるよ?」
「まぁ………そうだけど………やっぱり見られたくないんだよ!」
「可愛いのに。」
「か、可愛い言うな!!」
本当に………体が熱い。
「やっぱり恥ずかしがりやだね。」
「………よく知ってるでしょ………。」
「そりゃあ知ってるけどね、それでも見てたいもんなんだよ。」
「な、なんでさ………。」
「あぁ、光華だなって感じがするから。」
その理由については、僕はあまり理解できない。僕のアイデンティティと言うのはここにしかないものなのだろうか?
いや、そんなことない………はず。自信を持って言えないあたり、優柔不断だなと改めて思ってしまう。
「まぁ………いいけどさ………。」
「からかってもいいの?」
「いいよ………。」
「なんで?あんなに嫌がってたのに。」
「何ていうか………別に悪い気はしないしさ………。だからいいよ。からかっても。」
「なるほど………好きだからか。」
その言葉に僕は少し反応する。その体の震えに気がついたのか、一華は距離を詰める。
「好きな人にここまで近づかれました。さて、光華はどうするのが正解でしょう。」
眼前10センチと言ったところだろうか。僕の真正面に一華の顔があった。その瞳は真っ直ぐ僕を見ていたのは理解できた。
それ以外、何も考えることはできない。とてもじゃないが頭がまともに働いてくれる状況じゃなかった。
「………わ、わかりません………。」
「わからない………うーん………まぁそうだよね。ちょっとからかってみただけ。もっと思い切っても良かったんだよ?」
そんなことを言われたが、思い切る勇気なんてない。そもそも………まだ少し僕は混乱している。
「まだ、わかってない?」
依然として、一華との距離は変わっていない。
「うん………。」
どうすればいいのだろう?僕は………多分逃げるのは選択肢にない。じゃあ………近づくのか?
それでいいのかは解らない。でも他にこれと言った打開策もない。じゃあ………やるか。
決心はついたあとは勇気だけ。
「まだわかんない感じ?」
その質問に僕が答えることはできなかった。少しづつ、ゆっくりと一華に近づいていく。
一華もそれには気がついていただろう。しかし、抵抗はしなかった。
「まぁ………そうだね。」
と、一言だけ置いて、一華は目を瞑る。少し、微笑んでいるようにも見えた。
その人に、手を回しそっと抱き寄せる。そうしてそのまま………僕はそのまま彼女を抱きしめた。
いや、自分でも何してんだろうなって思ったさ。思ったけど、キスはまだ違う気がする。
だってまだ付き合ってないし暴挙がすぎると思ったから。あと………流石に勇気が出なかった。
「まぁ、こうなるよね。」
「流石に、付き合ってもないし。」
「まぁそりゃそうだね。それでも結構しっかり抱きついてくるね。」
「だ、だって………好きだから。」
「………そうか。やっぱり好きなんだね。」
「そりゃあ………好きだよ。」
「じゃあ………ご褒美。」
そういえばそんなことを言われてたなと、今思い出す。そうして今の状況である。
心臓がこれまで無いほどに脈打つ。
「すごい、ドキドキしてるんだね。」
「そりゃあ………するよ。」
「何考えてるかはわからないけど………まあいいや。じゃあ、目を瞑って。」
「う、うん。」
そうして僕は言われたとおりに目を瞑る。もう………どうなってしまうのだろうか?何も解らないが………言われたとおりにするしかない。
そうして暫く静寂が続き。僕は抱き寄せられる感覚を覚えた。少しずつ近づいていくのが目を瞑ってでもわかった。
さっきまだ早いって結論付けしたばかりなのに………。
「はい、お返しのぎゅ。」
その声とともに、僕は抱きしめられた。
まぁ、してやられたとそういう訳だ。期待した僕が恥ずかしい。でも………まぁ“お返し”と言うのはそういう意味なのだろう。
「期待しちゃった?」
からかうような口調でそう聞いてくる。そんなの決まってる。
「期待してたよ………。」
静かにそう答える。
「まぁ、お返しだよね。私もおんなじ事やられたんだから。その権利あるよね?」
ぐうの音も出ない。そして何より恥ずかしい。結果的に僕は今日もからかわれただけなのだった。でも僕は知っていた。一華だってドキドキしていることを。