無限転生 ~INFINITI DEAD END~ 作:とんこつラーメン
どこか悲しい音がする。
夏目漱石
それは、唐突に起きた事だった。
「すまない!」
「ごめん!」
「…いきなりどうしたんだい?」
放課後になった途端、いきなり箒と織斑君が私に向かって謝ってきたのだ。
何がなんだかさっぱり状況が理解出来ない私は、思わずその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
「実はな…今日はどうしても部活の方に顔を出さなくては行けなくてな…アリーナでの訓練には参加できそうにないんだ」
「確か、箒は剣道部に所属しているんだったっけ」
「そうだ。矢張り、私には剣道が一番だからな」
実家が剣道場を営んでいた上に、箒自身も中学時代には剣道部に所属し、全国大会で優勝まで掻っ攫っている程の実力者だ。
彼女が剣道部に入ろうと思うのは自然の事だろう。
「それは分かったけど、どうして織斑君も一緒に謝っているのかな?」
「俺もさ…剣道部に入ろうと思ってて、少し前に千冬姉に入部届を出しに行ったんだ。それで……」
「箒と一緒に行くという訳か。成る程ね」
確か、彼もまた小学生の頃に箒の父親が師範をしていたという剣道場に通っていたんだっけ。
箒が引っ越してからは剣道とも遠縁になってしまったらしいが、この機に再び剣道を始める気なのかな?
それはそれでいい事だと思う。彼の今後の事を考えると特にね。
「部活があるのならば仕方がないさ。今日はそっちの方を優先させるといいよ」
「「ありがとう!」」
…そこまで礼を言われるような事かな?
因みに、このIS学園は基本的に全校生徒に部活の入部義務というものが課せられている珍しい学校だ。
いや…IS学園自体が非常にイレギュラーな学校なのだから、他の高校での常識と比べるのは間違いか。
兎に角、急ぐ必要自体はどこにも無いのだが、最終的には必ずどこかの部活に入って行けなくてはいけない。少なくとも、一年生の間には。
「そう言えば、千影はどこの部活に入っているんだ?」
「皇さんから部活に関する話って聞いたことないよな」
「話す機会も無かったし、聞かれもしなかったしね」
もっと言えば、話す必要性も無いと思ってたし。
そんな事を知ったって、何の得も無いだろう?
「よければ教えてくれないか? 純粋に興味がある」
「俺も知りたいかも」
「ふむ……」
なんとも真っ直ぐに私の事を見るじゃないか。
ほんと…裏表がないというか、なんというか……。
「私は『生徒会』に所属しているよ」
「「生徒会っ!?」」
…そんなに驚くような事か?
「ま…また意外なチョイスだな……」
「てっきり、皇さんは茶道部とかだと思ってた……」
「私も」
「何で茶道部?」
「「物静かなイメージがあるから」」
「さよか」
まぁ…別にやろうと思えば出来なくはないけどね、茶道。
抹茶自体は普通に飲めるし、あの独特の苦みは癖になる味だ。
分かる人には分かると信じたい。
抹茶味系のデザートは普通に好き。アイスはギリギリ食べれるから。
あまり食べ過ぎると、ほぼ確実に数時間後に腹痛で苦しむ羽目になるけど。
「別に自分から生徒会に入ったわけじゃないよ。生徒会長から直々に誘われたのさ」
「まさかのスカウトかよ」
「しかも会長直々とは…普通に凄いな」
私も最初は驚いたよ。
本当は断ろうと思っていたんだけど、断ったら断ったで別の部活に入らないといけなくなる。
いずれは必ずどこかに入らないといけないのならば、いっそのことそのまま誘いに乗ってしまえば楽なのではと考えた結果、私はIS学園生徒会役員となったのだ。
余談だが、IS学園では生徒会もまた部活動の一環となっているので問題は無い。
「因みに役職は?」
「なんでか副会長をやらされてる。何故か今まで空席だったらしい」
「…どこからツッコめばいいんだ?」
「箒の気持ちは分かる」
私も最初は思わずツッコみたくなった。だが我慢した。凄く我慢した。
あの時の私は本当に偉いと思った。
「実の所、私も今日は生徒会室に来るように言われていたんだ。なので、こっちの事は気にする必要はないよ。遠慮なく部活に行ってきてくれ」
「そうか…分かった」
「皇さんも生徒会、頑張ってくれよな! んじゃ!」
そう言うと、二人は揃って教室から出て行った。
では、私もそろそろ行くとしますか…と思った矢先、私の方に近づいてくる人影が。
「ちっぴー!」
「…本音か」
IS学園広しと言えども、私の事を『ちっぴー』なんて変な渾名で呼ぶのは一人しかいない。
同じ一年一組の生徒であり、生徒会に所属し、何故か書記を任されている布仏本音である。
今までは色々とあったのでスルーしてきたが、こと生徒会が絡むと無視できなくなる。
なんでか妙に私に懐いているのも非常に謎だ。
「かいちょーから聞いたよ? 今日はちっぴーも生徒会室に来るんでしょ?」
「一応な。このまま幽霊副会長で通そうかと思ったが、そうもいかないらしい」
「にひひ~」
「何を笑っている?」
「ちっぴーと一緒に行けるのが嬉しくて~」
「…そっか」
本当に何を考えているのか分らない少女だ。
箒とは別の意味で裏表がないと言える。
え? 彼女は友達ではないのかだって?
