無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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      成功する為に大切なのは、どこから始めるのかではなく、
      どれだけ高く目標を定めるかである。


                         ネルソン・マンデラ
                      


そりゃそうだ

 放課後になり、私と箒は織斑君と一緒に第2アリーナへと来ていた。

 これまでは第1アリーナや第3アリーナを使っていたが、いつもその二ヵ所が空いているとは限らない。

 時にはこういった事も十分に有り得るのだ。

 

「今日はそんなに人がいないみたいだな」

「いつもいつも、生徒達で賑わっている訳じゃないさ。彼女達にだってほかにやるべき事は沢山あるし、訓練機を常に借りれるとは限らない」

「それもそっか」

「それに、IS学園にはこういったアリーナが6つもあるんだ。それだけあれば、一つぐらいは人が疎らな場所だってあるよ」

「ここって6つもアリーナがあったのか……」

「それは私も知らなかったな」

 

 いや…織斑君はともかくとして、箒は流石に知っていたと思ってたんだが?

 彼と一緒に箒にも色々と教えた方が良いのかもしれない。

 

「これならば思う存分に動いても問題は無いだろう。準備は出来ているね?」

「おう! いつでも行けるぜ!」

 

 もう既にISスーツに着替えているので、後はISさえ展開すれば問題無い。

 専用機は専用機なりの不便な部分もありはするが、こういった時に速やかに展開可能なのがいい。

 

「にしても……」

「どうかしたかい?」

 

 さっきからずっと二人して目を逸らしている。

 別におかしな所は無いと思うんだけど……。

 

「す…皇さん。それが君のISスーツなのか…?」

「そうだけど? ほら、私の専用機は全身装甲だから、ISスーツも同じように首元から下を追い隠すようなデザインの方がいいんだよ」

「そ…そうか……」

 

 なんか顔が赤くないか?

 矢張り、通常のISスーツとは根本的にデザインが違うのがいけないのだろうか?

 

(なんつーか…普通のISスーツよりも肌面積は小さいけど……)

(その分、体にフィットし過ぎているからか、ボディラインが丸分りになっているぞ…千影…。もしかしたら、通常デザインのISスーツよりも扇情的なのではないのか…?)

 

 少しお尻の部分がずれてる気がする。

 ちょっと直しておきたいな。

 

「んしょ…っと」

「ぶっ!?」

「み…見るな馬鹿者! 千影をエロい目で見たら去勢するからな!」

「見てないから! それと去勢だけはマジで勘弁してくれ!」

 

 …何を騒いでるんだ? なんだかんだ言って、この二人って仲がいいんだな。

 これが幼馴染というやつなのか。少しだけ羨ましいな。

 

「ほらほら。早く訓練を始めるとしよう。アリーナを使える時間には限りがある事を忘れてはいけないよ」

「う…うむ。そうだったな…済まない」

「ご…ごめん」

 

 よろしい。自分の非を認めて、ちゃんと謝罪が出来るのはいい事だ。

 

「そういや、皇さんはどんな風に教えてくれるんだ? セシリア達は一緒にISに乗って教えてくれたけど、皇さんもISに乗って教えてくれるのか?」

「ちょ…バカ一夏! 貴様は何を考えているっ!」

「え? ええ?」

 

 そっか。彼はまだ私のISの仕様を知らなかったんだっけ。

 どんな反応をするかは分からないけど、まずは教えておかないといけないな。

 じゃないと、これからが大変な事になりかねない。

 流石の私も、放課後の訓練で自分の残りの寿命をマッハで失う訳にはいかない。

 

「俺、なんか変な事でも言ったか?」

「そ…それは……千影ぇ~…」

 

 あらら。箒が私にすがるような視線を送ってきなさった。

 ここは友達として、ちゃんと助け舟を出さなければ。

 

「私は別に構わないよ。君も知っているだろう? 仮にここで黙っていても、二年生になれば嫌でも教科書でお目にかかるんだ。この場で教えても何にも支障はないさ」

「だが、それではお前が……」

「気にしてないよ。今更だしね」

「…二人とも、何の話をしてるんだ?」

 

 今度は織斑君が蚊帳の外に。

 これは悪い事をしてしまったな。

 

「…仕方があるまい。いいか一夏。心して聞けよ。千影の専用機はだな……」

 

 箒が織斑君にも分かり易いように、自分が知っている情報を事細かに教えていく。

 最初は呆然としていた彼だったが、全部を聞き終えると途端に顔が真っ青になった。

 というか、意外と箒って物覚えが良い?

