UC:0096 The Verdict Day 作:刀の切れ味
ティターンズが開発した可変型モビルスーツ『ガブスレイ』の試験機の一つ。EGFの隊員であるシュウカ・リベルーテが搭乗する。
全身の装甲や武装が一新されており、大気圏内でも運用できるように調整されている。追加バイザーや大型スラスターが取り付けられていることから、ジム系列に近いフォルムへと変化している。
TR計画においてギャプラン TR-5[フライルー]と並行して開発された試作機だが、失敗作として解体処分されていた。
「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布。隔壁閉鎖、遅いぞ!」
「……! 敵艦より砲撃、来ます!」
暗い宇宙に瞬く淡紅の光。膨大な熱量を伴い一閃したそれは、小さなデブリを焼き尽くしながらブリッジのすぐ横を通り抜けていく。
長距離からビーム砲による砲撃に晒されるのは、偽装貨物船『ガランシェール』。ノーマルスーツを着込みながら指揮席についたガランシェールのキャプテン、スベロア・ジンネマンはクルーに現在の状況を問う。
「敵は?」
「連邦軍のクラップ級巡洋艦が二隻。恐らく、こちらを追ってきたロンド・ベルの部隊かと」
「高速接近する熱源体を確認! 先行する三機と後続に四機、計七機!」
「偶然の出会いじゃない、ってわけだ……マリーダを出せ、先行する三機を迎撃させろ」
ジンネマンの指示を受けて、MSの出撃態勢を整えるガランシェール。そして、ブリッジのモニターにはジンネマンに名を呼ばれた女性のパイロットが映し出される。
「あと十分で暗礁宙域だ、ガランシェールの足なら逃げ切れる。片付けて帰ってこい」
『……後ろの四機は?』
「そっちは
『了解、マスター』
「……マスターはよせ」
自分をマスターと呼んだ女性パイロットに、ジンネマンは小さくため息をついて肩をすくめる。
そして、出撃準備を終えたガランシェールの後部ハッチが開くと、そこから特徴的なフォルムをした大型のMSが姿を表す。
ジオン系統のMSの特徴であるモノアイ、花弁の如く開く四基のフレキシブル・バインダー、『袖付き』に所属する事を示すエングレービング。『NZ-666 クシャトリヤ』、それがこのMSの名だった。
『マリーダ・クルス、クシャトリヤ、出る!』
四基のバインダーからスラスターの青白い焔を尾引かせながら、ガランシェールから飛び立つクシャトリヤ。
それをブリッジから見送るジンネマンは、一瞬だけ憂慮の表情を見せた。しかし、すぐに気を取り直すと、またクルーに指示を出し始める。
「キャプテン……連中は本当に信用できるので?」
「さあな。だが……連邦軍と正面切って戦争しようという奴らだ。ただの虚仮威しということもないだろう」
ネオ・ジオン残党組織である『袖付き』、その実働部隊であるガランシェール隊。部隊の指揮を務めるジンネマンは、今回の任務に同行している『バーテックス』について黙考する。
しかし、兵士というものは上官の命令に従うもの。ガランシェール隊に任務を与えた袖付きの首魁、フル・フロンタルの判断を信じるしかない。
ただジンネマンも、全てを鵜呑みにはしていない。彼らがこちらに銃口を向けないとは限らないのだから。
「バーテックスの動きにも注意しろ。何かあれば、マリーダをすぐに撤退させる」
「了解!」
ディスプレイに映るのは、周囲に探知された熱源体を示すアイコン。追撃してきたロンドベルのMS部隊、それに迎撃にあたるマリーダのクシャトリヤ……そして、また別の方向から飛来するアイコンもあった。
