個人の脳内妄想ですので、キャラ解釈の一致相違その他もろもろ全てを諦めてください。
失ったモノと言わないコト
novel/15579603
の後日談ですが、占い師と泣き虫中心で他のキャラもちょっと出演。
カップリングはいません。
もうちょっと続くんじゃ
対戦種別・協力戦
対戦会場・月の河公園
サバイバー・心眼、マジシャン、医師、泥棒、占い師、オフェンス、炭鉱者、呪術師
試合開始のサイレンが会場に鳴り響く。天眼を解放し使い鳥を飛びだたせると、泣き虫とヴァイオリニストの姿が使い鳥の眼下に見えた。この立ち位置だと二階建て奥へ2人で向かうルートになるかもしれない。サバイバーの誰が周辺にいるかによるが、即ダウンになってしまったら大変だ。手近な板でも倒して注意を引いた方が良いだろうか。そう逡巡した直後、会場全体に響き渡るような大声が聞こえた。
「鳥男――――!!! こっち来て!!!」
声の主である泣き虫は、その場所から動かない。ヴァイオリニストもなぜかその場で立ち尽くしている。直後使い鳥がサバイバーを見つけ高度を下げたためハンターの様子は見れなくなってしまったが、通信機越しにハンター発見の連絡も来ない。というか
「鳥男って僕の事だろうか……?」
「ほ、他に鳥を使うやつなんて、い、いたかよ」
「分からないぞ。ナワーブ・サベターの支給衣装で鳥の衣装があっただろう」
「このゲームにはい、いな、いないじゃないか」
独り言だったはずのそれに返答があった。すぐ近くにいたらしいピアソンとパトリシアだ。警戒半分物珍しさ半分といった様子で大声の発信源の方を伺っている2人に苦笑を返す。
「やはり僕のご指名かな。とはいえ、素直に彼の元へ行って良いものか悩みどころだけれど」
「ヘレナ・アダムス。どこにいる?」
パトリシアが通信機へ話しかける。するとそれに答えるように、杖で地面を打つ音が会場に響いた。それは二階建ての奥から反響し、未だ立ち尽くしているハンター2人の姿を遠くから浮かび上がらせる。
『イライさん。もしよければですけれど、行ってもらえませんか? 私しばらく様子を伺っていたのですが、あの子、全く移動してないです』
通信機から発せられたヘレナの声に、ピアソンはくしゃりと顔をゆがめる。
「ゆ、油断させておいて、君の杖の音を待っていたのかもしれないぞ」
『ふふ、安心してくださいピアソンさん。もう杖を鳴らした場所から離れていますので。特に気配も感じませんよ。念のため大回りしてテントへ向かいますけれど』
『なーヴァイオリニスト! 何してんだ? ほら、この距離もう俺を殴れるぞ』
『……元より、このゲームで勝つつもりは無い。あの少年と取り決めた事だ』
『あ、どこ行くんだよヴァイオリニスト!』
ウィリアムとヴァイオリニストの会話が通信機から漏れ聞こえる。
「どうするイライ・クラーク。もし行くなら近くに控えて呪いを溜めることもできるが」
「いや、解読を進めててくれ。何かあっても、僕なら多少はもつからね。ヴァイオリニストにはウィリアムがついて行ってるようだし、なんとかなるさ」
「分かった。状況が分かるように、通信機は繋げておいてくれ」
そう言って暗号機へ向かうパトリシアを見送っていると、肩を後ろから突かれた。振り向くとピアソンが、ひくひくと頬を引きつらせながら注射器を差し出してくる。
「ど、どうせ騙されるんだ。俺はじ、慈善家だからな。せめ、せめて少しでも生きながらえるように、め、恵んでやる」
「あぁ、ありがとう。助かるよ」
ピアソンは満足げな表情を浮かべ、踵を返す。彼の上着がはためき、ベルトに信号銃をさしているのが見えた。
「君が呼んでたのは僕の事かな?」