 

「じょ…冗談だろ? 専用機に乗る度に危険な薬物投与をしなくちゃいけないって……」

「言っておくが、これは決してドーピングの類ではないからな。千影の専用機であるターミナス303は、乗る度に薬を打たなければ過剰すぎる性能に心と体の両方が持たないんだ。それだけ、千影の機体は強大かつ危険だという証拠だ」

「それじゃあ…実技やイベントで皇さんの姿を見かけたことが無いのは……」

「自分の命を削る危険性があるからだ。特にトーナメントなんて以ての外だ。もしも出場なんてすればどうなるか…お前にだって分かるだろう?」

 

 箒の力強い言葉に織斑くんは完全に言葉を失ってしまった。

 まだ一般人の感性を持つ彼には辛かったかな。

 

「ご…ごめん!! 何も知らなかったとはいえ…俺…皇さんに酷い事を……」

「謝る必要はないよ。さっきも言っただろう? 今更だって」

「でも……」

 

 うーむ…しつこいな。

 こっちが良いと言っているんだから、それで終わりでいいんじゃないのか?

 

「あれ? ってことは、あの試合の後、皇さんって……」

「廊下で倒れていた。すぐに私が駆けつけて保健室まで運んだがな」

「そうだったのか……」

 

 あの時の箒は私の取っての白馬の王子様だったな。

 本当に感謝しかなかったよ。

 保健室と言えば、カレンはちゃんと仕事をしているのだろうか?

 カルデア愉悦部員部長である彼女が大人しくしているとは思えないんだが…。

 

「俺って本当に何にも知らないんだな…。訓練だけじゃなくて、勉強ももっとしなきゃな……」

「いい心掛けだ。現状に満足しないで上を見るのは素晴らしい事だよ」

 

 人間だけじゃなく、全ての生き物に最も必要な事こそが『飽くなき向上心』だと思っている。

 満足するな。足を止めるな。前を向け。

 休むのは良い。時には逃げるのも悪くは無い。

 けど、それは更に前へと進むための助走でなくてはならない。

 少なくとも、私はそうしなければ自我を保つ事すら出来なかった。

 今となっては、『進む』という行為を無意識に行っている。

 

「だが…どうする? 千影がISに乗れないとあっては、一夏に指導をするのは難しいのではないか?」

「そうでもないよ。ISに乗らなくても口頭で教える事は出来るしね。機体を展開しなくてもプライベート・チャンネルは普通に使えるしね」

 

 というか、私は最初からそのつもりだったし。

 

「そんな訳だから、安心してくれ」

「わ…分かった」

「では、ISを展開しようか。目標タイムは一秒未満だ」

「そこからかよっ!? つーか、目標が厳しすぎるっ!」

 

 言っておくが、教えると決めた以上は生半可な事はしないからな。

 やるからには徹底的に…だ。

 彼の成長率ならば、私が生きている間にはかなり強くなるんじゃないかと思う。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方その頃。

 食堂にてセシリアが紅茶片手に溜息を吐いていた。

 

「はぁ……」

 

 昼休みに千影から完全拒絶されたことが相当に堪えているようで、訓練に対するモチベーションが全く上がらない状態になっていた。

 こんな時にISを動かしても碌な事にならないのはセシリアも重々承知しているで、仕方なくこうして一人ぼっちのティータイムと洒落込んでいるのだ。

 

「姿が見えないと思ったら、こんな所にいたのね」

「鈴さん…それに、シャルロットさんとラウラさんまで……」

 

 腰に手を当てながら食堂にやって来た鈴を先頭に、シャルロットとラウラも一緒にやって来た。

 毎度御馴染みの面々の勢揃いである。

 

「一体どうしたのよ? 今日は訓練しないの?」

「申し訳ありませんが…そんな気分になれませんの……」

「どういうこと?」

 

 明らかに様子がおかしいセシリアの事が気になったのか、三人も彼女と同じテーブルに座る事に。

 

「何かあったのか? 昼辺りから様子がおかしかったように感じるが…」

「そう言えば、五時間目の授業にも遅刻してきたよね。織斑先生に怒られても上の空みたいだったけど」

「それは……」

 

 普段のセシリアならば、あの時の事を己の恥と思い決して話そうとはしないが、今の彼女は精神的に非常に弱っているので、思わず無意識の内に口が動いて昼休みの時の事を淡々と話していた。

 

「…という事がありましたの」

「そっか……」

 

 頬杖を付きながら数瞬だけ思案した後、鈴はキッパリと言ってのけた。

 