いや…箒は単なるクラスメイトであり生徒会メンバーなだけだが?
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
…別に嫌いという訳ではないけどね。
「では、行くとするか」
「はーい!」
どうも彼女と一緒にいると調子が狂う気がする。
なんというか…ペースが乱されるんだよな。
気を付けないと、余計なことまで言ってしまいそうだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あ……」
本音と一緒に教室を出ていく千影を見て、思わず手を伸ばすセシリア。
千影から拒絶され、鈴たちと話をした後に彼女なりに色々と考えた。
過去を振り返り、自分がISを動かした切っ掛けを、その時の原動力を思い出す。
過酷な訓練の日々と、確実に強くなっていく感覚に喜びを覚えた時の事を。
ISを動かしていた時は嫌なことを全て忘れられた。
純粋にISで飛べることが楽しくて、特訓の末に様々な技術を身に付けられた時は心から嬉しかった。
いつからだろう。ISに乗っている時も他の事を考えるようになったのは。
国の為。家の為に負けられない。だって自分は代表候補生だから。
自分と一夏を隔てている物は『それ』だと思った。
一夏には『
それが『差』。一夏と自分の間にある『差』だ。
考えるのは後でいい。まずは前だけを向き続けろ。
それなのに、自分は何も成していいないのに『横』を向いてしまった。
だから千影は怒ったのだ。余計な事を考えていた自分に怒った。
「今日こそ…私の本当の想いを告げられると思いましたのに……」
あれからずっと、セシリアは機会を見つけては千影に話しかけようと試みているが、ずっと失敗に終わっている。
というのも、最近の千影の傍には常に箒か一夏のどちらかが、もしくは両方が一緒にいる事が多いからだ。
別に一夏も箒もセシリアにとっては見知っている仲なので普通に話しかけても何の問題も無いのだが。そこに千影という存在が加わると途端にセシリアはコミュ症になってしまう。
「いえ…ここで妥協してしまったら、それこそいつまでもお話が出来ませんわ! 今日こそ皇さんとお話ししなくては…!」
そう決めると、セシリアは千影と本音の後を付けることに決めた。
後ろから様子を伺い、隙を見つけて自然と話しかけるのだ。
本音が一緒にいることがネックだが、彼女に聞かれても問題は無いだろう。
だが、セシリアは後にこの行動を心の底から後悔する事になる。
本来ならば背負わなくてもいい物を、誰にも話せない秘密を抱えてしまう事になるのだから。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
私と本音が向かおうとしている生徒会室は、校舎内の一番奥ばった場所にある。
なので、向かおうと思うと必然的に上級生の教室の前とかを通過しないといけなくなるわけで。
「待ってたわよ、二人とも」
「かいちょー!」
「……ども」
二年生の教室の前を通りかかると、まるでタイミングを見計らったかのようにして教室から出てきた水色の髪を持つ二年生がいた。
彼女こそがIS学園の生徒会長にして、自由国籍とかいう意味不明な制度によって日本人であるにも拘らずロシア国籍を得て『ロシア国家代表』というとんでもない称号を持つ少女『更識楯無』その人だ。
ついでに言えば、彼女は日本の暗部である『更識家』の若き当主だったりする。
それを知っているのは本当にごく僅かだが。
なんでか私にだけは普通に教えてくれた。解せん。
因みに、この呑気そうにしている本音も暗部に人間らしく、更識家に昔から仕えている分家の人間らしい。人は見かけによらなさすぎだろ。
「んもー…千影ちゃん。もうちょっと愛想よくしないと男の子にモテないわよ?」
「別にモテたいとか思ってないし。というか、実に今更だが、どうして私なんかを生徒会に入れようと思ったんだ?」
「…千影ちゃんの事は『こっち』でも知っていたからね。それに、あのまま放っておいたら、いつまで経っても部活に入らなかったでしょ?」
「入りたいと思わせる部活が無かったしね」
暗部というわけあって、この生徒会長サマは私の『出生』のことも、デビルフィッシュの事もよく知っている。
IS学園で数少ない、私の『真実』を知る人間という訳だ。
因みに、本音は何も知らない。
「それじゃ行きましょ。虚ちゃんが先に行ってお茶の用意をしている筈だから」
「おぉ~! それは急がなきゃね~!」
「あ……」
お茶の準備をしていると聞いただけで本音の目が急に輝き始め、私達を置いて先に行ってしまった。
虚というのは本音の実姉であり三年生の『布仏虚』先輩の事だ。
生徒会の裏ボス的な存在と言っていい。
「廊下は走るなよー」
「はーい!」
一応、生徒会副会長として言っておく。
意味無いとは思うけど。
「私達も行きましょうか。本音ちゃんにケーキを全部食べられちゃうわ」
「それ、私がケーキを食べられない体だって知ってて言ってるだろ」
「……ごめんなさい」
「謝るぐらいなら最初から言わないでくれ」
この様子から察するに、今回は普通に失言をしてしまった感じか。
変に言い訳をせずに謝ってくれるだけ、まだマシかもしれないが。
そんな私でも紅茶ぐらいは飲めるからな。
今日の放課後は虚先輩の紅茶を味わうとするか。
どうせ、副会長なんて名ばかりで、実際には殆ど何もしてないしな。
私達は泣きながら生まれ
不平を言いながら生き
落胆のうちに死ぬ。
トーマス・フラー