なんか周りから勘違いされてるけど、私そんなに強くないです。   作:霧夢龍人

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スタンピード

武装主戦国家、エクレール。

 

その名の通り、魔物の災厄から脅かされないように武装を主とした小国であり、騎士や魔剣士、魔法使いなどが日夜壁に囲まれた都市を護り、魔物を打ち破る───そんな様子から付いた渾名は『戦火の坩堝(ラグナロク)』。

 

生き物の成長を促進させる魔素の成分が多く含まれているエクレールの土地は、作物の成長が早く、小さい土地ながら大国の食物生産量に肩をならべられる程である。

 

だが、一つ問題がある。

生き物の成長を促進させる魔素の成分が多いのは良いことなのだが、魔物と呼ばれる災厄の化身の身体構造はほとんど、魔素から出来ている。

 

つまり、だ。

 

魔素が多いということは、()()()()()()()()()()()──その数が増えやすくなってしまうのだ。そして、数が増えすぎてしまった魔物達が何を起こすかというと──『魔物暴走(スタンピード)』と呼ばれる、集団で理性を失くした魔物達が荒れ狂うままに暴れまわる現象が起こってしまうのだ。

 

そしてそんな『魔物暴走(スタンピード)』という百鬼夜行の地獄絵図を相手に、己の剣で、拳で、魔術で魔物達をねじ伏せていく。その様子はさながら死屍累々の大戦とでも言うべきだろう。

 

だから───だからこその『戦火の坩堝(ラグナロク)』。

私もこの渾名を聞いた時には、名付けた奴に納得の二文字を送りつけたいと思ってしまったほどだ。

 

───さて、本題に戻るが、そんな『戦火の坩堝(ラグナロク)』を、魔剣士や騎士などに混ざって鎮圧するとある団体、『冒険者ギルド』という名の国家防衛機関が存在する。

 

何を既知のことを、と思っただろうか?いや、確かに他国でも『冒険者ギルド』は存在する。

だが、『戦火の坩堝(ラグナロク)』であるエクレールの冒険者ギルドは、その遥か上をいく。

 

山を砕き、海を割き、空を裂く。

そんな、まるでお伽噺の世界に登場するような英傑達がゴロゴロと冒険者ギルドに所属しているのが、ここ、エクレールなのである。

 

そして私、“アスルス=ルテクスフ”もその例に漏れず、冒険者ギルドに所属している。

 

冒険者としてのランクを示すアルファベットは、ランクの高い順に並べるならば、Α(アルファ)Β(ベータ)Δ(デルタ)Γ(ガンマ)Ε(イプシロン)の五つと、最高ランクと同等である特別ランクのΖ(ゼータ)の合計六つが存在している。

 

その中でも私は最高ランクである、Z(ゼータ)の位を授かっている───半ば強制的に。

 

正直、私ぶっちゃけそんなに強くないのに。

 

なんか暴走した竜がいたから、適当に杖振ってたら、空から雷が落ちて勝手に竜が死んじゃう──とか、『迷宮(ラビリンス)』の巨人が地上に出てきちゃったから、混乱と動揺のあまり近くにあった石を巨人に向けてなげたら、たまたま急所に当たって気絶───とか、そんな偶然に偶然を重ねた事でランクが勝手に上がってしまったのである。

 

そのためか、救国の英雄だとか、傾国の剣姫とか、絶世の魔導王とか、なんか恥ずかしい二つ名?称号?とおぼしきものを連呼され、挙げ句の果てには、Αじゃ私のランクと釣り合わないからとかいうふざけた理由で、Ζという私しか存在しない特別ランクを授与されてしまったわけである。因みに傾国の剣姫とあるが、私は一度も剣を扱ったことがない。なぜこのような二つ名がついたか、いまでも謎だ。

 

お陰で色んなところから引っ張りだこだし、迷宮(ラビリンス)の攻略招集もひっきりなしに掛かってくる。

 

しかし、私のへっぽこ魔法力を見られたくないので、今までガン無視スルーでなんとか乗りきっていたのだが───。

 

「・・・うぅ、なんで・・・私が・・・魔物暴走(スタンピード)を・・・」

 

魔物暴走(スタンピード)からは逃げられない、とら良く言ったものだが、現在、私が置かれている状況はこのことわざと全く一緒だろう。

 

あぁ、早くおうち帰りたい。

 

「ははは、確かに今更『閃滅(アポピス)』のルテクスフ殿に取っては、受ける価値もない依頼かもしれませんな!」

 

と笑顔で大笑いをキメているのは、騎士団長『ガルボ=ナブア』。

背中に煌めく大剣を背負っている以外は一見、只の髭の生えたおっさんにしか見えないが、騎士団長とはそもそも人々を守る騎士団の長にして、その模範であると認められた者にしか送られない称号である。

