無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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             人生はどちらかです。
             勇気を持って挑むか。
             棒に振るか。

                     ヘレン・ケラー








                      


ゆめであるように

「臨海学校?」

 

 それは、私が生徒会室にていつものように書類整理をしている時だった。

 徐に楯無会長がそんな事を言ってきたのだ。

 

「そうよ。この時期になると毎年、一年生はここからバスで二時間ぐらい行った所にある海沿いの旅館『花月荘』に二泊三日の間、宿泊しているの」

「二泊三日…か。しかし、林間学校なら聞いたことはあるが、臨海学校とは初耳だな」

「まぁ…私も割と今時では珍しいとは思うわよ。夏休み直前の時期に行くんだから」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 徐々に気温が上がってきているとはいえ、まだまだ夏本番とは言い難い。

 いや…だからなのか?

 

「この時期ならば、まだ海にも観光客などが少ないからでしょうね」

 

 私達に紅茶を淹れながら、虚さんがこちらの思った事をそのまま言ってくれた。

 前々から思っていたが、この人はどうも鋭すぎやしないか?

 

「一年が行っていた…ということは、去年は会長達が行ったのか」

「そうなるわね。スケジュールは全く変わってないと思うから、今のうちに教えてあげましょうか?」

「ふむ…そうだな。別に、先に知っておいても問題は無いか」

 

 そこまで何かを期待している訳ではないからな。

 私は他の皆とは違い、海や夏に対してそこまでの思い入れは無い。

 

「まず、一日目は基本的に自由時間で、何をしていてもいいわ。と言っても、殆どの子達は海に行って遊ぶんだけど」

「だろうな。では二日目は?」

「ISの実地研修。流石に、その内容は毎年変わっているわ。別に、そこまで小難しい事はさせないとは思うけど」

「遊びまくった次の日に面倒くさい事をさせられたら、誰だってモチベーションが下がるだろうしな」

 

 因みに、私の場合はそんな事は無い。

 何故かって? 最初からモチベーションなんて無いからだよ。

 

「本音は臨海学校の事は知ってたのか?」

「うん。お姉ちゃんから教えて貰った~」

 

 そう言えば、こいつは虚さんの妹だったな。

 性格が真逆すぎるから、どうも忘れがちになってしまう。

 

「ところで、千影ちゃんはもう水着は買ってあるの?」

「水着?」

「そうよ。一日目の自由時間は、皆が各々に好きな水着を着て過ごしていいの」

「水着…ねぇ……」

 

 学校指定の水着ならばともかく、プライベート用の水着なんて一着も持ってない。

 特に拘りも無ければ、見せたい相手もいないし、無理をして買う必要はないのでは?

 

「千影ちゃん…今『別に無理して買わなくてもいいんじゃない?』って思ったでしょ」

「何故バレたし」

「そんな顔をしてたからよ。千影ちゃんも女の子なんだから、偶にはファッションを気にした方がいいわよ? そんなに美人なんだから、着飾らないと勿体無いわ」

「そう言われてもな……」

 

 何が自分に似合うとか全然分からないし。

 一人で水着を買いに行くのは流石に抵抗がある。

 

「今度の休みの日にでも、箒ちゃんやセシリアちゃん達と一緒に行って来たら?」

「あの二人とか……」

 

 なんだろうか…着せ替え人形になる未来しか見えない。

 夢見る双魚を使わなくても分かるぞ。

 

「私も一緒に行く~」

「本音もか?」

「うん! チカチカに可愛い水着を選んであげる~!」

「嫌な予感しかしない……」

 

 本音の感性は私達とはかなりズレているからな…。

 好きにさせていたら、それこそ何を着せようとしてくるか分からない。

 彼女の事だから、勝手についてきそうだしな…。

 って、なんかもう行くことを考えてる?

