UC:0096 The Verdict Day   作:刀の切れ味

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騙して悪いが、勢いだけなんでな。この一話だけ読んでもらおう


EP.01 Dirty Woker

 ユーラシア大陸、中央アジアに位置する広大なタクマラカン砂漠。一面見渡す限り砂の地平線が広がるこの砂漠の上を、砂塵を吹き上げながら飛翔する鉄の塊があった。

 十数メートル以上ある巨体を浮かせる二枚の回転翼を唸らせ、ギラつく太陽の下を滑空するそれは、実に年季の入った古い輸送機だった。

 物資やモビルスーツを格納するコンテナにスペースを取られ、ほんの数名しか入れない狭いコクピット。そこでは、ラジオから陽気な音楽が流れていた。

 

『今日も我々グローバル・コーテックス放送局が、皆様に心躍る楽曲を提供いたします。まずは──』

 

「ん〜ん〜♪」

 

 ご機嫌に指でリズムを取りながら操縦桿を握るのは、腹の出た中年の操縦士。その後部座席で計器に目を光らせていた若い女性は、ヘッドセットを正しながらため息をつく。

 

「……任務内容を確認するわ。作戦地点はタクマラカン砂漠にある連邦軍の小基地、そこから更に南東へ数キロほどの地点にあるガウ空母の残骸。現在、そこで連邦軍のパトロール隊が、先日確認されたミノフスキー粒子反応について調査しているわ」

 

「お〜れ〜は〜ファットマン〜♪」

 

「本当なら補給を受けてからの任務だったけど、予定を繰り上げられたわ。一応、戦闘は最小限にと進言してあるけれどね」

 

「ぶーんぶーん、ぶぶーん♪ なんだかなぁ〜♪」

 

「やる事は単純、パトロール隊が調査を終えるまで周辺の警護を行うだけよ……まあ多分、調査そのものを押し付けられるんでしょうけど」

 

「はっはっはっ! なんだそりゃ⁉︎ 毎度毎度、ろくでもない任務ばかりだな」

 

 補給を先延ばしにされ、パトロール隊の仕事を丸投げされる。今回の任務の事情を知ったファットマンは、その下らない内容を快活に笑い飛ばす。

 しかし、さすがにファットマンのやる気のなさに我慢も限界に達したのか。後部座席にいたオペレーターの女性は、後ろからファットマンを睨みつける。

 

「少しは静かにして、ファットマン。仕事する気あるの?」

 

「マギー。俺はもう、いつ運び屋を引退するか。最近はそれしか考えてなくてさ」

 

「はぁ……じゃあ、それは明日にして。今日は仕事がある」

 

「明日は雨らしい、辞めるのは晴れた日って決めてる……それに砂漠では珍しい雨の日に辞めたら縁起が悪い」

 

 ファットマンの飄々とした物言いに、オペレーターのマギーことマグノリアは、辟易したように肩をすくめる。ファットマンはいつもこの調子なので、文句を言っても無駄だと知っているのだ。

 

「ならせめて、ラジオは止めて。気が散るわ」

 

「ラジオを流してんのは俺じゃない、コクピットにいる誰かだ。どうせカイトだろう」

 

 親指を立てて自分の下を指すファットマン。それはつまり、輸送機のコンテナに格納されたMS、そのコクピットにいるパイロットたちを示していた。

 それを見たマグノリアは、ヘッドセットを押さえながら各コクピットへと無線を繋ぎ、コンテナにいる4人のパイロットたちへ苦言を申し立てる。

 

「カイト、いつまでもラジオを流してないで、戦闘に備えてほしいんだけど」

 

『ん? いやいや、俺じゃねぇぜ。俺はもうラジオ持ってねぇんだ』

 

 無線から帰ってきた若い男の声に、マグノリアは少しだけ目を丸くする。この部隊内で、ラジオやカセットを所持しているのはファットマンとこのカイトというパイロットだけだったからだ。

 

「じゃあ誰よ。レイフ? それともハワード?」

 

 マギーが更に別のパイロット二人に問うと、やや呆れたような中年の男性の声が返ってくる。

 

『戦場にそんなものを持ち込む趣味は無いんだがなぁ。強いて言うなら……』

 

『シュウカだろう。この間、カイトが賭けに負けて、金欠だったらしく代わりにくれてやったらしい』

 

