無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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          生きる上で最も偉大な栄光は
          決して転ばない事にあるのではない。
          転ぶ度に起き上がり続けることにある。

                         ネルソン・マンデラ







きいてたな?

 メールで呼び出しをくらい、生徒会室への道を一人歩いていく千影。

 基本的に生徒会室に寄りつく人間は少ないので、近づけば近づくほどに人影は少なっていくものだ。

 そうだというのに、まだ後ろの方に誰かがいる気配がある。

 試しに左右を確かめてみるが、自分以外には誰もいない。

 思い切って振り返ってみようかとも思ったが、すぐに隠れられそうな予感がした。

 実際、自分の背後にいる相手はコソコソと物陰に隠れながらストーキングをしている。

 

「…………」

 

 ここでの最善の行動は不意を突く事。

 そう判断した千影は、廊下の真ん中で急に立ち止まり、前を向いたまま声を上げた。

 

「…いつまでそうして私を追いかけてくる気だい? セシリア・オルコット」

「っ!?」

 

 チラッと視線だけを後ろに向けると、物陰からはみ出している肩が明らかにビクッと反応した。

 どうやら、彼女にはスパイとしての才能は無いようだ。

 

「ぐ…偶然ですわね千影さん」

「はぁ…その下手な芝居は止めておいた方がいい。滑稽にしか映らない」

「うぐっ…!」

 

 どうして、その言い訳で通用すると思ったのか。

 冷たい視線を送りながら千影は疑問に感じらずにはいられない。

 

「というか、朝からずっと私の後を着いて来てるだろう?」

「な…何の事かしら? 私にはさっぱり…」

「そもそも、こっちには生徒会室しかないのだが?」

「わ…私も生徒会室に用事がありまして……」

「何の用だ? これでも私は生徒会副会長だ。ここで用件を聞こうじゃないか」

「そ…それは……」

 

 自分の髪を人差し指でクルクルとしながら明後日の方を向く。

 まるでギャグ漫画のキャラのようなリアクションに、千影は大きな溜息を吐いた。

 

「…実は、君に聞きたい事があるんだが」

「な…なんですの?」

「セシリア、まさかとは思うが君……」

 

 一体何を言われてしまうのか。

 なんとなくだがセシリアには想像がついていた。

 

「あの時…楯無会長と私の会話を聞いていたね?」

「はぅっ!?」

 

 なんて分かり易いリアクション。

 答えなんて聞くまでも無かった。

 

「参考までに聞きたいのだが、どこから聞いてた?」

「さ…最初から…ですわ……」

「そうか……」

 

 ここまで来た以上、変に隠しても意味が無い。

 そもそも、千影に嘘などの類が通用しないのは既に分かっていた。

 なのにどうして変な言い訳なんてしてしまったのか。

 今更ながら、セシリアは数秒前の自分を猛烈に殴りたくなった。

 

「千影さんともう一度だけでいいからお話をしたいと思っていたのですが…どうしても上手くタイミングが掴めずにいて、それで……」

「私の後を着けていたら、偶然にも話を聞いてしまったと」

「はい……」

 

 今度は嘘はついていない。

 セシリアは本当に偶然に聞いただけであり、その事をちゃんと反省しているようであった。

 

「ふぅ…聞いてしまったものは仕方がない。もしかして、朝の事も、今日一日に掛けてずっと私の事を後ろから見ていたのも、それが原因なのか?」

「えぇ……あの話を聞いてからずっと、千影さんの事が心配で……」

「…その気遣いだけは受け取っておくよ。悪意は無いようだしね」

 

 どこまでも純粋に自分の事を心配して、あんな過剰な反応をしてしまっている。

 そう考えると怒るに怒れない。

 

「ここまで来た以上、追い返すわけにもいかない…か。どのみち、会長に相談とかはしないといけないだろうしね。というわけだから、一緒に生徒会室まで来て貰えるかな」

「い…いいんですの?」

「いいもなにもない。君が来てくれた方が色々と手間が省けるからね」

「分かりましたわ。喜んでご一緒させて頂きます」

 

 そう言うと、セシリアは千影の横に並んでから、いきなり腕に抱き着いてきた。

 

「…なんで抱き着く?」

「こうしていないと、今にも消えてしまいそうなんですもの」

「…強ち否定も出来ないのが辛い」

 

 こうして、箒が見たら目を血走らせそうな格好のまま生徒会室へと一緒に行くことになった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「…成る程。それでセシリアちゃんが千影ちゃんと一緒に来た訳ね」

「そうなる。ところで、書類はまだあるのかい?」

「こちらに」

「どれどれ……」

 

 眼鏡を掛けた三つ編みの少女…虚から書類を受け取り、それと目の前にあるパソコンとを交互に見ながら凄まじい速度で入力していく。

 余りのタイピングの早さに指の残像が見えていた。

 

