UC:0096 The Verdict Day   作:刀の切れ味

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前書きはァ!こう使うっ!


EP.05 Mr.Adam

(ちっ……ただでさえこんな辺鄙な基地で不遇だっていうのに、何故こんな目に合わねばならんのだ……!)

 

 ギラギラと太陽が照りつくタクマラカン砂漠にある連邦軍の小基地。そこの小さなオフィスで、一人の男が苛立たしくデスクに書類を叩きつけ、舌打ちをしていた。

 頭に包帯を巻き、疲れによるせいか実年齢よりも老けて見えるその男、ヴァッフハント中尉はこう見えて年季の入ったMSのパイロットである。現在はこの小基地のMS部隊の隊長であり、先日の任務では散々な目にあっていた。

 何とか生還した彼だったが、今はある補給物資受け渡しの為の書類を書かされていた。

 

「中尉殿、押印はまだか」

 

「……これから押すところなのが見えんのか?」

 

「はっはっ! 急かしてやるなよマギー、中尉殿は大変お忙しい方なのさ」

 

「嫌味か貴様……!」

 

 デスクの前に立つのは、実に特徴的な二人だった。一人は長い青髪を後ろで束ねた小柄な女性……だが、その左の袖は空っぽだった。つまり、彼女は隻腕なのだ。彼女の名前はマグノリア・カーチス中尉、例の部隊、EGFの指揮官だ。隊員からマギーの愛称で呼ばれている。

 そして、その横で快活に笑う恰幅のいい男は、ファットマンの愛称で呼ばれるエド・ワイズ大尉だ。なお、マギーより階級が上なのに彼女が指揮官を務めているのには、色々と諸事情があったりする。

 

「これが受領確認書だ。さっさと受け取れ」

 

「……確認した。補給が完了次第、我々は次の任務地へ出発する」

 

「次はもう少し割りのいい仕事を頼むぞ、中尉!」

 

「……き、機会が有ればその時は是非に……」

 

 冷淡な態度で受領確認書を受け取って背を向けるマギーと、ヴァッフハント中尉の肩をバシバシと叩ファットマン。青筋を立てながら敬語で対応するヴァッフハントを見て、ファットマンは笑いを堪えるので必死だった。

 しかし、ようやく二人が部屋を出て行ったことで、ヴァッフハント中尉は大きくため息をついて椅子に座る。

 

「くそっ、好き放題言ってくれる……!」

 

 EGFは冷遇されていても、元は地球圏防衛を任されたエリート部隊。今もバックに何が付いているか分からない不気味さがある。故に、ヴァッフハント中尉もあまり強くは言い返せない。

 それが余計に腹立たしく感じさせるのだが、ヴァッフハント中尉はそれ以前にこんな辺境基地での勤務に飽き飽きとしていた。

 かつては首都ダカールの警備部隊の一員として、出世コースを順調に歩んでいた。しかし、新たに就任した部隊の隊長によって左遷されてからは、この灼熱の砂漠を眺める毎日を送っている。

 

(俺はネオ・ジオン抗争の時にも活躍したエースパイロットだったんだぞ……だというのに、こんなところで干からびていくなど……)

 

 ヴァッフハント中尉が窓の外に視線をやれば、EGFの古い輸送機と、そこに積み込まれるMSが見える。

 その近くでは、指揮官のマギーと黒髪の青年が話しているのが見えた。いや、少年と表現すべきかもしれない。まだ幼さを残すその少年は、自身の愛機である黒いガブスレイを眺めていた。

 

「あの少年がパイロットなのか? 随分と若いな……」

 

 自分もあと数年若ければ、そう思わずにはいられない。ヴァッフハント中尉は背もたれに身を預けながら、静かに目を閉じる。明日はまた、退屈な一日がやってくると信じて……

 

 

 ──

 

 

 爆発、聴き慣れた火薬が爆ぜる音。微睡んでいたヴァッフハント中尉は、すぐ近くで鳴り響いた爆音と、遅れて鳴り響くサイレンに目を覚ます。

 慌ただしく立ち上がって窓の外を見れば、既に太陽は沈みかけの夕方。しかし、空が赤いのは夕焼けのせいだけではない、基地のあちこちで立ち上る炎のせいだ。

 

「な、なんだ‼︎いったい何が……!」

 

 直感的に敵襲であると感じ取ったヴァッフハント中尉は、兵舎から飛び出て格納庫へと向かう。その途中で、頭上を何かが駆け抜ける。漆黒、吸い込まれるような黒を纏った巨人が、空気を裂く鋭い音を響かせながら飛翔していった。

 

「今のはっ──うおっ⁉︎」

 

 すぐ先の燃料タンクが爆発したのか、凄まじい爆風が吹き荒れる。ヴァッフハント中尉はなんとか格納庫へとたどり着くと、自身の乗機であるネモに駆け寄る。

 

「おい、コイツはすぐに出られるか!」

 

「は、はいっ、出られますが……外はいったいどうなってるんですか⁉︎」

 