(……さて、じっくりとお手並み拝見したいところだが、奴らは謎が多すぎる。果たして、彼らと手を組んだことが吉と出るか凶とでるか……)
ジンネマンは得体の知れない連中の手も借りねばならない自分たちの困窮具合に苦笑しながら、モニターからマリーダの駆るクシャトリヤの戦闘を見守る。そしてその画面の向こうでは、鮮やかな爆発が閃くのだった。
──
戦いの中で生き残るパイロットと、あえなく散っていくパイロット。その両者を分けるのは運。生き残った奴が臆病だったわけではないし、死んだ奴が勇敢だったわけでもない。
はるか先で爆散する一機のMS、それに次いで無線から聞こえてくる友軍機が撃破されたという通信。コクピットでそれを聞いていたクライゼン少尉は、呆然とかつての上官から投げかけられた言葉を思い出していた。
『シエラ3、大破! くそっ、袖付きの四枚羽だ!』
『動きを止めるな、狙い撃ちされるぞ!』
「──っ!」
咄嗟にフットペダルを踏み込み、クライゼン少尉は自身の乗機である『RGM-89D ジェガンD型』を一気に加速させる。
すると、先までいた位置に青白い閃光が走る。すぐ真横を通り過ぎた高出力の熱線に、クライゼン少尉は戦慄して表情を歪めた。
『データ照合無し……一体何なんだ、あのMSは……』
『詳細不明のMSが二機、こちらに攻撃してきます! 副隊長、指示を!』
ガランシェールを追跡してきた二隻のクラップ級巡洋艦、キャロットとテネンバウムは、連邦軍直属の遊撃艦隊『ロンド・ベル』の艦だ。クライゼン少尉らは、そこに所属するMS部隊だった。
ネオ・ジオン残党である袖付きを追跡していた彼らは、暗礁宙域手前でようやくガランシェールを交戦距離にまで追いついた。ガランシェールが高性能のワンオフ機を運用していることは既知だったため、クライゼン少尉ら七機のジェガンで編成したMS小隊で攻撃を仕掛けた。
だが、彼らを待ち受けていたのは──
「おいおい、冗談キツイぜ……!」
視界の端に映る噴射炎の軌跡。サブカメラでそれを拡大すると、初めて目にするMSの姿が映し出される。
背には二基の大型ブースター、ジェガンのビームライフルとは比べ物にならない高出力のビームバズーカ、兵器然とした角ばったフォルムと赤く光るカメラアイを持つ謎のMS。一目見ただけでアナハイムやジオニック系統とはまるで異なることが分かる。
『くっ……四枚羽は先行した隊長たちに任せる。俺たちはあの二機を抑えるぞ! ブースター付きはアンノウン1、もう一機はアンノウン2と呼称する。油断はするな、確実に撃破しろ!』
「……了解!」
副隊長の駆る機体は、指揮官用にカスタマイズされたスターク・ジェガン。その肩部に増設されたミサイルポッドを連射し、アンノウン1を牽制する。しかし、敵はアンノウン1だけではなくもう一機いる。
アンノウン1と並行するように飛行する、流線型の紅い装甲で全身を固めたアンノウン2だ。鈍く輝くラインアイでクライゼン少尉を見据えるアンノウン2は、その手に持つビームマシンガンを連射してくる。
(こいつらにはエングレービングが無い、袖付きのMSじゃあないのか……!)
シールドでビームマシンガンを防ぎながら、ネオ・ジオン残党のものとは思えない敵MSに疑問を抱くクライゼン少尉。しかし、そんなことに意識を割く余裕はすぐになくなり、敵の攻撃は更に激しさを増す。
『くっ、速い……!』
『シエラ5、上だ!』
アンノウン2がマシンガンで弾幕を張っている内に、大きく旋回して回り込むアンノウン1。その手に持つビームバズーカが構えられる。
(避けっ──ちぃっ、間に合わない!)
