疎遠になっていた双子の幼馴染と再開したらやっぱり僕は奪い合われる運命にあったようです   作:夏之 夾竹桃

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第34話 勘違いと自己満足

「そんな自己満でも………私は嬉しかったよ。」

 

「やめてくれ………恥ずかしい。」

 

少し、思い出話をしよう。あれは僕が中学生のときの話。特別で居たかった時代の話だ。

 

 時鳥さんは真面目な人だった。その上容姿もいいと来たからモテないはずがなかった。どれだけの人数に告白されたのかは見当がつかない。

 

 まぁ、2桁は軽く行ってるんじゃないだろうか。もっとも、時鳥さんはそれを全部尽く断っていたらしい。まぁ………見事に全員還付なきまでに叩き落としたそうだ。

 

 そんな生活を送っていたのだ。トラブルが起こるのは必然だろう。

 

 そこまで告白されておきながら、その全てを断る。他の女子にはこれがどう映っていたのだろうか?その果にあったのは………イジメであった。

 

 僕はその時どうしていたかというと………さて、ここから痛々しくなってくる。僕は傍観者を気取っていた。今考えればまさしく阿呆である。

 

 その時の僕の考えとして「特別で居たい。」というものがあった。だから僕はその様子を遠くから見ていた。

 

 そうして周りを見渡して気が付く。なんだ、皆この光景を他人事のように見ているじゃないか。つまり、ここはまだ普通なのだ。

 

 そこまでいった厨二病患者(怖いもの知らず)が取る行動は1つ。僕は、何を思ったかそのイジメの主犯格に立ち向かってしまった。

 

 何を考えていたのだろうか。しかし、動機は不純ながらも人としては正しいことをしていた。

 

 なぜ僕は首を突っ込んだのか………今の僕は自己満という事にしている。

 

 このことについて何が1番いけなかったかと言うと、家に遊びに来た羽音に喜々として語ったことだ。そうして羽音が軽く流すために僕に言った「じゃあその日向ちゃん?おにぃに惚れたかもね。」なんて言葉を真に受け、毎日妄想にふけっていた。

 

 うん、気持ち悪い思い出だ。2度と語らん。

 

「小鳥遊君が恥ずかしがることないじゃない。私の事救ってくれたんだし。」

 

「だから、自己満って言ってるだろ。」

 

そこまで言って彩羅が僕に聞いてくる。

 

「雉矢………この人は…?」

 

「あぁ、中学生時代の同級生。時鳥さんだよ…。」

 

続いて、時鳥さんの心底どうでも良さそうな声が僕に訪ねてくる。

 

「小鳥遊君………そちらの方は?」

 

「鷹野 彩羅。僕の幼馴染だよ………。」

 

しかし謎なのが、どうしてこうも空気がピリついているのだろうか。正直、少し怖い。

 

「幼馴染………か。」

 

時鳥さんのその声で一旦静寂が流れる。依然として緊張状態のままだ。

 

「小鳥遊君、隣いい?」

 

ここで承諾しなかったときが怖い。本当に僕たちに何があってもおかしくはないだろう。確実な怒りの感情を僕は捉えていた。

 

「いいけど………。」

 

「雉矢…。」

 

心配そうな声を上げる彩羅。おそらく彩羅も感じ取っているのだろう。この異常な空気を。

 

「さてと、小鳥遊君。」

 

「…どうしたの?」

 

「今、付き合ってる人っている?」

 

「………は?」

 

思わぬ一言だった。それと同時にあまり聞きたくない言葉でもある。状況を整理すると最悪に等しい。さて、切り抜くことはできるのだろうか?

 

「あ、いやごめん。急だったから………付き合ってる人はいない。ついでに言うと好きな人もいないよ。」

 

現状を嘘偽りなく話す。

 

「じゃあそこの人は?どうして2人きりなの?」

 

あぁ、最悪なタイミングから見られていたらしい。

 

「いや、だから幼馴染だって。それに僕は今日、彩羅と2人きりで来たわけじゃない。」

 

「………そうなんだ。じゃあ本当なんだね?」

 

「本当だよ。だいたい、僕が嘘をつく理由なんてないじゃないか?」

 

「………あれから、あんまり人が信じられなくてね。」

 

「まぁ………だろうな。」

 

きっと彩羅は話についてこれないだろう。だが、今日に限って言えばそれでいい。

 

「ごめんね、昔のことなのに。」

 

「いや、いいけどさ別に。」

 

本当は良くない。自分の愚行に腹が立ってくるほどに良くない。いや………行動は良かっただけに本当に残念だ………。

 

「まぁ、話を戻すね。小鳥遊君、私と付き合って?」

 

「は………?」

 

この言葉を口にしたのは本日2度目である。いや、分からん。なぜだ?まさかあの時の羽音の戯言が事実であったとでも言うのか?

