UC:0096 The Verdict Day   作:刀の切れ味

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なお、見切り発車は変わらない模様


EP.06 Acheron

 旧サイド5宙域に浮かぶ巨大な工業コロニー『インダストリアル7』。その付近で、星の瞬きよりも一層鮮やかな閃光が瞬く。

 それを遠くから監視しているのは、連邦軍のクラップ級巡洋艦に酷似する大型艦。独立戦術部隊『アライアンス』の旗艦、レビヤタン級だ。

 クラップ級をベースにした改修艦であり、試験的に建造された三隻がアライアンスに配備されていた。

 

「第3ベイ付近で爆発を確認。ロンド・ベルと袖付きのMSが交戦を開始したようです」

 

「ふむ、やはりこうなるか…… 周辺を徹底的に調べ上げろ! デブリ一つ見逃すな!」

 

 レビヤタン一番艦のブリッジから、遥か遠くで起る爆発を睨みつけながら指示を飛ばすのは、アライアンスの指揮官であるエヴァンジェ大佐だ。

 既にロンド・ベル、エコーズ、アライアンス三隊による『ラプラスの箱』奪取作戦は開始していた。当初の作戦では戦闘は起こさず隠密にことを進める手筈だったが、そう簡単に事は進まなかったようである。

 しかし、エヴァンジェにとってこうなる事は、初めから織り込み済みだった。

 

「第6ベイ付近に微弱な熱源反応を探知、小型艦のようですが……」

 

「隊長、どういたしますか。ロンド・ベルへの援護も必要かと」

 

 エヴァンジェの副官であるトロット・S・スパー大尉が指示を求める。本来ならばアライアンスもロンド・ベルの援護に向かうべきなのだろうが、エヴァンジェの下した指示は違った。

 

「第6ベイにMS部隊を送れ、二番艦にも出撃させろ。奴らは恐らく、そこにいる」

 

「よろしくのですか?」

 

「我々にとってラプラスの箱は二の次、最優先すべきは──企業連の殲滅だ。それを忘れるな」

 

「はっ! ……総員、戦闘配置! MS部隊は順次出撃せよ!」

 

 艦内にアラートが鳴り響き、レビヤタンの外装に取り付けられていた主砲が展開されていく。そして、エヴァンジェの乗艦する一番艦、それにに随伴していたレビヤタン二番艦のカタパルトデッキが展開される。

 隔壁が解放され、出撃準備を終えていたMSの姿が露わになる。グレーブルーを基調とした塗装と、アライアンス所属を表すエンブレムが施された『RGM-89D ジェガンD型』、そのバイザーに青白い光が灯る。

 

『ディルガン3、行くぜ! どんな敵だろうがマッハで蜂の巣にしてやんよ』

 

『ディルガン4、出るぜ。し、慎重に行こうぜ、慎重にな……』

 

『こ、この機体で負けるはずがないんだ……ディルガン5、い、行くぞっ!』

 

『ふっ、新人どもに負けるわけにはいかんな。ディルガン2、出る!』

 

 通信から聞こえてくる、パイロットたちのある意味緊張感のかけらもない会話。彼らの駆るジェガンがカタパルトから飛び立つのを尻目に、エヴァンジェは眉間を抑えてため息をつく。

 

「トロット、あの補充パイロットたちは使えるのか?」

 

「はっ、全員腕は確かでありますが、まだ調整中とのことですので……」

 

「……まあいい、私もMSで出撃する。それと……オブライエン大尉を出撃態勢で待機させておけ。例の四枚羽がロンド・ベルの手に負えなければ、こちらに牙を剥いてくる可能性もある。その時は、彼に働いてもらう」

 

「オブライエン大尉を……NEXTを出撃させるのですか? 彼も調整段階であり、過度な実戦はまだ早計と判断されているはずですが」

 

「ふん……実戦データが取れれば、あのマッドサイエンティストどもも満足だろう。後は任せたぞ、トロット」

 

 エヴァンジェは指揮をトロットに任せて、格納庫へと向かう。彼はアライアンスの指揮官ではあるものの、その本質はパイロットだ。ブリッジからよりも、前線で指揮する方が性に合っていた。