『お、おい、ハワードのおっさん! それは言うんじゃねぇ!』

 

 賭けに負けたという情けない話をバラされて、少し声を荒げるカイト。それでも、齢四十を超えてなお現役である熟練パイロットであるレイフとハワードには、さすがのカイトも頭が上がらない。

 

「そういうこと……シュウカ、聞こえてたでしょ? 作戦区域まであと少しよ、ちゃんと気持ちを切り替えて」

 

 マグノリアは現在のラジオの持ち主だという最後の一人、シュウカというパイロットを嗜めるように言い聞かせる。それに応えたのは、カイトよりも更に若い少年の声だった。

 

『音楽は良いよね。やっぱりテンションが上がるっていうか、闘争心が湧き上がるというか……戦艦の対空砲火の雨の中にだって、飛び込んで行ける気がするんだ』

 

「戦闘になったら雑音で何も聞こえないわ。点けてる意味あるの?」

 

『それでもだよ。僕も()()()()のは嫌だからね、出来るだけ最高のコンディションで戦闘に臨みたい。ラジオはその為に必要なのさ』

 

「つい最近ラジオを貰ったくせに……」

 

 この部隊で一番年若いパイロットであるシュウカ。ファットマンに負けず劣らず飄々とした物言いに、マグノリアは諦めたように肩をすくめる。

 しかし、ラジオを止めさせる事を断念したマグノリアだったが、内心ではこの程度で作戦に支障が出るなどとは考えていなかった。

 

「まあいいわ、貴方たちなら対して手こずる任務じゃないでしょうし。そろそろガウ空母の残骸も目視できる距離に入るから、いつでも出れるようスタンバイしておいて」

 

『了解。それじゃあラジオはこのままに──』

 

 ズン、と揺れる大気。マグノリアが視線を砂の地平線の先へ向ければ、空高く登る黒煙が見えた。それも一つではなく、二つ、三つとだ。それから輸送機が前進を続けるほどに、激しい銃声と爆音が聞こえ始める。

 

「なんだありゃ、調査にしちゃ派手だな?」

 

「明らかに様子がおかしいわ。機体高度を上げて様子を見て」

 

 輸送機の高度を上げれば、視界に入るのは弾丸とビームが飛び交う戦場。マグノリアらが知らされていた情報とは、大きく異なる戦況が展開していたのだ。

 砂の上に幾つか転がっているのは、大破した連邦軍のMS『RMS-179 ジムⅡ』だ。その付近では、砂丘の影に身を隠しながら90mmブルパップ・マシンガンを乱射する『MSA-007 ネモ』もいた。

 

「あのMSども、ジオンの機体だ! 三、四……六機もいやがる、どっから湧いてきたんだ?」

 

 ガウ空母の残骸に身を隠しながら、連邦軍のパトロール隊に銃撃を浴びせる敵MS。どれも旧式のMSばかりだが、多勢に無勢と数に差がありすぎる状況だ。

 

「これは……パトロール隊の指揮官、こちらの声が聞こえるか!」

 

『……っ! その輸送機、貴様らが例の部隊か⁉︎』

 

 マグノリアが無線で問いかけると、パトロール隊の指揮官機であるネモのパイロットがそれに応える。戦況が戦況なので、声色には焦りが多分に含まれていた。

 

「こちらは地球連邦軍EGF特殊作戦部隊、隊長のマグノリア・カーチス中尉だ。これは一体どういう状況なのか、説明を要求するわ」

 

『見て分からんのか、想定外の敵戦力に奇襲され、交戦中だ! 既にこちらは三機やられている、下らん質問をしている暇があったらさっさと援護しろ!』

 

「私たちの任務は周辺警護のみで、戦闘は最小限という話だったはず。現状とは違いすぎる……我々はもう一ヶ月近くロクな補給を受けていない、あまり大きな規模の戦闘は不可能と進言したが?」

 

『ごちゃごちゃと戯言ばかり……貴様らは黙って命令に従え、ティターンズの亡霊どもがっ!』

 