 

つまりめちゃくちゃ簡単に言えば超凄い人。

 

そしてそんな凄い人が、偶然のしあがった小心者の私に話し掛けているのだ。

 

ぶっちゃけ、ちびりそう。

 

というかもう、Zランクとかいう仮面がなかったら今すぐこの場から逃げ出すんだけどなぁ。

 

けど、騎士団長の後方に目をギラギラさせた騎士団員達がいるから、逃げるのは無理そうだ。

 

因みに『閃滅(アポピス)』というのは、私に付けられた二つ名の一つであり、国王直々に名付けて下さったためか、一番知名度が高い二つ名になっている。

 

閃くたった一瞬の間に敵を滅するから、という理由らしい。正直、私みたいな可愛い乙女(自称)にこの名前は酷いと思った。

 

だが、今は別にそこはいい。

 

問題なのは今の言葉が聞かれていた、ということだ。

 

え、待って?私ヤバくない?も、もしかしなくてもクビ?

 

「・・・だって、もう・・・終わる・・・でしょ?・・・」

 

クビだけは勘弁なので、ほ、誇り高いめちゃ凄い騎士団長がいるからスタンピードなんて余裕だよね!ってことで今さっきの発言はなかったことにしてほしいです、はい。

 

そして早くおうちに帰りたいです、はい。

 

「・・・ふっ、ふは、ふははっ!なんと!もうおわると来たか!流石は誉れ高い『閃滅(アポピス)』だな!」

 

「・・・そう、だね」

 

この数年間で、誤解され続けてきた私が極めたスルースキルを生かし、おそらく何か変な誤解をしているだろう騎士団長の発言を無視する。

 

私、学んだんだ。こういう時って変に訂正すると、何故かより湾曲して事態が広がっていくって。

 

というか、私的にはそれよりも、国家防衛戦がこんなにも緊張感のないもので大丈夫なのかという不安と疑問で頭が一杯なのだが───。

 

「む、来たか・・・」

 

鷹の目を彷彿とさせる眼差しで緑に溢れた森を見透す騎士団長。

 

その発言通り、どうやら魔物暴走の先頭集団が来たようだ。ギャアギャアと耳障りな鳴き声を発しながら、砦目掛けて一直線に近付いてくる。

 

あぁ、逃げ出したい・・・。

 

「よし、ではこれより、魔物暴走を抑制に掛かる!皆の者!準備は出来ているな?」

 

「「はっ!」」

 

「・・・元気・・・いいなぁ」

 

こちとら緊張で脚が震えているのに、良くもまぁそんなにやる気に溢れた声を出せるものだ。

 

「うむ、いい返事だ。さて、今回の魔物暴走が規模が大きい。被害も甚大ではないだろう。だが、私達には勝利の女神・・・“アスルス=ルテクスフ”殿がついている!もはや私達の勝利は揺るぎないものだろう!」

 

・・・えっ?

 

「その証拠に、見よっ!我らの勝利の女神殿は、これほどの魔物相手に武者震いしておられる!なんと勇ましき事か!」

 

「「お、おぉ~~っ!!」」

 

・・・はっ?

 

ちょ、ちょっと待って欲しい。し、勝利の女神?武者震い?

なんでそうなるのっ!?

 

私女神なんていう大層な者じゃないし、武者震いじゃなくて怖くて震えてるだけだよ!?

お馬鹿なのかな?お馬鹿なのかなこの騎士団は?

 

なんて事はおくびに出さず、にっこりと微笑み返す。大事なのはいちいち反応しないことだ。

反応したらもっと誤解される。

 

というか、折角魔法を発動させる準備してたのに、騎士団達のせいでキャンセルしちゃったよ・・・泣いていいかな?

 

「くっ、なんて神々しい微笑みなんだっ!」

「見ろ!あの悲しみに溢れたご尊顔を・・・きっと私達が死んでしまうかもと不安になっておられるのだ・・・」

「め、女神様だ・・・」

 

はぁ・・・君達さぁ、やる気ないなら帰っていいよ?

帰ったら私死んじゃうけど。

 

「皆の者・・・」

 

ほら、騎士団長も何か言ってよ。というか、こんなんじゃ本当に私が死んじゃうから。

非力な私じゃ魔物に押し潰されて死ぬのがオチだから。

 

だから騎士団長、何か言ってよ。

 

「分かってくれたかぁっ!!!」

 

「「き、騎士団長っ!!」」

 

・・・もうやだこの国ぃっ!

