疎遠になっていた双子の幼馴染と再開したらやっぱり僕は奪い合われる運命にあったようです 作:夏之 夾竹桃
「ん?どうしたの雉矢?」
その声で、僕は彩羅の方を振り返る。
「いや、なんでもない。」
何か、妙な殺気みたいなものを感じてしまったが………いや気のせいだろう。そうして僕はまた、彩羅に振り回される。
なんでここまでが僕等のデフォルトなんだろうか?もう少し、静かにしてほしいものだが。
「だから!危ないって!」
「前見て泳いでるから大丈夫!」
そういう問題じゃないんだよな、と心底思いつつ一度彩羅を静止させる。
「ストップ!」
「もう、何なのささっきから。」
「いや、はしゃぎすぎ。僕がついていけてない…。」
「そりゃあ、雉矢が運動してないだけでしょ?」
確かにそれはそうかもしれない。このことにはあまり反論できないがそうじゃない。
「そうじゃなくてだな………。」
「じゃあ何なのさ?」
「かなりお前目立ってる。」
「駄目なの?」
「だめな目立ち方してるって意味だよ。」
「ん?」
「若干引かれてるんだよ………。」
そこまで言ってようやく彩羅は納得した様子だった。
「まぁ、責める気はないけど………流石に元気すぎな?」
「う、うん………気をつける。」
そんな市民プールごときでガチはしゃぎされてもついてはいけない。そもそもとしてなぜコイツはここまで泳ぎがうまいのか………。
「あと多分僕じゃなくても彩羅にはついていけないと思う………。」
「そうかな?」
自覚がないというのはなかなか怖いものだ………。まぁ、ようやく彩羅の暴走を止められただけよしとしておこう。
若干これで良かったのだろうかと疑問に思う節はあるのだが。まぁ、割り切って考えるのが妥当だろうな。
「雉矢………。」
「どうした?」
「これ退屈じゃない?」
結果的に僕達は今、ただクラゲのように漂うだけとなってしまった。まぁ、これはこれで何をしているんだろうかと言われそうだが。
「この退屈さがいいんじゃないか?こうやって漂ってるだけでも疲れが吹っ飛ぶ。」
「でもせっかくだだっ広いプールに来たのにさ、なんかもったいないよ。せっかくだし泳ぎたい。」
「お前が泳いだらいろんな意味で大変なんだよ。」
そうやって僕たちは浮かんでいた。そうして波の悪戯を受ける羽目になる。
ふにっとした感触が腕にあった。
「あ、あたったごめん。」
「いいよ。慣れっこだろ?」
「まぁ、そうだね。何なら流されないために捕まっておくのもアリかな。」
「そこは任せる。」
そうすると本当に彩羅は僕に捕まってきた。僕としてもこれに離れているが。こんな堂々と腕を組まれると恥ずかしい。
普通に考えてなかなかない状況だ。付き合ってもない二人がプールに浮かびながら腕を組んでいる。何これ?