 Earth Guardians Force、通称EGF。それがマグノリアたちが所属する部隊の名だ。

 一年戦争の後にジオン残党討伐を名目として設立した組織、ティターンズ。EGFはその傘下にあり、地球圏の防衛を主任務とする特殊部隊だった。

 当時は地球圏の防衛という大役を任されたエリートの集まりだったが、グリプス戦役によってティターンズが崩壊した後は縮小に縮小を重ね、非常に小規模な部隊にまで落ちぶれてしまっていた。

 配備されたMSも旧式で、補給もまともに受けられないほどの冷遇。今や、素行に問題のある兵士やパイロットの最後の受け入れ場所のようになっているのだ。

 

「戦闘に参加しろと言うのなら……弾薬や装備の補充、整備、および各種物質の補給。全て予定の倍の量を要求するわ」

 

『あ、マギー! ついでにタバコとか酒の嗜好品は多めに頼むよう言ってくれ』

 

『こんな砂漠の小基地といえど、倉庫には手もつけられていない物質が沢山あるんだろう? ため込むだけ無駄だ、我々に寄越したまえよ』

 

『なっ……⁉︎貴様ら、よくもそんな暴言を! そのようなことがまかり通る訳ないだろう⁉︎』

 

 カイトやレイフと、その他パイロットたちも次から次へと要望を押しつけてくる。そこへ更に、マグノリアとファットマンが追い討ちをかける。

 

「どうせ敵が潜伏している事は初めから分かってたんでしょ? 私たちを使って敵を排除しようとしてたけど、先に気取られて奇襲された……そんなところかしら」

 

『……っ!』

 

「今、周りに友軍は私たちしかいない。貴方たちが見殺しにされても、誰も文句は言わないでしょうね」

 

「戦闘領域を通過、帰っていいかね指揮官殿? はっはっはっ!」

 

『き、貴様らぁ……!』

 

 高高度を維持したまま激しい銃火の上を通り過ぎていく輸送機を、憎々しげに睨みつける指揮官機のネモ。

 かつてのティターンズを彷彿とさせるその横柄な口ぶりに、パトロール隊の指揮官は怒り心頭だった。しかし、自分のすぐ真横をバズーカの砲弾が通り過ぎたのを見て、すぐに考えを改める。

 

『くそっ、お前たちの言う通りにすればいいのだろう! 武器でも食料でも、好きな物を持って行くがいい! 生きて帰れたらな!』

 

「……! 任務内容の変更を確認。機体高度を維持したまま反転、MSを投下せよ」

 

 パトロール隊の指揮官が折れて、遂にマグノリアたちの要望を承諾する。それを聞くや否や、マグノリアはMS投下の指示を出した。

 

「さぁお前ら、仕事だ仕事!」

 

 ファットマンはコクピットにいるパイロットたちに声をかけながら、コンテナのハッチを解放していく。すると、薄暗かったコンテナに日の光が差し込み、戦場へ飛び立とうとするMSたちの姿が露わになった。

 

「レイフとハワードは、友軍機を援護しつつ後方支援。カイトはガウ空母の残骸に隠れているMSを炙り出して。シュウカは機動力を活かして……聞いてるの?』

 

『ああ……ごめん、ちょうど曲がサビで盛り上がっててさ。大丈夫、作戦はいつも通りでしょ?』

 

 音楽に夢中になっていたせいで遅れて応答するシュウカ。その声色には、死地に向かうことへの恐怖は一切ない。そして、それは他のメンバーも同様だった。

 

『あれはデザートタイプのザクか? 一年戦争時代の骨董品じゃないか、懐かしいな……』

 

『古い機体なのはお互い様だがね。そうだ、俺たちもどちらが多く敵を撃墜できるか、賭けてみるかね?』

 

『ふむ……いいだろう、その話乗った』

 

 談笑するレイフとハワードが搭乗するカーキイエローに塗装されたMSが、モノアイと増設されたカメラセンサーで眼下の戦場を鳥瞰する。

 二人の搭乗する『RMS-108 マラサイ』は、グリプス戦役時に開発された量産MSだ。ただしこのマラサイは、ホバー用の脚部熱核ジェットエンジン、両肩に追加されたシールド、各種重火器を備えた陸戦仕様として大幅なチューンアップが施されていた。

 

『一番槍は年長に譲りたまえよ。レイフ・スミノルフ、陸戦型マラサイ一番機、出る!』

 

