無限転生 ~INFINITI DEAD END~ 作:とんこつラーメン
いつもはおわったらけしちゃうけど、こんかいはほんとうにいみがない。
なんにもなんにもしなくても、どうせすぐになにもなくなる。
ひとも、どうぶつも、いきとしいけるものはみんないなくなる。
ゆめみるそうぎょはなにもしない。しなくてもいいからなにもしない。
なんにもせずにおぼえていることが、やつらにとってのばつになる。
さいごのさいごにこうかいして、ぜつぼうのふちにしずんでいく。
はめつのかねはなりひびく。せかいじゅうでなりひびく。
それにきづかずひとはおどる。あくまのちからによろこびおどる。
ゆめみるそうぎょはなにもしない。ばかはしんでもなおらないから。
【民名書房刊『ゆめみるそうぎょはなにもしない』】から抜粋。
いきなり始まった『的当てゲーム』という名の試合が始まり、そしてあっという間に終了した。
時間にして僅か5分程度の出来事なのだが、実際に試合をやっている一夏や、それを見ている者達にとってはその何倍もの時間に感じられた。
「な…なんだあれは……」
目の前で繰り広げられた圧倒的なまでの蹂躙劇に、箒は大きく目を見開きながら体を震わせる。
自分と同い年の少女が、あんな異次元の動きをやってみせたのだ。
彼女でなくても同じようなリアクションは取ってしまうだろう。
だが、専用気持ち達は彼女とは別の意味で驚愕していた。
「的当てゲームって…なんなのよマジで……」
「間違いないよ…皇さんは、デビルフィッシュの性能を100%…いや、120%引き出せている…!」
「あれは…『
「
勝負の勝ち負けよりも、デビルフィッシュが見せつけた性能に戦々恐々する。
通常のISは愚か、並の専用機でも追従は不可能な程の加速度。
それを操る千影の能力と合わせて、間違いなく彼女こそが一年最強の専用機持ちだと誰もが嫌でも理解した。
「織斑先生……」
「分かっている。もしも本当に『投与』した状態で動いていたのならば、皇の身が危険だ。今すぐでも向かわなくては…」
心配そうにこちらを見る真耶に力強く頷く千冬。
どれだけ嫌われていようとも、もう関係ない。
そんな悠長な事を言ってられる状況では無いからだ。
「山田先生。ここは頼みます。私は……」
千冬が向かい側のピットへ行こうとした時、一夏が無言でピットへと戻ってきた。
その表情は暗く、一言も発さない。
「…………」
「ど…どうした一夏…?」
「負けた…負けたよ……」
「え?」
「何が『一機倒すごとに100点入る』だよ…ふざけんなよ……」
「一夏……」
確かにスコア上では一夏は勝利している。
だが、それは間違いなく仕組まれた勝負。
最初から自分が勝つことが決まっていた出来レース。
こんな事で勝ったとしても、一夏は微塵も嬉しくは無かった。
「ドローンの数は100機。で、一夏は一機倒すごとに100点入る…ね。それってつまり…」
「この勝負、皇さんが勝つには一夏に何もさせない状態で全てのドローンを撃破する必要があった…」
「たった五分の間でしたけど…ハッキリと理解出来ましたわ。その気になれば、余裕でそれぐらいは出来たであろうと…」
「それを敢えてしなかったのは、一夏に勝たせる為…か」
「…………」
すぐ傍で候補生達が冷静に今回の事を分析し話し合う。
それを横で聞いていた一夏は、ISを解除しながら悔しさで拳を握りしめていた。
「…私は今から皇の所に行ってくる。織斑、お前は着替えたら帰って構わん」
「あぁ……」
姉の言葉にも空返事。
だが、今は落ち込んでいる弟に構っている暇はない。
自分のクラスの生徒が本当に命の危機かもしれないのだ。
「わ…私達も行きますわ!」
「流石に、多少なりとも事情を知っている身としては、このまま放っては置けないでしょ!」
「そうだね。このままじゃ皇さんが危険だよ」
「軍人として、ここで棒立ちをしているわけにはいかん…か」
「…好きにしろ。何を言われても知らんがな」
「「「「はい!」」」」