実際、考えるだけ無駄だろうということはわかっているから、僕は何も言わなかった。
「雉矢………羨ましいくらい細いね。」
「運動しなかった者の末路だ。真似するなよ。健康体が1番だからな。」
「じゃあどうする?毎日ランニングする?」
「そんなことをしてみろ。僕は3日と持たないぞ。」
「飽き性め。」
「体力の方だ。」
僕がそう言うとしばらく沈黙が流れた。波の音と共に雑音が耳に入る。
「やっぱりなんか運動しようよ。」
「そんなド正論ふりかざさないでくれ。やんなきゃなんないってのはわかってる。でもここまでなっちまったんだよ。」
「じゃあ………ジョギングからでも。」
「まぁ、それなら考えておくよ。」
「明日からやるよ。」
明日からは勘弁してほしいところだが、生憎と僕には拒否権なんてないだろう。
「………了解。」
「それにしてもさ、なんで女の子に抱きつかれてるのにここまで無反応なのかな。」
「慣れっていうのは怖いもんだよな。自分でもつくづくそう思うよ。」
「いつの間に染羅とそんなに関係が………!?」
「驚いているところ悪いが、基本お前のせいだよ。」
軽くツッコミを入れつつ、受け流す。改めて慣れとは怖い。しかしまぁ、こんな反応できるのは彩羅か染羅に対してだけだと思うし、本気で攻められたら僕だって相応の反応をしてしまう気がする。
「やっぱり私のせいなの?」
「自覚あったんだ。」
「流石にね。」
「流石にか。」
そう返したところで、また2人とも黙り込む。実際僕はこの静けさは好きだ。波の音に混じった雑音を聞きながら、どこか遠くにいるような錯覚を起こし、不思議な感覚になる。
まぁ、わかってくれる人はきっと少数だろうな。
「ねぇ、静かすぎない?」
「これがいいんだろ。」
「そこまでは………わかんないかな。でもまあ、雉矢が居てくれるからいいか。」
「僕のこと好きすぎかよ?」
「好きだから今こんなことになってるんじゃん。」
確かに、彩羅の言うとおり。しかし、そうなると付き合ってはいない事実がより顕著に現れる。
「まぁ、アレだな。不思議だ。」
率直な感想を述べたつもりだった。
「自然の理だよ。」
真反対な言葉が返ってきた気がする。
「そりゃあまたどうして?」
「好きな人と一緒にいたいっていうのは、当然の感情でありそれが叶ってるっていうのは稀有ではあるけれど当然のことなんだよ。」
なんだか難しいことを言われてしまった。まぁ、わからないわけではない。むしろ納得してしまう。考えてみたら、結構妥当なことなんじゃないだろうか。
「ちょっと上がるか。」
「体冷えてきた?」
「うん。」
脂肪がないっていうのも辛いもんだよ。熱が逃げやすくなってしまう。
「いや………この独特の体が重くなる感覚。いつ以来かな。」
「わかる。私も慣れない。」
「ちょっと休憩しよっか?」
「賛成。」
そうして僕達はプールサイドのベンチへと向かう。その時またあの感覚がやってきた。寒気に近い、でもちょっと違う。どこからだろうか?そう思い足を止めてしまう。
「どうしたの?」
「いや………なんでもない。」
「なんかへんだよ?体調悪かったりするの?」
「そう言うのじゃないんだけどさ………なんか変なんだよね。自分でも言い表せないくらい。」
何なんだろうか?その感覚は途切れることはない。ベンチに座っている間も続いていた。
ふと、プールを見渡す。その風景に何か違和感を覚えた。
ある少女がこちらを見ていることに気がつく。
「………ぁ…。」
理解はしたが納得はできてない。今までの感覚はあの少女の視線だったらしい。今、目があってしまった今それを理解する。
「雉矢?どうしたの?」
「いや、あの人ずっとこっち見てないか?」
「えっと………あ、あの子?」
年は同じくらいだろうか。身長は平均的。顔は………まだよくわからない。
「あ、近づいてきた。」
向こうもこっちに気がついたのだろう。そうして距離が縮まるにつれて僕は段々と理解していった。
端正な顔立ち。可愛いというより、綺麗だ。短めの明るい栗色の髪の毛。どこかで見たことがある。そしてその顔は、どことなく微笑んでいるようにも見えるが………狂気も感じてしまう。
「なんか………怖くない?」
彩羅のその声に反応できなかった。僕は………色々と困惑している。いや、あの黒歴史を知っているのは僕と羽音だけ。勿論、その人が知っているわけない。
やり過ごせると確信していた。そうしてその少女は僕たちの前に立った。そうして、一言少女は告げる
「小鳥遊君………久しぶり。」
いつかの印象とは全く違う。なんだろうか、この違和感は?僕は大丈夫なのだろうか?
「私の事覚えてる?救ってくれたよね?」
「覚えてるよ。ただ、救ったわけじゃない。自己満だ。」
正確には勘違いだ。まあ、そんなこと言えるわけない………と、言うか本当にどうした?僕の知ってるその人じゃない。
人が変わってしまったみたいだ。
ただそれでも僕の目の前にいるのは、確かに時鳥 日向その人だった。