「知らん! 今それを確かめる!」

 

 慌てふためくメカニックをよそに、ヴァッフハント中尉は制服のままネモのコクピットに乗り込む。そして、すぐさまシステムを起動し、ネモの鋼の身体に熱がこもっていく。

 

「他のMSも出せ! これは敵襲だ、すぐに迎撃体勢を整えるんだ……ええい、早くゲートを開けろっ!」

 

 コンテナに収められていたビームライフルとシールドを取り、半開していたゲートをこじ開けて外へ出るヴァッフハント中尉のネモ。

 しかし、次の瞬間。格納庫の天井が爆ぜ、上から押し潰されるように格納庫が倒壊した。その爆風で前のめりに転倒し、ヴァッフハント中尉はコクピットへ直に伝わる衝撃に呻く。

 

「くそ、くそっ……! 一体が何が起きてるというのだ……⁉︎」

 

 すぐに機体を起こし、センサで周囲を探知するヴァッフハント中尉。他の格納庫も幾つか破壊されていたが、先に出撃した味方機が既に応戦しているようだった。

 ヴァッフハント中尉がその応戦する味方機、ブルパップ・マシンガンを連射するジムⅡに駆け寄ると、接触回線で問いかける。

 

「私だ! これはどういう状況だ?」

 

『中尉殿⁉︎よかった、ご無事だったのですね!』

 

『無駄口を叩くな、さっさと報告しろ!』

 

『はいっ……こ、これは敵襲です! 敵は詳細不明のMS、ただそれ一機のみです……!』

 

「一機のみ、だと? さっきの黒いやつか⁉︎」

 

『そうです、アイツがこの基地を──右方向! 敵、来ます!』

 

 高速で接近する熱源を探知したシステムがアラートを響かせ、ヴァッフハント中尉は咄嗟に右側へシールドを構え、ビームライフルの銃口を向ける。

 すると照準の先には、先ほど見たあの黒いヤツがいた。夜闇のような漆黒と先鋭的なフォルム、紅く光る独特な複眼、MSと形容するにはあまりにも異質だった。

 

「撃て、撃ち落とせぇっ!」

 

 ヴァッフハント中尉のネモとジムⅡが、飛来してくる黒いMSへ向けて弾幕をはる。しかし、その黒いMSは圧倒的な加速による立体機動で、悠々と回避してしまう。

 

(ば、馬鹿な……⁉︎大気圏内であのような機動、パイロットが耐えきれるはずがない!)

 

 瞬時に頭上を取った黒いMSが、両手に持つ二丁のライフルを構える。片方は高精度のセミオートライフル、もう片方は大型の銃剣(バヨネット)が取り付けられたアサルトライフルだ。

 そしてそのライフルの威力は通常のそれとは比較にならないほど強力であり、かつ黒いMSは高速で飛び回りながらも正確無比な射撃を繰り出してきた。

 シールドで防ぎ損ねたヴァッフハント中尉のネモは、右足を撃ち抜かれてバランスを崩す。それを味方機のジムⅡが庇うようにシールドを構える。

 

『ひ、ひいっ……⁉︎来るなぁ!』

 

 地響きを立てて地面に着地する黒いMSは、すぐにスラスターから青白い炎を吐き出しながら突進してくる。怪しく光る紅い複眼に見据えられたヴァッフハント中尉たちは、必死にそれを迎撃すべく引き金を引いた。

 すると、ヴァッフハント中尉のネモが放ったビームライフルが一発命中した。そう、確かに命中したのだが──ビームは見えない壁に阻まれたかのように弾かれ、霧散してしまったのだ。

 それどころか、ジムⅡの頭部バルカン砲すらも黒いMSに命中することなく弾かれていく。

 

(Iフィールド⁉︎いや、違う……何だアレは⁉︎)

 

 薄らと見えたのは、黒いMSの周囲を覆う薄緑の防壁。それがビームや弾丸から黒いMSを守っていたのだ。

 しかし、ヴァッフハント中尉がそれに気づいた時には、黒いMSが自分の目の前で銃剣を振り上げる瞬間だった。ヴァッフハント中尉は咄嗟にシールドを黒いMSに向けて投げつけ、視界を奪う。そして、ビームサーベルを抜き放ち、シールドの裏から敵のコクピットを狙って刺突を繰り出した。

 相手が並のMSなら、そのまま胴体を貫いていただろう。だが、その黒いMSは凄まじい速度のクイックターンで旋回して回避すると、その横にいたジムⅡの脇腹からコクピットを銃剣で刺し貫いた。

 

「──っ‼︎」

 

 味方がやられた、それを悟るや否や、ヴァッフハント中尉はビームライフルでジムⅡのバックパックを撃ち抜いた。

 ジムⅡはそのまま爆散し、核爆発ほどではないにしろ周囲を炎で包み込んだ。銃剣を突き刺していた黒いMSも炎に呑み込まれるも、すぐにスラスターを噴射して距離を取ろうとする。

