LoveLive! Prismatic Sunshine 作:ジュラーヴリク
校門前のバス停で帰りのバスを待つ。千歌は変わらず桜内さんを隣で勧誘し続けているが、俺と曜ちゃんの間に会話はない。正直、なにから話せばいいか頭の中で整理がつかない。
バスが来た。俺たちが乗った便は浦の星が始点、オマケに曜ちゃんが所属している水泳部以外は部活中なので俺たちの他に乗客はいない。
真生「……その、ゴメン。黙ってて。説明するタイミングがなかったんだ。それに俺がテスト生なのは機密事項だから新学期まで誰にも話すなって理事長先生に言われてて……」
曜「それで『しばらくこっちにいる』なんて言い方したんだ? 千歌ちゃんには家族経由で話してたのに? それに桜内さんともなんか仲良さそうだった。初対面のハズなのに!」
真生「曜ちゃん、戻ってきてからのことを順番に説明する。許してくれなんて言わないから、せめて説明だけでもさせてくれ」
───四月初め
仙台に別れを告げた俺は、最低限の荷物と着替えを詰めたボストンバッグを持ち、生まれ故郷でもある内浦に降りたっていた。
真生「小4の終わりに離れたから……6年ぶりか。懐かしいな……ただいま。内浦」
在学中の下宿先になる旅館・十千万の玄関前でオッサンじみた懐かしさに浸る。ふと、垂れ耳の白い犬がこちらに駆け寄ってきた。
真生「ん? おぉーしいたけー! よーしよし、元気にしてたかー!」
この旅館の看板犬、しいたけだ。体も声もでっかいし、白く長い体毛のせいで余計に迫力があるが、人懐っこく大人しい性格なので子犬の頃から遊んでいた。
母屋のほうから飼い主の諌める声とサンダルで砂利を踏む音がが聞こえてくる。
千歌「コラしいたけー! お客さんにじゃれついたらダメ……でしょ……」
真生「よう。6年ぶりだな」
努めて冷静に話しかける。
千歌「真生くん……? ッ真生くん!」
千歌が抱きついてきて思わず仰向けに倒される。砂利で背中が痛いし、千歌が馬乗りになってるので動けない。
千歌「なんでこっちに? 仙台に転校してって、年賀状は来るけどそれだけで。なんで? ……あれ? なんか、涙出てきちゃった……ま゛た゛会゛え゛て゛よ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛……!」
真生「色々あって帰ってきたんだ。またよろしくな。ていうか、その、降りてくれ。恥ずいし重い」
志満「あらあら、意外と早く着いたのね。こんなに大きくなって。それと千歌ちゃん、そろそろ降りたほうがいいんじゃないかしら?」
真生「あ、志満姉。こんな体勢でだけど、これからお世話になります。それと、ただいま」
志満「フフ、おかえりなさい」
部屋で荷解きをしていると、志満姉から最低限の荷解きはやっておくから千歌と散歩でもしてきたら? という提案を受けた。俺としても千歌や曜ちゃん、果南ちゃん。いや、もう果南先輩って呼んだ方がいいのかな?
とにかく、幼なじみ達だけにでも今までのことを打ち明けるタイミングが欲しかったし、志満姉のこの提案は正しく僥倖というものだった。
真生「落ち着いたか?」
千歌「……うん」
真生「その……おやっさんやおばさん、志満姉たちから聞かされたことは全部本当だ。ずっと黙ってて悪かったとも思ってる。下宿人の正体が俺だってこととか、いきなり帰ってきたこととか、本当にすまないと思ってる」
千歌「でも、こっちに戻ってきたのも、真生くんが栄吾おじちゃん達と決めたことなんでしょ? だったら、受け入れるしかないよ……」
真生「ごめん」
俺が内浦に戻ってきた理由、転入生のこと、俺が下宿するってこと、全てを千歌に打ち明けた。十千万の目の前に広がる、この小さな、記憶も定かじゃないくらい幼い頃に俺たちが初めて出会ったこの砂浜で。
ふと、見知らぬ女の子が防波堤の先端で佇んで、いや、ブレザーを脱ぎ始めるのが見えた。
真生「なぁ千歌、あの子なにして……」
千歌「あっ、あーっ! 真生くんは見ちゃダメーッ! あ、でも水着着てるみたい」
真生「おいバカ千歌! いきなり目ェ塞ぐな! おーいそこのアンタ! まだ水温は低いし泳ぐならやめとけ!」
??? 「……っ!」
side:???