 そして何より、企業連が相手となれば──自身が追い続けている()()()を始末する機会がやってくるかもしれない。そんな暗い闘志を滾らせながら、エヴァンジェは自身の愛機の元へ向かうのだった。

 

 

 ──

 

 

 袖付きとロンド・ベルの交戦箇所から、幾分か離れたインダストリアル7の第6ベイ。その付近に漂うデブリ群に紛れて、単眼のカメラアイを鈍く輝かせながら戦闘の様子を眺めるMSたちがいた。

 一機は企業連が開発したMS『AC-03SL クレスト強襲型』だ。背部の大型ブースター、戦艦すら撃ち落とす主兵装のビームバズーカ、両肩に搭載されたジャミング装置──その装備から見て取れるように、ステルスと高機動を活かした一撃離脱をコンセプトとした機体だ。

 そしてもう一機は、先のロンド・ベルのMS部隊とも交戦していた流線型の重厚な装甲を持つMS、『AC-05N セレナ』だ。

 

『……ねえ、クロエ。今の爆発……袖付きの誰かだよ。ロンド・ベルに見つかったんだ……』

 

 接触回線で語りかけてくるセレナのパイロットの声、それは重厚なMSに似つかわしくない幼い少女の声だった。

 それに対してクレスト強襲型のパイロットは、カメラアイで爆発の起きた方向を観察しながら静かに応える。その声は無感情で抑揚がなく──しかし、静かな意志を感じさせる不思議な声色だった。

 

『そうか……だが、あまり気にするな。俺たちの仕事は、ここで連邦軍のMS部隊を迎え撃ち、足止めすること。それだけを考えろ……いいな、エネ?』

 

『……うん、分かった』

 

『それと、もしサイコミュ兵器を使ってる時に少しでも不調を感じたら……話は後にしよう、早速お出ましのようだ』

 

 セレナのパイロット、エネは遥か先から迫り来る複数の高熱原体にカメラを合わせ、コンソールへ個別に拡大表示させる。

 映し出されたのは、ジェガンが5機、スタークジェガンが1機、リゼルが3機、計9機で編成されたMS部隊だ。

 

『敵機を確認……あの三機のリゼル、他とは違う気配がする。通常の機体データとは一致しない点も多いし、パイロットに合わせて調整された専用のカスタム機みたい……かなり手強そうだよ』

 

『こちらも出し惜しみはしていられないか。ダミーデブリを解除して、UNACを前に出させろ』

 

『了解……UNAC、メインシステムを戦闘モードに起動。目標、前方敵MS部隊──オペレーションを開始、敵を殲滅せよ』

 

 セレナのコクピット周辺から淡い緑光が揺らめくと、周辺にあったデブリ群の幾つかが風船のように割れて弾ける。すると、そのダミーデブリの中には、カメラアイを赤く光らせるMSがいた。

 

『ターゲット、確認。オペレーションを開始します』

 

 ダミーデブリに隠されていたのは四機のクレスト白兵戦型と、機動力と運動性能を向上させた『AC-03R クレスト軽量型』が三機だ。それらは無機質な声と共にシステムを戦闘モードへと切り替え、オーバードブーストを起動して宙を駆けていく。

 

『……大丈夫か?』

 

『うん。UNACのオペレーションを開始させただけだから、大したことない』

 

『何度も言うが、決して無理はするなよ。何かあればすぐに撤退する。俺は敵を足止めするという任務に加えて、お前を守るって役割もあるんだからな』

 

『分かってる……ありがとう、クロエ』

 

『……俺たちも行くぞ。人形どもだけでどうにかなる程、生温い相手じゃない』

 

 先行する七機の後を追うように、ブースターから蒼炎の尾を引かせながら飛翔するクレスト強襲型とセレナ。二人が向かう先には、既に無数の爆発が閃いていた。

 セレナのコクピットの中で、小さな手に余る操縦桿を握りしめるエネは二度、三度と深呼吸をする。しかし、それでも指先の震えがなくなる事はなかった。

 

 

 ー

 

 

 インダストリアル7の最奥、コロニービルダーの向こう側に隠されたビスト財団の屋敷。そこには今、宇宙世紀という歴史において最も重要と言っても過言ではない人物がいた。

 若干十六歳にして、スペースノイドの象徴。今やテロリストに成り果てたネオジオン残党『袖付き』の旗印。彼女の名はミネバ・ラオ・ザビ。かつてのジオン公国を治めたザビ家の生き残りだった。

