神様の思い付きでTS転生された男。彼は前世で己の腕を満足にふるえなかった事を悔やみ、今度こそ役立たせてみせると誓う。なお、己の欲は否定しない。第三回ハメTS杯投稿作品です。

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神の息吹をあなたに。主にツボから。こう、ぐりっと。

 ある科学者はいった。「人体とは宇宙である」と。

 

 有史以来、人類は未知にして奇怪、そしてもっとも長い時間を共に過ごす事になる、血と骨と肉の詰まった袋について研究してきた。時には魂の消えた抜け殻を、あるいは魂が残ったままに、解体し、解剖し、解明し続けた。

 

 人体。それは深淵にして不可思議なるもの。

 

 いつからか、人は己の身体の中に、目には見えないナニカが存在する事を知った。秘孔と呼ばれるそれらは、目に見える動静脈とは別の気脈、経絡を為して体内を流れている。ツボや急所は、あからさまな眼球や鼻穴、性器、臍とは違い、一見では何の変哲もない箇所にいくつも点在する。

 

 未知を既知にするために、人々はさらなる探求に明け暮れた。十年では足りない。百年では及ばない。千年では届かない。時の権力者が変わろうと、研究が止まる理由にはならなかった。

 

 知識は蓄積される。

 

 技術は練磨される。

 

 成果は継承される。

 

 数千年に及ぶ膨大な研究結果は、神医とまで讃えられる存在を幾人も送り出した。やがて科学が目に見えない領域さえ明らかにしようとも、その活動は続くだろう。人が肉の身体を持ち続ける限りにおいて。

 

 否、たとえ金属に置き換わろうとも変わるまい。あるいは金属の板面上にさえ、経絡の道筋を見出すであろう。かつて秘孔の存在を明らかにした時のように。

 

 

 

 

 うん。

 

 だからね、つい思っちゃったのよ。

 

「そういう知識がまったくない世界に、ある日突然ひょっこりチート転生者を送り込んだらどうなるのかな?」

 

 ってさ。

 

 いやいやいや、大丈夫だって。そんな大した能力じゃないし。本人も世界征服なんてたくらむような人格じゃないし。せいぜいチートハーレムウハウハ展開を夢見ちゃうくらいの凡人だから、へーきへーき、問題ないって。悪さできないようにちょっと染色体いじってあるし!

 

 ……え、よけいにダメ? 裏目ってる?

 

 うーん、人間ってわっかんねーなー。神様こまっちゃうわー。あいつら未来に生きてんな!

 

 

 


 

 

 

「ジル、ジル。すまないけど、今日も頼める?」

「はぁい。横になってね、お母さん」

 

 中世ヨーロッパ風の田舎村。贅沢をするには余裕がなく、けれども餓死するほどではない。都会のような娯楽はないが、井戸端会議で村民の変化が一瞬で知れ渡る。

 

 そんな世界の片隅で、ここ毎晩繰り返されるやり取りが今宵も行われていた。

 

「ごめんねぇ」

 

 築100年をはるかに越えた石と木材の家の中で、昔はさぞや美人だったであろう母親が、娘の返事を聞いて嬉しそうに笑った。まだ三十歳にも届かない年齢にしては皺が目立つ、幸の薄そうな笑顔である。日々の苦労が積み重なったせいだろう。

 

 女は独り身だった。娘が三歳になった時に夫を亡くして三年、再婚の話もあったが結ばれず、以来女手ひとつで娘との暮らしを続けている。

 

 これまでは若さのおかげでどうにかなってきたが、さすがに疲労が溜まってきたのか、小じわやシミが目立ち始めた。身体の節々も痛みを覚え、いくら寝ても回復してくれない。池の水面に映る顔は日に日に暗くなり、道で行き交う村人達からも心配される回数が増えつつある。

 

 もう限界かもしれない、と悩むようになったある日の晩、寝支度を整えた娘がこういった。

 

「お母さん、マッサージしてあげる」

 

 それは何気ない一言だったが、三年前に失った夫が寝物語に、

 

『自分の子供に肩叩きしてもらったら、俺はきっと幸せだろうなぁ』

 

 あの人は、その日が来るのを楽しみにしていたな……懐かしい記憶を呼び起こされた母親は、久しぶりに笑って、

 

「うん。それじゃあ、お願いね」

 

 農作業ですっかり硬くなった背中を向けると、子供特有のぽかぽかした、温かい手のひらが首筋に触れるのを感じた――――。

 

 

 

 

