ウマージャン娘~賢さトレーニングは麻雀で~ 作:ベリーナイスメル/靴下香
賢さレベル6トレーニング導入
ある日のことだった。
「見事ッ! キミの熱意、ウマ娘への姿勢、見せてもらった!!」
あぁ、トレーニング施設の強化だ。
これでより効率的かつ効果的にトレーニングへ励むことが出来る。
俺はもちろん、将棋をしているウマ娘達もそう思ったことだろう。
「トレーニング施設を強化しよう!! さらなる活躍に――期待ッ!」
しかしながら将棋によるトレーニングは、考え得る限り最大効率だとも感じていた。
これ以上となると、果たしてどの様な練習になるのか想像もつかない。
にわかに騒がしくなってきた施設入り口。
ある種の高揚感を覚えながらも視線を送ってみれば。
「……雀卓*1?」
「正解ッ! これより主に賢さに関するトレーニングを麻雀で行うこととする!!」
ぞろぞろと運び込まれてくる全自動麻雀卓*2。
その場にいた理事長を除く全員が口を大きくあけながら設置されていく光景を眺めている。
「り、理事長!! ほ、本当にするんですか!?」
「無論ッ! 冗談でわざわざ安くない雀卓を購入しない!」
はっはっはと胸を張りながら扇子を開き高笑う理事長へ、遅れてやってきたたづなさんが今更なことを言う。
「あ、あの、私、麻雀なんてやったことないんですけど……」
「なんかイメージ良くないよね? タバコとか、背中煤けてる人とか*3……」
理事長の本気が伝わったのか施設内に漂い始める微妙という空気。
彼女たちが先程までやっていた将棋とて、場所や場面によっては似たようなものではあるが、やはりギャンブルと言うイメージが強いのか、受け入れ難い様子。
そんな空気を吹き飛ばすように、理事長は再び大きく笑った後。
「説明ッ! 確かに麻雀のイメージは良くないかもしれない! しかし、将棋と遜色ない能力が求められるッ! 思考力は勿論、直感に従う胆力ッ! 相手のクセや表情を見抜くための洞察力ッ! 最低三人の面子が必要だが、その効果は将棋以上だと確信しているッ!」
自信たっぷりに言い切る理事長。
言われてみればまぁ、そうなのかも知れないけど。
「思考力はもちろん度胸も身につくのは間違いないでしょう……えぇと、トレーナーさんでルールをご存知の方はどれほどいらっしゃいますか? ルール説明と実演を行いたいので、もしお時間よろしければ私と理事長、事前に話を通してルールを把握している生徒会長、シンボリルドルフさんにお付き合い頂ければと」
たづなさんがおずおずと手を挙げながら言っている。
まぁ、そういうことなら。
「なら、俺が」
そう、たづなさんは確かに戸惑っている様子だけど反対はしていない。
つまり、アリ、と思っているのだろう。
実際、理事長のトンデモ発言はいつものことではあるが、それは結果的にウマ娘達のためになっているものが多い。
やってみれば良いのだ。
無いなと思えば今までやってきた通り将棋をすればいい。
「ありがとうございます。では、準備を」
「期待ッ! 久しぶりに楽しめそうだッ!!」
とは言え。
やけに自信たっぷりな理事長と、いつもどおりの笑顔を浮かべているたづなさんが、妙な気配を纏っているのは気のせいだろうか。
「……これ、絶対ただのデモンストレーションじゃないよね」
「あぁ……」
生唾を飲み込まずにはいられないよね、うん何か怖いです。
――提案ッ! やはり我々が真剣勝負している場面もあったほうがいいッ!
基本的なルールの説明や役の種類が開け牌*4の下行われた後、当然のように理事長はそういった。
「そうですね。まだお時間よろしければ一局如何でしょう?」
「俺は大丈夫です」
「はい。私もまだ大丈夫です」
その方が雰囲気もわかっていいかと頷いた瞬間だった。
「決定ッ! ならばここからは真剣勝負だ!!」
「――ふふっ、そうですね。なら私も久しぶりに」
ぞくりと背中に寒気が奔った。
思えば先の説明にしても全く淀みないもので、まるで何回も誰かに行ってきたかのような二人。
「あ、やっぱりやめていいですか?」
「おや? トレーナー君は一度良いと言ったことを翻す様な男だったのかな?」
おうルドルフお前もか。
完全に獲物を見る目をしてやがる……あぁ、今日が俺の命日かも知れない。
「妙案ッ! ならば勝者には最下位の者に何でも言うことを聞いてもらえる権利を進呈しようッ!!」
「ほう」
「ふふっ」
あ、ほんとにダメみたいですね、まぢやべぇ。
ちょっとギラギラこっち見ないで下さいませんか? 妙案じゃないよ、ほんとに勘弁して下さい。
誰か助けて下さいほんとに、今なら何でも……は、だめだね。おんなじだね。
腹くくるか。
なぁに、最下位にならなきゃ良いんだよ、それならなんとかなるって。
「安心して下さい。ヒラ*5で打ちますから」
「――ハハッ」
そういうさぁ、セリフはさぁ、ほんっとやめよう?
