ウマージャン娘~賢さトレーニングは麻雀で~ 作:ベリーナイスメル/靴下香
麻雀大会開催
「えぇ!? トレーナーさんを一日専属に出来る権利を得られる麻雀大会ですか!?」
賢さトレーニングとして麻雀が導入されてしばらく。
効果があるんだろうと認識されてはいる。麻雀のルールが分からないウマ娘はここ、トレセン学園にはもういない。
しかしながらもトレーニングとして麻雀を行うものはまだまだ少数だった。
「ええ、トレーニングとして麻雀を奨励する活動の一部でしょう。最初が最初でしたし……」
食事でお腹を大きく膨らませたスペシャルウィークが驚きの表情を見せる中、グラスワンダーは背後の空気を重くしながら静かに頷く。
トレーナーがかぴかぴ、たづなさんがてかてかになっていた記憶はまだ新しい。
というより印象にまだ強く残っていると言うべきか、あの光景を見て自分のトレーナーとのうまぴょいを想像したウマ娘は少なくない。
かぴてか事件のおかげでそのトレーナーと担当ウマ娘、たづなとの激重三角修羅バが発生していたことは、禁忌として関係者以外触れられない話題とされてもいるが。
ともあれトレーニングとして有用だと証明されるより、勝負を決する場として認識されてしまった面が強い。
「一日専属、ね。やっぱりチーム制だと物足りないと思うこともあるし、良い機会だわ」
「それってトレーニングに物足りなさを感じてるって意味だよねー?」
「も、もちろんよっ! それ以外に何があるって言うのかしら? スカイさん!」
セイウンスカイがにやつきながら言った言葉に、言葉を詰まらせて反応してしまうキングヘイロー。
生憎エルコンドルパサーは海外遠征に出ておりこの場にいないが、彼女らは既に最初の大事な三年間を華々しい記録と共に終え、今は能力向上というよりは維持を目的としたトレーニングに励みつつ、デビューを控えた後輩達の面倒を見ていたりする。
「またまたー。でも最近ちょっとトレーナーが遠くに感じるよねー、前に比べるとさ」
トレセン学園は基本的に一人のトレーナーが何人かをまとめて見るチーム制だ。
一人のトレーナーが一人のウマ娘につきっきりで行うトレーニング機会はあまりない。
それこそ大事なレースを前に控えた時くらいしか。
「仕方ないと理解していますが。やはり最近のトレーニングに関して腰を据えてお話ししたいとも思います」
「そ、その通りね! 後輩のトレーニングも確かに大切だけど、それで私たちを疎かにするようじゃ一流とは言えないわ!」
やけに雰囲気の重いグラスワンダーへ少したじろぎながらも頷くキングヘイロー。
同じチームに身を置く四人。
共通の思いがあるとすれば最近ゆっくりトレーナーと話をしていないな、というもの。
それぞれその内訳に差はあるものの、折角の機会だしと前向きに参加を検討している。
「んぐんぐ……ぷあ、ご馳走様でした! えーっと、麻雀大会の概要はどんな感じですか?」
「んーっと、4ブロックに分かれて、上位2名勝ち抜けトーナメント方式みたいだね」
手を合わせたスペシャルウィークの言葉に、大会説明概要を思い出しながらセイウンスカイが話す。
発表されたのはつい先日だというのにも関わらず、詳細に語る事ができるセイウンスカイにそこはかとなくやる気が伺えるのはさておき。
それなりに多くの参加者が見込まれている今大会。やはり賞品のパワーは偉大というべきだろう。
予想される参加者の中でも、かつてのレース結果によりこの場にいる四人は特に有名だ。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞。クラシック三冠ウマ娘のセイウンスカイ。
クラシック期のジャパンカップ、有馬記念の冠を持つグラスワンダー。
シニア期に本格化を迎えたスペシャルウィーク。グラスワンダーの二連覇を阻止し、シニアジャパンカップ、有馬記念を優勝。
短距離路線へと変更し、高松宮記念、スプリンターズステークス勝利をひっさげ。天皇賞秋でセイウンスカイに皐月賞のリベンジを果たし、見事一位を奪取したキングヘイロー。
勝利レース以外でも入賞常連の、まさに最強世代と呼ぶに相応しい面々。
だからこそ当然と言うべきか、彼女たちのトレーナーであるチームへの参加者は多かった。
にも関わらず、アシスタントトレーナーを招くこともせず一人で全員のトレーニングを管理し指示している現状。
明らかにキャパシティを超えているのだ。責任感が強いと言えばそうなのかもしれないが、行き過ぎてしまえば無責任とも捉えられかねないほどに。
無論トレーナーだけの責任ではない、アシスタントトレーナーをと思っても実力不足を理由に二の足を踏んでいる者も多い。
四人誰も口にこそしないが、負担を少しでも減らそうと進んで後輩の面倒を見るくらいトレーナーの事を心配しているし、何とかしたいとも思っている。
