無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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       普通の努力ではチャンスをチャンスと見極められない。
       熱心の上に熱心であることが見極める眼を開く。


                            松下幸之助







だめ。いいよ。

 屋上にて箒と一緒に昼食を食べていたら、いきなりそこにセシリア・オルコットがやって来て、なにやら意味不明な事を言い出した。

 思わず、私達は揃って目が点になった。

 

「先日の一夏さんとの試合にて皇さんがお見せした『偏光制御射撃(フレキシブル)』…本当に見事でした」

「…それで?」

「皇さんがご存じかどうかは分かりませんが、私の専用機『ブルー・ティアーズ』もまた、理論上は偏光制御射撃(フレキシブル)を使用可能と言われているのです」

「それはアレかな? ビットから放たれるレーザーを曲げる事が出来る…という事か?」

「その通りですわ。ですが、どれだけ訓練を重ねても、習得の兆候すら見えない始末…。そんな時、貴女が目の前で完璧な偏光制御射撃(フレキシブル)を披露してくれた……」

「だから、私の所に教えを請いに来た…という訳か」

「はい。あんな無礼極まりない事をした上に、いきなりこんな事を言い出す…。好きなだけ恥知らずと罵って頂いて構いません。皇さんにはその資格があります」

 

 …随分と自分を下げてくるじゃないか。

 それだけの謝罪の気持ちと覚悟があるという事なのだろうが……。

 でも、まだ一番肝心な事を聞いていない。

 彼女をどうするかはそれからだ。

 

「…千影。そのフレなんとかがなんなのかは分からないが、これだけ言っているんだから教えてやってもいいんじゃないのか?」

「箒、君には申し訳ないが、まだそれは決められない。彼女にどうしても聞かなければいけない事があるからね」

「「聞かなければいけない事?」」

 

 これは最も重要な事。

 答え次第では、教えてあげる事もやぶさかでもない。

 

「セシリア・オルコット」

「は…はい!」

「私に技術を教えて欲しいという事は、それは即ち強くなりたいと思っている…そうだね?」

「えぇ!」

「では問おう。君はどうして強くなりたいんだ?」

「そんなの…答えは一つしかありませんわ」

 

 ほぅ…聞かせて貰おうじゃないか。

 そんなにも自信満々な君の『答え』とやらを。

 

「代表候補生として国の名誉を守る為。オルコット家の当主としての誇りを守る為ですわ」

「…………そうか」

 

 …少しでも期待をした私がバカだった。

 所詮は彼女も国家の犬…ということか。

 

「悪いが、君に教える事は何も無い。今すぐ消えてくれ」

「ち…千影っ!?」

「そんなっ!?」

 

 箒はともかく、君はそこまで驚くような事か?

 そもそも、どうして最初から自分の願いが通る事を前提にしている?

 私の事を本気で舐めているとしか思えない。

 

「最初は、君の必死さが伝わって『少しぐらいなら』と思っていた」

「ではどうしてっ!?」

「…シャルルマーニュ十二勇士の筆頭騎士ローランがこのような言葉を残している」

 

 さっき飲みそこなった薬をゴクリと飲んでから、彼女の目を真っ直ぐに見た。

 

「『強くなる為に理由など必要ない。何故という言葉は強さを求める為には不純物である』」

「不純…物…」

「そうだ。別に国を守りたい、家を守りたいという意思を否定する気は無い。それはとても立派な事だ。だが……」

 

 目を細くし、睨むように見つめるとセシリア・オルコットは気圧されるかのように後ずさりをした。

 

「それは強くなった後で成すべき事だ。少なくとも、まだ欠片も強くなっていない時に掲げる言葉ではない」

「うっ……!」

「変に目標を設定してしまえば、人はそれをゴールと思ってしまう。他の事ならば別にそれでも構わないが、こと『強さ』を求める時にそれは最大にして最低の枷となる。そのゴールに辿り着いた途端、努力を止めてしまうからだ」

「で…でも! 私は!!」

「代表候補生だから…なんてのは単なる言い訳だよ」

「………」

 

 やっと黙ったか。やれやれ…。

 

「まだ始まってもいないのに色々と言いだしたら、何もかもが中途半端で終わってしまう。それでは強くなるだなんて夢のまた夢だよ。君がまだ見ぬ目標を夢見ながら10歩進んでいる間に、純粋に高みを目指す者達は同じ時間で100歩進んでいる。そして、本当の意味で限界が来るその瞬間まで、歩みを止める事は無いだろう」