そうして、千冬を先頭にして、セシリア達も一緒に向かい側にピットに急ぐ事になった。
残されたのは、真耶と箒と一夏だけ。
だが、場には物凄く重苦しい空気が漂っていた。
「……着替えてくる」
「あ…あぁ……」
今までにない落ち込みように、箒と真耶は互いに顔を合わせて困り果てるのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試合という名のお遊びを終えて、私は急いでピットへと戻ってきた。
もう正直、複数の意味で体が限界に来ていたからだ。
「解……除……」
頭の中で思考するのもキツかったので、声に出してから機体を解除することに。
本当は声を出す事さえも相当にキツかったけど、背に腹は代えられない。
「ぁ……」
ターミナスを解除した途端、着地に失敗してその場に倒れ込んでしまった。
どうしよう……めっちゃしんどくて眠たい…。
いつもながら、薬の効果は絶大だな…。
「ぐ…ぅぅ……」
全身の力を振り絞ってから辛うじて立ち上がろうとするが、それでも四つん這いになるのが精一杯。
今の私は間違いなく『生まれたての小鹿』だな。
(あ……こんな時になんでか『夢見る双魚』のスフィア・アクトが少しだけ発動した…)
…ヤバいな。よりにもよって、今一番来てほしくない連中がこっちにやって来ようとしてる。
急いで立ち上がってから着替えて、早く部屋に戻らないと……。
「皇!! 大丈夫か!?」
…来たよ。あー…もう…なんでこうなるんだよ……。
「おい! しっかりしろ!!」
「あれ…だけ言われて…どうして…戻ってきたんだよ……」
「私が一組の担任で、お前が一組の生徒だからだ」
「くだらない……」
本当に嘘を付くことが好きな女だな…こいつは。
心配そうな芝居までして…どれだけ媚を売りたいんだ。
だが、担任の肩を掴む事でやっと両足で立ち上がる事が出来た。
ここまで来れば、後はもう更衣室まで行くだけだ。
「ちょ…あんたねぇ!」
「いいんだ凰! いいんだ……」
「織斑先生……」
なんだ…? このツインテールの小娘は…。
どこかで見た事があるような気がするが…上手く思い出せない。
「足元がふらついているぞ。どら、肩を貸してやろう」
「触るな……」
「なに?」
私の身体に触れてこようとしてきた銀髪眼帯女を手で払う。
力が入らないから、物凄くゆっくりだったけど。
「わ…私達はあなたの事が心配で!」
「嘘を…つくなよ…」
「え?」
イギリスのお嬢様が何か言ってるけど、お前達の魂胆は分かってるんだ。
あぁ…見える見える。こいつらからもよく見えるよ。
真っ黒でドロドロな欲望が。
「…惚れた男への点数稼ぎに…私の命を利用しようとするな……」
「ぼ…僕達は別にそんなつもりじゃ……」
「うるさいな……そこをどけよ…フランス人……」
男装フランス女が『まるで自分達こそが被害者です』って顔をしながらこっちを見ているが、その態度こそがお前達の性根の表れだ。
私は知っている。本当に誰かを心配している者は、余計な事なんて言わずに手を差し伸べてくれるんだ。
言葉じゃなく、行動で示してくれるんだよ。
それなのに、お前達は何だ? 少し何かを言われた程度で引きやがって。
別に死ぬこと自体は全く怖くはないが、こいつらの道具にされるのだけはまっぴら御免だ。
私の命の使い方は私が決める。いつだってそうしてきたんだ。
どんな世界に転生しても、私は私自身が納得した死に方をしてきた。
お前達なんかに利用されてたまるか。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
あと…少し……あと少しで…着く…。
「よし…!」
更衣室の扉が自動で開き、私は流れ込むようにして中へと入る。
扉が閉まってから、私は誰も見ていないのをいい事に這い蹲るようにしてから自分の着替えが入っているロッカーへと進んでいく。
我ながら本当にみっともないとは思うが、薬の影響で四肢が思うように動いてくれないのだから仕方がない。
(最後の力を振り絞れ…私…!)