「よぉし! 誰が勝っても恨みっこなしですよ!」
「あらー、私たち誰かが勝つって決めつけは良くありませんよ? 誰にも負けるつもりはありませんが」
「当然ね! いい機会だわ! 改めて私たちの誰が最強なのか、教えてあげるわ!」
「うわぁ、皆やる気だなー上ばっかり見ちゃって……だからこそ、足元には気をつけなよー? にひひ」
こうして、新たな勝負の場所を喜ぶ気持ちが半分。
トレーナーの現状をそれぞれのやり方でなんとかしてやりたい気持ちが半分の、ある意味彼女たちらしい出場が決まったのだった。
大会当日。
参加者は概ね主催者の予想通りと言った人数に収まった。
「重畳ッ! 多くの参加者を迎えられて嬉しい! ではこの場で改めてルールを説明するッ!」
賢さトレーニング施設はその様相を変え、麻雀大会会場に。
壇上へ登った理事長が、マイクスタンドの前で元気よく口を開く。
そして話されるのは、事前に通告されていた通りの内容で、おおよそ最終確認と言ったものであったが。
「傾聴ッ! 今大会では赤ドラを使用することとする!」
ざわり、と空気が動いた。
現在トレセン内で主流とされているのは喰いタンあり、後付けありの俗にいうアリアリルール。
ただ赤ドラの使用は認められておらず、基本的に表示牌へ準ずるものだった。
つまり、1萬は表示されているのならば2萬がドラであり、ドラはカンで新たに生まれない限り四枚*1だけ。
「注意ッ! これはより勝負の先行きを不透明にさせるためのもの! 最後の最後まで分からないのはレースも同じ!」
赤ドラが適用されることによって、更にドラが5筒、5索、5萬の三枚増えることになる。
加えて仮に4萬がドラ表示牌であり、手牌に赤5萬を持っているのならば、それはドラ2の扱い。
平たく言ってしまえば、点数が高くなりやすい。
早上がりの安手だと思っても、思った以上に点数が高い等、あらゆる場面で予想を一つ越える事態が発生する。
理事長が言う最後の最後まで分からないと言うのはこの点。
セーフティリードとされるハードルが高くなったのだ。麻雀にセーフティ等存在しないが、それでも安心感という意味では存在する。
「以上ッ! 各自奮闘を期待するッ!」
締めの言葉もやはり簡潔に。
参加者達はぞろぞろと抽選BOXから運命の相手を選ぶべく列を作り始めた。
Aブロック4番、スペシャルウィーク。
Bブロック1番、セイウンスカイ。
Cブロック7番、グラスワンダー。
Dブロック9番、キングヘイロー。
「見事に分かれましたねー」
抽選後、合流した四人。
お互いの札を見て一安心と言ったところ。
「おーっほっほっほ! やっぱり私達の勝敗を決するのは決勝戦以外にないもの! 当然ね!」
安心の理由はキングヘイローが言った通りだろう。
トーナメント途中で戦うなんて興ざめも良いところで、出来れば決勝戦でと誰もが思っていた。
「けど大丈夫かにゃー? よく知りもしない相手に負けないでよー?」
スカイ語を言い換えるのならば、ちゃんと決勝戦に顔を出さないと許さないよ、である。
セイウンスカイの頭には参加者全ての情報が集まっている。
その情報から考えるのならば、Dブロックは激戦区と言ってよかった。キングヘイローの雀力を疑ってはいないが、赤ドラ使用による事故発生率は馬鹿には出来ない。
「スカイさん? 私を誰だと思っていて?」
「にゃはは、失礼しました」
余裕ではなく気迫。
侮っているわけでも、自分の力を慢心しているわけでもなく。
キングヘイローはただただ誰が相手でも勝つと瞳に映していた。
「これなら、安心ですね」
ほっと一つ息を吐いた後笑顔を浮かべるグラスワンダー。
かつて宿した不退転の決意は今もなお胸の中に強くある。
負けないと。
静かに心で青い炎を昇らせている。
「はいっ! 皆さん頑張りましょう!」
いつもの調子で両拳を握りながら言うスペシャルウィーク。
そう、いつも通り。
彼女たちを、そして自分の力を信じている。
いつも通りにしていれば、心を燃やし素晴らしい戦いに臨むことが出来ると確信していた。
「……そうだよね、うん、そうだ」
故にセイウンスカイは一つギアを変えた。
今回も上手くやって、トレーニングをサボりつつトレーナーと釣りをして。
チームの現状についてそれとなく話でも出来ればなんて、甘い考えだと理解した。
自分と似たような考えはあっただろう、それこそ今この時までは。
しかし、今目の前にいる三人は、誰もが勝利するという一点のみを意識している。
「にゃはは。大物は、意外なところにいるもんだよね」
小さく自分へ笑って拳を一握り。
――全員の抽選が終了しました。各自割り振られたブロックに向かって下さい。
「それじゃあ!」
――決勝で会いましょう!
時系列や実際の勝利レースはご都合です、サザエさん時空です。
また、本格化だ最初の大事な三年以降の扱いに関しても独自設定、解釈ですあしからずご了承下さい。