無限転生 ~INFINITI DEAD END~   作:とんこつラーメン

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人間関係は何故にこれほど難しいのか。
それは、人間にはもともと社会性が無いからです。



            アルボムッレ・スマナサーラ(スリランカの僧侶)













ばかばっか

 千影が保健室に担ぎ込まれた日の夕方。

 時間は6時を回り、寮の食堂では夕食を楽しむ生徒達で賑わっていた。

 

 その一角、いつもならば一夏を中心として一年の専用機持ちが集まっている場所は、今日は何故か誰一人として喋ろうとしない。

 集まってはいるが、普段とは明らかに様子がおかしい。

 まず、一夏がこの場にいない。

 部屋にいるのか、それとも別の場所にいるのかは定かではないが、とにかく彼は食堂には来ていなかった。

 

「「「「…………」」」」

 

 もう一つは、専用気持ち全員の表情が暗すぎる事だ。

 セシリア。鈴。シャルロット。ラウラ。

 四人共が無言で食事を口に運び続けている。

 そこに、そんな彼女達の事情なんて全く知らない少女がいつものように近寄ってきた。

 

「待たせて済まない…って、お前達どうした? 様子が変だぞ?」

「箒さん……」

 

 まるで幽鬼のような動きで箒の事を見るセシリアだったが、すぐに視線を戻して食事を続ける。

 小首を傾げつつも、自分の食事が載ったトレーを置いてから空いた席に座る。

 手を合わせて『いただきます』と言ってから少し遅れた夕食を開始した。

 

「そういえば一夏の奴がいないな。どこに行ったんだ?」

「一夏なら部屋にいるわ。今日は余り食欲が無いんですって」

「食欲が無い? 珍しい事もあるもんだ」

 

 箒から見ても、明らかに試合後の一夏の様子はおかしかったが、だからといってそれと夕食を抜くことが彼女の中では繋がらず、すぐに気にしなくなってから食事を再開する。

 

「それよりも千影から聞いたぞ。お前達、どうしてアイツを本気で助けてやろうとしなかったんだ?」

「…ちょい待ち。なんで箒があの子の事を普通に名前で呼んでるのよ?」

「ん? 友達を名前で呼ぶのに理由が必要か?」

「「「「友達ッ!?」」」」

 

 箒の口から放たれたまさかの発言に、ようやく四人は大きな声を出した。

 そのお蔭で食堂にいる全ての生徒達から一気に注目を浴びる事となったが。

 

「ど…どういう事だっ!? どうしてそんな事になっているッ!? 何か特別な事でもしたのかッ!?」

「別にこれと言った事はしていない。アリーナの廊下で倒れていた千影を抱えて保健室まで連れて行った。それだけだ」

「保健室に……」

「連れて行っただけ……」

「そうだ。で、色々と話をしているうちに向こうから『友達になれたらよかったのに』と言ってきたので、私は『今からでも友達になればいい』と答えたんだ」

 

 実直な性格をしている箒は、お世辞にも友達作りがあまり上手とは言えない。

 だが、そんな彼女だからこそ千影は心を開いたとも言える。

 そんな事も分からない四人は只々、呆然とするだけだった。

 

「それよりも、さっきの事を聞かせろ。お前達はあの時、真っ先に織斑先生と一緒に千影の元に向かった筈だ。そこで何があった?」

「それは……」

 

 全員が話しにくそうにしている中、意を決してシャルロットが代表して話し出す。

 あの時、自分達と千影との間にあった会話の内容を。

 それを聞き、箒は呆れたように溜息を零した。

 

「はぁ~…。私も余り良くは分からないが、千影は他人の感情の機微などに異常に敏感なようだ。だからこそ、お前達の中にあった『打算的な考え』にもすぐに気が付いたんだろうさ」

「かも…しれないね。言われてみれば確かに、あの時の僕達には少なからず邪な考えがあったのかもしれない……」

「そう…ですわね。人命が掛かっている状況にも拘らず、私達は心のどこかで『彼女を助ければ一夏さんに』…なんてことを無意識の内に思っていたのかもしれません……」

 

