疎遠になっていた双子の幼馴染と再開したらやっぱり僕は奪い合われる運命にあったようです   作:夏之 夾竹桃

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第37話 僕達の約束

「染羅………。」

 

気がつけば僕はそう言っていた。なぜだろうか?ただ、呼びたかったのだ。彼女の名前を。

 

「き、雉矢!?い、いつから起きてたの………?」

 

「………『雉矢、大好きなのにな』の辺りから………。」

 

「最初からじゃん………。ていうことはキスしたときも………?」

 

「ごめん………。」

 

僕はただそういった。そう言うしかなかった。

 

「まぁ、いいけどさ………こっちもごめん。早くねよ………?」

 

「待って。今日さ、染羅なんかおかしいような気がする。まぁ原因は僕っていうのは分かってるけど………。何か言いたいことがあるなら言ってほしいんだ。なにかできるわけじゃ無いけどさ………できれば抱え込まないでほしい。」

 

「まぁ………気づかれるよね。いつも一緒にいるんだもんね。正直に言う。今の環境が怖いんだ。」

 

そこから染羅は語りだした。

 

「いつか、雉矢は誰かを選ぶ。その誰かはまだわかんないけどさ。自分じゃないのが怖い。そこが確定してないのが怖いんだ。今日も、時鳥さんなんて言う人が出てきて………不安でしょうがない。せめて………一緒に居たいんだ。」

 

「僕の中ではさ、確定してることがあるんだ。きっと時鳥さんと付き合うよりも彩羅、染羅のどっちかと付き合うほうが何杯も確率が高いんじゃないかってさ。これだけは自信を持って言える。根拠のないものだけど………。」

 

根拠のない自信は一番信用できないと分かっている。でも、どうしてか日常の風景を見ていると思ってしまう。いつか、この2人のどっちかと付き合うんだって………それって言うのはもしかしたら僕の理想なのかもしれない。でも、そうあるべきなんだと勝手に思ってしまうのだ。

 

「雉矢がそんなこと言うとは思わなかったな。根拠のない自信は嫌いって言ってたこともあるし。」

 

「もしかしたら、僕の理想かもな。まぁだからその何が言いたいかって言うと………あれだよ。約束。」

 

「約束?」

 

「僕は染羅とどんな結末になろうと離れないって約束するよ。それが、染羅にとっては苦痛になるときが来るかもしれない。そのときは、この約束取り消す。だから本当に受け入れるかどうかは染羅次第。」

 

「………絶対に………その約束忘れないでよ?」

 

そう小さくつぶやくと染羅は僕に小指を差し出してきた。

 

「約束だよ?」

 

「あぁ。」

 

そう言って、僕はその染羅の小指に自分の小指を絡める。そうして僕は誓うのだった。どういう結末になろうと、染羅と一緒にいることを。と、そこまでいってふと横から視線を感じた。

 

「?」

 

「どうしたの雉矢?」

 

そうしてその方向を見ると彩羅がこっちをガン見している。多分、絶対に見られてはいけない場面を見られた気がする。

 

「さ、彩羅………。」

 

「………その約束、私もしちゃ駄目?」

 

珍しく心配そうな声で聞いている。まぁ、彩羅もあれだ、僕のことが好きなのだ。だから当然といえば当然か。しかし、そんなに心配そうな声で聞かないでもらえると助かったな。少しドキドキしているのが分かった。不覚にも、可愛いと思ってしまったらしい。

 

 頭の整理がつかなかった僕はしばらくこの状態のまま硬直してしまっていたが、ようやく我に返った。そうして一旦僕は染羅を体からおろして、3人で向き合う僕のベッドのでまた、話し合いを始める。

 

「………駄目じゃないよ。」

 

「分かった。幼馴染としての約束。今3人でしよう?」

 

「「うん………。」」

 

「どういう結末になろうと、僕たちは一緒だ。嫌になったら離れてもらって構わない。戻ってくるのも自由。これが僕たち幼馴染の約束だ。」

 

「まぁ………それならいいよ。」

 

「私も、それなら納得できる。」

 

珍しく、あまり事は大きくならなかった。この手の約束をしてしまうとだいたい揉めてしまうのが僕たちだからな。まぁ、僕はいつも収集をつけるかかりだったけど。

 

「じゃあ、取り敢えず寝よっか。僕は明日早いらしいからな。」

 

そうして、また僕たちは眠りにつく準備をする。さっきとは違うところを挙げるとするならば、僕が真ん中になったことだ。なるほど、この狭いベッドの真ん中というのはとても窮屈だ。しかし、今の僕たちにはきっとこのくらいのほうがちょうどいいのだろう。

 

 しばらく経ってのことだった。両耳からささやき声が聞こえてくる。きっとお互いに、聞こえないようにしているのだろう。

 

