無限転生 ~INFINITI DEAD END~ 作:とんこつラーメン
そこに近道は無い。
マイケル・ジョーダン
次の日になり、私はいつものように一組の教室へと向かった。
朝早くに起きてから寮まで行き、急いで自室にて登校の準備を整えてきたのだ。
かなりバタバタとしていたが、私の朝食は歩きながらでも普通に食べられるので問題は無い。
そんな私の朝食は飲む栄養ゼリー(ブルーベリー味』だ。
適当に選んだのでこれにはなったが、個人的に私が好きな味はリンゴ味やオレンジ味だ。
「ち…千影! 大丈夫かっ!?」
教室に入った途端、いきなり箒が心配そうにしながら私の方へと駆け寄ってきた。
どうやら、中々に私が来なかったから無用の心配させてしまったようだ。
「おはよう箒。私なら問題無いよ」
「本当か?」
うーん…そんな風に睨まれると嘘が言えなくなる。
仕方がない。余り大きな声では言いたくはないが……。
「…実を言うと、お世辞に万全とは言い難い。流石に全身の痛みやら視界が霞んだりはしないが、まだ眩暈が起きたりするんだ」
「やっぱりか……一目見て、お前が無理をしている事が丸分りたっだぞ」
「…私ってそんなにも分かり易いかな?」
「あぁ。千影は感情の起伏がそう激しくは無いが、だからこそ少しの変化も捉え易い」
「…流石は私の友達だ。箒には敵わないな」
どうやら、これから先は箒の前で嘘を付いたり強がったりは出来なさそうだ。
自分を偽る必要が無いのは気楽でいいんだけど。
「頼むから…無理だけはしないでくれ。もう二度と…千影の苦しそうな顔は見たくない」
「…善処するよ」
箒には本当に申し訳ないけど、こればっかりは確約できない。
今朝になってまた『夢見る双魚』のスフィア・アクトが発動して私に少し先の未来を見せてくれた。
(暴走する機械天使。それと戦っている白と紅のIS…か)
白い方は間違いなく弟君だろう。
あの紅色の方は……。
(後姿のビジョンしか映らなかったけど、あれは間違いなく箒だ。近い内、確実に彼女は大きな戦いに巻き込まれる。それだけはさせない。絶対にさせない)
生憎と、私は折角できたたった一人の友達が危険に晒されると分っていながらジッとしていられるような物わかりのいい性格はしていない。
どうにかなるのならば、全力でどうにかする。
それが私のポリシーだ。
「千影? いきなりボーっとしてどうした?」
「いや…なんでもないよ」
「病み上がりでまだキツいのだろう? ほら、お前の席まで一緒に行ってやる」
「ありがとう…」
なんというか…友達というよりは保護者みたいになってきたな。
それはそれで嬉しいから文句は無いけど。
「…お前の専用機についての話をセシリア達から教えて貰った」
「…そっか」
「どうして千影があんなにも危険な機体に乗っているのか…とか疑問はあるが、私はそれについて一切聞かない事にする」
「なんで? 気にはならないのかい?」
「確かに気にはなる。だが、それはきっと千影にとっても触れられたくないような話題だと思ったから…だから我慢する。少なくとも、千影から話してくれるまでは私は何も聞かない」
「全く…君って人は……」
本当に…本当にありがとう…箒。
君が友達になってくれて心から良かったと思うよ。
「だが…もうアレに乗るのだけはやめてくれ。どれだけ強大な力だとしても、その対価が余りにも大き過ぎる。お前だってそれを知っているから、実技の授業やイベントにも参加しなかったんだろう?」
「まぁね。私だって自ら進んで苦しみたいとは思わないさ。何もせずに済めば、それに越したことは無い」
「その言葉を聞いて安心したぞ。ところで朝食はどうした? 今朝は食堂で見かけなかったが……」
「あぁ…それか」
ここは素直に白状した方がいいと私の勘が告げている。
なので、またもや小声で言う事にしよう。
「ターミナスについて聞かされたという事は、その搭乗条件も既に知っているとは思うが……」
「知っている。普通ならば考えられない事だが、お前がアレに乗るにはどうしてもしなければならない…のだろう?」
「その通り。その影響でね…私の身体の中…特にお腹の当たりはもう滅茶苦茶になっていて、それはもう見るも無残な事になっているようなんだ」
「なんだと…!? では、まさか……」
「その『まさか』さ。私はもう皆と同じような普通の食事は出来ない。精々、流動食の類しか体が受け付けなくなっているんだよ」
「それでは栄養が偏るのではないのか…?」
「そこはあれさ。栄養剤なんかでカバーする感じかな。私だってそんな形で栄養を取るのは良くないと重々に承知しているけど、こればかりはどうしようもなくてね……」
許されるのなら、私だって食堂に行って温かい食事を口にしたいけど、したくても出来ない体だからね。
これだけは本当に残念だと思っているよ。
お蔭で、入学して未だに私は一度も食堂に行ったことが無い。
「…流動食ならば大丈夫なんだな?」
「そうだけど…それがどうかしたのかな?」
「心配はいらない。必ず私がどうにかしてみせる」
「はぁ……」
なんだろうか…この箒の目に宿る炎のようなものは…。
なんか…燃えてる? けど何に?
それと、さっきから幾つかの視線を感じるんだが…あいつ等か?
あれだけ言ってもまだ懲りずに私の事を利用しようと企んでいるのか?