そう声をかけると、泣き虫は顔をぱっと上げた。ずいぶんと手持ち無沙汰だったのだろう。彼の周りの地面には斧で引っ掻いたであろう円が何重にも描かれていた。
「そう、お前! お前、プシュプシュ女の逃げ方知ってるだろ」
「プシュプシュ女……ウィラ・ナイエルさんのことかな?」
「たぶんそう! お前が覗き見してるやつ」
「人聞きの悪い言い方するなぁ……」
「このゲームはお前らの勝ちにしてやるから、そいつの逃げ方教えろ!」
斧の先をビシッとこちらに向ける泣き虫。通信機の向こうから戸惑いの声が漏れ聞こえる。
「うーん……なんでナイエルさんのチェイスを知りたいんだい?」
「この前の試合で逃げられたから! その時にいっぱい色々言われたから、次会ったらすぐに捕まえてやるんだ!」
「へえ、どんなことを言われたのかな」
「僕が負けたのは僕のせいだって」
「おっと」
「あと、力を理解してないと勝てるものも勝てないとか、僕の調子が悪かったとか、ハンターはすうてきふりだからなんとかみたいなこと。すごく悔しくて悲しかったけど、アイツが言ってた事はほんとだなって思ったんだ。だから次はすぐに捕まえてやるの!」
泣き虫はふんと胸を張る。その様子を見て僕は頬を掻いた。
「……困ったな」
「なにが?」
「君のその精神はとても素晴らしいことだ。報いたい気持ちもある。しかし、そう易々と教えられるものじゃない」
「えー、なんで!」
じゃあいいやと殴られるかと思ったが、彼は質問を返してきた。ハンターとサバイバーではあまりにも立場が違うため、理解できるように説明できるかは分からない。それでも彼が対話を選んでくれている以上、こちらもそれに返すべきだろう。彼に近づき、しゃがんで目線の高さを合わせる。被った麻袋で彼の視線は見えないが、こちらをただ見返してくれているように感じた。
「僕たちサバイバーはチームだからね。仲間の逃げ方を教える、対処法を伝えるということはサバイバーの勝ちを薄くすることになる。なにより、仲間の信頼を裏切ることになってしまうんだ」
「……?」
「たとえば協力狩りで、ゲームがスタートしたらすぐに君が向かう場所があるとする。そこに行けばサバイバーがいるし、直ぐに追い詰めることができる場所だと君は知っているからだ。君はいの一番にその場所へ向かうが、なぜかそこには誰もいない。なんでだろうと思いながらゲームを終えると、実は君の相方ハンターが「泣き虫はゲームが始まるとまずここに行くから離れた方が良い」とサバイバーに言っていたとしたら?」
「はぁ!? なんだよソレ!」
「嫌だと思うかい?」
「嫌に決まってるじゃん。イジワルだよそんなの! バカだよ!」
地団太を踏む泣き虫。斧がゴツゴツと地面にぶつかりひやひやするが、彼は切っ先をこちらに向けようとはしていない。僕は話を続けた。
「僕が君にナイエルさんのチェイスを教えるというのは、それと同じ事だよ。嫌だと思うだろうし、そんなイジワルな人と仲間として試合なんかしたくなくなるだろう? もちろん、僕も同じことをされたら良くは思えないしね」
「……」
「だから教えるのに抵抗があるんだ。分かるかな?」
「……」
遠くでガコンという音が続けざまに鳴る。通信機の向こうでは、解読を終えたノートンやセルヴェさんが次の解読場所についてやり取りをしているようだ。ウィリアムは相変わらずヴァイオリニストについて行っているらしい。一応暗号機を巻き込まないチェイスルートを頭に描きながら、俯いて黙りこくった泣き虫の反応を待った。
「……でも、次は絶対アイツを捕まえたい。すぐに」
「うん」