 

 強さを求める者達が『目標』に達すれば、その時点で『満足』する。

 その『満足』はやがて『慢心』に変化して、最後には『堕落』していく。

 

「では私は…なんと答えればよかったのですか……」

「それは……」

 

 おっと。ここでまた夢見る双魚のスフィア・アクトがちょっぴり発動。

 また誰かお客さんが来るようだ。

 

「『彼』が教えてくれるよ」

「彼とは…まさか……」

 

 私が屋上に出入り口に目を向けると、箒達もつられるようにして同じ所を見る。

 すると、そこから噂の彼がやって来た。

 

「ここにいたのか……って、なんでセシリアもいるんだ?」

 

 そう。この学園内にて『彼』と呼称される存在は基本的に一人だけ。

 一年一組の象徴的存在である世界最強の暴力教師の弟君だ。

 

「い…一夏さん? それはこちらの台詞ですわ。どうして屋上に…」

「いや…実はさ、皇さんの事を探してたんだよ」

「千影を探していただと?」

 

 おっと。急に箒が鋭い目をし始めたぞ。

 その気持ちは嬉しいけど、流石にまだ早いと思うな。

 

「私に何か御用かな? 弟君」

「弟君って…せめて名字で呼んでくれよ」

「君とはまだそこまで親しいわけじゃないからね。そもそも、会話自体がまだ二回目なのに加え、こうして素顔で話すのなんてこれが初めてじゃないか。私と君はまだ知り合いの域にすら達していない。そんな相手を気軽に名字で呼ぶだなんて無粋な真似は出来ないよ」

「確かに……」

 

 ふむ…矢張り、彼は良くも悪くも素直な性格のようだ。

 まるで、何も書いていない真っ白なキャンパスみたいだな。

 

(近くで見ると…皇さんって綺麗な顔をしてるんだな…。それに、どことなく千冬姉に似てるような気が……)

 

 おや? なんだか弟君にジロジロと見られているね。

 私みたいな貧相な女の何がいいのやら。

 

「おい一夏…幾らお前といえども、千影を変な目で見たら承知せんぞ…!」

「ち…違うって! 別に変な目で見てないから!」

「それじゃあ、どんな目で私を見ていたのかな?」

「いやその…綺麗だな~…とか、意外と小さい体してるんだな~…とか。あ」

「い~ち~か~…!」

「ほ…箒…いや…その…」

 

 おやおや。私が余計な事を言ったせいで箒がプッツンしてしまったみたいだ。

 これに関しては素直に謝ろう。悪かったね弟君。

 

「箒。私の為に怒ってくれるのは嬉しいが、今だけは堪えてくれないか? まずは彼の話を聞かなければ」

「あぁ…そうだな。だが一夏…後で覚えておけよ……」

「ハ…ハイ……」

 

 なんだか、スフィアを使わなくても彼の将来が簡単に想像出来てしまうな。

 もう少し気を付けないと、簡単に詐欺とかに騙されそうだ。

 

「それで弟君…いや、ここは君の不遇さに免じて織斑君と呼ぶとしようか」

「不遇さ……」

 

 別に間違った事は言ってないだろう?

 

「なんだかさっきも同じことを言ったような気がするが、別にいいか。こんな所まで私を探しに来て、一体何の用かな?」

「そうだった! えっと……」

 

 後頭部をポリポリと掻きながら言い淀んでいるが、すぐに覚悟を決めたのか私の顔を見ながらこう言ってきた。

 

「皇さん! 頼む! 俺を鍛えてくれ!!」

「君もか」

「君も…って、まさかセシリアも?」

「そうですわ……」

 

 私と何も接点が無い彼女がいる時点で察する事が出来そうだが…。

 これは取り巻きの子達が苦労するのも頷ける。

 

「では、君にも彼女と同じことを尋ねようか」

「なんだ?」

「織斑一夏くん。君はどうして強くなりたいんだ?」

「俺は……」

 

 彼の普段の言動から考えられる答えは『皆を守る為』とかだろうな。

 もし本当にそうだったら、即座に断るとしよう。

 