 

「まぁ、いきなり言っても混乱するだけなのはわかってる。でも………好きなんだよ。私は。そうして、やっと再開できた。」

 

「そ、そうだ………時鳥さんは引っ越したはずじゃないのか?」

 

「引っ越した………まあそんな感じ。療養として離れたところで暮らしてた。そして、帰ってきた。」

 

なるほど………そういうことか。しかし、どうして僕と付き合うのか………。

 

「さっき、あまり人を信じることができないって言ってたはずだが?」

 

「それは本当。でも、小鳥遊君のことが好きなのも本当。だから、好きな人のことはやっぱり信じれるようになりたい。そのためには………やっぱり近くにいるのが1番かなって。」

 

これは………ヤンデレ化しているような気もする。

 

「まぁ………妥当ではあるだろうけど………ごめん。付き合うのはちょっと無理かもしれない。」

 

「なんで?」

 

「いや、あの時の僕は本当にただの自己満だったんだ。誰かを守りたかったわけじゃない。目の前で騒がれるのが嫌だったんだ。だから、時鳥さんのこと正直全然知らない。そんな人と付き合いたくはないだろ?」

 

「………いいや、一緒に居たい。」

 

やっぱり駄目か………ここまでは予想済み。だからといって打開策があるわけでもない。

 

「時鳥さんが良くても、僕はそういうのがちょっと苦手なんだよ。だから………条件を飲んで欲しい。まず知るところから初めて、そこから自分に合っているのか判断する。それじゃ駄目か?」

 

「どうしてそんなに恋愛に対して冷徹な考え方をしているの?衝動に任せたっていいじゃない?自分の気持ちなんだからさ。」

 

これは、確かに時鳥さんの言うとおりだ。

 

「でも………それで見誤るかもしれない。僕は優柔不断なやつだ。どうしようもないヘタレだ。そんな奴なんだ。そんなのと居て楽しいか?」

 

「そんなのって言わないでほしいな。私を守ってくれた人なんだから。」

 

「………わかったよ。そこは訂正する。ただ、本当に付き合うのだけはまだ考えろ。早まるのは良くないからな。」

 

「早まってないよ。もう、3年くらい経ったんだから。」

 

完全にヤンデレ化しているな………。あまり話が通じそうにはない。さてと、逃げ切ることも難しいか。

 

「僕にとっては早まりなんだよ。さっきも言ったが僕は感情に任せるのは………言ってしまえば怖いんだよ。だからごめん待ってくれ。」

 

「………それなら確かに………しょうがない。」

 

なんとか活路が見えた。この機を逃すわけには行かないだろう。

 

「この条件、飲んでくれるか?」

 

「………うん。わかった。しょうがないから………今日はこのあたりにしておく。待たせてる人もいるし。じゃあ小鳥遊君、またね。」

 

「あぁ、また。」

 

そうして、この件については保留にすることが出来た。まだ保留という現実が痛いことには変わりないけれど、しょうがないだろう。

 

 あとは時鳥さんがまともに戻ってくれればそれでいいんだけどな。そんなことを考えていると隣から声が聞こえる。

 

「雉矢………あの時鳥さんって人と付き合うかもしれないの?」

 

「………もしかしたらそうなるときが来るかもしれないけど、きっとそうはならないだろうな。」

 

「………それは、どうして?」

 

「さあ?わからない。」

 

根拠のない謎の自信が僕にはあった。ただ、根本的に僕と時鳥さんは合いそうにはない。だから、時鳥さんが前みたいに戻ってもきっと付き合うことはないだろう。

 

 それよりも、いまそばにいてくれる幼馴染達のほうが何倍も確率は高い。そんな気がする。


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