 そんな彼女と向き合う初老の男性は、ビスト財団の現当主であるカーディアス・ビスト。二人はテーブルに置かれた紅茶に手をつけることもなく、じっと黙って互いの目を見ていた。

 

「……どうしても、考えを改める気はないのですか?」

 

「貴女のご心配を解ります。袖付きの首魁、フル・フロンタル。シャアの再来と呼ばれる男……彼の噂は、私どもも存じております」

 

「ならば何故……! あの男の手に箱が渡れば、箱が開かれてしまえば……必ずや戦争が起きるでしょう。かつて人類史上最も悲惨な戦争を引き起こした一族の者として、再び惨劇が起こる事だけは阻止したいのです……!」

 

「……我々が引き渡すのは、あくまで『箱の鍵』です。鍵を手にしたからといって、箱が開くとは限らない。然るべき時、然るべき者の手によって箱は開かれる……そういう細工が施してあります」

 

「箱の……鍵?」

 

「私はこの流れの中に賭けたのです。箱の中身がただの呪いとして放たれるのではなく、この世界に住む全ての人々の未来、新たな可能性を生み出す希望となることを」

 

 希望、カーディアスは心の奥底から絞り出すようにその言葉を口にした。それはカーディアス自身も、ラプラスの箱を袖付きに渡す事が正しいとは思っていない証拠でもあった。

 特に、今の袖付きはただのネオ・ジオン残党とは呼べない。新たな協力者である『企業連』の存在があるからだ。

 

「貴女もさぞ反対したでしょうな。あの企業連と手を組むなど……」

 

「当然です。彼らにはスペースノイドのため、などという考えはありません。ただ、ひたすらに戦争を望んでいる。箱の開示はそのきっかけでしかないのです。私はその片棒を担いでまで、箱を求めるつもりはありません」

 

「しかし……いまやネオ・ジオン残党は軍組織とすら看做されず、テロリストと同等の小勢力とされています。故に、力をひた隠しにしてきた企業連ほど、後ろ盾としてふさわしいものはなかった。そうでもしなければならないのが……貴女がたの現状でしょう」

 

 だからといって、と反論しかけたミネバは、その言葉を喉元で呑み込む。世界を支配する連邦政府の力は強大であり、対等の力を持たなければ交渉できる立場にすら立てない。企業連という後ろ盾がなければ、連邦にとって袖付きは象に戦いを挑む矮小な蟻の如き存在なのだ。

 だが、互いに利害があるとしても信用できるかどうかはまた別の話。ミネバにとって企業連は、未だ得体の知れない存在だった。

 

「私は一度、企業連の代表を名乗る男に会いました。彼はレオス・クラインと名乗りましたが……彼と言葉を交わしても、私には企業連の真の意図が読めなかった。彼はまるで操り人形のようで……地球連邦と戦争を起こして、その後はどうするというのか。戦争そのものが目的というでは……」

 

「クライン……ふふっ、その通りです。彼は表向きの顔役に過ぎない」

 

 クライン、その名を聞いて僅かながらに顔を綻ばせたカーディアス。その様子にミネバは怪訝そうに眉をひそめる。

 

「私は……パイロットとして連邦軍に従属していた事があるのです。クラインはその時の知人でして……いえ、余計なことを話しましたな」

 

「彼を知っているのですか」

 

「ええ。もう長く会っていませんが……かつて彼は連邦軍の特殊部隊を指揮する優秀な指揮官であり、誰よりも勇敢で真っ直ぐな信念を持つ男でした。しかし、彼は冷徹な機械のように変えられてしまった」

 

「変えられてしまった、とは……()()がレオス・クラインを変えてしまったのですか?」

 

 カーディアスは過去に思い馳せるように目を閉じてため息をつくと、ミネバの問いに対して静かに頷いて応えた。そしてミネバにとってその応えは、より一層焦燥を煽るものだった。

 

「企業連の上層は、それをこう呼んでいます──『管理者』と。企業連の目的の一つは、その『管理者』を連邦政府に代わる新たな支配者として擁立することなのです」

 

 




GOTYの発表の中にACの新作があった……
やるなフロム!
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