「それは完全にアンタが悪いわ」

「え?」

「だってそうでしょ。自分から『教えてくれ』って頼んでるのに、次の瞬間に自分が代表候補生であることを堂々とアピールしてどうすんのよ。それ、傍から見たら普通に嫌味にしか見えないからね?」

「うぐっ…! で…ですが、私は……」

「そもそもさ、『強くなりたい』って思ってるのに、そこに自分の事情を持ちこんじゃダメでしょ。それじゃ、千影って子が言ってる通りに何もかもが中途半端に終わるわよ?」

「…………」

 

 まるで千影の思考をトレースしているかのように、あの時と同じような事を言い放つ鈴。

 またもやセシリアはグゥの音も出ないまま黙り込んでしまう。

 

「私も鈴の意見に同意する。確かに候補生である以上は国に貢献するのは当然だが、訓練課程の段階でそれを考えるのは論外だ。訓練は訓練、候補生は候補生として割り切らなければ何も成すことは出来んぞ? 実際、私も織斑教官の元で訓練をしていた時には余計な事は一切考えずに、只管に強くなる事だけを思っていた。そうすることが強くなる為に最も必要な事だと教えられていたからな」

 

 現役軍人であるラウラの言葉はかなり重く心に響いた。

 言いたい事は理解出来るのだが、それでも心のどこかでそれを拒絶していた。

 

「多分だけど、皇さんはセシリアにアスリートとして一番大切な事を思い出してほしかったんじゃないのかな」

「一番大切な事…?」

「うん。日本の諺に『初心、忘れるべからず』って言葉もあるぐらいだし。ISに触れたばかりの頃…まだ候補生じゃなかった時の事って覚えてる?」

「それは勿論ですわ。あの頃は……」

 

 あの頃は、あらゆる事に一喜一憂をしていた。

 ISを動かしたことに感動し、初めて宙に浮いたことに驚いた。

 一歩一歩ずつ強くなる度に嬉しくて、その事を良く家のメイド達に報告していた。

 辛い事も沢山あったが、それ以上に訓練の日々が楽しくてしょうがなかった。

 自分が強くなったという実感こそが、あの時は何よりの褒美だった。

 訓練している時は嫌な事は全て忘れられた。

 ISを動かす事、実力が磨かれていくことに無我夢中になっていた。

 そんな日々を忘れてしまったのはいつからだろうか。

 候補生になり、専用機を手に入れてからか。

 自分だけのISを手に入れ、己が選ばれた人間だと思い込むようになり、そして……。

 

「どうやら、思い出したようね」

「えぇ……どうして、私はあの日々を忘れてしまっていたのかしら……」

「『力』を手にしてしまったから…だろうな。専用機という名の『力』を…」

「かもしれないね。自覚はしてなくても、心のどこかで傲慢な部分が出来てしまっていたのかもしれない」

「私もセシリアの事は言えん。部隊長になり、候補生の地位と専用機を手に入れてからの私はお世辞にも褒められたものではなかったからな……」

 

 力に固執し、強さこそが全てと思い込んでいた。

 その愚かな妄執を打ち砕いてくれたのは想い人ではあるが、今となってはその時の出来事が完全に裏目に出ていた。

 

「あの子が一夏にだけ教えようと思ったのもそれが理由でしょうね」

「一夏は今年になって初めてISに触れて動かした。ボク達みたいな変な先入観も無ければ使命感も持っていない。どこまでも真っ直ぐに『上』を目指したいという心に共感したからこそ、皇さんも教えようって気になったんだろうね」

 

 候補生になり、昔には無かった色々なしがらみが生まれ、それによっていつしか『結果』だけを求めるようになっていった。

 ゴールを求める、ゴールしか見ようとしなかったからこそ、千影はセシリアを拒絶したのだと、ようやく思い至る事が出来た。

 強さを欲する以上、そこに『目標』を作ってはいけない。

 目標を作ってしまったが最後、人はそこにしか進めなくなる。

 それはやがて『焦燥』を生み出し、それが邪魔をして自分の目を鈍らせる。

 他の事ならばいざ知らず、『強さ』を欲することに焦っても何一つとして良い事は無いのだ。

 

「皇千影の言った通りセシリアは一度、じっくりと考えるべきなのかもしれんな」

「時には立ち止まる事も必要よ。もっと前に進むためにはね」

「そう…ですわね。そうしますわ……」

 

 友人達の言葉で嘗ての気持ちを思い出したセシリア。

 彼女は一体、どんな答えを出すのだろうか。

 

 

 

 




    最も高い目標を達成するには、一歩一歩進むしかないという事実を、
    頭に入れておかなければならない。


                      アンドリュー・カーネギー
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