「ああ……気持ちいい」

 

「ジル、あなた上手いのね。うん、そう、そのあたり。もう少し、強めにできる?」

 

「本当に上手……こんなに楽な気持になるの、何年ぶりかしら……これなら毎日お願いしたいくらいだわ……」

 

「あら、もうこんな時間。ジル、疲れたでしょう? 今日はもう寝ましょうね」

 

「……ジル?」

 

「ジル、待って、ジル? 確かに気持ちいいけど、ちょっと、その、ね?」

 

「待って、お願いだから待って、ねぇジル!? い、いたっ、痛い痛いイタタタ、あっ、でも気持ちいい、あぁっ、でも痛っ!」

 

「あっ」

 

「あっ、ぐっ、んんっ、だ、ダメっ!」

 

「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

 気が付いたら金髪少女にTS転生していた件について。

 

 なんか、何もない空間でめっちゃ後光をピカらせた女神にいろいろと聞かれて答えた記憶はある。美人ではあったんだが、人間味が無いというか、人工知能Q&Aじみたbotチャットとのやり取りみたいな。

 

 神様世界もITデジタル技術を導入してんすねぇ~って感心してたら、転生させてやるけど希望はある? っていうんで、俺は迷わずこういった。

 

「女をマッサージしても文句いわれないようにしてくれ」

 

 って。

 

 うちは結構な大家族で、親や爺婆に肩揉みだの腰踏みだのをしょっちゅうやらされた。そのおかげか知らんが俺の腕はめきめき上達し、鍛えたら金がとれるぞといわれたので、高校時代から整体師を目指すことに。短大から資格に受かり、晴れて職に就いたと思ったら、まぁ恐れていたクレーム(from異性)を立て続けにくらう羽目になった。

 

 そりゃね、俺も社会人だから、わきまえてはいましたよ。配慮したつもりだった。それでも足りなかったといわれたら、俺にはどうしようもない。下心? 聞くなよ、へへへ。

 

 で、詳細を省くと、俺は訴えられ、無職になって放り出されたところで不運とハードラックして死んだのである。あの暴走族のあんちゃん、捕まった後どうなるかなー。もう死んだ身には関係ないが。

 

 正直なところ、俺は未練たらたらであった。なんだかんだ苦労して就いた職なのに、鍛えた腕も満足に活かせないで終わってしまったからだ。介護マッサージに加えて古武道整体、アロマに鍼灸と幅広く学んだというのに。まわりからの評判は良かったんだぞちくしょうめ。

 

 だもんだから、転生なんて機会を与えられて思わず飛びついた。ろくに使ってやれなかったマイサンが失われたのは残念でならないが、この際それは仕方ない。ぶっちゃけかなりカワイイしネ! たまに自分なのか疑わしくなるが、歳を重ねていけば慣れるでしょう。

 

 最近ようやく前世の意識といまの思考がようやく重なってきたんで、俺の置かれた状況はどんなもんじゃろと村内をうろうろしたところ、だいたいの事情は把握できた。

 

 ここはヨーロッパみたいな大陸の真ん中らへんにあるアキュプレス王国、そのド田舎のアンマという村らしい。唯一の酒場で昼間からエールかっくらってる吟遊詩人くずれのおっちゃんがいってたから多分そう。一旗挙げてやるんだーって都会へ出稼ぎにいったら騙されて素寒貧になり、奴隷にされて逃げ戻ってきたという苦労話をしみじみ語っていた。こわいね、世の中。

 

 まぁなんというか、つまらない村である。テレビもねぇしラジオもねぇし馬車も行商人しか使わねぇしピアノは高等過ぎて管理できねぇし、薬屋は民間療法だし歌もみんな適当にでっち上げるし小説もマンガも紙がもったいないし、集会はボロボロになった教会で腰が90度曲がった老神父さんが週一度のペースで頑張ってるし。どこの村もこんなもんだろう、娯楽プリーズ。

 

 どうしようもなく暇なもんだから、同年代の子供達との付き合いも程々にして、第二の人生の母親の手伝いをするようになったのだが。

 

「んぅぅ……ああ、凝りがほぐれるわぁ……」

 

 うわ…私のマッマ、苦労し過ぎ…?