「え…えっと…もしや、タイミングが悪かった…ですかしら?」

「別に大丈夫よ。これぐらいは割と普通にあるから。あ、私が生徒会長で二年の更識楯無ね。よろしく~」

「そして、私は三年で整備課の布仏虚と申します。よろしくお願いしますね、セシリア・オルコットさん」

「よろしくお願いしますわ。ところで、布仏というと、もしや本音さんの…」

「はい。本音は私の妹です」

「やっぱり……」

 

 しっかり者の姉と怠け者の妹。

 完全に対極に位置する姉妹ではあるが、だからこそ仲がいいのかもしれない。

 

「会長。そっちの調子はどうだ?」

「ボチボチって感じ~。そっちはどう?」

「こっちも似たようなもんだ。あ、誤字発見」

「マジ? 修正できる?」

「この程度なら」

「ならやっといて。あら…こっちは計算間違いがあるわ」

「…任せた」

「はいは~い。他ならぬ千影ちゃんの頼みならね~」

 

 流石は会長と副会長。

 抜群のコンビネーションで次々と書類の山を片付けていく。

 

「最初、一年生の千影さんが生徒会副会長だと聞かされた時は耳を伺いましたけど、今は納得できましたわ……」

「でしょ? 次期生徒会長は間違いなく千影ちゃんよね~」

「悪いが、出来るかどうかも分からない事を約束する気はないよ」

「もしかしてって事もあるかもしれないでしょ? 未来は可能性で満ち溢れてるのよ?」

「可能性…ね」

 

 そう聞いて最初の頭に浮かぶのは、全身から心の光を放つ三体の可能性の獣達。

 覚醒の果てには神へと至る可能性すら秘めていた。

 

「オルコットさんは気になさらずに、紅茶でも飲んでいてください」

「あ…ありがとうございますわ。布仏先輩」

 

 虚に気を使われつつ、彼女の淹れてくれた紅茶を一口。

 その美味しさに、思わずセシリアは目を見開いた。

 

「お…美味しい…!」

「それは良かったです」

 

 こんなにも美味しい紅茶なんてイギリスでも飲めるかどうか。

 まさか、日本でこんな絶品の紅茶を飲めるとは想像もしていなかった。

 

「お嬢様。千影さん。もうそろそろ御休憩をなさってはいかがですか?」

「そうね…丁度キリがいいところだし」

「私も賛成だ。これは、小休止を挟みながら頑張らないと、先にこっちが潰れてしまうよ」

 

 大きく背中を伸ばしながら千影も頷く。

 そうして、生徒会室は一気にリラックスした空気に包まれる。

 

「…それで? やって来て早々に仕事をして貰って話しそびれてたけど…セシリアちゃんがあの時の話を聞いてたってホント?」

「そうらしい。そのせいで、半ば私のストーカーになりかけてたし」

「うぅ…それは言わないでくださいまし……」

 

 幾ら心配だったとはいえ、流石にやり過ぎたと今では猛省している様子のセシリア。

 本人が悪いと思っているのならば、これ以上は何も言わない。

 

「にしても…そっか…聞いちゃったか……」

「はい……」

 

 身近なクラスメイトの寿命があと僅か。

 そんな事、普通の学園生活ならばまず考えもしない事だ。

 だが、それが確固たる現実として今そこにある。

 本人は全てを受け入れているが故に涼しい顔をしているが。

 

「大丈夫だとは思うけど、千影ちゃんの事…誰にも話してはいないわよね?」

「も…勿論ですわ! というか…これだけは絶対に誰にも話すべきではないと思ったというか……」

「賢明な判断だわ。学校という場所は一種の閉鎖社会なの。少しでも変な噂が立てば、それはあっという間に端まで広がっていく。その途中で余計な尾鰭や背鰭をくっつけてね」

「変に注目されるのだけは絶対に御免だからね。だからこそ、私だってこの事は誰にも話さないようにしている訳だし」

 

 なんてことを言ってはいるが、千影本人は全く気が付いていない。

 今や、学園で一番の有名人となっている一夏と行動を共にする機会が増えた事で、必然的に千影にも注目が集まってきている事を。

 

「ところで…更識先輩と布仏先輩は、一体どこで千影さんの体の事を知ったのですか?」

「あぁ~…それね」

 

 眉を顰めながら虚と顔を見合わせる楯無。

 どうやら、彼女達も余り良くない状況で彼女の余命について知ったようだ。

 

「…あれは確か…まだ新学期が始まってから少ししか経ってない頃…アナタと織斑君が決闘騒動をしていた頃かしら」

「うぐ…!」

 

 己にとっての黒歴史を、まさかこんな形で掘り返されるとは。

 思わぬ不意打ちにセシリアは胸を押さえ込んだ。

 