『俺とアンタじゃ対して歳の差は無いだろうに……ハワード・コールマン、陸戦型マラサイ二番機、行くぞ!』

 

 MSを固定していたハンガーが解除され、輸送機から地上へと飛び立つ二機のマラサイ。それに次いで出撃するのは、カイトが搭乗するMSだ。

 見た目こそパトロール隊が駆るジムⅡに近い。しかし、全身に取り付けられた追加装甲群と背部に搭載された砲撃支援パッケージは、ただのジムではない事を表していた。

 

『元気なオッサンどもだよなぁ。ま、俺もやるんならガチで行かねえとな。カイト・ディルク、ジムⅡ ASカスタム、出撃する!』

 

 ハンガーが解除され、スラスターから青白い炎を吹き出しながら降下して行くカイトのMS。そして、最後に残されていたシュウカが搭乗するMSの固定ハンガーが解除される。

 黒を基調としたカラーに塗装されたそれは、マラサイと同様にグリプス戦役時に開発された試作MS、『RX-110 ガブスレイ』だ。

 ムーバブルフレームが本格的に導入された可変型MSだが、生産コストの高さと整備性の問題から量産には至らず、ほんの数機のみ生産されたMSである。

 しかし、このガブスレイは全身の装甲や武装が一新され、頭部もジムのようなバイザータイプに変更されている。更に背部には大型スラスターが増設され、大気圏内でも運用できるよう調整もされていた。

 元々このガブスレイは、かつてティターンズが行なっていた『TR計画』の過程で製造された失敗作だった。本来は破棄されたはずの機体だったが、とあるエンジニアの手によって蘇り、今に至る。

 

(誰が死んでもしてもおかしくない戦場……ゾクゾクしてきた、やっぱりこうでなくっちゃ……!)

 

『さて、続いてリスナーにお送りする曲は……なんと! ここ最近で最も売れてるあのグループが提供する、重厚なテクノと電子ドラッグのデュエット!』

 

『ん……?』

 

『これから汚れ役を請け負うアナタに……Frequencyより“Dirty Woker"‼︎』

 

 仰々しく次の曲の紹介をするラジオのMCに、シュウカの興味が移る。何故ならその曲は、ファットマンの鼻唄でよく耳にしていた曲だったのだ。

 ラジオから流れ出す乾いたギターと爽やかなバイオリンの音色。それはMSの駆動音や戦場に鳴り響く銃声と合わさり、シュウカを更に高揚させていく。

 

『いいね、僕たちにはぴったりの曲だ……! シュウカ・リベルーテ、ガブスレイ TR-V、行きます!』

 

 フットペダルを一気に踏み込み、ガブスレイの計二十四基もあるスラスターを噴射するシュウカ。コンテナから飛び立ったガブスレイは、そのまま一気に戦場の上空を駆けて行く。

 

『ハワード、敵さんがこっちに来るぞ! 弾代は基地の連中が待ってくれるんだ、撃ちまくれ!』

 

『分かってるさ。出し惜しみはしない……!』

 

 地上では、パトロール隊のMSの付近に降下したレイフとハワードのマラサイが、ガウ空母の残骸の影から飛び出してきたザク・デザートタイプとドワッジを迎撃に当たる。

 ハワードのマラサイがバックパックにマウントしていたジャイアント・ガトリングガンを構えると、その銃身が音を立てて回転し、嵐のように弾丸をばら撒いた。

 

(……ザクタイプが二機、ドムタイプが一機……あと三機は何処に?)

 

 上空から戦場を見下ろし、敵の位置を把握するシュウカ。しかし、反射的に危険を察知したシュウカは、咄嗟に機体をロールして地上から放たれたビームを回避する。

 センサーで狙撃された方向を探知すれば、主翼の残骸の影からシュウカのガブスレイを狙う二機のMSがいた。

 

「データ照合、『MS-14C ゲルググ・キャノン』と『AMX-101 ガルスJ』だ! どちらも高火力の砲撃兵装を持ってるぞ!」

 

「もたもたしてると撃ち落とされるわ、速度で振り切るのよ!」

 

『分かってるよ、マギー!』

 

 シュウカのガブスレイに向けてミサイルポッドを連射するガルスJ。次々と飛来するミサイルを回避すべく、シュウカは瞬時にガブスレイをMA形態へと変形させる。

 通常のガブスレイとは違い、背部の二基の大型スラスターが翼のように広がったその姿は、色も相まって『カラス』のようだった。

 

