無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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         出来るかどうかは知らんさ。
         それよりも、お前がそうしたいかどうかだろう?

                          ヨハン・ゲーテ







ついてく ついてく

「はぁ……」

 

 千影の衝撃的は告白を聞いてしまった次の日。

 セシリアは明らかに意気消沈していて、朝食であるトースト&サラダセットを前にして溜息ばかりを吐いていた。

 

「なんか今日のセシリア、ちょっと元気がないね」

「何かあったのだろうか?」

「さぁ? また『あの子』に何かして怒られたんじゃないの?」

 

 ここで鈴が言っている『あの子』とは、言うまでも無く千影の事を指している。

 あれ以来、鈴とシャルロットとラウラの三人は千影とは話す事は愚か近づく事すらも出来ていない。

 自分達が惚れている一夏と千影が一緒にいる時間が多くなっているにも拘らず、なんでか焦ったり嫉妬したりするような感情が湧き上がらない。

 本人達もその理由は分かっていないが、箒が常に傍にいたり、あの二人が恋愛関係に発展する光景が想像出来ないからだろう。

 

「朝っぱらから溜息ばっかり吐いて、一体どうしたのよ?」

「……え? な…なんですの?」

「聞いてないし……」

 

 鈴の言葉でようやく我に返るが、全く話は聞いていなかった。

 それだけ何かを気にしているという事だが、その理由が全く分からない。

 普通ならば、ここで気を利かせて回りくどい言い方で尋ねるか、もしくは黙って見守るかをするところだが、鈴はそういったまどろっこしい真似は余り好きじゃないので、ここは敢えてストレートに聞いてみることにした。

 

「セシリア…昨日、あの子…皇千影って子となんかあったの?」

「わ…私は別に……。というか、なんでそう思うんですの?」

「明らかに様子がおかしいからに決まってるでしょうが。さっきからずっと溜息ばっかり吐いてるし。そういや、昨夜辺りから既に様子がおかしくなかった?」

「そ…そんな事……ありませんわ……」

(((怪しい……)))

 

 冷や汗を掻きながら目を逸らすセシリア。

 どう考えても何かを隠しているのは明確だ。

 

「それって、あたし達にも言えない事?」

「それは……」

 

 顔を伏せながら口ごもる。

 その反応だけで、相当な秘密を抱えてしまっている事が伺えた。

 

「あ…一夏と箒。それに……」

「皇千影も一緒だな。あいつが朝の食堂に来るとは珍しい」

「えっ!?」

 

 千影の名前が出た途端、セシリアが激しく反応して彼女の方を振り向いた。

 これまでならば一夏の名前で反応していたのに、今回に限っては千影で反応した。

 セシリアの落ち込みに千影が深く関係しているのが確実となった瞬間だ。

 

 そんな風に推理をしている彼女達を尻目に、千影と箒と一夏の三人は仲良く販売機の前に立って朝食を何にするか話し合っていた。

 

「千影は何にするんだ?」

「私は…そうだな。このコーンポタージュにでもするか」

「いいんじゃないか? 朝と言えばコレなイメージってあるしな。んじゃ、俺はこの日替わり定食にでもするか。箒はどうする?」

「こっちの焼鯖定食にでもするか」

 

 スープ系が大丈夫と分かった日から、千影は積極的に食堂に赴くようになって食事を楽しんでいた。

 これまではずっと自分の先入観から諦めかけていた事が、まさかの提案を受けてから状況が一変し、まだ限定はされてはいるが食事出来る物が増えて僅かながら千影の学園生活が充実していた。

 

「ふーん…あの子、あんな顔も出来たんだ」

「とても、あの悪魔に乗っているとは思えないような表情だな」

「うん。どこにでもいる普通の女の子って感じだね」

 

 始めて見る千影の『少女』としての顔。

 鈴とシャルロットとラウラの三人の中での千影のイメージは、初対面の時の印象が強く残っているので、とても意外に見えていた。

 

「千影さん……」

 

 だが、千影の『秘密』を知っているセシリアだけは違った。

 彼女の元気そうな顔を見れば見るほど、胸が締め付けられるような思いになる。

 あの笑顔の下で、今日も千影は命の危機と全身を駆け巡る苦痛と戦っているのだと考えるだけで、また涙が出そうになってしまう。

 

「ちょ…アンタ、マジで大丈夫? なんか泣きそうになってるわよ?」

「私は平気ですわ…。千影さんの苦しみに比べれば、こんなの……」

 

 千影の苦しみ。

 セシリアが迂闊にも言ってしまった、その一言で三人は察してしまった。

 彼女は今の千影の体の事を知ってしまったのではないかと。

 流石に詳しい事は分からないが、それでもセシリアが知ってしまった事は相当な事なのだろう。

 普段はしっかりとしているセシリアが取り乱しかけるほどに。

 

 その時だった。

 食券を購入して並ぼうとした千影が突然ふらついて、よろけてしまったのだ。

 勿論、咄嗟に傍にいた一夏や箒が彼女を支えようとするが、それよりも先に動いた者がいた。

 

「千影さん!!」

 

 いきなり叫びだしたかと思ったら、セシリアが席から立ち上がって全力疾走で千影の元まで行き、倒れそうになった彼女の体を抱きとめたのだ。

 

「セ…セシリア?」

「びっくりした……」

 

 予想外の人物の登場に驚いて固まってしまった二人の傍で、セシリアは必死に千影に呼びかけた。

 

「大丈夫ですかッ!? どこか具合でも悪いんですのッ!?」

「い…いや、私なら心配ないよ。単なる軽い立ち眩みさ。というか……」

 