「「私は、個人の約束として捉えておくからね。」」

 

なるほど、双子というのはここまで息の合うものなんだ。まぁその考えが一緒だったせいで、今こうして亀裂が入ったり入らなかったりしているわけだが。

 

 少なくとも彩羅も染羅も、今は互いのことを許しているのだろう。僕が真ん中にいるのがその証拠だ。しかしその僕が2人を遠ざけている理由にもなっているわけであるが。なんとも悲しいものだな。

 

 そうして、2方向から寝息が聞こえだす。2人とも眠ってしまったようだな。そうしてそんな2人に挟まれ僕は考える。やっぱりいつか覚悟を決めなきゃいけない。でもその時誰にとっても最善の行動を僕ができるのだろうか、と。そうして呟く。

 

「やっぱり、窮屈だな。寝れないや。」

 

そうして僕は目を瞑った。

 

 僕はその瞬間まで朝になったことがわからないでいた。そうして、その瞬間はやってくる。

 

「起きろ!雉矢!」

 

その声とともに、僕は一気に現実まで呼び寄せられた。その勢いのまま覚醒する。

 

「!?お、おはよう彩羅。」

 

バッと起き上がるとそこにはすでに着替えた彩羅が居た。あぁ、そうだったウォーキングに行くんだった。そのことを思い出しベッドから出ようとする。しかし何か腕が重たい。

 

「あれ?」

 

ふと見てみると、染羅が抱きついていた。と、言うかなんであの声でも染羅は眠れてるんだろうか?

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちょっとな。なんでも無いよ。」

 

そうして僕は優しくその手を解く。少し寂しい気もしたが、彩羅を待たせているのでしょうがない。にしても本当に可愛い寝顔だ。

 

 一瞬昨日の夜のことがフラッシュバックする。顔が熱くなるのを感じてまた我に返る。そうして小さく「行ってきます。」と言って僕は部屋を出ていった。

 

 外に出ると、まだ薄暗い。いや、時計もろくに確認してなかったけど今何時だよ。

 

「いやーやっぱり夏の朝っていいよね。この涼しさがなんと言うか。」

 

「それはたしかにそうなんだけどさ、今って朝って呼んでいい時間なの?」

 

「ん?朝四時は朝じゃん。」

 

なるほど通りで暗いはずだわ。

 

「………は?朝四時?」

 

「正確には四時半。まぁ朝だよね。」

 

まぁ朝だけど。漁師じゃないんだから。それに、あの一件があって僕もそこまで眠れていない。だと言うのに彩羅は本当に………まぁ元気なやつだよな。

 

「ほら、行こ?早くしないと日が昇っちゃうよ?」

 

「ま、待ってよ!」

 

あれ、ウォーキングじゃなかったのかな?僕たちは今走っている。いつからジョギングになってんだか。まぁ涼しいからいいけどさ。

 

 そうして、どれほど走っただろうか?気がつけばいつか見た公園についていた。いや、懐かしい。

 

「彩羅、ここって。」

 

「うん。ジョギングついでに来ようと思って。」

 

この際、もう完全にジョギングになっていることは無視する。僕も、疲れよりも懐かしさが勝っている。

 

「懐かしな。」

 

「でしょう?まぁちょっと思いで浸りたくてさ。取り敢えずあのジャングルジム登ろっか。」

 

「なんでさ?」

 

「もう少しで日の出だから。」

 

なるほど、彩羅の考えてることがあらかた理解できた。そうして僕たちはそのジャングルジムの一番上まで上りまた話始める。

 

「ここも変わんないよね。」

 

「ホントだよな。よくかくれんぼとかしてたよな。」

 

「そうそう。覚えてる?かくれんぼしててさ染羅がいっつも場所に隠れてたことあったよね?」

 

「あぁ、あったあった。確かあのドームだっけ?」

 

「そうあの中。でさ、私達はそれ分かってるから見つけられないふりとかしててさ。」

 

「あったなそんなことも。本当懐かしいよ。」

 

「そうだよね。本当、ここでずっと遊んでたもんね。あ、そろそろ時間かな。」

 

「日の出?」

 

「そうそう。ほら、あっち。」

 

朝日が差し込む。とても眩しい。でも赤く照らされた町並みがすごく綺麗で………僕は見入っていた。

 

「雉矢、こっち向いて?」

 

その声で僕は彩羅の方を向いた。振り向いてからその行為までの時間は一瞬だった。理解するのには数秒かかった。昨日の夜と同じあの感触。キスだった。それを理解してしばらくして、彩羅の顔が少し僕から離れて、そうして彼女は言った。

 

「昨日の染羅との、見ちゃったからさ。」

 

その悪戯な笑顔が僕の顔までも赤く彩ったのだった。


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