「だから人形相手に練習したけど、ダメなんだもん。アイツら絶対プシュプシュ女がしないような逃げ方しかしなくて、すぐ捕まえられるようになったけど、あんまり意味無いなって思って」
「うん」
「ベインとかヴィオレッタに、サバイバーどういう風に逃げるかなってアドバイスしてもらったけど、追いかけ方が違うからやっぱり分かんなくて……もう、どうすればいいのかわかんない」
ぐすりと鼻をすする音が混じる泣き虫の声。表情は伺えないが、俯いて小さな身体を震わせている様子で察するに余りある。ハンターという立場と能力があるとはいえ、見た目通りの幼い子どもでもあるのだろう。恐る恐る彼の両肩に手を置くと、彼は少しだけ顔を上げた。
「練習をしないかい?」
「……?」
「ナイエルさんの逃げ方をただ君に教えることは出来ない。けれど、君と僕両方がチェイスを上手くなれるように一緒に練習することは出来る。自分が上手くなるためだから、他のサバイバーに後ろめたく思うことも無いしね。もちろん僕はナイエルさんじゃないから、一緒に練習したからといってナイエルさんすぐに捕まえられるかどうかは分からない。でも得られるものはたくさんあると思う」
「……いいの?」
「君が良ければだけど」
「良い! 練習したい。練習して追いかけるの上手くなりたい!」
『……ヴェァッ』
通信機から破裂音とも言い難い音が聞こえてくる。何事かと耳を傾けると、次の瞬間ウィリアムの大声が爆発した。
『良い話じゃねえか! 負けて悔しい気持ち、見返してやるって精神! 分かるぜ……。俺も一緒に練習してやるよ!』
「あぁ、たすかるよウィリアム」
嗚咽混じりのそれに耳鳴りがするが、もちろん悪意は微塵も無い。なんとか返事をすると、ダイアー先生の落ち着いた声が通信機から聞こえてきた。
『話がまとまったようで何よりだわ。でもウィリアム、ヴァイオリニストの方はいいの?』
『あぁ、アイツこの前の試合で会場の事何も知らないまま対戦してボロボロに負けたから、全部見て回るんだって言ってた! ほら、前に話した俺とノートンとセルヴェさんとピアソンさんの試合』
『あぁ……』
数日前に食堂で聞いた話だった。会場の事もそうだが、サバイバー側のメンバーがメンバーだったから、聞いてて少し不憫になったのを覚えている。無意識に苦笑いを浮かべていたのだろう。泣き虫が怪訝そうにこちらを見ていたので、ウィリアムも練習を手伝いに来てくれることを伝えた。彼は飛び上がり、周りをうろうろと歩き始める。足取りが軽いため、練習相手が増えることが嬉しいのかもしれない。
『ダイアー先生、こっちの解読ももう終わるよ』
『ありがとう、キャンベルさん。これでもう残りは私とヘレナが解読している暗号機だけね』
『了解。ゲートに待機しておく』
『……いえ、貴方も練習の手伝いに行くのはどうかしら?牽制班だし』
『嫌ですよ。このゲームが勝ちになるならそっちで勝手に練習するのは自由ですけど、僕はハンターに上手くなんてなってほしくないんだ。今後のゲームの勝ちが減るかもしれないし』
『ハンターが上手くなるかどうかは分からないけれど、ここで彼の能力を把握しておくのは今後の勝利のためにも大事なことだと思うけれど?』
『…………』
通信機が沈黙する。遠くから名前を呼ぶ声が聞こえ、そちらへ顔を向けるとウィリアムが大きく手を振りながら走ってきていた。その後ろにはパトリシアと、彼女に隠れるようにピアソンもついてきている。泣き虫にそちらを指し示すと彼はぴょんと飛び跳ね、大きく手を振り返した。
『ダイアー。キャンベルがクラーク達の方へ向かった』
『ありがとう、キャンベルさん。ロイさんも。安心して。誰もダウンなんてさせないから』