クライゼン少尉は咄嗟の判断で、アンノウン1に狙われていた味方のジェガン、シエラ5を後ろから蹴り飛ばす。
その甲斐あって放たれた青白いビームはコクピットへの直撃を免れたが、代わりにシエラ5の片足を貫き破壊した。
「弄びやがって……始末が悪いんだよっ!」
クライゼン少尉は頭部バルカンとシールドに内蔵されたミサイルランチャーを乱射し、敵を突き放す。
その間に片足を破損したシエラ5は何とか体勢を立て直そうともがいていた──が、あらぬ方向から飛来した無数のビームがコクピットを穿ち、シエラ5は轟音を立てて爆発した。
「なっ……! どうなってんだおい⁉︎」
『サイコミュ兵器だ! 四枚羽がこちらに……いや、違う!』
コンソールに示される無数のデブリ反応、いや、デブリに誤認されるほど小さな何か。センサの精度を上げれば、それはデブリではなく小さな熱源体として検知される。そしてもう一つ、遠方からこちらに接近してくる新たなMSの反応も捉えていた。
アンノウン2と同じ流線型の重厚な装甲、マニュピレータに携える大口径のバズーカとシールド。そして、背部ユニットから射出されるのは、無数のサイコミュ兵器。四枚羽と同じく、エースパイロット専用の高性能なワンオフ機であることが見てとれる。
そしてカメラが捉えた肩部の装甲には、型番と思しき文字が刻まれている。『AC-05N
「新手、しかもあれは……!」
『オールレンジ攻撃、来るぞ!』
一般にファンネルと呼ばれるサイコミュ兵器は、パイロットの感応波によって制御される攻撃端末だ。小型故にビームの威力は低いが、その脅威はあらゆる方向からのオールレンジ攻撃にある。
装甲材が発達した今でも、サイコミュ兵器は一般兵器を遥かに凌駕する攻撃性能を有している。連邦軍では対オールレンジ攻撃戦術の構築が進められているものの……
『だ、ダメだ……! 回避しきれなっ──』
手足、頭部、バックパック、そしてトドメにコクピットを。なす術なく全身をビームで撃ち抜かれたジェガンが、また一機撃墜される。
そして、次の標的と言わんばかりに迫りくる十字型のファンネルに対応すべく、クライゼン少尉は即座にOSの自動回避システムをオミット、マニュアルでの操作に切り替える。
(かわしきれるか……⁉︎いや、かわせないと落とされる!)
機体の周囲に位置取り、ビーム砲の照準を合わせるファンネル。クライゼン少尉は全身のスラスターを駆使し、ギリギリでコクピットと頭部カメラへの被弾は避けるが、シールドでもカバーしきれなかった脚部を撃ち抜かれてしまう。
「──っ!」
一気に機体のバランスが崩れ、体が千切れそうになるほどのGがクライゼン少尉を襲う。コンソールに備えられていたエアバッグが起動するも、内臓が捩れる感覚が和らぐことはない。
口内に迫り上がってきた胃液を吐き出しながらも、なんとか操縦桿からは手を離さないクライゼン少尉。その闘志を挫くように、セレナの放ったバズーカがクライゼン少尉のジェガンの左腕をシールドごと吹き飛ばした。
「くっ、そ、があぁぁっ‼︎」
ファンネルに頭部を撃ち抜かれがらも、クライゼン少尉は最後の抵抗とセレナへビームライフルを放つ。
しかし、放たれたビームはセレナの左腕に備え付けられていたシールド、それに内蔵されていたIフィールドによって軽々と防がれてしまった。
(あぁ……あんまりじゃねぇかよ……!)
爆発の余波でコンソールが吹き飛び、金属の破片がクライゼン少尉の脇腹を裂く。メインカメラを失ったせいで、全天モニターも殆どその機能を失いつつあった。
僅かに画像を映し出すサブカメラには、アンノウン1とアンノウン2によって撃墜された副隊長のスターク・ジェガンが爆散する様が映し出されていた。
そして今、クライゼン少尉の目の前にいるセレナが、トドメを刺すべくファンネルのビーム砲の照準をコクピットへと定めていた。
「ゲホッ……死に腐れ、クソ野郎っ……‼︎」
相手が何なのか、それすらも分からず死ぬことに激しい怒りを覚えるクライゼン少尉だったが、もはや抗う力は残されていなかった。憎々しげに血反吐と共に悪態を吐きだす。彼にできることは、もはやそれしかなかったのだ。
そして、そんな彼の悪態も一蹴するように、無慈悲に放たれるビーム砲。クライゼン少尉の視界は一瞬にして真っ白になり、意識は光の中に飲み込まれていった。
※武装の名称を修正しました