 しかし、それを追うように爆炎の中からヴァッフハント中尉のネモが飛び出してくる。そして、黒いMSが纏う薄緑の防壁を超え、決して逃さないように半壊したマニピュレータで黒いMSの腕を掴んだ。

 

「逃すものかぁっ!」

 

 もう片方の手でビームサーベルを抜き放ち、黒いMSのコクピットへと突き立てる、が──

 

『ふむ、良い動きだ。だが……無謀だったな』

 

「なにっ⁉︎」

 

 接触回線で聞こえてきた男の声、それと同時に機体に走る衝撃。ヴァッフハント中尉が気づいた時には、ネモの右腕の膝から先がすっかりなくなっていた。

 視界の端に映るのは、ビームサーベルを握ったまま宙を舞うネモの右手。そして、黒いMSの左腕の発振器から伸びる薄紫のエネルギーの刃。今の一瞬で黒いMSがネモの右腕を溶断したのだ。

 

「斬られっ──うがっ⁉︎」

 

 コクピットを覆う装甲の上から蹴り飛ばされ、凄まじい衝撃に揺さぶられるヴァッフハント中尉。背中から地面に転倒し、空を見上げる形になるネモのメインカメラには、空高く飛翔する黒いMSの姿が映る。

 

『世界は私たちが変える。全ては人類の黄金時代のために、ここで死んでくれ……!』

 

 基地を見下ろす高さまで飛翔した黒いMSが、背部に折りたたんでいたグレネードキャノンの砲身を展開し、照準を定める。

 大破寸前のネモであのような大口径の火砲など耐えられるはずもない。それでもヴァッフハント中尉は、頭部バルカンを連射して最後まで足掻き続けた。

 

「貴様はっ……! 貴様は一体なんなのだ‼︎ジオンの怨念か、ティターンズの残党か⁉︎何故、こんな……今さら私に戦場で死ねというのかぁ⁉︎」

 

 ヴァッフハント中尉の雄叫びも虚しく、轟音を響かせて放たれる榴弾。しかし、幸か不幸か、榴弾はヴァッフハント中尉のネモには命中しなかった。

 悪あがきで繰り出した頭部バルカンの弾幕、その一発が榴弾に掠めたのか。榴弾はヴァッフハント中尉のすぐ眼前で爆ぜ、辺りを爆炎で包み込む。

 ミシミシと装甲が歪み潰れ、コクピット内のコンソールが砕けてガラス片が飛び散る。ヴァッフハント中尉は身体中が引き裂かれるような苦痛に断末魔の悲鳴をあげながら、暗闇に意識を呑み込まれていくのだった。

 

 

 ──

 

 

「……うっ、ぐ……」

 

 全身に感じる痛みと、瞼の上から感じる日の光の眩しさ。混濁した意識の中で、ヴァッフハント中尉はまだ自分が生きていることに困惑していた。

 重たい瞼を開けてみれば、まず目に入ったのは自分の腹に突き刺さる鉄片。爆発の余波で吹き飛んだコンソールの破片だろうか。

 そして次に目にしたのは──開かれたコクピットから自分を覗き込む、ガスマスクをした男だった。

 

「ほう、息があるのか。NEXTと交戦したというのに運がいいな。いや、寧ろ運が悪いのか……おい! 誰か手を貸してくれ、生存者だ!」

 

 ガスマスクの男は、防護服で包んだ手を振って誰かを呼ぶ。連邦軍の救助隊なのかと問いたいが、ヴァッフハント中尉には口を開く気力すら残されていない。

 

「どうしたんです? 周辺環境の汚染具合なら調査しましたよ。全て既定値以下、プライマルアーマーによる飛散のみで、ジェネレーターからの流出はほぼゼロと見て良さそうです」

 

「そんなことは聞いておらん。生存者がいたのだ、搬送するぞ」

 

「生存者? うわ、本当だ……でもノーマルスーツも着てないですよ、確実に汚染されてますよね?」

 

 別のガスマスクをした男がコクピットを覗き込むと、傷だらけで横たわるヴァッフハント中尉を見て気の毒そうな声を出す。

 

「確かNo.1の報告によれば近接戦闘に持ち込まれたんでしたっけ。じゃあ、プライマルアーマーには間違いなく干渉してるし、生身で粒子を浴びたようなもんですよ」

 

「……まあ、助からんだろうな。だが脳みそくらいは役に立つだろう」

 

「あぁ、次の被験体ってわけですね」

 

 一体何を言っている、お前たちは何者だ──というセリフすらも出てこないヴァッフハント中尉は、ただぼんやりと自分に手を伸ばすガスマスクの男を眺めていた。

 そして、再び意識を失う最後の瞬間、ヴァッフハント中尉は不思議なものを見た。怪しく発光しながら、目の前を漂うごく小さな粒子。それは薄緑の尾を引きながら、コクピットの中に消えていくのだった。

 




なぁにが後書きよぉっ!
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