「あの事に関しては今更どうこう言うつもりはないわ。問題はそこじゃないし」

「当時、私達はお嬢様の専用機の整備をする為に整備室に足を運んでいました。するとそこに……」

「苦しそうに顔を歪めながら倒れ込んでいる千影ちゃんを発見したって訳」

「息も絶え絶えになっていて顔も真っ青になっているのを見てただ事じゃないと判断した私達は、すぐに保健室に彼女を運びました」

「幸いなことに、保健室には誰もいなかったから無断でベットを借りて千影ちゃんを休ませたのよね。で、その後に意識を取り戻した彼女から事情を聞いたって訳」

 

 同意を求めるように千影に視線を向けると、いつの間にか淹れてくれていた虚の紅茶を静かに味わっていた。

 

「あの時、私はターミナスの整備と点検、それから軽い慣らしをやっていたんだ。でも、慣らしとはいえアレに乗る以上は必然的に……」

「薬を打つ必要がある。その副反応で倒れてしまった…と」

「あぁ。目が覚めた時に二人から何度も問い詰められてね。大人しく観念して白状したってわけさ」

「その際、千影ちゃんは誰にも言わないように私達に頼み込んだの。騒ぎにだけはしたくない…ってね。それには私達も同意出来たし異論は無かった。けど、情報ってのはどこから漏れるか分からないのが常。だから…」

「千影さんには生徒会に入って貰う事にした…というわけです」

「入部をする部活に困っていた私からすれば大助かりだったけどね。その後、いつの間にか副会長になっていた時には普通に驚いたけどね」

 

 ある日突然に学園のナンバー2に就任させられていたのだから、例え千影でなくても驚きは隠せないだろう。

 実際、千影は副会長になった事を知らされた時、真顔で固まっていた。

 

「後は、私達がボロを出さなければ大丈夫…の筈だったんだけどね…油断してたわ」

「生徒会室の近くだからと言って、廊下で話したのは拙かったな。今後はもっと気を付けなければ」

「そうね。不幸中の幸いは、聞いたのがセシリアちゃんだった事ね。これがもし薫子ちゃんとかだったりしたら……」

「次の日は愚か、10分後には学園中に広まっていただろうな……」

 

 因みに、ここで名前の挙がった『薫子』とは『新聞部』の副部長で整備課でもある二年生の『黛薫子』の事を指している。

 セシリアは以前に一度、一夏のクラス代表就任パーティーの際に知り合っている。

 

「そ…そんなに凄いんですの?」

「まぁね。三度の飯よりも噂話が好きな子だし」

「新聞を読んで貰う為なら平気で捏造とかしますしね」

「そういえば、あの時もそんな事を言ってたような気が……」

 

 決して性根が悪い少女ではないのだが、どうも自分に正直すぎるきらいがある。

 なので、生徒会としても目の上のたんこぶなのだ。

 

「それはそれとして。千影ちゃんの事は今後も黙っておいて頂戴」

「承知しておりますわ。特に…一夏さんや箒さんには絶対に言えませんわ…」

 

 あの二人が千影の余命について知ってしまったら、どんな反応をするか。

 今のセシリアには手に取るように分かってしまう。

 

「それと、織斑千冬にもな」

「織斑先生にも?」

「あぁ。理由は分からないが、あの女は私にしつこく迫ってくることがある。その度に教師風を吹かせられる方は溜まったもんじゃない」

「あの織斑先生が…ねぇ……」

 

 傍から見ていると、贔屓とかはしないような感じがしているが、楯無と虚は千影から指摘を受けてから改めて彼女の事をよく観察する事で、その考えが間違っていた事を知る。

 それ故に彼女についてもそれなりに注視はしていた。

 まさか、千影に近づいていたのは知らなかったが。

 

「了解よ。織斑先生にも黙っておきましょう。当然、副担任の山田先生にもね」

「それが宜しいかと。あの先生は信用は出来ますが、ふとした拍子に口を滑らせる可能性がありますから。用心を重ねるに越したことはありません」

 

 虚の言った事に全員が強く頷く。

 こうして、図らずもセシリアも彼女達と同じ秘密を共有することになったのだった。

 

「そういえば、本音さんもこの事は知っているんですの?」

「いいえ…千影さんに懐いているあの子には、余りにも酷な現実ですから…」

「そうですわね……」

 

 あの明るい少女が千影の近い未来の事を知ってしまったら、絶対に悲しみに暮れてしまうの違いない。

 最悪、立ち直れないぐらいの心の傷を負ってしまうかもしれない。

 

「その本音は今日は呼んでないのか?」

「…あの子が、この手の仕事で戦力になると思う?」

「あぁ……」

 

 一応、生徒会書記であるにも関わらず、書記らしいことを一切していないとはこれいかに。

 自分がいない所で密かにディスられている本音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




            辛い想いは全てプラスになる。
            苦しかった事、悲しかったことが、
            いつか必ず花開く時が来る。
            辛いこと、悲しい事は
            幸せになる為に必要事項。
            花開き、実を結ぶ時に
            辞めてしまってはいけない。

                         三輪明宏


 
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