ロッカーに手を付きながら立ち上がり、震える手で開けてから着替えを取り出す。
別に制服自体はISスーツの上から着れば問題無いので、このまま着替える事に。
それ以前に、もう私にはスーツを脱ぐほどの気力が残されていないんだけど。
(ボタン一つ閉めるのも一苦労…か)
一つ一つ確実にボタンを閉めていき、10分以上掛けてようやく着替え終えた。
本当に厄介だよ…ターミナスはさ…。
薬の効果自体はそこまで長引かない。元より『搭乗時のみの効果』に限定してあるから。
だからと言って、すぐに無くなるって訳でもないが。
降りてからも暫くは効果が持続するので、それが本当の勝負だ。
あぁ…一刻も早く自分の部屋に戻ってから、ベッドの上で寝たい…。
「あ…ぅ……」
制服に着替えるので残る力を使い果たしてしまったのか、私はそのまま後ろにあった長椅子に倒れ込んでしまった。
その勢いで横になってしまい、そこで凄まじい睡魔が襲ってくる。
(まだだ……まだ…私は……)
ここで諦めたら、それこそ奴らの思う壺だ。それだけは絶対に許容できない。
なに…一休みして薬が抜けさえすれば、後はどうにでもなる…。
正真正銘、今の自分の最後の力を振り絞ってから立ち上がり、更衣室の出入り口まで向かう。
前までならば、とっくの昔に意識が混濁してダウンしている所だが、ここまで体を動かせるのは恐らく私の身体が薬に慣れてきたんだろうな…。
それでも苦しい事には変わりないんだけど。
(全身がピリピリする…。神経覚醒剤の影響か……)
半ば転がるようにして出入り口のドアへとぶつかっていき、私の身体が触れる直前に自動で開いてくれた。
そのお蔭で私は難なくアリーナの廊下へと出る事が出来たが、勢い余って壁へとぶつかった所で本気の限界がやってきてしまった。
(は…やく…へや…に…かえ…って……)
そこで、私の意識は真っ暗になった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
副担任と一緒に残されてしまい、どうすればいいのか分からずにいた箒であったが、真耶の『篠ノ之さんも戻っていいですよ』の一言に救われ、皆を追いかける為に廊下へと出ていた。
「更衣室には一夏はいなかったな。もう寮へと戻ってしまったんだろうか…」
一人寂しくトボトボと廊下を歩いていると、いきなり近くにあった扉が開いて、そこから一人の少女が倒れ込むようにして出てきた。
基本的に一夏と取り巻きの少女達以外とはあまり交流が無い箒は、当然のようにその少女が今回の一夏の対戦相手である千影であるとは分からない。
「お…おい!? しっかりしろ! 大丈夫かっ!?」
急いで駆け寄って体を揺らしながら話しかけるが、全く返事が無い。
この様子からして無視をされている訳ではないと察した箒は、急いで彼女の体を抱き上げる。
その際に千影の目が固く閉ざされているのに気が付き、彼女が気を失っていることが分かった。
「これは…本当に大変なのではないかッ!? まずは先生達に…って、そんな暇はない! こんな所で気を失うという事は、それだけの事があったという証拠…! 急いで保健室に連れて行かなくては!」
千影の事をお姫様抱っこしてから、保健室まで走っていく。
本当ならば廊下を走るなど論外だが、今は緊急時という事で許して貰おう。
(こいつ…軽い? いや…
千影の異常なまでの体重の軽さに疑問を覚えながらも、何も知らない箒は彼女を保健室まで運んで行くのだった。