 

 …私も段々とこの学園に染まってきているのか……。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 部屋割りの都合上、一人部屋となっている千影は中々に寝つけずに静かな夜を暗闇とベットの中で過ごしていた。

 

(あの時…私が夢見る双魚のスフィア・アクトで見たビジョン…。銀色の機械天使が紅と白のISと戦っている光景…あの背景は確か澄み切った青空だった。まさかとは思うが、今度行くと言う臨海学校でなにかあるんじゃないだろうな…)

 

 楯無から臨海学校の話を聞いた時から、ずっとその事が頭の中で引っかかっていた。

 基本的に、夢見る双魚は遠い未来のビジョンは見せない。

 見せるのは近い未来のビジョン。

 一番近いのでは数分後から数時間後の未来。

 一番遠いのでは数日後や数週間後。

 一ヶ月以上や一年以上の未来は見通す事は出来ない。

 

(正直、最初は臨海学校なんて行くつもりは無かったが…あのビジョンが臨海学校で起きる何かを示しているのならば…行かない訳にはいかないか)

 

 友達は守る。例え、何を犠牲にしても。

 その結果、彼女達を悲しませることになったとしても。

 友達の命は何にも代えがたいのだから。

 

(もしかしたら…今度の臨海学校が、この世界における私の命日になるかもしれないな……)

 

 体の具合から、自分が戦える…ターミナスに乗れる回数はあと僅かであると認識している。

 これ以上、薬を使っての戦闘は機体よりも先に体の方が限界を迎えるだろう。

 だとしても、やるしかない。やる以外の選択肢は無い。

 

(ん…なんだ?)

 

 いきなり、枕元に置いているスマホが揺れた。

 夜なのでマナーモードにしてあるのだ。

 

(メール…? 一体誰から……)

 

 メールボックスを開いて確認してみると、その相手と内容に千影は目を見開いた。

 

「これは……」

 

 目を動かして一文字一文字読んでいく。

 全て読み終わった後、すぐにメールを削除した。

 

(まさか『アレ』を用意するとはな…。いよいよ本格的に私の事を切りに来たか。まぁ…無理もないか。壊れかけの玩具をいつまでも使い続けるほど、奴等も暇じゃないだろうしな…)

 

 スマホを閉じてから再び枕元に置き、モゾモゾとベッドの中に潜り込んでから体を丸くする。

 それから程なくて、千影は静かな眠りに付いた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 教室に担任がやって来てHRが始まる。

 始まる寸前に織斑君がシャルロット・デュノアに抱えられてやってきたが、何かあったのだろうか?

 校舎内で堂々とISを展開していた事で、二人は揃って放課後に教室の罰掃除を命じられていた。

 こればかりは仕方がない。幾ら遅刻するかもしれないとはいえ、校則を破ってはいけない。

 というか、どっちにしろ罰を受けるのであれば、大人しく遅刻をしておいた方がまだマシだったんじゃなかろうか?

 

「来週から始まることになる『校外特別実習期間』だが、決して忘れものなんてするなよ? たった三日間だけとはいえ、この学園から離れることになるのだからな。自由時間に羽目を外し過ぎて迷惑など掛けないように」

 

 校外特別実習期間って…臨海学校と普通に言えないのか?

 どうして小難しい言葉を無理に使おうとする?

 背伸びをしているのが見え見えだ。

 

 因みに、今日は副担任である山田先生は来ていない。

 なんでも、臨海学校に向けての視察に行っているのだとか。

 視察って…去年も同じ場所に行ったのだろう?

 それなのに、どうして視察が必要になる?

 

(いや…違うな。実際には視察という名の休暇だ。山田先生はあんな女の元で副担任なんかさせられているんだ。私達が想像している以上にストレスも溜まっている事だろう。こんな時ぐらい、ゆっくりと休ませてあげないと)

 

 山田先生には色々と同情する部分があるからな。

 偶には一人でのんびりと羽を伸ばしてきてほしい。

 

「では、これで朝のHRを終了する。号令」

 

 終わりか。

 織斑君達のせいで、朝から妙に濃い時間だったな。

 本当に、この一年一組に平穏は無いのだろうか?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 昼休みになり、皆で一緒に昼食を取っていると、隣に座っていた箒が意外な一言を言ってきた。

 