泳ぐならやめとけ。さっきそう聞こえた気がするけど構わない。私は、この思い出の町で海の音を聞きたい。そうすれば、またピアノを弾けるようになるかもしれない。制服を脱ぎ、意を決して飛び込もうとする。次の瞬間、私の腕を知らない同い年くらいの男の子が握っていた。
side:真生
千歌の目隠しを振り切り、季節外れの海水浴客の元に駆け寄る。
真生「事情は知らないけど、ここは地形のせいで離岸流が発生することがある。監視員もなしにここで泳ぐのはオススメできない」
???「離してください! 私は海の音を聞きたいんです!」
千歌「早まっちゃダメェェェェェ!!」
海の音? その子の発した言葉に首を傾げるのと、千歌のタックルが背中に直撃するのは同時だった。
こうして、春の内浦に盛大な水しぶきが3つあがることになった。
────
真生「なるほど、君は元々東京でピアノをやってたけどある日いきなり弾けなくなってしまった。そこで、小さい頃に来たこの町の海の音を聞けばまた弾けるんじゃないかと思ってさっきに繋がるってワケか……ふぇっくしょい!」
???「はい。なにか見つかるかもしれなかったんですけど……ッくしゅん!」
千歌「二人ともごめんなさい。止まりきれなかった……はくしゅん!」
真生「……そういえば自己紹介をしてなかったな。俺は宮代真生。仙台育ちだけど、生まれはこの町だ」
梨子「桜内、梨子です」
千歌「私は高海千歌。そこの旅館が私の家で、真生くんとは幼馴染なの!」
それから服が乾くまでの間、俺と千歌と桜内さんの三人で好物とか、取り留めのない話をしてその日は別れた。
桜内さんとまた会えたのは初登校の日、つまり今日だ。
真生「ここが浦の星女学院、俺の新しい学び舎か……。判っちゃいたけど視線が痛いね」
梨子「えっ、宮代くん……?」
真生「桜内さん……? なんでここに?」
梨子「なんではこっちが言いたいです。ここ女子高ですよ!?」
真生「その、事情があってね。共学化テスト生として今年度はここに通うことになったんです」
梨子「共学化テスト生……?」
桜内さんに転入することになった経緯を軽く説明し、この間と同じように話をしながら二人で教室に向かっていた。
真生「そうだ。なあ桜内さん、お互い同級生だってわかったし俺はタメ口で構わないよ。それに、名字で呼ばれるのはあんま好きじゃないんだ」
梨子「そうなんですか。じゃあ、私も梨子でいいです……いいよ。真生くん」
真生「ありがとう。梨子ちゃん」
────
真生「2年1組は……ここみたいだな。よし、俺が先に入るよ」
梨子「うん。お願い」
そして今朝の自己紹介に繋がるわけだ。ちょっと長くなったけど、なぜ俺が浦の星に転校してきたか、なぜ千歌はそれを知ってたのか、なぜ初対面のはずの桜内さんもとい梨子ちゃんと仲良さげだったのか。これで全てを曜ちゃんに明かしたことになる
曜「…………ふぅーん」
曜ちゃんの表情はさっきより険しくなってる。ヤバい。ビンタどころかグーパンチが飛んできてもおかしくない
曜「……松月のフルーツタルト」
真生「は?」
曜「松月のフルーツタルトを奢ってくれたら許す」
言うが早いか、曜ちゃんが近くの降車ボタンを押し、すぐ前に座っていた千歌と梨子ちゃんに話しかける
曜「真生くんが松月のケーキ奢ってくれるって!」
千歌「ホント!? 真生くんいいの!?」
梨子「松月?」
千歌「すっごい美味しいケーキ屋さん!」
真生「おい! 俺は奢るなんて一言も! ああもう!」
さようなら。今月購入予定だったラノベやプラモデル達。なんてことを考えながら三人に続いてバスを降りると曜ちゃんが耳うちしてきた
曜「……年賀状は来てたけど、元気でやってるかどうかも分からない状態で6年も放っておかれたのをタルト3つで赦してあげるんだから、安いものでしょ?
じゃあ真生くん、ごちそうさまです!」
これが一本取られたってヤツか
真生「ところで千歌、梨子ちゃんをスクールアイドルを誘うのはいいんだけどさ、歌う曲とか衣装、その他もろもろ考えてはいるのか?」
千歌「え? あぁーーーーッ!!」
目に見えてうろたえる千歌。その様子から察するに
梨子「考えてなかったんだね……」
曜「わが幼馴染ながら、この無計画ぶりにはさすがにため息出るなぁ……」
真生「……松月で作戦会議だな」
『前途多難』そんなことを思いながら、蟠りをすべて解消した俺たちはようやく、6年ぶりに一緒に笑えた気がした。
はい。というわけで、曜ちゃんとは一応和解完了。次回から作戦会議をしつつ、ついに2年生組以外も登場させていけたらなって思ってます。