「あの二機はシュウカが引き付けてる。カイト、今のうちに遮蔽物を吹き飛ばして!」

 

『了解だ!』

 

 ガウ空母の残骸から少し離れたところに降下していたカイト。彼の駆るジムⅡ ASカスタムが膝を着いて重厚なガーディアンシールドを構えると、バックパックに折り畳まれていた二門の砲身が展開する。

 MSの装甲も容易く粉砕する大口径の180mmキャノン。カイトは照準をレイフたちへとバズーカを撃ち込んでいたザクⅡに合わせると、そのままトリガーを引いた。

 

『そら、派手に吹き飛びなっ!』

 

 長大な砲身から放たれた成形炸薬弾は、ザクⅡが遮蔽物に利用していた装甲板の残骸に命中し、諸共爆発で飲み込む。

 巻き上がる土煙から崩れ落ちるように姿を表す半壊したザクⅡ。そこへトドメと言わんばかりに、レイフのマラサイが135mm対艦ライフルでコクピットを撃ち抜いた。

 

「敵MS、一機撃破! そのまま全部やっちまえ、はっはっはっ!」

 

「油断しないで、まだこれからよ。ハワード、シュウカを狙ってるあの二機の頭を抑えて!」

 

『了解した!』

 

 ホバリングで軽快に移動しながら、ハワードのマラサイがゲルググ・キャノンとガルスJへとガトリングガンの弾幕を浴びせる。

 すぐに残骸に身を隠す二機だったが、シュウカへの対空攻撃は途切れる。その隙を逃さず、シュウカはガブスレイをMS形態へと変形し一気に急降下する。

 

『──、────♪』

 

 ラジオから流れてくる歌詞のリズムに機体を乗せながら、シュウカはガブスレイの肩部に搭載された110mm速射砲と、手に持つジム・ライフルをゲルググ・キャノンに向けて連射する。

 ゲルググ・キャノンは急降下してくるシュウカのガブスレイへ向けてビームキャノンを放つが、シュウカはそれを容易く回避。攻撃の手を一切緩めず降下していく。

 

『この乾いた世界からおさらばしたいかって? ……はっ、そんなまさか』

 

 ジム・ライフルがゲルググ・キャノンのビームキャノンに命中し、砲身が爆散する。それでもなお、ゲルググ・キャノンはビームナギナタを展開し、迎撃の構えを見せる。

 それに加えて、ガルスJもシュウカのガブスレイに向けてフィンガーランチャーを向ける──が、トリガーを引く直前に無数の弾丸が二機に降りかかる。

 

『これで弾切れだ、取っておけ!』

 

 二機の裏側へと回り込んでいたハワードのマラサイによる、最後の一発まで撃ち尽くすガトリングガンの弾幕。たまらず遮蔽物の影に身を隠そうとする二機だったが、そこへ急降下したガブスレイが襲いかかった。

 

『もらったよ……!』

 

 既に小破していたゲルググ・キャノンは、ガブスレイが地面に着地と同時に抜き放ったビームサーベルに溶断される。続けてジム・ライフルの銃口がガルスJのコクピットに押し当てられ、そのままゼロ距離で弾丸が叩き込まれた。

 胴体が泣き別れになったゲルググ・キャノンは、そのまま爆散して大破。ガルスJもコクピット内のパイロットがミンチになったのか、モノアイの光が失われて動かなくなる。

 

『──敵機撃破、残りの敵は?』

 

『あとは……むっ⁉︎』

 

 敵MSを撃破し、弾切れになったガトリングガンを放棄するハワードのマラサイ。その隙を狙われたのか、黒煙に紛れて放たれた弾丸が数発被弾する。

 幸い肩部のシールドで致命傷は避けられたが、レイフのマラサイは右腕のマニュピレータを破損してしまう。そこへ追撃するように、黒煙の向こうから一機のMSが現れる。

 

『こいつっ……!』

 

『ハワードっ!』

 