 セシリアに至ってはそれだけではない。

 ゲーム中、千影が見せた高等技術『偏光制御射撃(フレキシブル)』。

 どれだけ鍛錬を積んでも一向に習得の兆しさえ見えない技を、彼女は目の前で易々と使ってみせた。

 それで思ってしまったのだ。

 『ここで彼女を助ければ、その恩に乗じて色々と教えて貰えるかもしれない』と。

 流石に今ではそれは間違いであったと気が付いている。

 例えそこにどんな理由があろうとも、人の命と天秤に掛けるだなんて論外だ。

 

「…軍人として、いや…人として我々は最低の事をしてしまったのだな。自分が情けない……」

「そうね…こればっかりは完全にあたし達が悪いわ。専用機がデビルフィッシュだって分かってた時点で、一番辛いのはあいつ自身だって知ってた筈なのに…」

「「「「…………」」」」

 

 『恋は盲目』とはよく言うが、盲目になり過ぎて彼女達は一夏以外には何も見ようとしていなかった。

 実は、ここに来るまでの間に彼女達は千冬に言われた通りに周りの声に密かに耳を傾けながら歩いてきた。

 そこで初めて知ったのだ。自分達が周囲からどんな風に思われていたのかを。

 

『うわ…またあの四人で一緒にいるよ』

『代表候補生だから自分達には織斑君と一緒にいる権利があります~…ってか?』

『確かに候補生だから実力があるのは認めるけどさ~…』

『だからと言って、男子を独占するとか有り得なくね?』

『つーか、普通に織斑君が可哀相。だって、いつもいつもあんな風に引っ付かれてたら、他に友達とか作れないじゃん』

『あれならさ、まだ篠ノ之さんの方がマシだよね』

『かもねー。あの子も相当に特別だけど、専用機が無いから私達目線で物を見てくれるし。話してみると意外といい子だしね』

『ちょっと強気で乱暴な部分もあるけど、専用機連中みたいに私達を見下してないだけずっとマシだと思う』

『ホントそれ。特別なISを持ってるってだけで、それを除けばあたし達と同じじゃん。それなのに、どうしてあんなにも偉そうな訳? 意味不明なんですけど』

『数人は実際にお金持ちでお嬢様だけどね。それでもさ、ここにいる間は同級生なんだし、私達とも普通に話してくれてもいいと思う』

『あいつらさ、絶対に私達の事なんて眼中にないでしょ。マジで超自己中』

『しかも聞いた? あいつら、普通に校則を破って校舎内で普通にISを展開してるらしいよ?』

『はぁ? ふざけんなし! エリート様は何をやっても許されるっての?』

『織斑先生もイメージとは全然違ったしね~。明らかに身内贔屓してるじゃん』

『うん…なんか普通に幻滅した。もうさ、あの人を見てキャーキャー言ってる子なんて一人もいないよね』

『言う価値も無いしね。少しでもおかしなことをしたら睨み付けたり、出席簿で殴ってくるし。体罰教師とかいつの時代だッつーの。前時代的過ぎ』

『でも、そんな事を言えばタダじゃ済まないし…』

『はぁ…どうして、学校で暴力教師やエリート同級生のご機嫌伺いをしなくちゃいけないのよ……』

『私…IS学園辞めようかな……』

 

 

 これでもまだ少ない方だ。

 実際には、もっと過激な声も多々聞こえてきた。

 本人達は小さな声で話しているのだが、よーく耳を澄ませば簡単に分かる。

 今まではずっと一夏の方ばかり見てきたので分からなかった。

 いや、分かろうとしなかった。

 確かに自分達は候補生になる為に物凄く努力はした。

 だがしかし、それは決して他者を蔑にしていい理由にはなり得ない。

 彼女達は自分達の初恋を大事にする余り、それ以外の事を無下にし過ぎた。

 千影はそれを知っていた。常に背景に溶け込んでいた彼女は、周囲の声を誰よりもよく聞いていた。

 だからこそ、必要以上に彼女達を嫌っている。

 自分の主観と周囲の評価、その両方が全てを物語っていたからだ。

 