いつの世も、虚弱な人間ほど強者に利用されていくもの…か。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
人知れず教室へと入ってきた千影に箒がすぐに気が付き、席に向かいながら色々と話をしている二人に視線を向けている複数の人物がいた。
(あれが皇さんの素顔なのか…。あの子のISって全身装甲型だったから試合中は顔が分からなかったんだよな……というか、なんでいつの間にか箒と仲良くなってるの?)
あの試合以降、密かに千影に対して興味を抱き始めた一夏は、降らしの後姿をじっと眺めていた。
無論、その事に千影はすぐに気が付いたが、別にその視線に反応する義理も無いので普通に無視し続けた。
(皇千影さん……我々よりも遥かに上の実力を持つ謎多き専用気持ち…そして、この世で最も危険なISと呼ばれている『デビルフィッシュ』の所有者…)
もう一つの視線の正体はセシリア。
他の者達以上に彼女は千影の事が気になって仕方が無かった。
その理由もまた単純明快。
(私がどれだけ必死に修練を重ねても会得できなかった『
それは、実に甘い考え。
あれだけ全力で拒絶されていたにも拘らず、セシリアは千影と接触することを諦めていない。
その姿勢だけは立派だが、そもそもの前提条件として相手に嫌われているという事を彼女は完全に失念している。
千影の好感度が上がらなければ教わるも何も無い。
(あの時は色々と言われてしまいましたが、誠心誠意謝罪すればきっと……)
どうして謝りさえすれば全て解決するという短絡的思考になるのか。
もっと発想を飛躍させない限り、彼女は前には進めない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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昼休みになり、私は箒と一緒に屋上に来ていた。
「他の子達と一緒じゃなくていいのかい?」
「偶にはこういうのもいいさ。それに、今は少しでも千影の傍にいたいからな」
「そ…そっか」
箒…その台詞、まるで告白みたいに聞こえるよ…?
その自覚はある…わけないか。
もしもあるのならば、すぐに顔を真っ赤にしてるだろうし。
うーん…無自覚なのも考え物だな。
因みに、私の昼食は飲む栄養ゼリー(メロン味)で、箒は購買部で売っていた幕の内弁当だった。
IS学園は食堂の食事だけでなく、こういった部分にも力を入れているようで、凄くいい匂いがこっちにまで漂ってくる。
「なぁ…千影。朝言っていた流動食って、どれぐらいまでなら大丈夫なんだ?」
「そうだな…私が今食べているゼリーやヨーグルトとかならギリギリ大丈夫かな」
「お粥や雑炊などはどうだ?」
「その時の私の調子とご飯のドロドロ具合にもよるな。余りにも固すぎたら多分無理だと思う」
「では、じっくりと煮込めばなんとかなる可能性があるのか……」
なんでそんな事を聞くのか…なんて尋ねたいけど、なんとなく理由は察したのでここは無粋な真似は止めておく。
箒は箒なりに私の事を気遣ってくれているのがよく分かるから。
その真っ直ぐな善意を今は味わっておくとしよう。
「千影。近いうち必ず、お前に温かい食事を食べさせてやるからな。楽しみに待っていてくれ」
「それは普通に嬉しいけど、箒は料理が出来るのか?」
「一通りはな。千影はどうなんだ?」
「簡素な物ならばなんとか。凝った物は無理かもしれないな」
「なんだか、千影はなんでも卒なく出来そうなイメージがあったから意外だな」
「私にだって得手不得手ぐらいはあるさ。人間だもの」
「その通りだ」
話しながらチューチューやっていると、あっという間に無くなってしまった。
一人で食べていた頃は長く感じていたけれど…誰かと一緒にいるだけで時間の感覚が一気に変わるもんだ。
この世界に来て初めて誰かと一緒の食事なんてしたものだから、そんな事すらも忘れかけていた。
「では、後は薬を飲んで……」
ポケットから錠剤の入った小物入れを取り出し、さっき買ったミネラルウォーターで一気に流し込んで……ん?
誰かがこの屋上に上がって来る気配がある?
「や…やっと見つけましたわ……」
「お前は……」
「セシリア? なんでここに?」
イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
入学早々に問題を起こした奴であり、私の中では余り良い印象を持っていない。
あれだけの事をしたにも関わらず、なぁなぁで全てが終わっている。
少なくとも、私は彼女からの正式な謝罪を聞いた記憶は無い。
「ハァ…ハァ…やっぱり、箒さんも一緒にいましたのね…」
「まぁな。それよりも、鈴たちはどうした? 一緒じゃないのか?」
「今日はそちらの方……皇さんに用事があるのですわ」
「私に?」
「千影に?」
またぞろ碌な事ではなさそうなのは目に見えているが、話ぐらいは聞いてやる。
私の事を名指ししている以上、それぐらいの事はしてやらねば。
内容次第じゃ即座に帰って貰うが。
「先日の事は本当に申し訳ありませんでした! あの後、箒さんや他の皆さんとも色々と話をして、どうして皇さんが私達をあそこまで拒絶したのかを思い知りました…」
「…そうか。その謝罪は受け取るよ。けど、本題はそれじゃないんだろう?」
「は…はい……」
物凄く気まずそうに眼を逸らしながら、何度か言うか言うまいか迷っている様子。
けど、覚悟を決めたのか意を決して彼女は口を開いた。
「皇千影さん! どうかこのセシリア・オルコットに…
弱い者ほど相手を許す事が出来ない。
『許す』という事は、強さの証だ。
野原ひろし