無限転生 ~INFINITI DEAD END~ 作:とんこつラーメン
IS学園屋上。
一人の少女が空を眺めながら静かに何かを口にしていた。
「…………」
少女は何も喋らない。
一人ぼっちなのだから当然かもしれないが、それでも無口過ぎた。
紫の長い髪を後頭部で纏め、極端なまでに肌を覆い隠している改造制服。
両腕は勿論の事、足首付近まで伸びているロングスカートを着用し、その手には真っ黒な手袋が嵌められている。
病的なまでに白い肌が、少女の美しさをより強く強調している。
(………まず)
そんな彼女が口にしているのは、よくテレビコマーシャルなどに出ているゼリー状の栄養補助食品。
その気になれば10秒で食べれる代物を、彼女はチビチビと時間を掛けて食べていた。
少しして面倒くさくなったのか、彼女はゼリーの入っているパッケージを思い切り握り潰し、中身を一気に飲み干した。
その後、足元に置いてあった水筒を手にして蓋を開ける。
水筒の中身はどこにでもある普通の水道水だ。
スカートのポケットからカプセル状の薬が入った小さい袋を取り出し、それを掌に出してからゴクリと一飲み。
そしてから急いで水で流し込んで体の中に浸透させていく。
「ふぅ……」
栄養補給というなの昼食が終了し、少女は右腕で目元を覆い、安全用の柵に背中を預けながら目を閉じる。
太陽が眩しい。同時に、薬を飲んだが故の眠気も発生した。
スマホで時間を確認すると、画面には12:15と表示されている。
教室に戻るまでの時間を考慮しても、30分以上は仮眠ができる計算だ。
念の為に12:50にアラームをセットしてから、少女は体の力を抜いてから本格的に眠る体勢に入る。
かなり疲れていたのか、彼女はあっという間に寝息を立て始めた。
運がいい事に今日は誰も屋上に入ってこなかったので、一切の邪魔が入る事無く気持ちよく仮眠が出来た。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
目が覚めて、私は自分のスマホに目をやると、まだアラームが鳴る前だった。
なんだか少し損をしたような気分になるが、ほんの数分程度ならば誤差だろう。
遅刻をする可能性が軽減されたと思えば問題は無い。
(とっとと行きますか……)
早く起きたからと言って、ここでのんびりとしていたら結局は遅刻をしてしまう。
やるならば迅速実行。これが一番だ。
「う……」
フェンスに手を掛けながら立ち上がると、急に眩暈が襲い掛かる。
普通ならば立ち眩みとか思うのかもしれないが、この世界の私に限ってはそんな凡庸な異常ではないと確信できる。
そもそも、眩暈なんて『今の私』にとっては日常茶飯事だ。
視界が揺らいだ程度では何とも思わない。
「……急ごう」
呼吸を整えてから、私はゆっくりと足を踏み出して屋上を後にする。
階段を下りていってから一年の教室が並んでいる廊下まで出て、そこから真っ直ぐに私が所属している一年一組まで進んでいく。
(まだ…来てないみたいだな)
教室の後ろから入ると、もう既にクラスメイト達は勢揃いしていた。
この一年一組というクラスは、IS学園におけるある種の特異点だ。
世界初にして唯一無二の男性IS操縦者がいるだけでなく、ISの開発者にして稀代の天才科学者である『篠ノ之束』の妹もいる。
それだけでも相当なのに、挙句の果てはイギリスとフランスとドイツの代表候補生までいる始末だ。
彼女達は少し前までは問題を起こしていたが、今は完全に収束している。
あれだけの事をやらかしておいて、どうして誰も文句の一つも言わないのか謎でならない。
それとも、口には出さないだけで、心の奥底ではふつふつと憤怒の炎を溜めているのか。
(…私には関係ないか)
このクラスがどうなろうとも、この学園がどうなろうとも、この生徒達がどうなろうとも、私には全く持って関係ない。
どうせ、
私の席は窓際の一番後ろという最も目立ちにくい場所にある。
何とも言えない御都合主義を感じるが、これに関しては本当に偶然だろう。
「ふぅ……」
肘をついて窓を眺めると、空の向こうに一羽の鳥が見える。
こーゆー時、普通は『鳥は空が飛べていいよなー』って思うのかもだが、この世界にはISという限定的ではあるが人類でも自由の空を飛べる兵器が存在している。
なので、そこまで強い憧れなどは余り抱かない。
私の場合は、今までの転生にて嫌というほどに空を飛ぶ経験をしているから尚更だ。
特機タイプの人型機動兵器が空を飛ぶなんて当たり前だったし、私自身も戦闘機の搭乗経験がある。
それに……。
(『
この世界に転生した時、私の中にあった筈のスフィアは無くなっていて、後に強制的に与えられた私の専用機のコアに変貌していた。
首からぶら下がっている銀色の光る二匹の魚を象ったペンダント。
これが、この世界にて私の事を呪い殺そうとしているシルバーデビルだ。
この中にスフィアがあると思うと反射的に投げ捨てたくなるが、どこか遠くにやってもすぐに距離や次元を超えて私の手元に自動的に戻ってくる。
なぜ知っているかって? 実際に試したからだよ。