 

怒りのままに、近くにあったちょっと大きな石を身体強化魔法で蹴飛ばす・・・って

 

「いたっ!?」

 

ナニコレ超重いですけど・・・。団員達に向けて蹴飛ばす筈が、変に森の方向へ蹴飛ばしちゃったくらいには重いんですけど───え、あれ?あのシルエット・・・も、もしかして。

 

「ド、ドラゴン・・・だと?」

 

気の抜けた声で団員が告げる。

 

ドラゴン───あらゆる種族の生態系の頂点であり、物理、魔法、精神攻撃に対する耐性をもつ鱗と、万物を融かす焔を放つブレスや、その巨体を空へと誘う大きな翼。

そして捻曲がった黒曜石のような角に、全てを見透されるかのような『碧眼(竜眼)』。

 

今挙げた全ての素要が、ドラゴンという種族を最強足らしめている。

 

そして、そんなドラゴンが──伝説の存在と唱われた存在が───今、目の前にいる。

 

先頭を走る猪型の魔物に付随するように、今にも死神の鎌を振り下ろされそうな距離で、此方に悠々と迫ってくる。

 

「・・・はは」

 

あぁ、ここで私死ぬんだな・・・と、目の前の現実(悪夢)の理不尽さに思わず笑いが溢れてしまう。

 

「ッ!?み、みろ!我らが勝利の女神は微笑んでおられる!勝利は我らの側にあるのだ!怯むな!かかれぇッ!!!」

 

あぁもう、また勘違いして・・・でもここで呑気にツッコミ気にはなれなかった。

あの人達も分かってるんだ。ここで自分達が死ぬことに。

 

でも、それでも現実に打ちのめされずに、魔物達に挑もうとしてる。

なんて、なんてカッコいいんだろう。

 

名ばかりの私に比べて、彼らはなんて勇敢なんだろう。

じゃあ、この場は彼らに任せて私は逃げるべきだろうか?

 

答えは否。

断じて否。

 

ならば────。

 

打ち砕く炎槍(ファイヤーランス)ッ!」

 

燃え上がる炎の槍を、先頭の猪型の魔物にぶち当てる。炎が引火し、走る火達磨となりながらも猪は全くダメージを受けていない。

 

もしドラゴンが現れると知っているならば、更に沢山の兵を・・・なんなら他国からも兵を借りて挑んでいただろう。

 

まぁ今、そんなもしもの可能性を考えても仕方ないけど。

 

だけどこう思わずには要られない。

私なんかよりももっと強い人がこの場にいたなら・・・と。

 

Αrankにもなると、その身一つで天変地異を起こせるようなバケモノがうじゃうじゃいる。

その人達ならばドラゴンと相手をしても、勝敗に関わらずいい勝負が出来るだろう。

 

だけど私は違う。

 

ならば、精一杯足掻くしかない。

 

「「おぉぉぉ!!」」

 

沢山の騎士団員達が魔物目掛けて突っ走る。

まだ少し距離は離れているけど、交戦するのも時間の問題だよね。

 

「打ち砕く炎───ん?」

 

続けてもう一度打ち砕く炎槍を放とうとして・・・やめた。

 

火達磨の猪型の魔物が、自分の身を焦がす炎に気を取られてか、偶々私が蹴り飛ばした石に躓いて──盛大に転んだ。

 

それはもう凄い音だったと思う。

 

ドゴーン、とかドシーンみたいな音をだして、少し距離が離れている私にも聞き取れちゃうくらいには大きな音だった。

 

だからなのかな?

 

前方を走る猪が転んだせいで、芋づる式で他の魔物も猪に引っ掛かり、逆ドミノ倒しのように倒れ混んでいく。

 

「うわぁ・・・痛そう・・・」

 

と思わず声を出しちゃうくらいには、酷い有り様だった。

それに、ドラゴンを除いた空を飛ぶ魔物達は、先程の轟音で驚いたのか、皆地に墜ちていた。

 

我ながら良くこんなに上手くいったもんだ・・・いや、全然狙ってないんだけどね?

 

「「うおぉぉぉぉっ!?」」

 

その様子を間近で見ていた騎士団達は、魔術学院に受かった学生のような声をあげていた。いや、何やってるのあなた達・・・。

 

「まぁでもこれで・・・」

 

ドゴォンッ!!

 

・・・私、なんで浮かれてんだろ。一番、一番強くて凶悪なモンスターがまだ倒れてないのに。

 

「あぁ、そう言えば・・・あなたは墜ちてなかったわね────ドラゴン」

 

ゆっくり後ろを振り返れば、そこには王者の風格を纏う天空の覇者。

 

碧眼の筈の瞳が黒く染まり、傷だらけの大翼を広げたドラゴンが、私を見下ろしていた。

 

 

 

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