 キョトンとした表情で、かなりの至近距離でセシリアの顔を見つめる千影。

 本人は自覚していないが、かなりの美人である千影の顔を近くで見る事となったセシリアは、思わず胸をドキッとさせながら頬を赤くしていた。

 

「なんで君が? いや、私を助けようとしてくれた事に関しては感謝の意を述べるよ。ありがとう。だが、私は前に君に対して相当な事を言った筈だ。それなのに、どうしてこんな事を?」

「…千影さんの事が心配だったから…ではいけませんか?」

「いけなくはないが……」

 

 まさか、セシリアの口からそんな台詞が出るとは思っていなかった千影は、次の言葉が出ずに固まってしまう。

 

「千影さんが倒れそうになるのを見た瞬間、体が勝手に動いたんです……」

「咄嗟に…ってことかい?」

「そうなりますわね……」

 

 信じられなかった。

 少し前まで、一夏のご機嫌取りをする事ばかりを考えていた少女が、無意識に自分を助ける為に動いただなんて。

 初めて会った時とはまるで別人のように感じた。

 

「と…とにかく、もう大丈夫だ。心配を掛けて済まなかったね」

「いえ…千影さんがご無事ならば、それで……」

「では、失礼するよ」

 

 軽く手を上げてから、千影は箒と一夏にも謝罪をしつつ列に改めて並ぶことに。

 一時は食堂が騒然となったが、もう終わったと判断したのか、いつの間にか集まっていた生徒達は解散していった。

 

 だが、その様子を離れた場所から見ていた三人はそんな訳にはいかなかった。

 

「凄い勢いだったわね…セシリア」

「あんなセシリア、始めて見たかも……」

「皇千影が原因なのか…?」

 

 戻ってくるセシリアを眺めながら、鈴たちはずっと手が止まったままだった。

 だが、彼女達は知らなかった。

 ここからセシリアの謎の心配性が更にエスカレートしていくことを。

 

 不幸中の幸いなのは、食堂に千冬がいなかった事か。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 休み時間になり、千影はトイレをする為に席を立つ。

 勿論、それ自体は何もおかしなことではない。

 人間であれば誰しも存在している生理現象だ。

 

「…………」

「…………」

 

 廊下を一人歩く千影の背後にて、こそこそと物陰に隠れながら後を付ける一人の少女が。

 かなりの自意識過剰でもなければ、自分が付けられているなんて思わないだろうが、今回だけは違った。

 明らかに視線は自分に向けられているし、その視線には敵意などは含まれていない。

 

(まさかとは思うが……)

 

 『だるまさんが転んだ』の要領でバッと後ろを振り向くと、そこには慌てて隠れようとしているセシリアの姿があった。

 正確には靡いている金色の髪が見えただけなのだが、少なくとも千影はあんな風にロールしている金髪を持つ生徒はセシリア以外には知らない。

 

「なんだというんだ一体……」

 

 彼女の行動の真意が全く読めないまま、千影は女子トイレまで行くことになった。

 結局、教室に戻るまでセシリアのストーキングは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 それからもセシリアはずっと千影の後ろを歩き続け、昼休みに昼食に行く時や授業中もずっと千影の事ばかりを見ていた。

 それによって千冬に怒られたのは当然の事だった。

 

 そのまま放課後になったのだが、まだセシリアの尾行は継続している。

 

「まさか、アリーナの予約が全部埋まってしまっているとは……」

「こればかりはどうにもならないさ。そもそも、今までずっと継続して使えたこと自体が奇跡に近かったんだ」

「そういや、前に山田先生が言ってたっけ。基本的にアリーナの使用権限は上級生になればなる程に高くなるって」

「一年生…特にまだ一学期のこの時期は使えない事の方が当たり前なんだよ」

「訓練機も全て使われていたしな……」

 

 つまり、千影たちの放課後の予定が丸々潰れてしまった事になる。

 これから何をするべきなのかを考える為に、今はこうして食堂にて茶を飲みながら話し合っているのだ。

 

「…で、千影。あれはどうするんだ?」

「あれか……」

 

 三人から少し離れた場所にある席には、セシリアが一人座って紅茶を飲みながらこちらの様子を伺っていた。

 これまでならば一夏の事を見ていると思われたが、彼女の視線は明らかに千影一人に注がれている。

 

「朝のあれからずっと、皇さんの後ろを付いて行ってるよなセシリア……」

「あれではまるでストーカーだよ」

「千影の事を心配している…というのは理解出来るが……」

「ちょっと度が過ぎてるよな……」

 

 度が過ぎた心配。

 今朝の過剰なまでの反応。

 それらを考えた時、ある答えが千影の中に浮かんだ。

 

(まさか……)

 

 それを確かめようと席を立とうとした時、彼女のスマホにメールが届いた。

 差出人は虚からだった。

 

「どうした?」

「生徒会室から呼び出しだよ。溜まった書類を片付けるのを手伝ってほしいとさ」

「なんつーか…生徒会っていうよりは、まるで会社だな……」

「ある意味、どっちにも似たようなものさ。特に、このIS学園ではね。それじゃ、少し行ってくるよ」

「分かった。気を付けてな」

「あぁ。ありがとう箒」

 

 そうして千影が残った茶を全部飲み干し、その湯飲みを返却口に戻してから食堂を出ようとすると案の定、セシリアもそれに続くようにして食堂を後にした。

 

「セシリアの奴…あのまま指導とかされるんじゃないのか?」

「千冬姉辺りだと普通に有り得そうだよな……」

 

 千影とセシリア、両方の心配をしながら一夏と箒は茶を飲み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




          人は、海のようなものである。
          ある時は穏やかで友好的。
          ある時は時化て、悪意に満ちている。
          ここで知っておかなければいけないのは、
          人間も殆どが水で構成されているという事です。


                            アインシュタイン
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