道端を走っているトラックが信号で停車している隙に荷台にこいつを放り込んだら、約5メートルぐらいの距離ですぐにスフィア特有の緑色の光と音を出しながら戻ってきた。
それを見てから、すぐにこれをどうこうすることを諦めた。
どうせダメ元だったし、そう簡単にスフィアから離れられれば誰も苦労はしない。
そもそもの話、スフィアから離れられる唯一の手段である『絶対的な死』が私には通用しない時点で推して知るべしなのだ。
これが普通の転生者ならば良かったのだろうが、生憎と私は『普通の転生者』ではない。
永遠に無限の並行世界を彷徨い続ける亡霊。それが私だ。
「全員、席に着け。授業を始めるぞ」
おっと。考え事をしている間に担任がやって来たようだ。
唯一の男子君の実の姉であり、モンドグロッソというISの世界大会の初代王者。
そして、このクラスの担任でもある織斑千冬先生だ。
その隣には、元代表候補生の山田真耶先生もいる。彼女はこのクラスの副担任になる。
(ISの授業なんて、私にはあんまり意味は無いんだけどな……)
意味は無くても無駄にはならない。
いつも私は、復習のつもりで授業を受けるようにしている。
そうでもしないとやってられないから。
結局、五時間目の授業は全く目を付けられずに終える事が出来た。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「
「ん?」
放課後になり、何もやる事が無いので早く寮に帰ろうとしていると、後ろからいきなり担任に声を掛けられた。
自分の弟の事だけを気に掛けていればいいのに、こんな私に一体何の用があるんだろうか?
「情報によれば、お前も専用機を所持しているらしいな」
「一応」
「どうして今まで一度も使用してこなかった?」
「さぁ?」
それを言う理由が私には無い。だから言わない。
「別に授業中などに無理をして使えとは言わんが、お前は学年別トーナメントの時も専用機で出場しようとしなかった」
「それが?」
「学園側としては、いかなる理由があろうとも専用機を所持している以上はそれをきちんと把握しておく必要がある。どういう訳か、お前の専用機に関するデータは一切開示されていない。分かっているのは、お前が専用機を持っているという事実だけだ」
そりゃ…あれは公には絶対に出せないようなヤツだしな。
ISに詳しい候補生連中ならばともかく、一般の生徒達には全く知られてないような機体だし?
「なので、近日中にお前の専用機のデータ収集を兼ねた模擬戦を行う予定になった。詳しい日程や対戦相手などはまだ決まっていないが、いつでも大丈夫なように準備をしておけ」
「…それは決定事項なのかな?」
「当然だ」
「……分かったよ」
恐らく、織斑千冬も『アレ』については知っている事だろう。
一部界隈ではとてつもなく有名なISだしな。
だが、アレを見る事で周りがどんな反応をしようがどうでもいい。
やれというならやるだけだ。どうせ、私には拒否権も選択権も最初から有りはしないのだから。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
後ろを向いたままで手を振りながら去っていく少女を見ながら、千冬は腕を組みながら険しい顔になる。
皇千影。
自分が担任を務める一年一組の生徒の一人で、年齢以外の一切が公表されていない謎多き少女。
通常ならば、そんな怪しい人間を入学させるなんて論外なのだが、どこからか学園側に強力な圧力が掛かったようで、それに逆らう事が出来ずに入学させられたという経緯がある。
勿論、それを知っているのは千冬を含めた一部の教員や生徒会の役員たちだけで、その他には誰もその事実を知らない。
彼女に関する情報が開示されていないのも明らかに何者かの意志が介入しているせいだろう。
それなのに、どういう訳か専用機を所持しているという事だけはワザとらしく教えてきた。
まるで、学園側に何かをさせたがっているかのように。
千影自体は極々普通の少女で、特に目立つような行動をする訳でもなく、かといって決して何もしない訳でもない。
話しかければちゃんと返事はするし、授業だって真面目に受けている。
成績だって悪くはないし、態度だって真面目な方だ。
唯一つ、実技の授業だけは余り出たがらないという問題があるが、それは先ほど言った専用機の情報開示を目的とした模擬戦にて解決する。
仮にも専用機を与えられているのならば、それ相応の実力があるという事になる。
それさえ確認できれば、学園側としても多少の便宜は図るつもりらしい。
(皇……お前は一体……)
しっかりと背筋を伸ばして歩く姿はまるでお手本のようだが、千冬には何故かその後ろ姿が弱々しく見えてしまうのだ。
今にもその場で倒れてしまいそうな、触れただけで壊れてしまいそうな。
そんな儚さが、千影の姿から感じ取れた。
ここまでが第三者視点から千影で、千冬個人にはまた別の感覚も彼女から感じていた。
言葉に出来ない不思議な懐かしさと、守ってあげないといけないと思わせる表情。
(なんなんだ……この感覚は……まるで……)
まるで、久し振りに会った家族のようだった。