無限転生 ~INFINITI DEAD END~ 作:とんこつラーメン
ただ勉強です。方法です。
不断に計画しているという事です。
ロダン
アリーナの使用時間が終わり、私達は着替えてから校舎内の廊下を歩いていた。
時間は夕方6時に差し掛かった辺りで、人によっては食堂に夕飯を食べに行く時間帯になっている。
「今日は本当にありがとな、皇さん。マジで分かり易かったよ」
「それはなにより。ISの事を他人に教えるの初めてだったから少しだけ不安があったが、好評なようでよかったよ」
専用機に乗れない。訓練機もそう簡単には借りれないとなると、必然的に口頭で教える事になるのだが、それでもここまで言ってくれると私としても教え甲斐がある。
本当は傍で実戦をしてみせた方が一番なのかもしれないがそれが出来れば誰も苦労はしないんだよな。
「私から見ても、千影の指導は見事だったぞ。言葉だけで、あそこまで分かり易く説明できるのは凄かった。少なくとも私には無理だろうな」
「箒の場合は擬音ばっかりだしな……」
「何か言ったか?」
「ナニモイッテナイデス……」
やっぱり、この二人は仲がいいな。
今までに色んな『幼馴染』というのを見てきたが、まるでお手本のような関係性だ。
「
「私のターミナスは機動力こそが最大の武器だからね。そっち系の技術に関してはちょっと自信があるんだ」
にしても、教えるだけ教えて後は放置とか…普通は有り得ないぞ。
ちゃんと、その後の指導もしないとダメだろ。
今回、私が教えたのは別に特別な事じゃない。
ちょっとしたコツとエネルギー効率のいい動き方を言っただけだ。
口頭だけだったにも関わらず、僅か数時間で水を吸ったスポンジのように学んでいくのは見事としか言いようがない。
どうやら、才能だけは姉からちゃんと引き継いでいるようだ。
他の余計な物を継承していないのは拍手ものだと思う。
「今日はまだ最初だったからあれぐらいだったけど、次回以降はもっと厳しく行かせて貰うよ?」
「え? また教えてくれるのか?」
「当たり前じゃないか。中途半端な状態で投げ出すのは私の主義に反するし、こっちとしてももどかしいしね。やるなら、ちゃんと最後まで教えるさ」
「俺…皇さんには一生、頭上がらないわ……」
ちょっと表現が大げさすぎ。
そこまで凄い事なんて何もしてないのに。
「何かお礼とかしたいけど、今の俺が出来るのって言ったら料理ぐらいだしな……」
「その気持ちだけで十分だよ。それに、私の身体は普通の食事を受け付けなくてね……」
「え? それってどういう意味だ?」
ここで彼が疑問に思うのは当然の事なので、私と箒でこの体の現状を教えてあげる事に。
またもや顔が青ざめるかと思いきや、彼は真剣な顔をして何かを考えている様子だった。
「成る程な…胃とかが薬の影響でボロボロになってて、流動食系しか体が受け付けない…か」
「その通り。だから、普段は栄養ゼリーやヨーグルトばかりを食べてるんだ」
「だから、近いうちに私が雑炊などを作ってみようと思っているんだ」
「雑炊ね。それもいいかもだけど、皇さん用に作るなら、ちゃんと米粒一つ一つに至るまでちゃんと煮込まないとダメだろうな……」
ほぅ…? 噂で彼が料理上手なのは聞いていたが、もしかしたら織斑君の家事スキルは私の想像以上なのかもしれない。
「皇さん。スープはダメなのか?」
「「スープ?」」
「あぁ。品にもよるけど、スープなら胃にも優しいし、暖かい上に栄養価も高い。更に言えば『食べる』じゃなくて『飲む』だから、具材が少ないスープなら皇さんでも大丈夫だと思うんだ。どうかな?」
スープ…スープか。それは思いつかなかったな。
こんな体になって以降、ずっと『連中』に渡されていた代物ばかりを食べてきたから、自然と他の選択肢を消していた節がある。
これは完全な盲点だった。
「それに、スープなら食堂にもあると思うし。試しに行ってみないか?」
「いいかもしれないな。どうせダメ元だ」
「千影がいいのならば、私には異論はない」
「んじゃ、試しに行ってみようぜ」
ということで、三人で食堂に行ってみる事にした。
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「あるな……」
「あるね……」
「あったな…」
食券の販売機の前まで行ってメニューを見てみると、そこには想像以上に沢山のスープの名前が記載されていた。
「今まで特に注視して見ていなかったから普通に気が付かなかった……」
「私もだ…。殆ど和食しか食べてなかったからな…」
こんなにもあるのならば、もっと早くに食堂に足を運ぶべきだったな。
先入観だけで物事を決めるのは良くないな。うん。
「この中で皇さんでも大丈夫そうなのは……」
「コーンポタージュにコンソメスープ辺りか?」
「ヴィシソワーズなんかもいいかもな」
「なんだそれは?」
「簡単に言うと、ジャガイモのスープだよ。ジャガイモ自体はクリーム状になるまで加工するから問題はないし、冷やしても温めても美味しいスープだから、季節関係無しに食べれるんだ」
く…詳しいな…織斑君。
君、絶対にIS操縦者よりも料理人を目指した方が大成するだろ…。