 突撃してきたのは、赤熱化したヒートソードと三連装ガトリング砲を携えるグフ・カスタムだった。装甲のいたる所に傷や歪みを拵えた歴戦の機体だ。

 シュウカはグフ・カスタムとハワードのマラサイの間に割って入り、振り下ろされたヒートソードをビームサーベルで受け止める。それを援護するようにハワードのマラサイも、頭部バルカンを連射する。

 しかし、傷だらけのグフ・カスタムは、巧みにシールドと周囲の遮蔽物で攻撃を回避していく。かなりの手練れ、それを悟ったシュウカは手持ちのジム・ライフルをハワードに手渡し、ビームサーベルを構え直す。

 

『こいつ、かなりデキるよ。ハワードは援護を、僕がやる』

 

『……分かった、無茶はするな』

 

 片手でジム・ライフルを構え、距離を取るハワードのマラサイ。それを見た傷だらけのグフ・カスタムは、三連装ガトリング砲を投棄。腰部にマウントしていたヒートホークを手に取り、刃を赤熱化させる。

 

『格闘戦で一気にケリをつける気か……上等!』

 

 シュウカは両肩部の速射砲で牽制するが、グフ・カスタムはそれをシールドで防ぎながら距離を詰め、二つの赤い刃を振るった。

 

『くっ……こうも密着されていては、誤射の危険性が……』

 

『間違えて僕の背中を撃たないでくれよ!』

 

 ハワードが援護射撃できないよう、シュウカのガブスレイと至近距離の格闘戦を繰り広げるグフ・カスタム。鬼気迫るその猛攻に、シュウカも固唾を呑む。

 そのまま何度もぶつかり合うビームサーベルとヒートソードが激しい閃光を散らし、やがてラジオから流れる曲と共にボルテージが最高潮へ達する。

 

『ははっ、凄いなアンタ! こんな機体で、よくここまで……!』

 

 シュウカのガブスレイが放ったビームサーベルの一閃が、グフ・カスタムのヒートソードを握るマニピュレータを溶断する。

 しかし、グフ・カスタムにとってそのダメージはそれは織り込み済みだったのか。すかさず腕部に仕込まれていたワイヤー、ヒートロッドの鉤爪を射出して反撃する。

 

『やるな……! でもね、勝負を決めるのは経験でも技量でも、機体の性能でもない……より濃い殺意をぶつけた方が勝つんだよっ!』

 

 鉤爪がガブスレイの右肩に食い込み、ワイヤーを伝って電流が流されるが、それより早くシュウカはガブスレイをMA形態に変形。脚部クローアームを展開しながらグフ・カスタムへと突撃した。

 そして、ヒートロッドの電流で制御系がダウンながらも、クローアームでグフ・カスタムの両腕を拘束し、安定しないスラスターを目一杯に噴射する。

 

『シュウカ! くそっ、あのバカ……!』

 

 くんずほぐれづな状態で、地面を抉るように蛇行してすっ飛んでいくガブスレイとグフ・カスタム。その先にガウ空母の残骸がある事に気付いたハワードは、舌打ちしながら全速力で後を追う。

 

『残骸にぶつかるぞ、回避しろっ!』

 

『……脚部強制パージ!』

 

 ガブスレイがクローアームを切り離すと同時に、後ろから追いついたハワードのマラサイが、ビームサーベルでヒートロッドを切断する。

 ヒートロッドの電流攻撃から解放されるや否や、シュウカはガブスレイをMS形態へと移行。目の前まで迫っていたガウ空母の残骸を横へ回避した。

 しかし、クローアームに拘束されていたグフ・カスタムに回避などできるはずもなく、そのままの勢いでガウ空母の残骸に激突。崩落する鉄塊に押しつぶされてしまうのだった。

 

『ふー、何とかなった……』

 

 砂塗れになりながら軟着陸したガブスレイ、そのコクピットの中でシュウカは、額の汗を拭って一息つく。同じくハワードも、自滅しかねないシュウカの突貫に肝を冷やしていた。

 

『いつも言ってるだろう、その向こう見ずな戦い方はやめろ……援護する方の身にもなれ』

 

『いつも助かってるよ、次もよろしく。それで、あのグフはもう動いてない?』

 

『核融合炉は停止している、もう立ち上がっては来ないだろう……向こうもカタがついたようだな』

 