 

 ちょっと尋常じゃないぐらい疲れ切っていた。まだ三十歳、いや二十五歳? とにかく、実年齢にプラス20歳ぐらい加えたような外見まで衰えていた。そりゃみんな心配するよ。会う人全員がお母さんを支えてやりなっていうわけだわ。

 

 これはもう一刻を争うと気づいたので、多少強引にマッマを説得し、前世の知識を記憶から引っ張ってきて施術開始。経験についてきてくれない身体をフル稼働させつつ、肩から首、肩甲骨にかけて入念にほぐしていった。

 

 そう。

 

 俺がやったのは、簡単な、町のチェーン店ならどこでも受けられる、いたって初歩のマッサージだったのだが。

 

 

“チート・スキルが発動しました”

 

『God bless you』

 

 

 なんか、あの女神の声みたいな機械音が脳内で聞こえたと思ったら、肩を揉まれていた母がガクンと震えた。おっと力加減を間違ったかな、うっかりうっかり。じゃけん気をつけてやりましょうねー。

 

「ジ、ジル?」

 

 見たところ、マッマをやつれさせたのは夫、つまり俺のパッパを失った事による心の衰え、ようするに心臓から肝臓にかけてのストレスである。農作業自体は日々の疲れであり、根っからの農民である母にはさほど影響がない。やはり気の病か。

 

 ツボというのは不思議なもので、痛む箇所とはまったく別のところを押すと効果があったりする。足裏なのに消化器官を活性化させたりするのが有名だろう。マッサージになじみのない母には、全身を触られる事に抵抗があるかもしれない。なので、許されているのは背中と首・肩。まずはここから始めるとしよう。

 

「ひっ、あっ!?」

 

 だいじょーぶだいじょーぶ、怖くないからねー。ほーらリンパもほぐしていくよー。

 

「ま、待ってジル! 痛い、痛いわ! こわい! どうして、なんで痛いのに、うそっ、きもち、ああぁっ!!」

 

 うんうん、痛いねぇ。よく頑張ったねぇ。だからいたわってあげないとねぇ。

 

 

『God bless you』

『God bless you』

『God bless you』

 

 

 

 

 

 

 いかんちょっと面白かった。施術中に自分でも、おっ今のはいい感じにツボを突けたな、ってタイミングで謎のフレーズが鳴るもんだから、音ゲー感覚でノリにノッてしまった。上半身の背中だけとはいえ、これだけ刺激するとマッマの明日が筋肉痛で始まるかもしれん。

 

 ごめんねマッマ、大丈夫? 元気してる?

 

「……あれぇ?」

 

 

【悲報】 マッマが気絶してる 【笑顔】

 

 

 思えば途中から声が聞こえなかったような気がしてきた。達人よろしく100コンボだドン! でツボを押しまくったせいである。マッマごめん、マジでごめん。もう少し加減しなきゃアカンかった。めっちゃビクンビクン震えておられる。

 

 幸いというべきか、この家にはベッドなんて上等な寝具はないので、倒れた床の藁にひいこらと姿勢を整えさせるだけで済んだ。それでも六歳児には結構な重労働だが、施術者としての責任なので文句はいえない。

 

 が、布をかけたところで俺の疲労がピークに達したのか、べちゃり、とマッマの横に倒れ込んでしまい、そのまま意識が途切れていった。子供の身に1時間のマッサージはキツかったか。筋肉痛になるのは俺の方かもしれない。

 

「あぁ……ジル……ありがとう……」

 

 耳元で何か聞こえたような気もするが、その時の俺には届かなかった。

 

 

 

 

 夏の陽気な風が吹き始めた六月の頃、アンマ村では良からぬ噂が流れていた。

 

『独り身のクローディアが、男を連れ込んであられもない声をあげている』

 

 三年前に流行り病で夫を亡くしたクローディアは、村の誰とも再婚する事なく、娘のジルとふたりで慎ましい生活を送る、まだ若い女である。広大な畑を女手ひとつで管理しながらの子育ては相当な負担だったのか、日を追うごとにやつれていく姿を見て、やはり新しい夫を迎えさせなくては、と周囲が気をもみだしていたところであった。

 

 狭いコミュニティの中では、陰口ひとつでもあっという間に広がる。夫に操を立てていたクローディアがねぇ、元気になるならそれでもいいさ、しかし相手は誰なのか。本人を差し置いて盛り上がる人々だったが、やがて現れたクローディアの容姿をひと目見て、誰もが呆然と口を開けてしまった。

 

「みんな好き勝手にいうんだから、良い気はしないわね」

 

 それは、変化と言うにはあまりにも大き過ぎた。

 