「こっちには卵スープもある。溶き卵だからつるっと飲める」
「おい…フカヒレスープなんかもあるぞ」
「流石はIS学園…高級品のフカヒレも普通に出すんだな」
「こちらにはカボチャスープもあるな。甘くて美味しそうだ」
「春雨スープもある。同じ麺類でも、これなら皇さんも平気なんじゃないのか?」
「どうだ千影?」
「そうだな…春雨はまだ試したことは無いが、いいかもしれない」
こうして改めて確認すると、スープにも色々な種類があることが分かった。
これだけバリエーションがあるなら、少なくとも飽きる事だけは無さそうだ。
「可能であれば油が少ないスープが一番好ましいんだが……」
「だったら、コンソメスープやポタージュ系だろうな。どれにする?」
「ふむ……」
一種類か二種類ぐらいならば迷う事も無いのだろうが、ここまで種類が豊富だと普通に目移りする。
だがしかし、私は知っている。料理のメニューなどで迷った時にどうすればいいのかを。
これまでの多くの転生経験によって、自然と体に染み付いているのだ。
「では、このコーンポタージュにしようか。迷った時はスタンダードな物にするのが一番だ。ハズレが無いしな」
「「確かに」」
最初は無難な物にして、それを切っ掛けしてから他のメニューにも挑戦していけばいいのだ。
これならば、少なくとも出鼻をくじかれる事は無い。
「こうして見ていると、なんだか急に私もスープを飲みたくなってきたな…」
「あれだよな。いつも自分が食ってる物でも、誰かが横で食べてるのを見た途端にめっちゃ美味しそうに見える…的なやつ」
だな。それ私も凄い分かる。
下手をすると、一個100円のカップ麺すらも物凄く美味しそうに見えるから不思議だ。
んで、それにつられて急にカップ麺が食べたくなってコンビニまでダッシュするまでがワンセットだ。
これはきっと、誰もが一度は経験したことがあるんじゃないんだろうか?
因みに、私はこれまでの転生にて何度も経験して、一時間後ぐらいに地味に後悔するのがお約束だ。
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というわけで、本当に注文してみました。
今、私の目の前にはほんのりを湯気を上げているコーンポタージュが入っているお皿が置いてある。
三人で窓際の席を取って座っていて、図らずもこれが私の食堂デビューとなる。
「では…いただきます」
そっとスプーンを手に取ってから、スープを掬い、そして口へを運んでいく。
口の中で少しだけ咀嚼をしてからゴクリと飲み込んだ。
「ど…どうだ?」
「美味しい…。気持ち悪さも無ければ吐き気も無い。普通に飲めている……」
「「よかった…」」
この世界に転生をしてきて初めての温かい食事かもしれない。
あぁ…五臓六腑に染み渡るとはこのことか…。
「あれ?」
な…なんだ? 急に涙が出てきて…あれ?
「ど…どうした?」
「そっか…これが『嬉し涙』というやつか……」
嬉しくて泣くなんてのは本気で初めてかも知れない。
それ程までに十数年振りに食べる温かい食事が衝撃的だったという事か。
「これからは皇さんも一緒に食堂で食べられるな」
「そうなるね。ふふ…正直、この学園に来た時はどうなるかと心配していたが、意外な発見があるのならば悪くは無いのかもしれないな」
そう思った途端、急にスプーンが止まらなくなる。
今までの反動だろうか。どんどんと弱った胃の中に流れ込んでいく。
焦る必要はないと頭では理解しているのに。
「どうやら、相当に気に入ったみたいだな。んじゃ、俺等も頂くとするか」
「そうだな」
因みに、織斑君はグラムチャウダーを、箒はフカヒレスープを注文していた。
織斑君はともかく、箒もやっぱり美容には気を使っているという事なのだろうか?
フカヒレスープにはコラーゲンたっぷりらしいからな。
「ん? 初めて飲むけど、意外と美味い? ちょっとスープの作り方について勉強したくなるな……」
「いい機会だと思って試しにフカヒレスープを注文してみたが……普段の私の食生活とは程遠い代物にドキドキするな……」
成る程な。箒は純粋な好奇心からフカヒレを注文したのか。
確かに、ファミレスなどに行くと思わずいつもは食べられないような品を注文したくなる。
けど、迷いに迷って結局はいつも頼んでいる物を注文してしまうんだよな。
「さっきの販売機、よく見たら箒が作ろうとしてた雑炊とかもあったな。つっても、まずは現物を見ないことには何とも言えないけど」
「私も織斑君に賛成だ。スープが大丈夫と分かった以上、もっと色々とチャレンジをしてはみたいが、それでもちゃんと調べるに越したことはないからね」
「うむ。確かめもせずに食べた結果、千影の体調が悪くなったら本末転倒だ。これに関しては慎重に行くしかあるまい」
「そうだね。けど今は……」
少なくなりつつあるスープを掬ってから一口。
これは本当に美味しいな。癖になりそうな味だ。
「今は、この食事を楽しみたいな」
「「賛成」」
こうして、私の初めての食堂での食事は非常に有意義かつ楽しい時間となったのであった。
明日の朝は何を注文しようかな?
力や知性ではなく、地道な努力こそが能力を解き放つ鍵である。
ウィンストン・チャーチル