最近妙なトレーナーに付き纏われている。
一日一回、会うたびに芝の中距離のレースを挑まれる。
断る事も出来る。
だが、しない。
「あ・・・・・」
「ん?」
声が聞こえて振り向く。
例のトレーナーだ。
「ヘイ!ブライアン!今日もレースしてもらうぜ!」
「・・・・・・・・好きにしろ」
最初の方こそ大差だった。
アイツがコースの四分の一を走る間に私はゴールしている状態だった。
だが・・・・・。
「クッソー!また負けた〜!」
今日は5馬身差。
毎日そうだ。
段々と差を縮めて来ている。
「何故だ?」
「え?」
「何故、アンタはそこまで私に拘る?トレーナーに私を必ずスカウトしてこいとでも言われたか?」
「あ〜?んー・・・・・・忘れた!」
私の質問に無邪気に笑って答える。
「忘れただと?」
「あぁ、忘れた!あ、でも一つ思い出した!」
「・・・・・・それは、なんだ?」
「ブライアンが楽しんで走るのを見たい!」
そう行ってトレーナーは寝てしまった。
余程疲れていたんだろうか?
「どうした?何か悩み事か?」
「姉貴・・・・・・」
後ろから姉貴が近付いてくる。
私は姉貴に振り向いてからトレーナーを見る。
「何でもない・・・」
「そうか。それにしても彼は本当に私の計算外の事をするトレーナーだ。お前を理解する為にまさかお前にレースを挑むとはな・・・」
「姉貴だったのか!?コイツを焚き付けたのは!?」
「勘違いをするな。私は彼にお前を理解するなら私に聞くのではなく自分で理解しろと言ったまでだ」
どうやら本当に姉貴の思惑があったらしい。
しかし思わぬ形で動いている。
「更に計算外なのは彼が日に日にブライアンに迫ってきていると言うことさ。彼ならお前の言う心の渇きを湿してくれるんじゃあないか?」
「・・・・・・だと良いんだがな」
「・・・・・・これも意外だな。お前が否定しないなんて・・・」
姉貴が驚いた顔をして眼鏡をかけ直す。
私はトレーナーを背負って歩き出す。
「何処へ行くんだ?」
「生徒会室。会長がコイツを呼んでいた・・・・」
私の心が湿う事はない。
あれからもブライアンに挑戦しているが未だに勝てる兆しが無い。
何とか2馬身差までは来たがそれでもまだ足りない。
俺はラップタイムを意識しながら毎晩毎晩走り続けた。
おかげで学園中で夜に走るウマ娘の亡霊などと言う七不思議が出来てルドルフとエアグルーヴの胃を痛め、俺も始末書を書かなければいけない大惨事。
そんなこんなでまたまた一週間が経過していた。
「ったく、ブライアンの奴何処に居るんだ?」
今日に限ってブライアンを見ない。
何時も寝転んでいる場所や生徒会室にも・・・。
ルドルフとエアグルーヴに聞いても苦虫を噛み潰したような顔をして教えてくれない。
「・・・・・・何なんだこのまるでやりたいことがあるのに思い出せないような胸のざわめきは・・・」
夕方になりとうとう最後は学園の屋上となった。
屋上に続くドアを開くとそこに居たのは・・・・・。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ」
「ハヤヒデ・・・・」
ブライアンでは無くその姉、ハヤヒデだった。
夕日に照らされているからかハヤヒデの髪がオレンジに見える。
「君に話しておきたい事がある」
俺は今、河川敷に向かって走っていた。
その間も屋上でのハヤヒデの話を思い返す。
『ブライアンがトレセン学園を辞める!?なんで!』
『ブライアンの心は既に渇き切っている。幾ら格上に挑んでも勝ってしまうが故に・・・。そこにはもう君も気付いているだろう?』
『あぁ。だから俺はブライアンに勝とうと思って・・・・・』
『私の計算では君がどのように走ってもブライアンに勝てる確率はゼロに等しい。ブライアンは自分と並び立てる者を探しにここに来た。つまりは心躍るレースがしたい訳だ』
『・・・・・・教えろよ』
『ん?』
『ブライアンは今何処に居るんだ!とっとと教えやがれ!』
『・・・・・・その目、なるほど君がブライアンに勝てない理由が分かった気がするよ。・・・・・・ブライアンは今、河川敷にいる』
河川敷に着いて辺りを見渡す。
見つけた。
河川敷にある芝生に寝転がっている。
「はぁ、はぁ・・・見つけ、た・・・」
俺に気づいたのかブライアンは起き上がってこっちをみる。
「アンタは・・・・・なんの様だ」
「レース、しにきた!」
「・・・・・」
ブライアンが鬱陶しそうな顔をこちらに向ける。
しかし俺は怯まずにブライアンの前に立つ。
「言っておくが、私はもうトレセン学園を去る身だ。今更来たってスカウトは叶わないぞ?」
「スカウト?んなの知るか!俺はお前に勝つために来たんだよコンニャロー!」
「勝つ?今まで一度として勝てていないのにか?」
ブライアンが目の前に歩いてくる。
いつもよりもブライアンが大きく見えてしまい後退る。
しかし頬を叩いて前に出る。
「だから今日こそ勝つ!」
場所は移動して学園の芝、中距離のコース。