「私も他人の事は余り言えないが、それでももう少しは周囲に気を配るべきだったと思う。お前達、ここにいる者達以外に友と呼べる人間は一人でもいるのか?」

 

 箒から指摘されて全員が黙ってしまう。

 特に同じ部屋に住んでいるシャルロットとラウラはとても気まずそうな顔をしていた。

 

「い…一応…ルームメイトのティナとはよく話すけど……」

「その内容は?」

「……一夏の事」

「それ…絶対によく思われてないぞ。寧ろ、呆れられている可能性すらある」

「やっぱ…そうよね…。最近じゃ、殆ど聞き流されてるし…会話の数も減ってきたし……」

 

 手に持った箸でラーメンの麺をかき混ぜながら話す鈴。

 転入したての頃はよく色んな事を話したものだが、クラス対抗戦以降に一夏と仲直りをしてから、ずっと彼の事ばかりを話題にあげてしまい、結果としてルームメイトとは疎遠になってしまっていた。

 特に最近では、そのティナはよく別のクラスの友達の部屋に寝泊まりに行く始末。

 最初は別に何とも思っていなかったが、今にして思えば自分の事を相当にウザがっていたのかもしれない。

 

「セシリアは?」

「ルームメイトの方はいますけど……」

「けど?」

「初日から殆ど会話らしい会話をしてませんわ……」

「だろうな」

 

 セシリアは実家から相当数の私物を持ち込んでいる。

 ベットまで自分用に特別製の物を用意したぐらいだ。

 そのせいで部屋はかなり圧迫され、入学当初のセシリアの態度も相まって、全くもって話をしない。

 今では完全に相手は別の部屋で寝泊まりをするようになり、半ば一人部屋のような状態になっていた。

 

「そ…そういう箒はどうなのよ? 確か、今は別の部屋にいるんでしょ?」

「普通に良好だと思うが? 同じ部屋にいる静寐とは色々と話すしな。お互いに意見を言い合って、時には勉強を教えて貰ったりもしている」

 

 以前は一夏と同じ部屋にいた箒だったが、シャルロットが転入してきたことをきっかけにして別に部屋へと移り、同じクラスの鷹月静寐がルームメイトとなった。

 最初こそは不平不満を言っていた箒であったが、徐々に静寐とも打ち解けあっていき、今では普通に友達とも言えるような間柄になっていた。

 つまり、箒にとって千影は候補生達以外では二人目の同性の友達になる。

 

「別にコミュニケーション能力が低いわけでもあるまいし、その気になれば普通に友達ぐらいできるだろうに。お前達はもっと物事を簡単に考えるようにしたらどうだ?」

「「「「…………」」」」

 

 文字通り、グゥの音も出ない。

 まさか、箒から論破されるとは思っていなかった彼女達は、先程まで以上に顔を伏せてしまった。

 

「箒さんは…皇さんを助けようとした時、何も思わなかったんですの?」

「これは千影にも言ったのだが、あの時は余計な事を考えているような心の余裕が無かった。目の前で息も絶え絶えな状態で倒れている同級生がいるんだぞ? まずは相手の体を第一に考えるべきじゃないのか?」

「完全完璧にその通りよ……」

「何もかも箒が正しいよ……」

 

 落ち込みに落ち込みを重ね、遂には彼女達の食事をする手が止まってしまう。

 鈴の注文したラーメンは半ば伸びかけていた。

 

「そうだ。実はお前達に聞きたい事があるんだった」

「聞きたい事…?」

「あぁ」

 

 手に持っていた茶碗を置き、別の器を持って味噌汁を流し込む。

 

「デビルフィッシュ…だったか? 千影の専用機について教えて欲しい。あいつがあんなにも苦しそうにしていた理由をどうしても知っておきたいんだ」

 

 それは好奇心から出た言葉ではない。

 純粋に千影の事を心から心配しているが故に聞きたいのだ。

 少しでも、彼女の助けになりたいから。

 

 

 

 

 

 




バカだからこそ語れる真実って、いっぱいあるんだ。


                   漫画家 赤塚不二夫


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