ごめんよ皆、俺はもうだめみたいだ。多分明日の朝日は拝めないと思う。
死んだ目をしていただろう俺を他所に、全自動卓はしっかり目の前に牌を積んでくれて。
「では――開始ッ!」
「よろしくおねがいします」
山から取ってきて、いざ東一局。ドラ*6は3筒、親は理事長。
「……ふむ」
悪くは、ない。
ドラも一つ持っているし、真っ直ぐ行けば低めでも
ここで先制して、後は早上がりの逃げ切りでなんとかなるかも知れない。
さて、どうなるか。
「僥倖ッ! これは良いスタートだッ! ダブル、リーチッ!*12」
「なっ!?」
嘘だろ? ダブリー!?
待て待て待て、こんなことあるぅ? ヒラだよね? イカサマ無しのヒラだよね? って全自動卓だもんね、出来ないよね?
「……相変わらずですね」
相変わらずって何!? たづなさん!? 理事長っていつもこんななの!?
「まぁ、ダブリーなんて気にしても仕方ありません」
たづなさんが切ったのは2筒。
理事長は牌を倒さない。
一応俺も2筒は浮いてるけど……確かにダブリーなんて気にしても仕方ない、こんなもんあたられても事故だ事故。とりあえず浮いている
「
「うそやん?」
じ、事故だ事故、仕方ないってばさ。
点棒を支払ってみればまぁいい笑顔ですね理事長。
25000点の30000返しだ*14、これで持ち点残り13000、まぁこういうこともあると納得しておこう。
「一本場ッ! さぁ、続いて行くぞッ! ダブルリーチだッ!!」
「はい???????」
もうワケガワカラナイヨ助けて誰か。俺、ダメになっちゃうよ。
「あらあら理事長? いい加減落ち着いてくださいね? その南、ポン*15です」
「む……」
わぁい一発*16消えたよー。
「流石ッ! たづなはよくわかっている!」
「いえいえ、それほどでもありません。さぁ、トーレナーさん?」
「あ、はい」
たづなさんが切ったのは1索。理事長はロンしない。
改めて手牌を見れば、またも悪くない。
いまツモってきた6萬で、タンヤオ、
浮いてるのは8萬、2索。
たづなさんは南を鳴いた、自風*18だから役は確定している。
流石にまだ
とは言え1索切り。
南を鳴いたってことは点を高くするには役が限られる。
流石に
とりあえず索子を切り出したってことはホンイツ、イッツウが主線だろうか。
なら萬子と筒子、字牌は少し厳しいな。
「あら? 合わせ打ちですか?」
「まぁ、浮いていましたし」
1索切ったんだし、イッツウ、ホンイツには絡まないだろう2索は。
ドラの6萬は俺が二枚持ってる、ここで当たられても最悪南、ドラドラの5200って所だ。
痛くないとは言えないが、ここで降りるだ、回すだなんて出来るわけもない。
「なら失礼しまして、ロン。南、ドラドラの5200」
「……」
予想的中だわぁい。残り一万点切ったよー?
「トレーナー君」
「なんだろうかルドルフ君」
何か餞の言葉でも頂けます?
「私はまだ一度もツモってないんだが」
「ごめんなさい」
死体蹴りでしたぁ! どうもありがとうございますぅ!
東二局。
たづなさんに親が回って、流石にたづなさんがダブリーしてくるなんてこともなく。
「むむぅ」
理事長がダブリーをしてくることもなかった。
ようやく普通の麻雀を打ってる気持ちになれた気がする。
けど、ツモが悪い。
配牌から一手も進んでいない、やってくる牌がまるで噛み合わない。
配牌の時点でイッツウが確定していて一向聴、だと言うのにこれで10連続ツモ切り。
確かにこういう時もある。
めちゃくちゃいい配牌だったけど、結局テンパイ出来なかっただなんだってのはまぁある。
運が悪いで済ませられる範疇だ。
「ふふ、静かですね」
それが俺一人ツモ切りが続くならば、だが。
おかしいなと思って確認し始めたのが3巡前からだから確信出来たとは言えないが、理事長もルドルフもツモ切りが続いている。
そんな中たづなさんだけが手牌から何枚か切り出し、ツモと入れ替えている。
こんなことがあるのだろうか?
いや、無くはない。まだ、たまたまと言っていい。
「では少し賑やかしますね? リーチ」
そしてようやく、たづなさんが捨て牌を横にした。
宣言を聞きながら、山からツモってきてみれば。
「ようやく、テンパイ……」
有効牌が入ってきた。
これで手牌から7萬を切ればテンパイ確定出来る。
しかし、その7萬が厳しい。
たづなさんの捨て牌、典型的な染め手の気配。
13巡で索子と筒子がずらりと並んでいて、横にした牌が4萬。
けど、あんまりにも出来すぎている。
別に大層な麻雀キャリアがあるわけじゃない、ちょっと学生時分の頃にかじっただけだ。
であっても、たづなさんがリーチした瞬間に有効牌を引いて、あぶれた牌がたづなさんに怪しい牌。
……切れない。切る根性が足りない。
あぁ、なるほど。
確かに麻雀はトレーニングとして有効かもしれないな。
こんな場面で自分の直感に殉ずることが出来るのなら、それは確かに効果があるだろう。
だったら。
「ロン。リーチ、混一色……裏ドラは一つだけでした、満貫止まりです、親満の12000。これでトレーナーさんはハコテン*24、ですね」
俺がやることは、一つだけ。
麻雀が持つウマ娘へのトレーニング効果を確認することだけだ。
「私がトップ、ですね?」
「ははは、そして俺がビリッケツ……お手柔らかにお願いしますね?」
明日の朝日が、俺を迎えてくれたら、だけど。
なおトレーナーは以降ちょい役(被害者)としてしか出てきませんお悔やみ申し上げます。