俺とブライアンがスタートに立つと不意にハヤヒデが現れた。
「試合の見受けは私がしよう」
「「ハヤヒデ(姉貴)・・・・・」」
「では、始めるぞ?」
ハヤヒデが腕を上げって一気に下ろす。
それを皮切りに俺とブライアンは駆け出した。
まず最初に前に出たのはブライアンだった。
だがトレーナー君も負けじとブライアンの後ろに付いていく。
そしてそのままレースの中盤に縺れ込んだ。
(何だ。この違和感は・・・)
私は二人の走りを見ながらそう思った。
何時も私は二人のレースを隠れてみていた。
だが今までと何かが違うのだ。
空気と言うか・・・。
熱意と言うか・・・。
兎に角、私の計算外のことが起きているのは間違いない。
その証拠にブライアンもどこか落ち着きが無い。
「これはもしかするかもしれないぞ・・・・ッ!?」
ふとトレーナー君を見る。
何時もと違って超が付くほどの前傾姿勢。
それに何時もの死んだ魚のようなだらけた目では無い。
目の前の獲物を、ブライアンを狩るような獣の瞳。
いや、あれは・・・・・。
「鬼の、瞳・・・・」
まだだ。
まだ仕掛けるタイミングじゃあ無い。
ブライアンを差し切るならこの程度じゃあ駄目だ。
「・・・・・もっとだ。へへ、ブライアンに勝つにゃあもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと気高く飢えなきゃナァッ!」
一気にスパートを掛ける。
ようやくブライアンに並ぶ。
「ッ!?」
ブライアンがさらに加速する。
「まだだ!」
ブライアンを追ってさらに加速する。
もう息も出来ないし頭も真っ白で視界も真っ暗だ。
だが道が見える。
光っている。
俺はそれを一歩一歩伝いながら走る。
「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」」
そして俺達はゴール板を通過した。
そのまま俺は倒れ込む。
ブライアンも倒れはしなかったが汗をかいて座り込んでいる。
「いい勝負だったよ」
ハヤヒデが近付いてくる。
「どっちが・・・勝ったんや・・・」
「・・・・・・私にも分からない。何せほぼ同時だったからね」
「何やねんそれ・・・」
「・・・・・・いや、この勝負、トレーナーの勝ちだ」
ブライアンが立ち上がる。
俺は今も全身が痙攣している状態で顔面が地面を向いている。
「トレーナーの頭が微かに私より早くゴール板通過していた」
「はは・・・・そうか・・・。やっと勝てたんやなぁ」
「一つ、聞かせてくれ」
「何や?」
「アンタがサブトレーナーをしているチームにはアンタみたいな奴が居るのか?」
「・・・・・・・・・あぁ、居る。そいつ等は皆トゥインクル・シリーズを目指して更に強くなるッ!」
ブライアンが微かに笑う声が聞こえる。
「・・・そうか。なら決めた。私はアンタの居るチームリギルに入る。だからお前は、私をトゥインクル・シリーズへと連れて行け!」
「・・・・・・・・・・ようこそ、チームリギルへ」
こうしてブライアンはチームリギルに入った。
「・・・・・・・・・ふむ、トレーナー君の態勢のせいかいまいち心に響かないがまぁ、良しとしよう」
「こうして、俺はブライアンに勝ってチームリギルへのスカウトも成功したのでした。て、あれ?皆どうした?」
話終わって皆を見ると何故か鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている。
「志村ー、後ろー」
「後ろ?」
ゴルシに言われて後ろを振り向くとそこに居たのは鬼の形相をしたブライアンだった。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
暫く見つめ合ってから俺は逃げる体制を取る。
しかしブライアンに首根っこを引っ掴まれた。
「あの話は他のやつにはするなと言ったよな?」
「・・・・・・・・・・」
「言ったよな?」
「はい!確かに仰られましたました!」
ブライアンに睨まれて敬礼をしながらそう言う。
そのまま俺はブライアンに引きづられ並走させられたのだった。
「・・・・・・・・シチュエーション「修羅場」を確認しました」
「トレーナーは私達の心の中で生き続けるさ・・・」
「まだ死んでませんのに!?」
「ZZZ・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・」」
残されたブルボン、マックイーン、ゴルシ、スカイはその光景を特に気にする事はなく、ウオッカとスカーレットは目の前で起こった光景に未だ唖然するのだった。
愛は重バ場大丈夫?
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構わんやれ
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いいや、限界だ!やるな!