「千影は今度の臨海学校用の水着は持っているのか?」

「いや…持ってないな。そもそも、プライベート用の水着は一着も持っていない」

「それはいけませんわ! 千影さん!」

 

 私の身体の事がバレてから、普通に私達と行動を一緒にするようになったセシリア(本人がそう呼んでほしいと言ってきた)が急に叫んだ。

 一体、何がいけないのだろうか。

 

「今年の夏は今年しかないんですのよ? それを学園指定の水着で過ごすだなんて勿体無いですわ」

「君も会長と同じような事を言うんだな、セシリア……」

 

 私の周りの人間の思考回路は意外と似ているのかもしれない。

 こちらの事を考えてくれるのは嬉しいが、それとこれとは話が別な訳で。

 

「セシリアの言う通りだ。折角だし、今度の休みにでも一緒に買いに行かないか? 私も新しい水着を買おうと思っていたんだ」

「しかしだな…そもそもの話、私のような貧相な女に似合う水着なんてあるのだろうか?」

「いや…言うほど貧相ではないと思うぞ?」

 

 なんでか顔を赤らめながら言ってのける箒。

 そんなに恥ずかしい事か?

 

「なんでしたら、私が千影さんの水着をコーディネイトさせて頂きますわ」

「セシリアが?」

「えぇ! 必ずや千影さんにお似合いな水着を見つけてみせますわ!」

「そこまで言うのなら……」

 

 彼女の善意は無下に出来ないし、どんな水着を選んでくるのかも興味がある。

 まぁ…過度な期待はしないでおくが。

 

「私も一緒に行く~」

「本音…いつの間に」

 

 話をしている間に本音もやって来ていたようで、普通に話に入ってきた。

 そういえば、この前から一緒に行く的な事は言っていたな。

 

「つーか、皇さんってスタイルいいから、どんな水着でも似合いそうだけどな」

「ちょっと待ってくださいまし。どうして一夏さんが千影さんのスタイルの事を知っていますの?」

「いや、それはアレだよ。皇さんにISの事で教えて貰う時にISスーツ姿を見てるから……」

 

 私のISスーツは他の皆とは違って、首から下の全身に渡って素肌にぴったりとフィットするタイプのもので、見ようによってはモロに体のラインが出ていることになる。

 前に会長から『そっちの方が逆にエロい』と言われてしまった。

 あれ…動き易くて割と気に入ってるんだがな。

 

「そういえば、千影さんのISスーツはかなり特殊でしたわね…」

「機体が機体だからな。スーツの方も特殊になりがちなのさ」

「確かに、全身装甲タイプのISに乗る際には、専用のスーツに着替える必要があると教わった事がありますわ」

 

 流石は代表候補生。授業では習わないような事も知っているか。

 話が早いのは普通に助かる。

 

「一夏…あれほど、千影の事を変な目で見るなと言っているのに…!」

「あっ!? いや、違うんだぞっ!? 自然と目に入ってしまうと言うか、不思議な魅力があるって言うか……」

「どっちも一緒だ! ったく…一夏。今度の水着の買い出し、お前も一緒に来い。罰として荷物持ちをしろ」

「えっ!? いや…別にいいか。普段から皇さんには世話になってるし、少しは恩返しをしないといけないしな」

「そうですわよ。唯でさえ、千影さんはお身体が余り丈夫な方とは言い難いのです。紳士として、一緒に来るのは当然ですわよ? 一夏さん」

 

 なんか、自然な流れで皆で一緒に水着を買いに行く流れになってるんだが…。

 正直、今から不安しかないんだが…本当に大丈夫だろうか?

 織斑君はブレーキ役としては少々、頼りないしな…。

 本音に至っては、一種の暴走特急みたいなもんだし。

 この際、誰でもいいからこのメンバーを御せる人間が一緒に来てくれ…。

 

 

 

 

 

 

 




           疑わずに最初の一段を上りなさい。
           階段の全てが見えてなくてもいい。
           兎に角、最初の一歩を踏み出すのです。


                          キング牧師



 
             
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