 日々の重労働によって失われたはずの肌艶を完全に取り戻し、太陽の熱にさらされて痛んだ金髪はかつての輝きをもう一度放っていた。何よりもその身体はどうしたのか。脂肪が足りずに筋張っていた肉付きは、年相応のふくよかで愛らしく、指で突つけば瑞々しく返ってきそうなほどに実っている。

 

 あんぐりとしたまま動けなくなった村人達の中で、かつて彼女に恋した吟遊詩人がポツリと漏らした。

 

「三年前のクローディアだ」

 

「あの時の彼女が戻ってきたんだ」

 

 目の前で快活に井戸水を汲むクローディアと、記憶の中で夫と仲睦まじく過ごしていた彼女の姿が一致した事で、村人達は騒然となった。いわれてみれば、確かに三年前のクローディアに間違いない。だがどうして? たった一晩で何があったのか? あの噂と関係が?

 

 井戸端会議の面々、特に妙齢のおば様方を中心に熱烈な質問を浴びせられたクローディアは、笑いながら一言だけ、

 

「神様が祝福をくださったのよ」

 

 といった。

 

 

 


 

 

 

[~心身医療教団アンマ その歴史と技術~ より抜粋]

 

 

 『肉体に直接触れる事でこそあなたを癒やせる』のフレーズで知られるアンマ教団は、アキュプレス王国暦640年の今日においても活動の幅を広げており、国内の支部数は100を越えた。創立50周年を迎える来年の記念祭では、とうとう海を隔てた別大陸に教主ジル・アンマ自身が幹部全員を率いての布教活動に乗り出すと発表され、教団の勢いは増す一方である。

 

 およそ50年前、アキュプレス王国内における医学は残念ながら未発達というほかなかった。怪しげな民間療法と間違った一般常識が横行し、唯一頼れるのは教会でもごく少数の使い手による神聖魔法のみ。それも教会への多額の寄付金を納めた“善良なる信仰者”に限られていた。

 

 教主ジル・アンマの出自は市井の人である。その血筋には青い血の一滴も流れておらず、特別な縁故もない。アキュプレス王国の地方、緑豊かなアンマ村で暮らす、愛深い両親のもとに生まれた。彼女が三歳になった時、父親バーソロンは流行り病によって命を奪われ、母親クローディアの女手一つで育てられる。

 

 ジルが癒し手としての力を発現したのは三年後、六歳のある夜だった。日々の労働に限界を迎えつつあった母親を想う一心で、慈悲深くも熱心に“施術”をおこなったのである。幼児の身が耐えかねて昏倒するほどの精魂を注いだ結果、二十五歳にして老婆のように衰えていた母親はかつての美貌を取り戻し、村一番の美女に返り咲いた。

 

 ジルの力はまたたく間に知れ渡った。クローディアという体験者がいるのだから、疑う者はほとんどいなかった。半信半疑で自らを治してみせろと迫った者達も、施術中にへなへなと力が抜けてしまい、終わるまでに何度も甲高い悲鳴をあげてのたうちまわり、気が付けば持病が治っていたという。

 

 なお、アンマ村でもっとも頑迷であったが、最後にはもっとも親身な存在となったのは、教会の老神父であったとも伝わっている。彼は若年から魔女の一撃とも呼ばれる持病、通称ぎっくり腰を患っており、長年の修道士生活をもって教会の癒やし手による神聖魔法を受ける申請をおこなっていたが、受理の見込みが立たなかった。そんな彼のやり場のない怒りを、幼いジルは慈悲深くも温かく受け入れ、母クローディアに向けたのと変わらぬ施術をほどこしたのである。結果、かの老神父の折れ曲がった腰は針金のようにピンと伸びて、白髪はふたたび総量を増したのだった。

 

 

 

<中略>

 

 

 

 ―――以上がアンマ教団の来歴である。アキュプレス王国との関係は、教会との対立もあって一時的に険悪状態にあったが、引退された先王および后の治療に貢献した事から、内々には改善されたと見られる。教団の抱えた諸問題はけして少なくはないものの、堅実な歩みを進めているといっていいだろう。

 

 なお、これは筆者による独断と偏見に満ちた指摘でしかないのだが、ジル・アンマが教主となった前後から、やたらと女性の治療と幹部育成の数が顕著に伸びているのは気のせいであろうか? 齢60を数える身であり、かつては同村出身の勇者・ガイウスとの結婚も噂されていたが、それも実現されなかった。

 

 彼女だけが行使できる“神の息吹”は果たして継承されるのかも含めて、今後も見守っていきたいと思う。God bless you.

 

 


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