 レイフたちの方を見れば、そこにはコクピットに大穴を開けたザクⅡと、ほぼバラバラに大破したドワッジが転がっていた。

 損害はハワードのマラサイがマニュピレータを破損させた程度で、パトロール隊の生き残りであるネモとジムⅡも健在。EGFとしてはまずまずの戦果だった。

 

「全敵MSの沈黙を確認、周辺に熱源反応もない。これで打ち止めみたいだな」

 

「みんなよくやったわ、お疲れ様。さて……パトロール隊の指揮官、さっきの話は忘れてないでしょうね?」

 

『約束は守ると言った。よくやった……このロクデナシどもが』

 

「だとさ。さあお前ら、貰えるものを貰って帰るぞ!」

 

 機体を回収するために降下してくる輸送機。レイフたちは回収地点に向かいつつ、使えそうな武器は回収していく。

 しかし、ハワードは仕方なさそうにため息をついて、制御系がダウンして動けないままのシュウカのガブスレイを引きずるのだった。

 

『相変わらずだな、お前。あのグフのヒートサーベルでコクピットを焼かれててもおかしくなかったろ?』

 

『まあね。でもその時は僕が死ぬだけだし、大した問題じゃあないさ』

 

 ジムⅡの180mmキャノンの長い砲身を折り畳みながらガブスレイの搬送を手伝うカイト。その声色にはハワードと同じく呆れが含まれていた。

 

『やれやれ、久々に美味い飯でも食いてぇな』

 

『ところで、ハワード。賭けはどうなった? 君は幾つ撃墜したかね?』

 

『うーむ、それはだな……撃墜補佐なら自慢できるんだが』

 

 着陸し、コンテナを開いて待機している輸送機の元へ向かうシュウカたち。そんな彼らの足取りは、苛烈な戦闘の後とは思えないほどに軽い。そもそも、戦場に魅入られた彼らが怖気付くなどありえないのだが。

 現にシュウカは、今もなおコクピットの中で余韻に浸っている。ノイズ混じりのラジオに耳を傾けながら、一人頰を緩めているのだった。

 

『名残惜しいですが、お別れの時間がやって来ました。グローバル・コーテックス放送局は、いつでもリスナーの皆さんに素敵な楽曲をお届けいたします……それでは、またお会いましょう! Have a nice day‼︎』

 

 

 ──

 

 

「データ取得完了……どうです、感想は?」

 

 配線やパイプが剥き出しになった薄暗い部屋で、煌々と点滅するディスプレイ。その前で、独り機器を弄る男がいた。

 何やら誰かと通信で会話しているようだが、相手の声は聞こえず男の声だけが暗い部屋の中に響いていた。

 

「ええ、今はまだ……ですが、可能性のあるものは全て消去します。それが、我々の計画ですから」

 

『──、────』

 

「勿論です。近いうちに、ビスト財団が袖付きと接触するでしょう。つまり……『箱』の封印が解かれる、ということ。連邦も黙ってはいないでしょうね」

 

『──、──」

 

「既に企業連も動き出している……評決の日は近い、計画も大詰めですね……はい、分かっていますよ。では、また連絡します」

 

 通信が終わったのか、部屋にしばしの静寂が訪れる。それを打ち破るように男が手元の機器を操作すると、ディスプレイにとある画像が映し出される。

 それは、一本角を携えた白亜の巨人。純白のユニコーンを思わせる姿を持つMSだった。

 

「人だけが持つ神、内なる可能性の獣……ふっ、神様は間違えてる」

 

 そう言って男は踵を返すと、薄暗い部屋から姿を消す。それでもディスプレイの明かりは消えず、人知れず別の画像を映し出した。

 画面に映ったのは、何かのリストのようなもの、様々な人物の情報がプロファイルされていた。そして、その殆どはMSのパイロットだった。

 連邦軍やジオン軍で名を馳せたエース・パイロットたちを中心に、今なお現役で戦い続けているパイロットのみを選別しているようだ。

 しかし、何を目的として作成されたものかも分からない謎のリストだが、その末尾にある名前だけは他とは違った。

 まるで作成者が悪意を持って塗りつぶしたかのように、詳細欄は真っ黒になっている。唯一判別できるのはその名前だけ。そして、その名前は──『バナージ・リンクス』と記されていた。

 




ビームライフルとレーザーライフルの違いがよくわからない
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