「俺にもよく分からないんだ」

「よく分からない?」

「あぁ……皇さんの動きを間近で見てさ…凄いって思った。ISってこんな風に飛ぶことが出来るだって、後で思い返して感動した。終わった直後は普通に実力差が開きすぎてショックだったけど」

 

 私の場合は殆どがズルだしな。憧れられても普通に困る。

 

「なんて言えばいいのかな……上手く言葉に出来ない」

「下手に着飾ろうとせず、君の素直な言葉を言ってくれ。その方が分かり易い」

「そう…だな」

 

 私の一言で気が楽になったのか、彼は急に楽な体勢になった。

 

「多分、俺は皇さんに憧れたんだと思う。憧れて…あんな風になりたいと思った」

「誰かを守る為じゃなくて?」

「いや…うん。確かに俺は誰かを守れるようにはなりたいと思ってる。けど…今回はなんか違う気がするんだよ。なんつーかさ…今はただただ普通に『強くなりたい』と思った」

 

 わぉ…もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に言ってくれるとは想像してなかった…。

 これには私も純粋に驚いてるよ……。

 

「強くなりたいと思う…」

「あ~…やっぱダメだな。他にいい言葉が思いつかないや。バカみたいな事しか言えない」

「いや…それでいいんだよ」

 

 呆然とするセシリア・オルコットを放置し、私は立ち上がってから織斑君の手を握った。

 

「ちょ…え?」

「よく言ってくれた。織斑一夏くん…100点の答えだ」

「ってことは……」

「こんな私で良ければ、色々と教えてあげよう」

「マジか! 本当にありがとう!!」

 

 いたた…嬉しいのは分かるが、そんなに強く握りしめないでくれ。

 流石に手が痛いよ…。

 

「セシリア・オルコット。私が言いたかったこと…分かったかな?」

「……………」

「沈黙は肯定だと受け取るよ」

 

 あの表情から察するに、彼女もやっと理解してくれたようだ。

 とはいっても、一度出した言葉を引っ込ませることは出来ないのだけど。

 

「そもそも『順番』が逆なんだよ。『何か』を守る為に『強く』なるんじゃない。『強く』なったからこそ『何か』を守ろうとするんだ。その事を彼はよく分かっているようだ」

「そこまで深く考えてたわけじゃないんだけどな……」

「だからこそいいんだよ」

 

 無意識の内に理解をしていたって事がいいんじゃないか。

 ふむ…彼に対する印象が少しだけ変わってきたな。

 

「さっきも似たような事を言ったが、君の愛国心や責任感まで否定する気は無い。だが、それを理由にして強さを求めるのだけはやめろ。途中で色々な手助けがあっても、最後に自分を強くするにはいつだって自分自身だ。他人や国や家じゃない」

「私に…代表候補生を止めろと…仰るんですの…?」

「誰もそうは言っていない。それを言い訳に使うなと言っている」

 

 そして、それこそが彼女がフレキシブルを会得できない最大の理由でもあると私は踏んでいる。

 今の彼女には焦りがある。焦燥が見え隠れしている。

 だから私のような人間に縋ってしまう。なりふり構っていられないから。

 

「候補生自体は好きなだけ続ければいい。私は何も言わないし、言うつもりも無い。けどね、それと強くなることを繋げて考えてはいけない。もっと純粋に物事を考えないとダメだ。人間が強くなるのに余計な理屈なんて不必要なんだよ。彼の言った通り『強くなりたい』という思い一つあれば十分なんだ」

「私は……」

「強さを求めるよりも先に君は少し自分自身を見つめ直すといい。己が本当に求めているのは何か。どうして先へと進めないのかを…ね」

 

 これで少しは目が覚めてくれるといいんだけど……。

 そんな事を話している間に昼休みが終わりそうだ。

 早く教室へと戻らなければ。

 

「二人とも、そろそろ行こう」

「え? でもセシリアがまだ……」

「彼女ならば今は放っておけばいい。大丈夫。時間になれば勝手に戻ってくるよ」

「千影がそう言うのなら……」

 

 そうして、私達は項垂れるセシリア・オルコットを置いて屋上を後にするのだった。

 

 因みに、彼女は普通に遅刻をして担任に叱られていた。

 

 

 

 




        一旦、選んだ道に関して頑張る人は多い。
        目標に関してそうする人は少ない。


                        ニーチェ
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